軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

376 クマさん、夏の風物詩を行なう (7日目)

カレーライスも食べ終わり、海で遊べる最後の午後となる。なのに、子供たちはクマビルの掃除をし始めた。誰が言い出したかは分からないけど、帰る前にみんなでクマビルの掃除をすることにしたらしい。

わたしは「別に掃除はしなくてもいいよ」と言いそうになったが、子供たちに「ユナお姉ちゃんへの感謝の気持ちだから」と言われたら、口にすることはできなかった。わたしは素直に子供たちの気持ちを受け取ることにする。

子供たちは大部屋の掃除から、お風呂場、トイレから外回りなどを手分けして掃除を始める。そんな姿を見た貴族であるノアたちも「わたしもユナさんには感謝しています」と言って自分たちが使っていた部屋や通路の掃除を始める。

フィナもシュリやティルミナさん、ゲンツさんと掃除をしている。

料理組はキッチンや食堂、一階の掃除をする。そんな子供たちを見て、大人たちも一緒に掃除に参加する。ルリーナさんとエルが魔法でクマビルの体を洗っているのを見たときは驚いた。

わたしも掃除を手伝おうとすると「ユナお姉ちゃんはしないで」「ユナお姉ちゃんはダメ」「僕たちがするから、ユナお姉ちゃんは部屋から出ていって」と言われ、みんながいる部屋から追い出される。

みんなが働いているのに自分だけジッとしているのは落ち着かないものだ。部屋を追い出されたわたしは自分の部屋に戻ってくる。

わたしは久しぶりに子熊化したくまゆるとくまきゅうと一緒にベッドの上でゴロ寝をする。

なんだかんだで、このひと月は忙しかった。15日ほど前は砂漠でスコルピオンと戦っていたのが、かなり前のように感じる。でも、こないだのことなんだよね。それから、砂漠から戻ってくると海に行く準備をする忙しい日々が始まる。

海に来てもいろいろとあった。海で遊び、漁師が押し寄せたり、船に乗ったりした。何より動く島、タールグイには驚いた。まさか、あんな生物がいるとは思わなかった。

それにフィナたちを連れているときに、ワイバーンに遭遇するし、大変だった。隠し部屋ってことでシアたちを誤魔化すことはできたけど、備えあれば憂いなしとはよく言ったものだ。

そして、何より精神的に疲れたことは、水着を三着も着る羽目になったことだ。水着選びが海に来て一番大変だった。

明日には帰るけど、嫌がる子がいるかと思ったが、予想外に大半の子は早く帰りたそうにしている。

中でもコケッコウのことが心配だから早く帰りたいという言葉が一番多い。お店組も早く戻って仕事をしたいそうだ。仕事をしていないことを不安に思っている子が多い。

ちょっと、長く休み過ぎたかな?

ゴールデンウィークと思えば丁度良いぐらいだけど。長期休暇って概念があまりない人にとっては休み過ぎは不安になるみたいだ。モリンさんもカリンさんもお店に戻りたそうにしているし、アンズたちも時間があればデーガさんのところに行っていたみたいだ。

わたしはこの数日間のことを考えながら、ゴロ寝をしていると寝てしまう。

そして、その日の夜。海の思い出になればと思って、夏の風物詩を行う。

わたしは全員をクマビルの屋上に連れていく。その中にはクリフやグランさんの姿もある。時間も遅いので眠そうにしている子もいるけど、頑張って見てほしい。

「ユナさん、星でも見るんですか?」

「それでもいいんだけど。ちょっと違うかな」

この世界の星空は空気が澄んでいるので、星はとても綺麗に見える。都内に住んでいたわたしにとっては綺麗な光景でも、この世界に住んでいるノアたちにとっては普通の光景であり、夜空を見上げればいつでも見られる光景だ。だから、わたしは別の物を用意した。

