軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

244 クマさん、試食をする

エレローラさんは奥の調理場に向けて歩き出す。わたしは、そのあとを付いていく。

調理場に入るとゼレフさんや料理人が料理を作っている姿があった。

「ゼレフ、来たわよ」

エレローラさんが声をかけるとゼレフさんたちがわたしたちの方を見る。

「エレローラ殿、お待ちしてました。それにユナ殿も?」

「たまたま、そこでユナちゃんに出会ってね。ユナちゃんにも試食をお願いしたんだけどいいかしら?」

たまたまでも、偶然でもないんだけど。

サーニャさんの召喚鳥から連絡があったから、クマのお店に駆けつけたとは言えない。

「もちろんです。ユナ殿に試食してもらえるなら、こちらも助かります」

「ゼレフさん、こんにちは。試食って言っても、詳しいコメントとかできないよ」

テレビやマンガみたいに食材を当てたりすることはできない。

普通の舌を持った、普通の15歳の女の子だからね。

「いえ、ユナ殿が美味しいと思っていただければ十分です。もし、口に合わないような物がありましたら、遠慮なく言ってください」

まあ、それぐらいだったら大丈夫かな。

「それでは、ユナ殿に紹介しますね。この3人がこのレストランで働くことになっている者たちです」

ゼレフさんの呼び掛けで、調理場にいた3人がゼレフさんの横に並ぶ。

男性が二人に女の子が一人だ。

女の子?

男性の二人は20代半ばで、女の子は18歳ぐらい?

そして、女の子から尊敬するような眼差しで見られているのは気のせいかな。

たぶん、気のせいだ。自意識過剰はよくない。

「3人は身分も料理の腕もしっかりしていますので、ユナ殿のレシピが外部に漏れたり、ユナ殿の料理の評判を落とすことはないと保証します」

そんな優秀な人材をいいの?

クマの店だよ。

入り口にクマがあるお店だよ。

3人とも良いの? と問い掛けたくなる。

「3人とも、ユナ殿に挨拶を」

男性二人がわたしの格好を見つめながら挨拶をする。

ゼレフさんが選んだこともあって、不快な視線を向けてくることはない。

この二人がレストランの料理長と副料理長になるそうだ。

そして、男性二人の挨拶が終わると最後に女の子が輝いた目でわたしの前に立つ。

「わたし、シャイラって言います。3人の中では一番下ですがやる気だけは一番です。まさか、今日くまさんに会えるとは思ってもいませんでした。くまさんに会えて感激です!」

わたしのクマさんパペットを握ると元気よく、挨拶をする。

くまさん?

「えっと、わたしは ユナ(●●) 。よろしくね」

名前を強調して挨拶をする。

「はい。クマさん! よろしくお願いします」

わざと? わざとなの?

わたしが名前を強調して挨拶をしたけど、見事にスルーされた。

彼女の無垢な笑顔を見ると、わざとじゃないと思うけど。

心の中で笑っていないよね?

「こら、シャイラ。ユナ殿に失礼なことをするのでない」

ゼレフさんがコツンとシャイラの頭を小突く。

「ごめんなさい。叔父様」

「叔父様?」

今、聞き捨てならない言葉が聞こえたよ。

叔父様だって。ゼレフさん、こんな女の子に叔父様って呼ばれているの?

いけない関係を想像するのは、わたしがマンガや小説に侵されているせいだろうか。

「シャイラはわたしの姪にあたります。料理の腕は良いのですが、性格に問題がありまして」

ゼレフさんが溜め息まじりに答える。

どうやら、本当に性格に問題があるみたいだ。

「叔父様、酷いです」

「それにここでは叔父様ではないと、何度も言っておるだろう」

「ごめんなさい。料理長」

そこは「くまさん」と呼んだことを注意しようよ。

「くまさん、わたし一生懸命に作ります。よろしくお願いします」

「えっと、名前で呼んでもらえるかな?」

このままだと、くまさんって呼ばれ続けられそうだったので、名前で呼ぶようにお願いする。

小さい子供にクマさんって呼ばれたり、年配の人にクマの嬢ちゃんと呼ばれるのは許せるけど、年齢が近い人に言われるとバカにされているように感じる。

「すみません。わたしたちの間では、「料理を作るクマさん」で通っていたので」

シャイラは気付いたように頭を下げて謝る。

つまり、シャイラたち料理人の間では「料理を作るクマさん」って呼ばれているってこと?

