軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

211 クマさん、商人と交渉する その1

サーニャさんは奥に部屋を借りたということなので、ミランダさんたちから話を聞くことになった。

なんでも、絵を破ってしまったルイミンはミランダさんたちに迷惑がかからないように腕輪を商人に渡して、ミランダさんたちになにも告げずに街を出ていってしまったそうだ。

その話を聞いたサーニャさんは呆れ顔になっていた。

「だって、わたしのせいでみんなに迷惑をかけたくなかったから」

「わたしたちは話し合いましょうって言ったでしょう」

「…………」

ルイミンは俯いて、みんなの顔を見ようとしない。

「ドグルードさんに腕輪のことを聞けば、エルフにとって大切な物だって言うじゃない」

「わたしたちが仕事に誘ったせいで、こんなことになったんだから、全員の責任でしょう」

ミランダさんの言葉に二人も続けて、ルイミンに言葉をかける。

「でも、わたしが破いたのが悪いんだよ。だからミランダさんたちは悪くないよ」

「わたしたちが誘ったんだから、わたしたちにも責任はあるわ」

「でも、あんな金額……」

「確かにそうだけど」

「だからと言って黙って出ていくことはないでしょう。わたしたちがどれだけ心配したか、わかっているの?」

「ごめんなさい」

体を縮こませて、小さな声で謝る。

うわぁ、わたしは心の中で三人の冒険者に謝罪をする。

ルイミンの腕輪が目当てだと疑ってごめんなさい。

悪徳商人とグルと疑ってごめんなさい。

ルイミンの話を聞いたときは、間違いなく悪い冒険者に騙されていると思っていた。

実際はルイミンのことを心から心配している冒険者たちだった。

冒険者ギルドでウロウロと仕事を探しているルイミンに声をかけて、王都まで行くお金が無いことを知ると、自分たちの仕事を一緒にやらないかと誘う。

ルイミンが仕事でミスをしても、一緒に対応を考えようとする。

元の世界でも、会ったばかりの者のミスでできた罰金を押し付けないで、心配をしてくれる。そんな人はいないと思う。

さらにルイミンが街から出ていった後の話を聞いたときは言葉を疑った。

「それじゃ、腕輪は大丈夫なのね」

「はい、ルイミンが腕輪を置いて居なくなったことを知って、ドグルードさんに交渉して、腕輪は他に売らないようにお願いをしました」

「いつになるか、分からないけど。話し合って、わたしたちが買い戻そうってなったの」

「わたしたちみたいな、ランクの低い冒険者じゃ、いつになるか分からないけどね」

「みなさん……」

ルイミンが目を潤ませながら、ミランダさんたちを見ている。

そう、この人たちはルイミンの腕輪を取り戻すために商人に交渉をしたのだ。

いつか買い戻すから、売らないでほしいと。

馬鹿だ。はっきり言って馬鹿だ。赤の他人、知り合って間もない。そんな人物のために腕輪を買い戻そうなんて、普通はしない。

こんな身内がいたら、縁を切りたい。自分まで面倒ごとに巻き込まれそうだ。

わたしだって、似たようなことをしているが、できる範囲内でやっている。できないことはしない。

……でも、こんな馬鹿は嫌いじゃない。

「この子のためにありがとうね。改めてお礼を言うわ」

「いえ、結局、買い戻せていませんから」

「他に売らないようにしてくれただけでも十分よ」

本当にそうだ。

ミランダさんたちが交渉をしてくれなかったら、他に売られて買い戻せなかったかもしれない。

「このお礼はさせてもらうわ」

「いえ、わたしたちは」

「お礼なら、ユナちゃんを抱きしめさせてもらっても」

変な言葉が聞こえたが無視をしよう。

きっと、気のせいだ。

エリエールさんがわたしを見るが、クマさんフードを深く被り、視線を防ぐ。

話も終えると、最後にこの街のギルドマスターを紹介された。

まあ、こんなクマがいるから、トラブルになったらお願いね、ってやつだ。

ラルーズの街のギルドマスターはサーニャさんの頼みだったので、渋々と了承してくれた。

これで、暴れても大丈夫だね。

そして、冒険者ギルドを後にしたわたしたちは、ミランダさんの案内で商人のところに行き、腕輪を買い戻すことになった。

「ここがドグルードさんのお店です」

案内された場所は立地条件が良さそうなお店だ。

人通りも多く、お店を出すなら良い場所だ。

そして、店の前に大きな馬車が止まっている。

装飾もされ、いかにも金持ちが乗っていますと、宣伝しているような馬車だ。

高い商品を扱っているから、購入する人も、この手の人種になるのかな?

