軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

325 クマさん、魔石を交換する

扉の中に入ると、そこは広い大きな部屋だった。

部屋に入って一番目を引くのは中央にある銀色の 杯(さかずき) のような形をした物だ。杯からはチョロチョロと水が流れ落ちている。流れ落ちた水の先は円形の池のような場所に落ちている。

ここが目的の場所で間違いないらしい。

わたしたちは部屋の中央に向けて歩き出す。

杯の前には杯に向かう階段があり、階段の手前には1mほどの高さの台座がある。台座を見ると魔石が嵌め込まれている。

カリーナは真っ直ぐに階段を上り、杯の前に立つ。わたしもどうなっているか気になるので付いていく。杯の大きさは直径が1mほどで、中を覗くと割れたと思われる魔石が底に沈んでいる。

割れた魔石は最後の力を振り絞るように水を出しているように見える。

「この魔石を交換すればいいんだね」

そのためにここまで来たのだ。

「はい、やっと来られました。本当ならユナさんが来たときには交換ができていたのに、時間がかかってしまいました」

「それじゃ、早く交換しちゃおうか」

「はい。それじゃ、水を止めますので待ってください」

カリーナは階段を下りて、階段の手前にある台座の前に立つ。そして、台座の上にある魔石の上に手を置く。カリーナは魔力を込めると魔石が青白く光り、カリーナが魔石から手を離すと光も消える。

「これで魔石が取れます」

振り返って杯を見るとチョロチョロと流れていた水が止まっている。

「水を止めたりできるの?」

「はい。わたしもやったのは初めてですが、前にお母様と来たときに説明を受けました。でも、本当に水が止まってよかったです」

カリーナは階段を上り、杯の前に戻ってくる。カリーナは袖を捲り、杯の底に沈む割れた魔石を取ろうとする。わたしも手伝うことにするが、カリーナに止められる。

「わたしにやらせてください。今まで頑張ってくれたお礼を込めてわたしが拾います。それがイシュリート家に生まれたわたしの役目だと思います」

わたしはカリーナの気持ちを汲んで、見守ることにする。

カリーナは水が入った杯に手を入れる。そして、割れた魔石の破片を一個ずつ大切そうに拾い上げていく。大きな破片から小さな破片。長い年月、水を供給してくれた魔石。カリーナは割れた魔石を感謝を込めて拾い、布袋に仕舞っていく。

この魔石から水が出て、湖を作り出せるほどの水を作りだしていたんだね。ファンタジーの一言で片付けるのは簡単だけど、凄いことだ。

カリーナが魔石を拾いあげている間、わたしは部屋の中を探索することにする。

入ってきた入口を見ると、扉が閉まっている。わたしもカリーナも閉めた記憶はないから、自動で閉まるみたいだ。

水晶板が鍵になっているようだし、水晶板がないと入ることもできないんだね。クマの転移門を置けば、関係なく来ることができるけど、わたしが来ることは二度とないはずだ。

逆にあってはいけないことだと思う。二度と冒険者が必要になることになってはいけない。

階段を降りたわたしは床を見る。床には魔法陣と言うべきなのか、図形のような溝が床一面に彫られている。これが水を増幅する魔法陣なのかな?

その魔法陣は壁にも繋がっており、天井にも意味不明の図形の魔法陣が彫られている。部屋全体が水を増幅する魔法陣の部屋になっているみたいだ。

もし、正規ルートでなく、壁を壊して侵入でもしたら、水を増幅する魔法陣を壊すことになっていた。本当にやらなくて良かった。もし、やっていたらクラーケンの魔石があっても、湖は復活しなかった。

それにしても、凄い魔法陣だ。これを複写して、他の場所でも増幅する魔法陣が使えたら面白かったけど、さすがにできそうもない。

周囲を確認したわたしは中心にある杯の回りを一周するように歩く。杯から落ちた水は透き通るほどに綺麗だ。この水が街まで流れていくのかな。距離もあるし、どうなっているのかな?

杯の後ろに来ると、こっちにも扉がある。入口が2つ?

正解は1つじゃないってこと?

扉の横には台座が置いてある。台座には凹みがあり、水晶板が嵌りそうな凹みがある。水晶板を嵌めると入口同様に扉が開くのかな?

「そこは出口です」

わたしが扉の前でウロウロしていると、階段の上からカリーナが答えてくれる。

「出口?」

「はい、帰りはそこから帰ります」

入口と出口は別になっているんだ。なにか理由があるのかな?

わたしは部屋を一周して、階段の前に戻ってくる。

割れた魔石の破片を拾い終わったカリーナも、階段を下りてわたしのところにやってくる。

「お待たせしました」

カリーナを見ると手や服が濡れていることに気付く。まあ、水の中に手を突っ込めば濡れるよね。わたしはクマボックスからタオルを出して、カリーナに差し出す。

「ありがとうございます」

カリーナはタオルで手や腕、服などを拭く。こういうときに乾燥魔法とかあれば便利だと思うけど。実際に使えたとしても、水を弾くクマの着ぐるみのわたしには不要な魔法になってしまう。

でも、長い髪を乾かすときは便利かな?

