軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

382 クマさん、ティルミナさんに話す

クリモニアに戻ってから、一度もタールグイに行っていない。ちょっと、気になることもあるので、今日はフィナを誘って、タールグイに行くことにする。

早朝、フィナの家に行き、フィナを誘う。

「今日も、お姉ちゃんだけ?」

フィナをお出かけに誘ったら、シュリが寂しそうな表情で口を開く。確かに、いつもフィナを連れて、シュリには留守番をさせることが多い。シュリの目にはいつも2人で遊びに行っているように見えているのかもしれない。

「わたしも一緒に行きたい」

そんな悲しそうな目で見ないでほしい。くまゆるとくまきゅうに乗ってお出かけするなら、一緒に誘うんだけど。今回はクマの転移門を使ってタールグイの島に行こうと思っている。シュリを連れていくことになると、クマの転移門のことを教えることになる。

う~ん、どうしよう。

「だめなの?」

シュリは悲しそうな表情で下を向いてしまう。そんなシュリをフィナが優しく抱き締める。

「ユナお姉ちゃん、今日はわたしもシュリと一緒に残るよ」

「お姉ちゃん……」

仲の良い姉妹を離れ離れにするのもあれだし。シュリは前回のタールグイのことも誰にも話さないでくれた。シュリは言いふらしたりする子じゃない。わたしは決める。

「……分かった。シュリも一緒に行こう。でも、約束があるよ」

「約束?」

「うん、行くには秘密があるからね。ティルミナさんやゲンツさんにも内緒にしてほしいの」

クマの転移門のことを話すなら、口止めは必要だ。

「お母さんにも?」

「うん、お母さんにもお父さんにも内緒」

「あら、面白い話をしているわね」

「…………」

後ろから、聞こえてはいけない人の声が聞こえてきた。ゆっくりと振り返るとティルミナさんの姿があった。

「なにが、わたしにも内緒なのかしら」

「…………」

人間、驚くと声が出ないと言ったものだが、本当に出なかった。

「お母さん、えっと……これは……」

フィナが説明しようとするが、言葉が出ずに口どもってしまう。

「どうして、ティルミナさんが? 仕事は?」

「今日はリズに任せて、家の庭の手入れをしていただけよ。そしたら、ユナちゃんが家に来た程度に思っていたんだけど。話を聞いていたら、わたしに内緒で出掛けるって言葉が聞こえてきたから、母親としては聞き捨てならないから、出てきたわけ」

孤児院のコケッコウの卵の仕事に行ったと思っていたら、庭にいたとは。

確かに小さい娘を持つ親としては、内緒で出掛けるって聞かされると心配になるのは仕方ない。

「別にユナちゃんとお出かけするのはいいのよ。でも、内緒って言葉は親としては気になるからね。もしかして、ユナちゃん。娘たちに悪いことをさせているわけじゃないわよね」

ティルミナさんは親として、真剣な目で尋ねてくる。

「悪いことはしてませんよ」

「それじゃ、どうして、わたしとゲンツには内緒なの?」

「ティルミナさんとゲンツさんだけじゃなくて、誰にも内緒って意味ですよ」

「ユナちゃんのことは信用しているけど、わたしにも話せないことなの?」

「…………」

ティルミナさんに転移門のことを話すか考えるが、考える時間を与えてくれない。

「フィナ、本当に悪いことはしていないのね?」

「うん、していないよ」

「それじゃ、話せるわよね」

「それは……」

フィナはわたしとの約束を守るためと、母親に問い詰められて、板挟みになってしまう。フィナはわたしとティルミナさんを交互に見ると、下を向いてしまう。

「フィナ……」

このままじゃ、親子の間に溝ができてしまう。

「ティルミナさん、そんなにフィナを問い詰めないであげて。わたしの秘密に関わることだから、フィナには黙っているようにお願いをしたんです。それでフィナはわたしとの約束を守って」

「ユナちゃんの秘密?……」

「ちょっと、人に知られると困ることだったので」

ティルミナさんがジッとわたしとフィナのことを見る。

「……はぁ、分かったわ。フィナもそんな顔をしないで、お母さんが悪かったわ。フィナはユナちゃんの秘密を守ろうとしたのね」

「お母さん……」

ティルミナさんは優しく微笑むとフィナの頭の上に手を置く。

「ユナちゃん、本当に悪いことや危険なことじゃないのね」

「それは 神(クマ) に誓って」

でも、これ以上フィナにティルミナさんに秘密にさせるのは気が引ける。わたしは覚悟を決める。

「ティルミナさん、説明しますから、今から家に来てくれますか?」

「ユナお姉ちゃん!?」

フィナが驚いた表情をする。もう、黙っているわけにはいかない。このままフィナに嘘を続けさせるにも気が引ける。それにわたしもフィナを今までのように誘うことができにくくなる。

「いいの? ユナちゃんの秘密なら、知りたいけど、他人には話せないことなんでしょう?」

「今後のことも考えると、ティルミナさんに知ってもらったほうがいいです。それにフィナに黙っててもらうのも気が引けるし、シュリにも教えるつもりだったから。でも、他の人には黙っていてください」

