軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

272 クマさん、クマの姿に戻る

お屋敷に戻ってくると、出迎えてくれたスリリナさんがわたしの制服姿に驚く。

「そのように制服を着ていますと、ユナ様は普通の学生にお見えになりますね」

久しぶりに普通って言われた気がするよ。決して変な格好ではない。

「でも、ユナ様はクマの格好が似合うと思ってしまうのは失礼なんでしょうね」

うん、失礼ですよ。

これでも、一応、15歳の乙女です。それがクマの着ぐるみが似合うって言われて喜ぶ女の子はいないと思うよ。

でも、わたしは部屋に戻ってくると、クマの着ぐるみに着替えることにする。

「ユナさん、着替えるんですか?」

「まあ、家に戻ってきたしね」

家に帰ってきたら、リラックスできる服に着替えるものだ。それにいつまでも、制服姿でいるわけにはいかない。わたしはクマボックスからクマの着ぐるみを出すと、制服を脱ぎ、クマの着ぐるみに着替える。

この肌さわりや温かさが安心感を与えてくれる。う~ん、この格好が一番リラックスできる服だってことがマズイことは分かるが、この格好が一番落ち着くのは事実だ。

この包み込むように外敵から守ってくれるクマの着ぐるみが安心感を与えてくれる。

これは絶対に神様の呪いだよね。

「クマさんの格好も良いですけど。もう少し、制服姿のユナさんを見ていたかったです」

別に着てても問題は無かったけど。落ち着かないからね。それに明日も着ることになるから、落ち込まなくても良いと思うんだけど。シアとの約束だし、明日の学園祭も制服を着るつもりでいる。

今日一日、制服を着て分かったことだけど。制服姿だと「クマ」と呼ばれないし、指を差されることもないし、子供たちが近寄ってくることもなく、笑われることも無かった。

ただ、なぜか、チラホラわたしに視線を向ける男子が多かった気がするけど、いつもクマの格好を見られているから、自意識過剰なだけかもしれない。

それに視線が向けられた先は一緒にいたティリアだったと思う。それをわたしが見られているように感じたんだと思う。わたしは無名の学生で、ティリアはこの国のお姫様だ。みんなが見ていたのはティリアだ。

自分が見られていたと勘違いをするのは、自意識過剰の痛い子になってしまう。

クマの着替えも終わり、ちびっ子たちはミサを加えてトランプをしている。グランさんがミサを迎えに来ることになっている。

「はい、3が揃いました」

フィナはカードを2枚中央に出す。

今はババ抜きをしているみたいだ。

「クマさんカードです。本当はクマさんのカードがわたしのところに来て嬉しいはずなのに、勝負では負けなんですよね」

みんなはジョーカーのことをクマさんカードって呼んでいる。最近ではキングのことは王クマ、クイーンは姫クマ、ジャックは騎士クマと呼んでいることを知った。

間違っていないけど。それはあくまで絵柄がクマであって、普通のトランプとは違う。でも、フィナたちに普通のトランプのことは説明ができないので、呼び名は修正はされずに今に至る。

トランプで遊んでいると、冒険者のマリナがミサを迎えにやってきた。

「マリナも来ていたんだね」

「ええ、今回もグラン様とミサーナ様の護衛よ。ミサーナ様、今日は楽しめましたか?」

マリナはわたしとの挨拶を済ませると、ミサに尋ねる。

「うん、楽しかったよ」

「それは良かったです。ユナ、今日はありがとう。本当なら、ミサーナ様にはもう少し居させてあげたいんだけど、明日には出発しないといけないみたいだから」

それは仕方無いことだ。グランさんは仕事で王都に来ていると言っていた。ミサもそれが分かっているようで、我が儘を言わずに、フィナたちにお別れの挨拶をしていた。

「ノアお姉さま。今度クリモニアに行きますから、そのときは街を案内してくださいね」

「ええ、待っているわ。いろんな場所に案内してあげるから」

「フィナちゃんもシュリちゃんも、また会おうね」

「はい。もし、街に来たらご一緒しますね」

「ミサ姉ちゃん。またね」

三人はクリモニアで会う約束をする。

「それじゃ、クリモニアに来たらわたしのお店に招待するね」

「はい。必ず、お伺いします」

ミサは嬉しそうに約束してマリナたちと一緒に帰っていく。ミサが帰って、しばらくすると、シアとエレローラさんが一緒に帰ってくる。

「聞いてよ。国王陛下が仕事を放り投げて、フローラ姫と一緒に学園祭に行ったって言うのよ。そのせいで、わたしに仕事が回ってきて大変だったのよ。わたしだって、学園祭に行きたかったのに」

食事をしながら、エレローラさんが愚痴を溢す。

たしかに王妃様が国王が抜け出したみたいなことを言っていたね。そのとばっちりを受けたのは、あの真面目な王子だけじゃなかったみたいだ。ここにも国王のせいで迷惑がかかった人がいた。

さらにノアが国王陛下と会ったことを話すと、エレローラさんの頬が膨れた。

「ズルいわ。それならわたしが国王陛下より先にフローラ様を奪いとって、学園祭に行けば良かったわ」

言いたいことは分かるけど、奪い取るって。せめて、一緒に行くとか言い方があると思うんだけど。

「それで、フィナちゃんたちは、学園祭は楽しんでいるのかしら?」

「はい。とても楽しいです。今日見た合奏も、演劇も感動しました」

「歌姫様の歌、凄い綺麗だった」

「ティリア様が案内してくれたおかげで、特等席で見ることができましたからね」

三人は学園祭で見たことや参加したことをエレローラさんに話す。フィナもこの数日間でエレローラさんに慣れたみたいだ。初めの頃は緊張をしていたみたいだけど。最近では普通に話せるようになっている。

