軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

316 クマさん、水晶板の在り処(ありか)を見つける

「この先です。もう近いです」

カリーナはくまきゅうの上で嬉しそうにする。

このまま無事に回収できれば、あとはピラミッドの上に行くだけだ。それで、水の魔石を交換すれば、依頼は完了だ。

「ワームの討伐のときはどうなるかと思ったが、結構、楽な仕事だったな」

前を歩くトウヤがそんなことを言い出す。

「なにを言っているのよ。ワームを討伐できたのも、橋を作ったのもユナちゃんでしょう」

「スコルピオンを倒したのもユナ」

「大変なところはユナちゃんがしているんだから」

「確かにそうだが、俺たちだって戦っただろう」

「トウヤが楽な仕事だって言うから、ユナちゃんがいなかったら大変だったよって話よ」

「俺だってミスリルの剣を持っていれば、スコルピオンぐらい」

「そうだな。さっきのトウヤの話じゃないが、王都に戻ったらミスリルの剣を買うか。パーティーメンバーの底上げにもなるしな」

「そうね。トウヤがミスリルの剣を持てば、ジェイドの負担も減るしね」

「異議なし」

前回のゴーレムのときは、「まだ早い」とか言っていたけど、トウヤも成長しているみたいだ。

みんなからも許可が出たから、トウヤは嬉しそうにするかと思ったけど。表情は微妙な顔をしている。

「トウヤ、どうした?」

「…………金がない」

「おい!」

ツッコミを入れたくなる。さっきは買うって言っていたじゃない。お金があるんじゃなかったの?

小一時間ほど、問い詰めたくなる。

「信じられないわね」

「トウヤ、最低」

「だから、あれだけ貯めとけと、言っていただろう」

「だってよう。皆が早いって言うから……」

言い訳をしようとするが、ジェイドさんがトウヤの背中をバシッと叩く。

「少しなら、俺が出してやる」

「ジェイド!」

トウヤはジェイドさんの言葉に嬉しそうにする。

ジェイドさんは優しいね。

そんな2人を見たメルさんはため息を吐く。

「仕方ないわね。なら、わたしは貸してあげるわ」

呆れ顔で言うメルさん。

「貸すけど。返さなかったら、ミスリルナイフの餌食にする」

ナイフを取り出して、トウヤの前でチラつかせるセニアさん。

「うぅ、みんな、ありがとう」

何だかんだで、トウヤのことをいじっているけど。仲が良いパーティーだね。

ミスリルの鉱石はミスリルゴーレム(ハリボテ)を倒したときのが余っている。トウヤって言うか。ジェイドさんたちには今回を含め、ゴーレムのときもお世話になっている。だから、わたしとしてはミスリル鉱石を少しならプレゼントしても良かったんだけど、必要ないみたいだ。

トウヤはみんなの言葉に嬉しそうにしているし、みんなは微笑ましそうにトウヤのことを見ている。わたしが余計なことをすることもない。

このまま、なにごともなく、水晶板が見つかれば。トウヤの言葉じゃないけど、思ったよりも楽だった。

わたしたちは坂を下っていく。

「この先です」

もし、くまきゅうに乗っていなかったら、カリーナは今にも駆け出しそうな雰囲気だ。坂を下り終わり、直進の通路が続く。通路を進むと、開けた空間に出た。

「ここは……」

大きな円形の空間が広がる。わたしたちが出た場所は2階建ての家の屋上の高さぐらいの位置だ。感覚的には闘技場の二階席にいる感じだ。そして、空間の中央に目を向ける。そこには見てはならないものがあった。

「なんだ、これは……」

視界に広がるのはスコルピオンの群れ。そして、中央にいるのはなに?

真っ黒な体に、硬そうな甲殻に覆われ、人の体なんて簡単に挟めるハサミを持ち、大きな尻尾は針のように鋭い。間違いなくサソリだ。スコルピオンで間違いない。

でも、大きさが全然違う。

「なに、あの大きなスコルピオン」

ウルフほどの大きさのスコルピオンが小さく見えるほどだ。胴体の大きさだけで数十mはある。尻尾は大きく曲がってユラユラ揺らし、硬そうな大きなハサミ。そして、なによりも色が禍々しい。真っ黒な色をしている。その色が恐怖を煽る。