「クリフも楽しんでいってね」

「何をするか知らないが、馬鹿なことだけはするなよ」

馬鹿なことってなに? わたしはみんなに喜んでもらうために頑張るんだよ。

掃除の件もあるし、やる気に満ちている。

「飲み物も食べ物も自由にしていいからね。それじゃ、ちょっとだけ準備するから、待っていてね。ああ、見る方向は海のほうだからね。フィナ、あとのことはお願いね」

この中で唯一、わたしが何をするか知っているフィナにお願いをする。そして、階段を使うのが面倒なので、クマビルの屋上から飛び降りる。

わたしの行動に叫び声が上がるが、わたしは綺麗に着地する。

「ユナお姉ちゃん凄い」

「格好いい」

夜中に歓声が上がる。

「みんなはマネしちゃ駄目だからね」

「できません~~~~~」

「できないよ~~~~~」

「驚かせないでください」

上からノアや子供たちの声が聞こえてくる。ほら、子供ってマネしたがるから一応注意をね。なら、飛び降りるなって話だけど、飛び降りた瞬間、子供が真似をしたらどうしようと思ったから仕方ない。

子供たちに注意したわたしは海に向かって走り出す。

時間は少し遡る。昨日の夜(6日目の夜)。食事を終えたあと、部屋に戻るティルミナさんとフィナを呼び止める。

「今日の夜、フィナを借りてもいいですか?」

わたしは保護者であるティルミナさんにフィナの貸し出しの許可をお願いする。

「フィナを? もちろんいいけど」

ティルミナさんはそう言うと本人の許可を聞くこともせずに、フィナの背中を押してわたしにくれるので、ありがたく貰うことにする。

「お母さん!」

フィナはティルミナさんに向かって叫ぶ。するとシュリがわたしを見る。

「お姉ちゃんだけ?」

「う~ん、ちょっと、遅くなりそうだからね」

「お姉ちゃんだけ、ずるい」

シュリに教えても良いんだけど。それはまた今度だ。

「ちょっと、夜遅くなるからね。眠くなるからね。フィナとわたしの代わりじゃないけど。一緒に寝てあげて」

わたしは床にいる子熊化したくまきゅうを抱き上げるとシュリに渡す。

くまきゅうがいれば寂しくないはずだ。シュリはくまきゅうとわたしを見ると、小さく頷く。

「今度はわたしも連れていってね」

「うん、今度は一緒に行こうね」

そして、隣で話を聞いていたゲンツさんが「なんで俺に聞かないんだ」と小さな声で言っていたけど、聞き流した。だって、どうみてもティルミナさんのほうが決定権がありそうなんだもん。実際にゲンツさんの許可を貰わなくてもフィナをゲットできた。

わたしは手に入れたフィナを連れて、自分の部屋に向かう。

「ユナお姉ちゃん、それで何をするんですか?」

「うん、ちょっと1人じゃ無理だから、フィナに手伝ってもらおうと思ってね」

わたしは自分の部屋にある隣のドアを開ける。そこにはクマの転移門が設置されている。

「もしかして、どこかに行くんですか?」

クマの転移門を見ただけで分かるとは、さすがフィナだ。察しがいい。わたしはクマの転移門の扉を開ける。フィナを連れて扉を通る。その後ろを子熊化したくまゆるがトコトコと付いてくる。

その先はタールグイにあるクマハウスの転移門だ。フィナを連れて外に出る。

フィナがキョロキョロと周囲を見る。

「ユナお姉ちゃん。ここはどこですか?」

フィナが不安そうに尋ねる。先程から質問が多いフィナだけど、何も教えていないから仕方ない。周りを見ても木があるぐらいだから、ここがどこかは分からない。

「こないだ来た、動く島だよ」

「ど、どうして、ここに? 魔物が……、それにいつのまに家が……」

「魔物ならいないから、大丈夫だよ。家はみんなが部屋にいるときにね」

フィナが呆れた顔でわたしのことを見る。

「でも、この島で何をするんですか? やるにしても暗くて何もできませんよ」

確かに暗い。わたしは光魔法でクマの光を浮かび上がらせる。わたしたちを照らしてくれる。

「ちょっと魔法で花火を作ろうと思ってね。でも、1人だと、ちゃんとできているか分からないから、フィナに確認してもらおうと思って」

「……ハナビ? ハナビってなんですか?」

フィナは首を小さく傾げる。

そうだよね。いきなり花火って言われてもわからないよね。なんて説明したらいいかな?

