軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

302 クマさん、寄り道をする

この街は中央に湖があり、その湖を中心に円になるように建物が並んでいる。

まずは宿の確保だ。確かこの大通りを進めば分かるって言われたけど、どこかな?

「なんだ?」「くま?」「くまさんが歩いている」「お母さんあれなに?」

相変わらず、新しい街では好奇な視線を向けられる。小さい子がわたしに向けて指を差すのはいつものことだ。

とりあえず、クマさんフードを深く被り、宿屋を探す。

砂漠にある街だから、小さい街かと思ったけど、思ったよりも大きく、人も多い。

こんな大きな街で水不足になったら大変だ。

宿屋で部屋を確保したら、領主の家に魔石を届けにいくことにする。

う~ん、宿屋はどこかな?

キョロキョロと周辺を見ながら歩いていると、冒険者ギルドの看板を見つけてしまう。

ここが冒険者ギルド?

看板にはデカデカと冒険者ギルドと書かれている。

宿屋を探していたら先に冒険者ギルドを見つけてしまった。

見つけてしまったものは仕方ない。ちょっとだけ冒険者ギルドを覗いてもいいかな? 少しぐらい寄り道をしてもいいよね。

ゲームでも地域によって現れる魔物もクエストも違う。元ゲーマーとしてはどんな依頼があるか、気になるから仕方ない。

誰かに言い訳するかのように自分に言う。

「しつれいします」

わたしは目立たないように小声で言いながら、ゆっくりと冒険者ギルドに入る。

いつもの教訓だ。わたしが冒険者ギルドに入ると、絡まれる可能性が高い。

最悪、トラブルにでもなったら、ギルドカードに書かれている王家の紋章やエレローラさんにもらったナイフもある。ギルドマスターに見せれば回避はできる。

ただ、王家の刻印はアトラさんのことを思い出すと、騒ぎになりそうだから、あまり使いたくはない。

問題はクリフの家の紋章がこの辺境な砂漠の街で使えるかが疑問である。知らない可能性だってある。

そう考えると、どっちも使い勝手が悪い。

もしかすると、王都の冒険者ギルドのギルマスのサーニャさんの紹介状を書いてもらうのが一番使い勝手がいいかもしれない。王都のギルマスであり、偉いだろうし、冒険者ギルドならそれで十分だと思う。今度、他の場所に行くときは書いてもらおうかな。

静かに入ったおかげでわたしに気付く者はいない。それも冒険者が少ないせいでもあるかもしれない。時間的に仕事をしているのかな?

残っている冒険者もみんな、椅子に座ってのんびりとして、わたしが入ってきたことに気付かない。

わたしは周囲を見渡しながら、依頼が貼ってあるボードを探そうとしたとき、女の子の声が聞こえてきた。

「お願いします。わたしを……に連れていってください」

うん、なんだろう?

声の場所を探すと、フィナやノアと同じぐらいの赤みがかかった髪の色をした女の子が冒険者に話しかけている姿があった。

「お願いします」

女の子は冒険者に向かって頭を深く下げる。

「すまない、他をあたってくれ」

冒険者は断ると女の子から去っていく。女の子はすぐに違う冒険者のところに行って、同様のお願いをする。

「お願いします」

「もっと、ランクが高い冒険者に頼んだ方がいい」

女の子は違う冒険者のところに向かう。でも、同様に断られる。

わたしは女の子のことが気になったので、女の子のことを心配そうに見ている受付にいる女性のところに向かう。

「あの子はどうしたの?」

「!?」

声をかけると受付嬢はわたしのことを見て驚く。

受付嬢はわたしがギルドの中に入って来たことに気付いていなかったみたいだ。

「えっと、くまの格好をしたお嬢ちゃん、なにかな? 依頼の申し込みでもしに来たのかな?」

身長やクマの格好をしているせいで、余計に年齢より下に見られるけど、久しぶりに子供扱いをされた。

「わたし冒険者だから」

「冒険者!?」

受付の女の人は目を見開いてわたしのことを見る。

どうやら、信じられないみたいだ。

「それで、あの女の子はどうしたの? 依頼なら普通に冒険者ギルドに頼めばいいと思うんだけど」

わたしは驚くギルド嬢を無視して、女の子について尋ねる。

女の子はさっきから、一人一人に頼んでいる。

「依頼は受け付けているわよ。でも誰も依頼を受けてくれないから、ああやって一人一人にお願いをしているの」

「依頼料が少ないとか?」

子供が頼むんじゃ、依頼料が少ないかもしれない。

でも、女の子の服装、身なりはいい。

「ううん、金額の問題じゃないの。依頼内容が難しいの。だから、誰も引き受けてくれないの」

「お願いします」

わたしが話を聞いている間も女の子は一生懸命に頼んでいるが、誰一人、受けようとはしない。

他の冒険者も視線を逸らすぐらいだ。

「そんなに難しいの?」

「デゼルトピラミッドの最下層まで、彼女を連れていくこと。危険な場所なのに、女の子を護衛しながらじゃ、危険度が増えるから、誰も受けようとはしないの」

デゼルトピラミッドって、街に入る前に見たピラミッドのことかな?

最下層って地下があるの?

