軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

189 クマさん、ドレスを着る!

パーティー当日、わたしは逃げ道を失った。

まさか、こんなことになるとは思わなかったし、想像することもできなかった。

ノアとフィナがわたしのことを裏切ると、誰が思うだろうか。

ここには信じられる者は誰もいない。一番信用していた者に裏切られた。

わたしは、どうにかして逃れる方法は無いかと思考を巡らせるが、裏切られたダメージで思考が鈍る。

だが、相手はわたしに考える時間を与えないように近寄ってくる。

「さあ、ユナさん。ドレスを用意しましたから着替えましょう」

ノアの手に綺麗なドレスがある。

これがミレーヌさんやエレローラさんなら、振りほどいてでも逃げるんだけど。今日はミサのパーティーであり、近寄ってくるのは10歳の女の子だ。

「ノア、話し合いましょう。話せば分かるわ」

「クマさんの格好も似合っていますが、今日はミサのパーティーです。ドレスを着ましょう」

ノアが黒と白を使ったドレスを持って近寄ってくる。

ノア 曰(いわ) く、くまゆるとくまきゅうの色らしい。フィナとノアの二人で選んだそうだ。

確かに綺麗なドレスなのは間違いない。

元の世界にいたときなら、クマの着ぐるみと綺麗なドレスの2択なら、間違いなくドレスを選んでいただろう。わたしだって、女の子だ。綺麗なドレスを着たい気持ちは少なからずある。

でも、今のわたしはクマの着ぐるみを脱ぐことに戸惑いを覚えている。

普通の女の子なら、綺麗なドレスを着れるなら喜ぶのに。

「フィナ。どうして、黙っていたの?」

教えてくれたとしても、どう対応したら良いか分からなかったけど。

考える時間はあったはずだ。

「だって、あのときユナお姉ちゃん。わたしを置いて帰っちゃうから」

確かにあのときはドレス選びに時間がかかると思って、フィナをノアのところに置いてきた。

「それにノア様にパーティー当日にユナお姉ちゃんを喜ばせるから、内緒だって言われて」

確かに普通の女の子なら喜んだかもしれない。

ドレスを着ることが人生に何回あるか分からない。まして、綺麗なドレスを着れるなら喜ぶだろう。

でも、クマの着ぐるみに慣れてしまったわたしにとって、クマの着ぐるみよりもドレスを着る方が恥ずかしい。

「ユナさん。着てくれないんですか?」

「ほら、サイズが違うかもしれないでしょう?」

着ぐるみを着ているんだ。わたしの正確な体のサイズは分からないはず。

まして、わたしの全てのサイズはトップシークレットになっている。誰も知らない。

「大丈夫です。身長はララさんが把握してましたし、ユナさんの体のサイズは一緒にお風呂に入ったときに確認してますから」

お風呂っていつ?

ノアとお風呂に入ったのは最近だよね。

ああああああ、国王誕生祭のときか!

だからと言って、見ただけでサイズとか分かるわけないでしょう。

それにあれから何ヶ月たったと思っているの? 人は数ヶ月で成長する生き物だよ。

身長だって伸びて、体重の方は……きっと変わっていない。でも、胸とかも成長して……。

「クマさん風呂でも、昨日のお風呂でも確認しましたが、あのときから変わってませんから大丈夫です」

自信満々の笑顔でノアが言う。

子供の無邪気な発言って人を傷付けるよね。

かなり、精神的なダメージを受けたよ。

パーティーが始まる前に倒れそうだ。

「どうして、そんなに嫌がるんですか。ミサも喜びますよ」

「うぅ」

「それにユナさん。綺麗だから、ドレス似合いますよ」

「…………」

「フィナもユナさんがドレスを着たところ。見たいよね」

「はい」

フィナの目は「わたしも着ますから一緒に着ましょう」って言っている目だ。

部屋から逃げ出すことは簡単だ。でも、逃げたらパーティーに参加しづらくなる。

ミサのパーティーには参加してあげたい。逃げ出して参加しなかったら、招待状を送ってくれたミサに悪い。うぅ~、逃げ道がない!

「わ、わかった。でも、条件があるわ」

わたしは苦肉の策を考え、ノアに条件を伝える。

その条件をノアは渋々と飲んでくれた。

ドレスに着替えたノアとフィナ。

先日、ノアのドレス姿を見て可愛いと思ったけど。フィナも負けじと可愛いね。

ノアが赤、ミサが水色、フィナが薄緑色のドレスだ。

ノアは着なれているのか堂々としている。でも、フィナは恥ずかしそうに体を縮こませている。

「うぅ、恥ずかしいです」

恥ずかしいのはわたしの方だ。

わたしの格好は白と黒のドレスだ。サイズの方も合っている。なんで、見ただけでサイズが分かるの? しかも、成長していないとか。

「ユナさん、似合ってます! 綺麗です!」

ノアが褒めてくれるが、気恥ずかしい。

元の世界でも、ドレスを着たことなんて一度もない。わたしと同い年で、ドレスを着てパーティーをしている人がどれほどいる? 普通、いないだろう。

鏡の前に立ち、自分の姿を見ると恥ずかしくなってくる。

見馴れない格好のせいかもしれないけど。似合っていないように見える。

「ユナさんの長くて黒い髪が綺麗だから、白と黒のドレスに合います」

ノアの金色の髪の方が綺麗だよ。

実際、ノアは褒めてくれるがどうなんだろう?

