軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

260 クマさん、お姫様に会う

ギルドカードを用意をして水晶板に翳して中に入ると、それと引き換えに一枚の紙を受け取る。そういえば、他の人たちも学園に入るときに受け取っていた。紙を見ると、アンケート用紙だった。面白かった出し物を記入するらしい。こんなことやっているの漫画の世界だけじゃないんだね。リアルでやっているところってあるのかな。集計も面倒だし、不正もできるような気もするんだけど。

わたしたちが学園に入ると先ほどの子供たちも一緒に入ってくる。付いてきている気もするけど、一本道だから仕方無い。途中で別れると思ってシアに付いていく。

「歩いていれば囲まれたりしないと思うけど、とりあえず、わたしたちのお店のところに行きましょう」

シアの言葉に全員が頷く。

「それで、気になったんだけど。どうして、ノアの髪型が変わっているの?」

まあ、朝会ったときと髪型が変わっていれば疑問に思うよね。

「似合いませんか?」

ノアは自分の長い髪に触れる。

「そんなことはないよ。とっても可愛いわよ。でも、今朝はいつもの髪型だったでしょう。どうして、変えたの?」

「ユナさんがお父様の言葉を真に受けたんです」

ノアは簡単に髪型を変えた理由を説明する。

「あは、お父様もユナさんも心配し過ぎですよ。婚姻の話はお父様やお母様に話が行くのは分かるけど。本人に直接声をかけたりしませんよ」

「でも、本人がノアのことを好きなら分からないじゃない。パーティーで見たノアが可愛くて、声をかけられなかった男の子がいて、今日近寄ってくるかもしれないでしょう」

ノアは可愛い。その可愛いノアがパーティードレスなんて着ていたら、一目惚れする可能性だってある。でも、ノアの返答は淡白なものだった。

「そんな、パーティーのときに声もかけられない男性はお断りです」

ハッキリと否定する。やっぱり、ウジウジする男よりは声をかけた方がいいのかな?

でも、女慣れしている男も嫌だと思うんだけど。さすがにノアと同年代でそれはないと思いたい。もし、10歳ぐらいで女の子慣れした男の子がいたら怖いね。

「それにパーティーで声をかけられないのに、こんな人が多いところで声をかけてこないと思いますよ」

確かにそうだね。わたしが言うような男の子なら、こんな目立つところで声をかけたりはしないか。ましてわたしたちもいるし。ノアと離れなければ大丈夫かな。

「でも、いつもと違う髪形をするのは良いと思うよ。面倒な知り合いに声をかけられることも少なくなるし、なによりも似合っているからね」

貴族が多く通う学園だ。たしかにお付き合い 云々(うんぬん) よりも、面倒な貴族からの声をかけられる可能性の方が高そうだ。ミサの誕生日のときに出会った馬鹿貴族が他にもいないとは限らない。用心するに越したことはない。

「でも、これだけの人が居ればわたしだって気付く人は居ないかもしれませんね」

歩く先にはすでに何十人も歩いている。後ろを向けば、さっきの子供たちが付いてきている。たしかにノアに近い年齢の子供たちも多い。その中から来ているかも分からないノアを捜すのは高難度だ。

「それで、シアたちのお店はどこにあるの?」

「わたしたちの場所は第三練習場になります」

シアの話では出し物によって場所が決められているらしい。なるべく、移動しないで済むための配慮だそうだ。でも、これだけ学園内が広いとパンフレットが欲しくなる。

でも、シアが言うには所々に大きな看板があり、そこの看板に構内図や出し物が書かれているから、そこで確認すると良いと教わった。

第三練習場は剣の練習や魔法の練習に使われる。このような練習する場所がいくつもあるそうだ。

構内の風景をみながら、再度、髪型の話で盛り上がっていると、校庭のような広場に着く。広場にはいろんな屋台がならんでおり、椅子やテーブルなども用意されて、食事ができるようになっている。昼食時間になると人が集まりそうだね。

「一応、食べ物は数箇所に分かれていますから、集中的に集まったりはしないと思いますよ」

第三練習場には先に到着したお客が、お店に並び、すでに食べている姿も見える。シアたちが行う綿菓子屋さんに到着すると、カトレアたちの姿はあるけど、お客様の姿はない。まだ、始めていないのかな?