てっきり、ピラミッドは登っていくものだと思っていたんだけど。

「でも、どうして、そんなところに?」

受付の女性は首を横に振る。

「依頼内容は最下層まで行くこと以外、聞いていないから、理由までは」

女の子は下を向いて、小さな手を強く握り締め、唇を噛んで、涙をこぼそうとしている。でも、女の子は涙を堪えて、顔をあげる。その顔を上げた視線の先にわたしがいる。

「くまさん?」

女の子はわたしのことをジッと見る。

わたしは女の子が気になったので声をかける。

「なにかあったの?」

「いえ、くまさんに話すようなことではありません」

女の子はハッキリと断り、頭を下げると他の冒険者のところに向かう。

「ごめんなさいね。悪い子じゃないから」

それは分かる。わたしのことを馬鹿にした目ではなかった。本当にわたしのような変な格好した女の子に頼むようなことじゃなかったんだと思う。

「知っている子なの?」

「この街の領主の娘、カリーナ様ですよ」

「領主の娘……」

それって、これからわたしが行くところの娘さんってことだよね。

わたしは無意識に女の子に視線を向けていると、冒険者ギルドに数人の冒険者が入ってきた。

たしか、この冒険者たちはわたしが街に来る前に途中で追い越してきた冒険者たちだ。

「ここが冒険者ギルドか、思ったより大きいな」

「しばらくはここでお金を稼ぐのもいいかもしれないな」

「街も大きいしな」

会話からしてこの街の冒険者ではないみたいだ。

「でも、この街は大変みたいですよ」

「もし、危険になったら、出ていけばいいさ」

そんな会話をしている冒険者に先程の女の子が駆け寄っていく。そして、リーダーっぽい大きな剣を持った男に話しかける。

「すみません。お願いを聞いてもらえませんか?」

「この子供はなんだ」

「話を聞いてもらえませんか?」

「俺は疲れているんだ。子供の話を聞いている暇はない」

リーダー格の男は近寄ってきた女の子を軽く弾き飛ばす。冒険者にとって軽くでも、小さい女の子にとっては強い。女の子は床に倒れこむ。

「ま、待ってください」

女の子はそれでも、すぐに立ち上がって、冒険者を引きとめようとする。

冒険者は掴んでくる女の子を再度、突き飛ばそうとする。その瞬間、わたしは動いていた。

「なんだ」

わたしは男の腕を押さえた。

状況的にクマさんパペットの口が男の腕を咥えている。

「熊?」

「くまさん?」

「断るにしても、弾き飛ばすことはないんじゃない?」

わたしは少し睨みつけるように男を見る。

その瞬間、一緒にいた冒険者の一人から、ある言葉が漏れる。

「ブ、ブラッディベアーがどうしてここに……」

男が驚いたようにわたしを見ている。

ブラッディベアーって、間違いなくわたしのことだよね。

懐かしい呼び名だ。

わたしはブラッディベアーと口にした男を見ると男は一歩下がって、他の冒険者の後ろに隠れる。

「そのクマから離れた方がいい」

「なんだ。おまえ、この変な格好した小娘のことを知っているのか?」

リーダー格の男は尋ねながら、クマさんパペットが咥えている腕に力を込めてくる。

でも、わたしの腕は1ミリも下がらない。

「知らない」

男は視線を逸らしながら答える。

いや、いや、どう見たって、わたしのことを知っているでしょう。ブラッディベアーって言っているし。でも、この怖がりよう、前にボコった一人かな?

「それで、クマの嬢ちゃんは、いつまで俺の腕を掴んでいるんだ?」

「それは、誰かが力を緩めるまでかな?」

わたしが答えると男はさらに力を込めてくる。

でも、わたしが平然と受け止める姿を見て、男の顔から笑みが消える。

わたしの後ろにいる女の子はどうしたら良いか困っている姿がある。

「そのクマに関わらない方がいい」

先ほどのブラッディベアーと言った男が小さな声で言う。

「あの男は、ああ言っているけど、どうする?」

男は最後の力を振り絞って力を込めるが、男の腕は動かない。

逆に、わたしも力を込めてゆっくりと押し返していく。

男の表情が徐々に変わっていく。

「くそ! 行くぞ。依頼の報告をして、酒を飲みに行くぞ」

男はわたしの手を振りほどいて、受付に依頼達成の報告に向かう。

わたしのことを知っていると思われる男は怯えるように、わたしの横を通り抜けていく。

やっぱり、過去に殴った一人かな?

「あのう?」

わたしの後ろにいる女の子が声をかけてくる。

「大丈夫? 怪我はない?」

「はい。大丈夫です。ありがとうございました」

良かった。どうやら、怪我はないみたいだ。

「依頼を頼むなら、人を見てから頼んだ方がいいよ」

わたしが女の子に忠告すると、女の子は赤みの掛かった目でわたしのことをジッと見つめる。

「冒険者なんですか?」

はい、冒険者です。でも、見えませんよね。

「一応ね」

「カリーナ様、今日は帰られた方がいいですよ。依頼を受けてくれる冒険者が現れたら、家の方にお伝えしますから」

女の子がわたしのことを見て、考えごとをしていると、ギルド嬢が女の子に声をかけてくる。

連絡をするって言っても、さっきは誰も受けないようなことを言っていたよね。

う~ん、トラブルにならないように追い出すように感じられる。

でも、仕方ないのかな?

領主の娘さんに怪我でもさせたら大変だし。判断が難しいところだ。

「わかりました。お願いします」

女の子は少し考えると、頭を下げて、ギルドから出ていってしまう。

わたしは当初の目的も忘れて、女の子のあとを追いかける。