まあ、エレローラさんは基本は優しい人だ。たまに、とんでもないことを言ったり、行動をしたりするけど。それさえなければ、本当に良い人なんだけどね。

「そう、二人とも楽しんでくれているようで良かったわ。ノアも一人で見るよりは楽しめているようだしね」

「学園祭に二人を呼んでくれたお母様には感謝です」

確かに、ノア1人で来ていたら、一人、もしくはわたしと二人っきりだったかもしれない。やっぱり、遊ぶなら、人数が多い方が楽しい。せっかく、フィナって友達ができたんだからね。昔のわたしなら、一人の方が気が楽とか思ったりしたけど。慕ってくれるフィナたちと一緒だと楽しい。

そう考えると学園祭にフィナとシュリを呼んでくれたエレローラさんに感謝しないと駄目だね。

「それで、シアの方はどうなの?」

「ユナさんが作ってくれたクマの置物のおかげで、お客さんが集まって、売れています。それに今日はティリア様が少しだけ手伝ってくれましたので」

シアはクマの置物のおかげでお客様が集まったことや、ティリアが呼び込みをしたら、大変なことになったことをエレローラさんに話す。

「ふふ、それはそうね。ティリア様が呼び込みしたら、みんな集まるわね」

「まさか、あそこまで集まるとは思いませんでした」

ティリアと一緒に歩いていても、視線を向けられたからね。

「お母様は明日もお仕事ですか?」

「明日は国王陛下と一緒に学園に行くことになっているわ。だから、会えるかもしれないわね」

明日も国王は学園に来るのか。なるべく、近寄るのはよそう。また、変な格好って言われたら、悲しいしね。それに国王やフローラ様と親しいところを見られでもしたら、余計に目立ってしまう。

「みんな、楽しんでいるみたいで良かったわ」

まあ、いろんな出し物に参加したり、食べたり、見たりして、わたしを含む全員が楽しんでいる。

「でも、今日一番驚いたのはユナさんの制服姿です。とっても、可愛らしい姿でした」

ノアがいきなり、変なことを言い出した。

なにを言い出すかな、この子は。

「制服姿?」

「はい、今日はユナさんはお姉様の制服を着て、一緒に学園祭を回ったんです。いつものクマさんの姿も良かったですが、制服姿もとても似合っていました」

「シアにクマの格好だと目立つからと言われて、着せられたんですよ」

制服に着替えたおかげで、クマだと言われて指を差されることは無くなった。

「でも、すれ違う人はユナさんを見ていましたよ」

「あれはお姫様のティリアのことを見ていたんでしょう?」

たしかに見られているような気がしたけど、あれは姫であるティリアを見ていただけだ。クマの格好をしていないわたしを見る理由がない。

「ティリア様も見ていたと思いますが、ユナさんのことも見ていたと思いますよ」

ノアはフィナとシュリに同意を求める。

「そんなことは無いよね」

わたしはわたしで二人に同意を求める。だって、わたしを見る理由が分からない。

「えっと、お二人を見ていたと思います」

「えっ、どうして? ティリアはお姫様だから、みんな見るよね。わたしはクマの格好をしているわけじゃ、ないんだから。見られないよね」

「……それはユナお姉ちゃんが綺麗だからだと思います」

「フィナもお世辞が言える年になったんだね。別に気を使わなくても大丈夫だよ。たぶん、見られていたのは、ティリアと一緒にいる学生が気になっただけだよ」

まして、見慣れない学生服を着たわたしだ。もしかすると「ティリア様と一緒にいる学生は誰?」程度に見られていたかもしれない。

でも、わたしの言葉にフィナもノアも呆れた顔をする。なぜに?

「ユナちゃんの制服姿ね。それは見てみたかったわね」

「明日も着ることになっていますから、見れますよ」

「あら、本当? それは明日が楽しみね」

たしかに、学園祭の間は着ることになっているけど、そんな余計なことを言わなくてもいいのに。これは絶対に制服姿を見せることになりそうだね。

翌日、学園祭に行くため、シアから借りた制服に着替える。昨日、着方を教わったので一人でも着替えることはできる。制服に着替えると、最後に足と手にはクマ装備を装着する。

どうも、クマの着ぐるみを脱ぐと、少し不安になる。クマさんパペットがあれば魔法も使えるし、剣も振るうことができる。もちろん、くまゆるたちを召喚させることだってできる。クマの足があれば早く走ることもできる。

でも、クマの服が無いと、攻撃だけは防ぐことができない。ブラックバイパーに弾き飛ばされても無傷なほどに防御力は高い。だから、どうしても、気持ち的に不安になる。でも、学園祭に危険は無いんだから、目立つ行為は学園祭中はしないことにする。

「ドレス姿のときも思ったけど、人は服装が変わると、変わるものね」

エレローラさんはわたしの制服姿に感想を漏らす。

つまり、馬子にも衣装って言いたいんだよね。

「でも、娘には勝てないわね」

ノアとシアは可愛いよ。そんな二人と比べないでほしい。

エレローラさんはわたしの制服姿に満足するとお城に向かう。あとで国王と学園祭に来ると言っていたけど、なるべく会わないようにしないとね。