わたしたちが来るとカトレアが挨拶をしてくれる。

「みんな、調子はどう?」

「完璧です。どれだけ売れるか、楽しみです」

意気込みは良いみたいだ。あとは売れることを信じるだけだ。

でも、他の店はまばらだけど、お客様はいる。でも、このお店にいないのは気になる。

「ふふ、絶対に出店部門で一番になってやる」

マリクスが宣言する。

「出店部門?」

「生徒のやる気を出させるため、部門賞があるんですよ。それに入賞すると豪華商品が貰えるんですよ。先ほど入り口でアンケート用紙を貰いましたよね」

うん、貰ったね。

改めて見ると面白かったり、心に残った出し物の番号を3つ書いてくださいと書かれている。どうやら、これで競うみたいだ。

「投票は番号を書くだけなので、良いと思った番号は覚えておくといいですよ。ちなみに、わたしたちのお店は90になりますから、書いてね」

「まあ、他の場所を見て、良いものがなかったらね」

悪いけど、身内贔屓はするつもりはない。やっぱり、書くなら平等に見てから書かないとね。と、わたしが思っている側でフィナたちが番号を書こうとしていたので止めておく。食べてもいないのに書いちゃだめだよ。それにまだ1つも見ていない。

「シアさん。そろそろ、わたしのことを紹介してくれませんか?」

シアの後ろに立っている女の子がシアのツインテールを引っ張る。

先ほどからシアの後ろにいた女の子がチラチラとわたしの方を見ていた。シアたちと同じ制服を着ているから学生だと分かるけど。どこかで見たような気がするが思い出せない。こんな、可愛い子見たら忘れないと思うんだけど。

「わかりましたから、髪を引っ張らないでください」

女の子はシアのツインテールを離す。シアは大事そうに髪の毛を取り戻す。髪は女の命って言われているんだから、軽くでも引っ張っちゃダメだよ。

「だって、シアさんたちがわたしを除け者にして会話をするんですもの」

「紹介しますから、止めてください。ユナさん、彼女を紹介しますね。彼女はわたしたちのお店を手伝ってくれることになっているティリア様です」

シアが彼女を紹介すると前に出てくる。

「やっと、クマさんに会えました。わたしはティリアと申します。よろしくお願いします」

「えっと、わたしはユナ。よろしく?」

ティリアと呼ばれた女の子が手を差し出すので、わたしも手を差し出すと、両手でクマさんパペットを握り締めてくる。相手はわたしのことを知っているみたいだけど。わたしは彼女のことは知らない。でも、見覚えがあるような気はする。どこかですれ違ったかな? 護衛のときに学園に来ているから、その可能性は高い。だから、その程度のことだと思っていたが、彼女の次の言葉で違うことだと知る。

「本当にクマさんの格好をしているんですね。いつも妹がお世話になっています」

えっと、妹って誰?

妹をお世話って、わたしは彼女の妹を知っているの?

彼女よりも年下の女の子の知り合いってそんなに多くはない。

ノアにミサ。あと、彼女が年上なら、カトレアが含まれるぐらいだ。わたしはシア、ノア、カトレアの三人を見るが彼女には似ていない。まあ、似ていない姉妹だっているけど、違うと思う。最悪のシナリオは腹違いの姉妹って可能性もある。

一番考えられるのはクリフが不倫して生ませた腹違いの姉妹だ。それなら、エレローラさんに似ていない理由にもなる。

「ユナさん。なにを考えているか、わかりませんが、たぶん違うと思いますよ」

シアに考えていることを否定される。いい線だと思ったんだけどな。

「いつも妹がくまさん、くまさんって言うから、てっきり、クマの毛皮でも着ているのかと思っていましたけど、違ったんですね。まさか、こんなに可愛いクマとは思いもしませんでした。手もクマだし、足もクマ」

ティリアはクマさんパペットをにぎにぎしたり、わたしの足に触れたり、わたしの体をペタペタと触れる。

「あのう、触るのは止めてもらえるかな?」

「ごめんなさい。それじゃ、最後に抱きしめますね」

ティリアは一度離れたと思うと、いきなり両手を広げて体に抱きついてきた。なんで、そうなる!?