わたしも金髪の女の子とか、筋肉親父とか特徴で呼ぶこともあるから、人のことは言えないけど。

自分が言われると釈然としないものだ。

「国王陛下もお城にクマが現れても害はないから、近づかないように警備をする兵士に 御達(おたっ) しがあったみたいよ」

「料理長からも、クマの格好をした女の子に会っても、騒がないようにと言われています」

エレローラさんとシャイラが説明してくれる。

でも、今までフローラ様に会いに行くとき、誰にも止められない理由がやっと分かったよ。

普通なら、一般人(しかもクマの格好をしている)が一人でお城の奥の王族のフローラ様のお部屋に行くものなら、途中で止められたり、怪しまれたりするものだ。すれ違っても、頭を下げられたり、視線を向けられるだけで、誰もわたしがフローラ様の部屋に行くのを止めなかった。

「これもユナちゃんに迷惑がかからないようにと、国王陛下の配慮よ」

そんなことになっていたとは。

とりあえずは邪魔をされずにフローラ様に会えることには感謝かな?

何度も止められたり、「そこの怪しい奴、止まれ」とか「なんだ、その怪しい格好は」とか言われたら言い訳をするのも面倒だからね。

「それで、ユナさん。どこで、あんな料理を覚えたんですか? 自分で考えたんですか? どうしたら、あんな料理を思いつくんですか? どうしてくまさんの格好をしているんですか?」

わたしがお城の件を一人で納得していると、シャイラの口から質問がどんどん出てくる。

シャイラは一歩、二歩と詰め寄ってくる。

わたしは勢いに押されて下がってしまう。

「シャイラ」

ゼレフさんが再度、コツンとシャイラの頭を小突く。

「料理長、痛いです」

「なら、落ち着け」

シャイラは体を縮こまらせて、下がっていく。

「ユナ殿、すみません。落ち着きがない姪で」

「酷いです。料理長。わたし、クマさんに会えるの楽しみにしていたんですよ」

「楽しみって?」

「いつも、料理長に食べ物を持ってくるでしょう。それをいつも、料理長が一人で美味しく食べていたんですよ」

ズルいですと口を尖がらせる。

フローラ様に作るお昼を邪魔しているから、お詫びとしてゼレフさんにはメイドのアンジュさんにお願いをして、渡してもらっていた。

でも、目新しいのはプリンとケーキにピザぐらいだ。あとはモリンさんが考えた(わたしも考えた)新作パンが多い。

「あとで、同じものを作っただろう」

「でも、料理長。本当はもっと美味しいって、いつも言っています」

「当たりまえだ。練習で作っているのだからな」

「わたし、ユナさんとお話がしたかったんです。同じ女の子で、こんなに美味しい食べ物を作るなんて」

シャイラは目を輝かせながらにじり寄ってくる。

この子、テンション高いよ。恐いよ。

「だから、落ち着け」

ゼレフさんがシャイラの頭をコツンと叩く。

「うぅ、痛いです」

「ユナ殿、もし、お店に来ることがありましたら、このシャイラに申し付けてください。同じ女の子同士、話しやすいと思いますので」

無理かも、引きこもりをしていたわたしにはテンションが高い人物は微妙に苦手意識がある。

できれば、もう少し大人しい子にしてほしい。

そんな願望を言うことができるわけもなく、料理を試食することになった。

テーブルの上にはすでにいろんなケーキやパンが並んでいる。

どうやら、エレローラさんの来るタイミングに合わせて作っていたらしい。

でも、量が多くない?

別のテーブルにもケーキやパンが並んでいる。

もしかして、全部試食するの?