「ユナさん、ありがとうございました。洗ってお返ししますね」

「いいよ。汚れていないし、すぐに乾くから」

カリーナからタオルを受け取ると、くまゆるの背中の上に乗せる。

「くぅ~ん」

くまゆるがなにか言いたそうにする。くまゆるの背中なら温かいからすぐに乾くと思ったんだけど、ダメだったみたいだ。まあ、乾かすのはいつでもできるので、タオルはクマボックスに仕舞う。

「ユナさん、魔石をいいですか?」

真剣な目でわたしはお願いされる。緊張しているようにも見える。

わたしはクマボックスからクラーケンの魔石を取り出し、カリーナに渡す。カリーナは両手で落とさないように大切そうに受け取る。

「この魔石に街の運命があると思うと重いです。もし、魔石を交換しても水が出なかったらと思うと、怖いです」

魔石を持つカリーナの手が震えている。わたしは魔石を持つ、カリーナの手に触れる。

「ユナさん……」

「大丈夫だよ。ここまで頑張ったんだよ。交換すれば直るよ」

カリーナは頷くとゆっくりと階段を上がっていく。そして、杯の前に止まる。小さく息を吐くと杯の中にゆっくりとクラーケンの水の魔石を沈めていく。カリーナは杯の中の魔石をジッと見つめている。

「カリーナ?」

「すみません」

わたしが声をかけるとカリーナは階段を下りてくる。

「あとは魔法陣を起動すれば大丈夫なはずです」

カリーナは台座の前にやってくる。そして、緊張した雰囲気で台座の上にある魔石の上に手を乗せる。カリーナは息を吸って吐く。手に力がこもり、台座の上にある魔石に魔力を流す。

すると台座の上の魔石が青白く光り、床の魔法陣も光り出す。その光は部屋全体に広がり、眩い光が部屋を包み込む。そして、光が徐々に消えていく。

カリーナを見ると一点を見つめている。そして、頬に一粒の涙が流れ落ちる。

「カリーナ……」

わたしはカリーナが見つめている先に視線を向ける。その先には、杯から溢れるように水が湧き出している光景があった。

「うう、よかった」

カリーナは溢れ出す水を見て涙を流す。涙を 拭(ぬぐ) うこともせずに、杯から溢れる水を見ている。

「よかった。これで、街が、ユナさん、ありがとう、ございます」

カリーナは涙目でわたしにお礼を言う。わたしはタオルを差し出して、泣いている顔を拭いてあげる。

「ほら、泣かないの」

「ユナさん……」

泣き顔を拭いてあげたのに、カリーナはわたしの胸の中で泣き出す。今まで緊張してたのが切れたのだろう。水の魔石の破損、街の湖の枯渇、水晶板の地図の紛失、父親の怪我、魔物の大量発生、住民が街を出ていく。いろいろなことの不幸が重なった。

カリーナが全てを背負うものじゃないけど、水晶板を落としたカリーナの中では責任に感じていたようだった。

でも、水晶板は見つかり、新しい水の魔石の取り付けも終わった。水も元に戻った。全てが終わった。

やっと、カリーナの肩に乗っていた荷が降りた感じだ。

カリーナはわたしの名を呼びながら泣く。くまゆるとくまきゅうも心配そうにカリーナに擦り寄ってくる。そして、カリーナは静かに泣き止む。

「ユナさん、ありがとうございました。くまゆるちゃん、くまきゅうちゃんもありがとう」

「もう、大丈夫?」

「はい、いきなり泣いてすみませんでした」

赤くなった目をごしごしと擦る。でも、その顔には満面の笑顔が広がっている。

カリーナは溢れ出る水を嬉しそうに見ている。その光景はカリーナにとっては最高の光景に映っているようだ。でも、こんなに水が溢れ出てくるもんなんだね。

クラーケンの魔石単体なら、絶対に不可能だ。この部屋の魔法陣(他部屋にもあるかもしれない)が増幅している。もし、魔法陣が活用できれば面白いかと思ったりしたけど、これは無理だね。

しばらくの間、カリーナは水を見つめている。

「大丈夫だよ。止まったりしないよ」

実際はそんなことは分からないけど、カリーナを安心させるために声をかける。

「はい」

「それじゃ、バーリマさんに報告しに帰ろうか」

いつまでもここにいるわけにはいかない。バーリマさんも心配しているだろうし、報告しにいかないといけない。

わたしたちは杯の後ろにあった扉のところにやってくる。ここから帰るんだよね。

来たときと同じように帰ると思うと気が重い。くまきゅうの上で寝ていたい気持ちもあるが、さすがにカリーナが地図を見ている横でグースカとくまきゅうの上で寝るわけにいかない。

カリーナは扉の側にある台座に水晶板を嵌めて、魔力を流す。すると扉が開き、さらに扉の先の方でも同様に何かが開く音が聞こえてくる。それは1つや2つではない。

「ユナさん。行きますよ」

カリーナは水晶板を外す。扉の先は階段になっており、わたしたちは下りていく。

しばらくすると後ろで扉が閉まる音がする。やっぱり、自動で閉まるみたいだ。少し階段を下りて、少し通路を進む。また階段を少し下りる。また少し通路を進む。

通路を出ると、そこは迷宮の入口だった。

「戻ってこられました」

「なに? 帰りはこんなに簡単なの?」

「はい」

「おかしくない? 行くときもこの道を使えばいいんじゃない?」

「それは、わたしも初めて通ったときに思いました」

「だって、そうでしょう。行くときは一時間ぐらいかかったんだよ。帰りは数分? おかしくない?」

わたしはカリーナの肩をユラユラと揺らす。

「ユナさん、止めてください。わたしに言われても困ります」

わたしは揺らすのを止めるが納得がいかない。そして、わたしたちが無数の入口の1つから出て、しばらくすると、穴の中で何かが動く音がする。

「たぶん、道が塞がれているんだと思います」

この道を使わせないためか。

でも、こればかりは納得がいかないよ。