「えっと、光の魔法を空に打ち上げて、花を作ることかな?」

「空に花ですか?」

フィナは再度、首を小さく傾げて考え込む。

う~~~~、説明が難しい。相手が知らないことや、見たことがない物を伝えるのって難しい。

わたしは地面に落ちている枝を拾うと、地面に花火の説明をする。

「えっと、わたしが地上から、光の魔法を空に打ち上げるから、フィナは遠くから、どんな風に見えるか教えてほしいの」

地面にフィナ役の人を描いて、離れた位置にわたし役の人を描く。そして、上に向かって魔法を放つ絵を描く。

「なんとなく分かりました。ユナお姉ちゃんが、光魔法で絵を描くんですね」

まあ、そうなるのかな?

わたしはくまゆるを大きくして、わたしとフィナはくまゆるに乗って移動する。やってきたのはタールグイの頭辺りで、クリュナ=ハルクの碑石があるところだ。

「それじゃ、クマフォン出して、そうだね。あっちの空を見てて」

わたしはクマさんパペットで空を指す。フィナは言われた通りにクマフォンを取り出す。

「それじゃ、くまゆる。フィナのことはお願いね」

「くぅ~ん」

わたしは指差した方向に走り出し、フィナがいる場所から離れる。

ここの辺りでいいかな?

わたしもクマフォンを取り出して、フィナに話しかける。

「フィナ、聞こえる」

『はい、聞こえますよ』

「それじゃ、空を見てて」

わたしは空に向けて光魔法を放つ。

光魔法が上空にゆらゆらと上がって、円になるように弾ける。

「フィナ、どうだった? 丸かった?」

『どうだったと言われても、光は横に線状に広がりました。これがハナビですか?』

横に?

「丸くじゃなくて」

『う~ん、横に長い円に見えなくはないです』

そうだよ。わたしが下から見て円なら、フィナから見れば、線、もしくは細長い円になるよ。わたしは馬鹿だ。球体にしないで、輪っかにしてしまった。しかも、下から見た状態だ。

わたしはもう一度、光を打ち上げる。

『今度はちゃんと円になりました! 中心から広がる感じで』

クマフォンからフィナの声が聞こえてくる。

よし、ここから応用編だ。

今度は何重にも円を作り上げたり、くるくると花丸を書くようにいろいろと空に絵を描くように光の魔法を放つ。本来は360度どこから見ても同じ形になる花火だが、フィナから見える方向だけにする。だって、面倒だから。

でも、その度に、フィナに『これなんですか?』『なってませんよ』『できていません』『見えないです』とたくさんの駄目だしを喰らった。

…………でも、最終的には。

『綺麗です』『見えます!』『ユナお姉ちゃん凄いです』『川みたいに流れ落ちてきます』と興奮する声がクマフォンから聞こえてきた。

うん、これなら、大丈夫そうだね。フィナの手伝いもあって、魔法による音なし花火が完成した。でも、火を使わないのに花火っておかしいよね。だからと言って、他の呼び方が思い付かない。