「こんな魔物がいるなんて」

「聞いたことはあるが、見たのは初めてだ」

ジェイドさんたちも驚いて、気付かれないように静かに観察する

わたしは探知スキルで確認する。『スコルピオン』と表示される。だから、やめようよ。

他のスコルピオンと大きさが違うんだから、ここはビッグスコルピオンとか、黒いんだから、ダークスコルピオンとか、ブラックスコルピオンとかあるよね。

「さすがにあれは倒すことはできないぞ」

「それに、周りにいるスコルピオンが邪魔ね。まともに戦うこともできないわよ」

「勇気と無謀は別物」

わたしたちは身を潜めながら、周囲を確認する。

大きなスコルピオンの周りには、通常サイズのスコルピオンが無数にいる。

簡単に数えても50以上はいる。奥ではワームを食べている姿も見える。ここはスコルピオンの巣であり、狩場なのかもしれない。

ここで戦うってことは相手のホームグラウンドで戦うってことだ。

個人的には大きなスコルピオンと戦ってみたいけど。カリーナの前で戦うと、泣かれでもしたら困る。それに一対一ならいいけど。メルさんの言葉じゃないけど、小さい(ウルフぐらいある)スコルピオンが邪魔だ。

「それでカリーナ。探し物はここにあるのか?」

ジェイドさんが尋ねる。

ここのどこかに落ちているなら、拾わないといけない。できればスコルピオンがいないところだといいんだけど。

カリーナは目を瞑って、水晶板の場所を探そうとする。

そして、ゆっくりと目を開く。

「……うそ。嘘でしょう」

小さな声で呟く。

カリーナはくまきゅうから降りて、信じられないように大きなスコルピオンを見る。

「うそ……なんで、ここまで来たのに」

「カリーナ、どうしたの?」

「ユナさん……」

カリーナは今にも泣きそうな目でわたしを見る。

「す、水晶板。あの大きな魔物の中にあります」

「……冗談だろう?」

「さすがにあれは倒せないぞ」

カリーナの言葉にジェイドさんとトウヤが、大きなスコルピオンを見る。

「隙を見て拾うのと、倒すのは別だぞ」

ジェイドさんの言う通りだ。落ちてるだけなら、わたしやメルさんの魔法で注意を引いて、その隙に拾うことはできた。でも、スコルピオンの体内となれば倒さないといけない。

「倒すなら、もっと冒険者を集めるか、高ランク冒険者を呼ばないと無理だぞ」

「メルさんたちでも倒せないんですか?」

わたしの問いにメルさんは少し考える。

「う~ん、かなり厳しいわね。命を懸けて戦えば勝てるかもしれないけど。でも、その場合は犠牲を覚悟しないといけないわね。戦えば誰かが死ぬかもしれない。死ななくても、大怪我をしているでしょうね」

「でも、それはあの小さなスコルピオンがいないのが条件。あの小さなスコルピオンが邪魔をしている」

メルさんの言葉にセニアさんが戦闘条件を付け加える。

たしかにあの小さい(わたしとしたら小さくない)スコルピオンは厄介だよね。戦いになれば絶対に襲ってくるはずだ。

先に小さいスコルピオンを倒すにしても、数が多いし、大きなスコルピオンが黙って見ているとは思えない。

「これは一度引き返して、バーリマさんの意見を仰いだ方がいい」

「そうね。さすがに無理な戦いは避けるべきね」

「一度、戻るべき」

「俺にミスリルの剣があれば」

誰もトウヤの独り言には突っ込まない。

カリーナはジッと、大きなスコルピオンを見つめている。

う~ん、倒す方法はあるかな?

小さなスコルピオンがいなければ、ガチ勝負でも良かったんだけど。本当に周りにいるスコルピオンが邪魔だ。上からスコルピオンを攻撃して、先に数を減らすとか?

わたしが倒す方法を考えていると、皆は戻ることで話は一致させる。

「カリーナちゃんもそれでいいわよね」

「…………はい」

カリーナは唇を噛み締めると、小さく悔しそうに返事をする。

カリーナも了承したので、全員はやってきた道を戻ろうとするが、わたしは動かない。

「ユナさん?」

「カリーナはジェイドさんたちと一緒に先に戻って」

わたしの言葉に全員が驚きの表情を浮かべる。

「ユナちゃん。もしかして、戦うつもりなの?」

「スコルピオンはワームとは違う。甲殻は硬く、動きも速い。危険」

「ここは無理をするところじゃない。一度、バーリマさんに話してからでも遅くないだろう」

全員がわたしを止めようとする。でも、目の前に目的の物がある。あの大きなスコルピオンを街にいる冒険者を集めても倒せるとは思えない。王都や他の国から強い人を呼び寄せるにしても時間がかかる。