馬車を眺めていると、ミランダさんを先頭にお店の中に入っていく。わたしも置いていかれないように付いていく。

「いらっしゃいませ」

中に入ると店員らしき青年が挨拶をしてくれる。

そして、青年は店に入ってきたのがミランダさんだということに気付く。

「ミランダさん。今日はどうしたのですか?」

「ドグルードさんはいる?」

「ご主人ですか? いますが、今はちょっと」

青年は奥の部屋を軽く見て、謝罪をする。

「ただいま、お客様がいらして……」

そう言った瞬間、奥の部屋が開き、男が出てくる。

わたしはお店の通路の反対に身を隠す。

「邪魔だ。どけ」

男はミランダさんたちをゴミのように言葉を吐きつけるとお店を出ていく。

隙間から男を見ると、先ほどの馬車に乗り込んでいく。

「あの人にも困ったもんだ」

男が出てきたドアから30歳前後の細い男性が現れた。

「ドグルードさん」

「あれ、ミランダさん、今日はどうしたのですか? それにルイミンも!」

ドグルードと呼ばれた男性はミランダさんと一緒にいるルイミンに気付く。

もちろん、わたしのことも気付くが、ルイミンの言葉で視線はルイミンに戻される。

「この間はすみませんでした」

ルイミンは頭を下げる。

「ドグルードさん、ルイミンの腕輪は売ってないですよね?」

「ああ、一応」

チラッとわたしの方を見るが、サーニャさんがドグルードさんの前に出て挨拶をする。

「わたしはこの子の姉のサーニャと言います。今日はこの子の腕輪を買い戻させてもらいに来ました」

「ルイミンのお姉さん!?」

ドグルードさんはルイミンに目を向けている。ルイミンは小さく頷く。

「そうですか。ルット、お店は任せます。それじゃ、皆さんこちらの部屋にどうぞ」

わたしたちは先ほどドグルードさんが出てきた部屋に案内される。

部屋は少し広めの部屋で、ドグルードさんの仕事場になっている感じだ。

中央に長方形のテーブルがあり、左右に椅子が置かれている。

「どうぞ。座って下さい」

ドグルードさんは一番奥の自分の席に、わたしたちはテーブルの周りにある椅子にそれぞれが座る。

ドグルードさんの視線がチラチラとわたしの方を見ているが、気のせいではないはず。

「わたしたちがここに来た理由は分かっていると思うけど。いかほどお支払いすれば、ルイミンの腕輪を返してくれるのでしょうか?」

ドグルードさんはサーニャさんの言葉に、視線を逸らし頭を下げる。

「申し訳ありません。あの腕輪はお返しすることができなくなりました」

「ちょっと、どういうことよ。ルイミンの腕輪は誰にも売らないって約束したでしょう!」

ミランダさんは立ち上がり、ドグルードさんの前にある机を強く叩く。

「すみません」

ドグルードさんは再度、謝罪をする。

「どうして? 他に売らないって約束したし、ルイミンのお姉さんがお金は払うって言っているのに」

「それは……」

「説明をしてくれないかしら」

サーニャさんが落ち着いた声で尋ねる。

ミランダさんは自分の席に戻り、ドグルードさんの話を聞く。

「ルイミンさんが破かれた絵ですが、ある方が購入予定でした。その方は絵が購入できないと分かると怒り出しました」

そりゃ、怒るよね。

わたしだって、予約していた限定ゲームが買えなかったら怒るもん。

「ごめんなさい」

ルイミンが本日何度目かの謝罪をする。

「いいのですよ。商売をしていれば、こんなことは一度や二度はあります。どんな状況になっても切り抜けるのが一流の商人への道ですから」

「一流の商人はミスはしないんじゃないかな」

「わたしのせいで」

「エリエール!」

ミランダさんがエリエールさんの頭を殴る。

口を尖らせながらミランダさんを見返すが、ミランダさんは無視する。

「それで、どうして腕輪が返せなくなるのかしら?」

話が逸れたのをサーニャさんが元に戻す。

話の流れが読めるけど、ルイミンの件もある。

間違いを起こさないようにドグルードさんの口からちゃんと話を聞くことにする。

「どうにか相手側と交渉して、代わりの絵を用意することになったんです。それで、 伝(つて) を使ってソルゾナーク国から仕入れるはずだったんですけど」

「それが、駄目になったと」

ドグルードさんは小さく頷く。

「本当なら昨日のうちにソルゾナーク国、隣の街から届くはずだったのですが、先日の大雨のせいで、船が動かせなくなり、絵を運ぶことができなくなりました」

つまり、川の反対側にある街には届いているんだ。

「どうにもならないの?」

「船の出発が可能か確認したところ、数日は様子を見るとのことです」

まあ、安全を考慮するなら、仕方ないよね。

荒れた川に出るのは危険だ。

「明日の昼までに用意ができないと、腕輪を代わりに渡すことになっています」

「なんでそんなことになったんだ」

「その、先日、ミランダさんが来たときに、腕輪のことを聞かれていたようで、交渉をしてくるようになりました。もちろん、お断りをしていたのですが、今回の件で……断れなくなりました」

「すまない。わたしのせいで」

ミランダさんが頭を深く下げる。

「ミランダさんは悪くないですよ。わたしが気を使わずに、店内で会話をしてしまったのが悪いんですよ。それで、明日の昼までに絵が用意できなかったら、腕輪を代わりにと要求されました」

「どうにもならないの?」

「前回もお渡しすることができず、今回もとなれば、相手も相手なので断れませんでした」

「その相手は誰なの?」

サーニャさんが尋ねる。

王都の冒険者ギルドのギルドマスターなら、それなりに力があるから、交渉ができるかもしれない。

わたしも印籠を持っているから、少しは交渉ができるかもしれない。

「この街の大商人のレトベールです」

「レトベール……」

「なんで、そんな奴が出てくるのよ」

どうやら、有名人らしい。

「サーニャさんでも駄目なんですか?」

「難しいわね。わたしが影響力があるのは、あくまで冒険者ギルドだからね。レトベールほどの商人になると……」

わたしの印籠はどうなんだろう。

やってみたい気はするけど、あまり大物だと無理な可能性もある。

部屋に沈黙が流れる。

まあ、解決方法は簡単だ。悩む必要はない。

「ようは川を渡った隣の街から絵を持ってくればいいんでしょう?」

わたしが沈黙を破り、初めて口を開く。

「ユナちゃん?」

「わたしが取ってくるよ。どこに行けばいいの?」

「船が出ないのに、どうやって行くつもりですか! 泳ぐんですか、空を飛ぶんですか!」

「別に、泳がないし、空も飛ばないよ」

ゴーレム討伐の仕事が終わったあとに得た、新しいスキルが初めて役にたつときがきた。

クマの水上歩行。