「命の恩人のユナちゃんに頼まれれば、黙っておくけど。本当にいいの?」

「黙っててもらえれば問題ないです」

「分かったわ。誰にも言わないことを 神(クマ) に誓うわ」

ティルミナさんは冗談交じりで言う。そんなわたしたちに笑みが浮かぶ。

わたしはティルミナさんとフィナ、シュリを連れてクマハウスに向かう。

「でも、わざわざユナちゃんの家に行くの?」

「見てもらったほうが早いし、話しても信じてもらえないと思うから」

「なにか、緊張するわね。ユナちゃんの秘密って、たくさんあり過ぎるから、なにを教えてくれるのかしら」

そんなにわたしに秘密あるかな?

家族、出身地、クマの格好、強さ、お金、料理のレシピ、治療魔法、クマの召喚獣、クマフォン、考えると秘密だらけだ。今まで、深く尋ねられなかったけど、ティルミナさんの気遣いだったのかもしれない。

ティルミナさんとフィナ、シュリを連れて、クマハウスに戻ってくると、クマの転移門が置いてある部屋に入る。

「大きい扉ね。でも、扉までクマなのね。それでこの部屋がどうしたの?」

「えっと、ティルミナさん。この扉を開けたら、どこに繋がっていると思いますか?」

「どこって、隣の部屋じゃないの?」

ティルミナさんは常識的な答えをする。誰もこの扉の先がミリーラの町や王都に繋がっているとは思わない。

「この扉は魔道具で、これと同じ扉が置いてある場所と繋がっていて、扉を開くと遠く離れた場所に行くことができます」

わたしの説明にティルミナさんはフィナを一度見てから、真面目な表情でわたしを見る。

「……冗談じゃないのよね」

わたしは頷く。

「ユナちゃんのことは本当に不思議な女の子だと思っていたけど、わたしが思っている以上に不思議な女の子なのね。それで、この扉はどこに繋がっているの?」

「わたしが行ったことがある場所に設置してありますよ。王都とかミリーラの町ですね。どっちかに行ってみますか?」

「それじゃ、ミリーラの町でお願い」

わたしはミリーラの町をイメージしながら扉を開ける。扉の先はミリーラの町にあるクマビルのわたしの部屋の隣の部屋だ。わたしは隣の部屋に行き、窓を開ける。その窓の開いた先には青い海の光景が広がる。

従業員旅行で遊んでいた海だ。

「海だー」

シュリが窓から海を見て叫ぶ。

「嘘と思わなかったけど、こうやって体験をすると、もう何を言ったらいいか困るわね。フィナは知っていたのね」

「うん、ごめんなさい」

「わたしが黙っていてとお願いしたから、怒らないで」

「別に怒らないわよ。それにユナちゃんとの約束をしっかり守った子で良かったわ。他人の秘密を話すような子じゃ、逆に叱ったわ」

ティルミナさんはフィナの頭を撫でる。

「お母さん……」

フィナは嬉しそうにティルミナさんに微笑む。家族同士だって隠し事はある。でも、わたしのことでフィナとティルミナさんの関係が悪くなるのは嫌だからね。

「でも、母親のわたしより、ユナちゃんを選んだ気がするから、少しだけ悲しいわね。これが娘が成長して、親離れの始まりなのかしら」

「うぅ~、お母さん……」

フィナは恥ずかしそうにする。

「でも、これでいろいろと納得したわ。フィナに『どこに行っていたの?』と尋ねても曖昧にされることがあったからね」

「だって、王都に行ったなんて言えないです」

フィナにはいろいろと苦労をかけたみたいだ。でも、これでフィナとティルミナさんのわだかまりが無くなる。これからは嘘を吐かずに、フィナはティルミナさんにいろいろと話すことができる。

それから、みんなを連れて王都に転移する。そして、外に出たティルミナさんの第一声が。

「王都にある家もクマなのね」

ティルミナさんは王都にあるクマハウスを見る。クリモニア、ミリーラ、王都、エルフの里、タールグイの島、いろいろな場所にクマハウスが建っている。それだけ、いろいろな場所に行ったことになる。

「お母さん、お城が見えますよ」

フィナが指差す先には、国王が暮らすお城が見える。

「もう、信じられないわね。たしかに、こんなことは誰にも言えないわね。フィナもシュリもユナちゃんとの約束を守って、このことは言ったら駄目よ」

「お父さんにも?」

シュリが尋ねる。そうだよ。ゲンツさんの存在があったよ。忘れていたわけじゃないけど。たまに存在を忘れる。

「できれば黙っててほしいです」

「そうね。これは女の子同士の秘密にしましょう」

「はい」

「うん、女の子同士!」

助かるけど、ゲンツさんが可哀想に思えるのは気のせいだろうか。

それからわたしたちは王都見物してからクリモニアに帰るのであった。

そして、帰り際に。

「やっぱり、クマの格好って目立つのね」

と、しみじみと言われた。