乙女だから、そんなに入らないよ。

「ユナさん、お願いします!」

わたしの気持ちを知らずに、シャイラが切り分けたケーキを差し出してくる。

差し出されたケーキはイチゴのショートケーキだった。

全ての試食ができるか分からないけど、ありがたく頂くことにする。

試食会は始まり、エレローラさんとわたしは3人が作ったケーキやパンを食べていく。

少しずつだけど、お腹が膨れていく。ケーキは普通に好きだけど、そんなに多くは入らない。

美味しいものはたまに食べるから、美味しいのであって、詰め込んでまで食べるものではない。

「ユナさん、このケーキはどうですか。わたしが考えたんです」

差し出されたケーキを食べる。

「うん、甘酸っぱくて美味しいよ」

「あ、ありがとうございます」

「ユナ殿、こちらもお願いします」

「こちらも」

料理長に副料理長までが自分たちが作った料理を持ってくる。

試食を引き受けたのは失敗だったかもしれない。

でも、引き受けたからには少しずつでも口の中に入れる。

とりあえず、お世辞は言わずに「自分の好みだからね」と言ってから、美味しい、口に合わない、なかなか美味しい、甘すぎる、辛さが物足りないと思ったまま答えてあげる。

3人はそれぞれが紙を手に持って、わたしたちの感想を書き留めている。

「あら、ユナちゃん。大人気ね」

「笑っていないで、エレローラさんも食べてください」

「食べているわよ」

たしかに、エレローラさんの前のお皿は空になっている。

おかしい。ケーキを切り分けるときもパンを持ってくるときも、二人分用意されていたはずだ。なのに、エレローラさんの前のお皿は空になっている。

どうやら、エレローラさんはミレーヌさんよりの人種らしい。

好きな物はいくらでも入るタイプみたいだ。

わたしも頑張って試食をする。

結果だけを言えば、十分に美味しかった。

レシピがあるからと言えばそうだけど、ちゃんと丁寧に作っているのが分かる。

クリームのデコレーションが上手に工夫されている。

「でも、くまさんの絵が上手く描けないんです」

「申し訳ない。クリモニアのケーキを再現できればよかったのですが」

「あれは可愛かったわね」

「…………?」

3人がなにを言っているのか分からない。

くまさんの絵とクリモニアのケーキとどういう関係があるの?

「ユナさん、手本を見せてもらえませんか!」

「えっと、なんのこと?」

「エレローラ様や料理長から聞きました。このクリームでくまさんの絵を描いて、お客様を喜ばせるって」

「…………?」

「クリモニアで子供たちが嬉しそうに食べていたわよ」

そんな生クリームでクマを描いたケーキなんてわたし知らないよ。

エレナさん、いつのまにメイド喫茶でオムレツにケチャップで絵を描くような技術を覚えたの?

わたしはそんな技術は教えていない。

だけど、一度だけお遊びで描いた記憶を思い出した。

ミサの誕生日パーティーのケーキを作ったときに、遊び半分でくまさんの絵を描いて、フィナにお土産として家に持って帰ってもらったことがあった。

シュリが一緒にミサの誕生日会に行けないから、作ってあげたら喜ぶと思って描いてあげたのだ。

もしかして、そこから機密情報が流れたのかな?

まあ、口止めなんてしていないけど。

「だから、ここでも子供相手に描いてあげれば喜ぶと思って、作ることにしたんだけど」

「自分には絵心がないので、上手に教えることができませんでした」

恥ずかしそうに答えるゼレフさん。

わたしはエレローラさんの方を見る。

「描くことができれば、外のクマもユナちゃんの絵本を見せたりしないわ」

ここでクマの絵を描くと自分の首を絞めるような気がするんだけど、目の前に目を輝かせながらわたしを見ているシャイラがいる。

描けば自分の首が絞まり、描かなければ、お店のために頑張っている料理人を悲しませることになる。

「別にクマの絵を描かなくてもいいのでは?」

「ユナちゃんはクリモニアにいる子供たちだけの特権にしたいのね」

「別にそういうわけじゃないですけど」

そもそも、わたしが知らないところでやり始めたことだ。

原因はわたしかもしれないけど。

「ユナさん、教えてください」

シャイラは頭を下げる。

そして、わたしの言葉を待っているのか顔を上げない。

わたしが口を閉じて考えていると、料理長と副料理長までが頭を下げる。

ここで断ったら、悪人だよね。

「出すのは子供だけにしてくださいね」

「はい!」

わたしは溜め息を吐くと、生クリームで可愛らしいクマの絵を描いてあげる。

「ユナちゃん、うまいわね」

「なるほど、そうやって描くんですね。メモメモ」

紙にわたしが描いたクマをメモっている。

男性二人も熱心に見ている。

ただのクマの絵だよ。そんなに熱心に見るものじゃないよ。

「ありがとうございます。さっそく練習します」

シャイラはわたしが描いたクマをお手本にして練習をし始める。

それを見て男性の二人もクマを描き出す。

もしかして、わたし選択肢間違えた?