「本当に妹の言う通り、柔らかいです」

わたしを正面から何度もフニフニと抱きしめてくる。

「ちょ、ちょ、なんなの?」

「この感触は癖になりそうです」

わたしの体を触り捲って、最後には胸に顔を押し付けてくる。

「ずるい。わたしも」

シュリまでが後ろから抱き付いてくる。これでは先程の状況と変わらない。

わたしは無理やりティリアの肩を掴み、引き離す。

「いきなり、なんなの? シュリも離れて」

「ごめんなさい。妹が抱きしめると、柔らかくて、気持ち良いって言ってましたから、お会いしたら抱きしめたいと思っていました」

「だからって、いきなり抱きしめないでよ」

ティリアは謝罪しながら離れてくれる。それにさっきから妹って誰のことよ。

いくら考えても彼女が誰の姉なのか分からない。

そうなると、やっぱり一番可能性が高いのはミサのお姉さんなのかな? あまり似ていないけど。

「話は妹だけじゃなく、お父様とお母様からも何度も話を聞いていますよ」

お父様、お母様? ミサの両親とは誕生会のときしか会ったことがない。何度も会っていない。

「いつも、妹のために美味しい食べ物を持ってくるって」

食べ物? ミサに持っていった記憶はない。誕生日ケーキぐらいだ。

「でも、どうして、いつもわたしがいないときに来るんですか? 学園から帰ってくると、両親と妹からクマさんが美味しい食べ物を持ってきたって話を寂しく聞いているんですよ。兄さんはクマが来るとお父様が仕事をしなくなるから、迷惑だって言っていますが」

もしかすると、もしかする?

彼女の妹がわたしのことをくまさんと呼び、食べ物を持ってくると父親が仕事をしなくなり、兄が迷惑がっている。段々と答えのピースが集まってくる。

その答えを知るためにノアの表情を改めて見る。ティリアのことを緊張している目で見ている。

これらの言葉やノアの表情から導き出される答えは1つしかない。

「もしかして、フローラ様のお姉さん?」

「そうですけど。もしかして、知りませんでしたか?」

知らないわよ!

国王にもう1人娘がいたなんて、名前どころか、存在も知らなかった。誰も教えてくれなかったし、わたしも聞かなかったけど。

長男が20歳前後で、フローラ様が4、5歳なら、間にもう1人か2人の子供がいてもおかしくない。言われてみればフローラ様や王妃様の面影がある。

「それで、シアさんがクマさんの知り合いで、今日学園祭に来るって言うから、お店を手伝う代わりにクマさんを紹介してもらうことになったんです」

シアはなにをやっているかな?

お姫様に屋台の手伝いって。ノアも信じられない顔でシアとティリアを見ている。

「フローラ様にお姉さんがいたんだね」

「お礼が言いたかったの。いつも、妹のためにありがとうね」

「いえ……」

「特にクマのぬいぐるみは可愛らしかったです。それに絵本も良かった。話を聞くたびに、どんな女の子が料理を作ったり、ぬいぐるみを作ったり、絵本を描いたりしたのかなと思っていたのよ」

料理を作ったり、絵本を描いたのはわたしだけど、ぬいぐるみを作ったのはわたしじゃない。まあ、言わないけど。

「クマさんがゼレフにレシピを教えてくれて感謝してます。とくにプリンが美味しかったです」

「あれは美味かったな」

「うん、美味しかった」

「もう一度、食べてみたいです」

ティリアがプリンの味を思い返していると、マリクスたちも同様にプリンの味を思い出したようだ。

「みんなが頑張ったら、ご馳走するよ」

「本当ですか?」

「よし、ティモル。頑張るぞ」

「うん」

プリンを餌にしたら、みんながやる気になり始めた。まあ、プリン1つでやる気が出れば安いものだ。