それに、なによりもここにはクマさんチートを持ったわたしがいる。ここで戦わないでいつ戦うのか。

わたしはカリーナの頭にポンと手を置く。

「ユナさん……」

「大丈夫だよ。ちゃんと、水晶板は手に入れるから」

カリーナは首を何度も横に振る。

「駄目です。危険です。もう、いいんです。お父様に報告します。ユナさんはここまで連れてきてくれました。約束を守ってくれました。いくら、ユナさんが強くても、危険です。あんな魔物には勝てません」

「違うよ。わたしの仕事は水晶板を手に入れて、カリーナと上に行くことだよ。それにわたしの強さは国王陛下のお墨付きだよ」

「ユ、ユナさん……」

カリーナはわたしのクマの服を小さな手で握りしめる。

わたしはカリーナの頭の上に手を置き、ジェイドさんたちの方を見る。

「カリーナをお願いします」

「本当に戦うつもりなのか?」

「それなら、わたしたちも一緒に」

「メルさんたちの仕事は探し物の場所まで、わたしとカリーナを護衛をすることでしょう。もう、依頼は達成していますよ。あとはわたしの仕事だよ」

「なら、ユナも戻るべき」

「そうよ。いくら大切な物でも、ここで命をかけて戦う必要はないわ」

セニアさんとメルさんが心配そうに止めてくれる。

別に命をかけて戦うつもりはない。クマさんチートがあるから戦うだけだ。ここで戦わないのは元ゲーマーとして恥ずかしい行為だ。

「勝てそうもなかったら、ちゃんと逃げますから大丈夫ですよ」

「本当に無理をしない?」

「わたしに、もしものことがあったらカリーナが責任を背負いそうだしね」

わたしはカリーナの頭の上にもう一度、ポンと手を置く。

「ユナさん……」

「……わかったわ。カリーナちゃんは責任をもって上まで連れていくわ。だから、ユナちゃんもちゃんと戻ってきてね」

人を死地に向かうような感じに送りださないでほしい。

よく、死亡フラグが立って、残る人物は死ぬと分かっているシチュエーションに似ている。

わたしは死なないよ。無理だったら、素直に諦めて逃げるよ。

「くまきゅうもカリーナをお願いね」

「くぅ~ん」

くまきゅうはわたしに擦り寄ってくる。

「今日は一緒に寝ようね」

「くぅ~ん」

くまきゅうはカリーナのところに移動すると、腰を下ろす。今日のくまきゅうは聞き分けがいい。帰ったら、たくさん遊んであげないといけないね。

「本当に無理だけはするなよ」

「しませんよ」

みんながやって来た通路に移動すると、わたしは入口を土魔法で壁を作って塞ぐ。

「ユナちゃん!」

「ユナさん、なんで塞ぐんですか!」

壁の反対側からカリーナの叫び声がする。

「ここにいるスコルピオンがここを通って、カリーナたちを追いかけたら大変でしょう」

わたしのことに気付けば、ここまで登ってくるかもしれない。そうなれば、最悪挟まれることにもなる。

それになによりも、カリーナとジェイドさんたちが戻ってくるのを防ぐためだ。どんな、戦いになるか分からないけど、洞窟が崩れるかもしれないし。チート全開で戦うことになるかもしれない。なるべく、そんな姿は見せたくない。それにわたしが戦うところを見て、またカリーナが泣きでもしたら困る。

入口を塞いでおけば、戻ってくることはできない。

「そうかもしれないけど」

「ユナさん……」

今にもカリーナは泣きそうな声をしている。

あれ、おかしい。まだ、戦ってもいないし、危ないシーンも見せていない。

泣く要素あった?

「ユナさん……死なないでください」

クマさんチートがあるから大丈夫だよ。

ピンチのときはクマの転移門もあるし。逆にみんながいると使えない。

「倒すにしろ、倒せないにしろ。ちゃんと戻るから。ジェイドさん、カリーナをお願いしますね」

「ああ、ユナも無理だけはするなよ」

「しませんよ」

「嬢ちゃん。戻ってきたら、一緒に食事をしようぜ」

「トウヤの奢りだよね」

「ユナちゃん、戻ってきたら、もう一度くまゆるちゃんに乗せてね」

「少しだけですよ」

「今度、ナイフを使った試合がしたい」

「手加減してくださいね」

なにか、壁越しに今生の別れみたいになっているんだけど。やめてほしい。

わたしはちゃんと生きて帰るよ。

「上で待ってますからね」

「ちゃんと、戻るから、心配はしないで待ってて」

カリーナたちは去っていく。

それじゃ、戦いますか。