ただ、ネックなのが音がないことだ。いくら、光魔法で弾けるようにしても音がない。炎を交えたりしても、音はでない。

あと、本当は電撃魔法を使って、派手にしようと思ったが電撃魔法の使用は止めておいた。

そして、海岸までやってきたわたしは、花火もどきを空に打ち上げる。

『なにか光ったよ』

『綺麗』

『うわぁ~~』

『また、上がったよ』

クマフォンから子供たちの声が聞こえてくる。フィナにはクマフォンを握ってもらい、クマビルの屋上からリアルタイムの声を届けてもらっている。

もちろん、酷い言葉が出てきたら、切るつもりだったけど、そんな不安はないみたいだ。

わたしは連続で打ち上げたり、自分で高くジャンプして、左右に光を飛ばしたりする。わたしの格好は 黒(クマ) 。ジャンプしても暗闇に溶け込むだけ、クマビルからわたしの姿は見えないから、大丈夫なはず。

わたしは広がる花火から、流星のような花火。もう、途中から花火じゃなく、光魔法で絵を描く感じになる。そして、子供たちが喜ぶと思って、クマの花火を作ろうと思った。これが一番難しいと思った。でも、イメージをすると、他の動物は難しくてできないのに、クマのだけは簡単にできてしまった。これもクマハウスやクマ魔法と同様にクマ能力の1つかもしれない。

出来上がったクマの顔が夜空に広がる。クマフォンから、子供たちの喜ぶ声が聴こえてくる。

音無し花火は大成功で終わった。

でも、ミリーラの住民で見ていた人もいたらしい。何事かと思ったらしいけど、最後のクマの花火を見て、わたしだと思って、安心したらしい。クマを見てわたしと思う時点で、ミリーラの町ではわたし=クマの公式が成り立ってしまったみたいだ。否定をしたいが、できないから悲しい。

翌日、わたしたちはクリモニアに帰る準備をする。その間にいろいろな人が挨拶にやってきた。

まずはジェレーモさんだ。

「嬢ちゃん、ウォータースライダーはちゃんと管理するから、安心してくれ」

クリフとジェレーモさんが相談した結果。夏の間だけ置いておくことになった。クリフがクリモニアで宣伝すれば、トンネルの通行料が多く手に入ると考えて、ジェレーモさんにしばらく置くように言ったのだ。ジェレーモさんはクリフに逆らうことができず、了承した。

そのときに、「また、仕事が増えた……」と嘆いていた。

ごめんね。そんなつもりじゃなかったんだよ。

その代わり、クマのウォータースライダーの入口にドアを付け、勝手に入れないようにした。大人がいないところでは使用はできない。いろいろと条件がついた。

漁師たちも見送りに来ようとしていたが、クロのお爺ちゃんに止められたそうだ。アトラさんも顔を出して「今度はわたしがクリモニアに行くわね」と言う。

デーガさんは忙しいので宿屋を離れることができなかったので、アンズから伝言をもらっている。「今度は美味しい料理をご馳走してやる」だそうだ。

最後に地元の子供たちが見送ってくれる。一緒に遊んで仲良くなったみたいだ。

「それでどうして、クリフとグランさんがいるの? もしかして、見送り?」

「おまえさんが作ったクマの馬車を見ようと思ってな」

どうやら、ノアたちに聞いたみたいだ。

わたしがクマバスを出すと、驚いたと思ったら、呆れた顔になる。

そして、クリフはクマバスに乗って帰ると言い出す。

「馬車はどうするのよ」

「マスリカたちに頼むから、問題はない」

結局、クリフとグランさんもクマバスに乗ることになり、一緒に帰ることになった。そして、マリナたちの間で、誰がクリフとグランさんが乗ってきた馬車でゆっくりとクリモニアに戻るかの話になる。

マスリカとイティアがクリフとグランさんの護衛だからと言い、マリナとエルはミサの護衛だと言う。そして、クマバスに乗ったことがないマスリカとイティアの2人がクマバスに乗ることになり、クリフとグランさんが乗ってきた馬車はマリナとエルの2人が乗って帰ってくることになった。

2人は悲しそうにしていたが、これも仕事の一つだ。

そして、ミリーラを出発したクマバスは数時間後にはクリモニアに到着する。従業員旅行は無事に終わった。