自分の評価をするのは難しい。

「うぅ、ユナお姉ちゃんは綺麗だけど。わたしがこんな綺麗なドレスを着ても似合わないよう」

フィナはわたし以上に自分を 卑下(ひげ) する。わたしからすればフィナの方が似合っている。

とても、可愛く、緑色のドレスがフィナを引き立てている。

「フィナはわたしと違って、可愛いから大丈夫だよ」

「ユナお姉ちゃんの方が可愛いです」

2人とも恥ずかしそうにする。

お互いに褒め合うのは止めよう。

「2人とも似合っているから大丈夫です。きっと、お母様もお父様も驚きますよ」

この格好で、人前に出るんだよね。ミサには悪いけど。帰りたくなってきた。

それはフィナも同様のようだ。

わたしは諦めて、脱ぎ散らかしているクマさん装備に近付く。そして、クマさんの靴を履き、両手にクマさんパペットを装着する。

「ユナさん、本当に付けるんですか?」

これがドレスを着る条件だ。

クマの靴と手袋をする条件で、ドレスを着ることにした。

だから、今のわたしは白と黒のドレスにクマさんの靴を履き、手にはクマさんの手袋を付けている格好になっている。

この格好で鏡の前に立つ勇気はない。わたしだって、変なことは分かっている。

でも、この世界に来て、クマの着ぐるみには24時間。ほぼ、お世話になってきた。それを全て脱ぐのは抵抗がある。

手袋や靴のある状態でも落ち着かない。

どこかのゲーマーがやっていたけど、持ってる武器は最強で防具は紙。そんな装備でクエストをこなすプレイヤーがいた。

今のわたしはそんな心境だ。好きでこんなことをするプレイヤーの気持ちが分からない。

一撃でも喰らえば死ぬと言うのに。やっぱり、ゲームと現実の差かな。

わたしは最強の鎧(クマの着ぐるみ)に優しく触れてクマボックスに仕舞う。

ドレスに着替えたわたしたちはパーティーをする部屋に向かう。

グランさんのパーティーをおこなった会場とは違う場所でする。

理由は参加人数が少ないからだ。話によれば本当に身内だけらしく、人数は少ないらしい。

ミサの家族とフォシュローゼ家、あとはグランさんのところで働く人たちだけと言う。

部屋の中に入るとすでにクリフとエレローラさん、すでに何人か集まっている。

「あら、ユナちゃん。今日は可愛らしい格好をしているわね」

あなたの娘さんのおかげです。

「でも、なんだ。その手と足は」

クリフがわたしのクマの手と足を見て呆れたように言う。

分かっていますから、突っ込まないでください。

「お父様も、そう思いますよね。でも、ユナさんがドレスを着る条件に足と手はクマさんを付けることを条件に出してきたんです。せっかく、こんなに綺麗なのに勿体ないです」

なんと言われようがクマさんパペットとクマさんの靴は脱げない。

クマさんパペットがなければ魔法は使えないし、クマさんの靴がないと素早く動けない。

着ぐるみは不意討ちの攻撃に対して、絶対的な防御力になるけど。不意討ちさえなければ、靴と手袋があれば十分に対処できる。だから、この2点だけは譲れない。

それにクマの靴がないとまともに走れない。小学生以来、走った記憶がない。クマの靴が無ければフィナたちに負ける自信だってある。

孤児院の子供もそうだけど、コケッコウを追いかける子供の姿は凄いと思う。

「それにしても、おまえさんがクマの格好していないのは違和感があるな」

わたしも違和感がありまくりだよ。

それに落ち着かない。

「でも、似合っているわよ。男の子たちが今のユナちゃんを見たら、婚約の申し込みが増えるわよ」

増えないでいい。

いらないし。

「わたしのことよりも自分の娘さんを褒めてあげてください」

「もちろん、ノアもフィナちゃんも可愛いわよ。ただ、ユナちゃんのドレス姿が衝撃的だったのよ」

わたしは溜め息を吐いて、席に着こうとするがどこに座ったらいいかわからない。

貴族のパーティーに参加したことが無いわたしが知るわけがない。わたしが悩んでいるとメーシュンさんが近寄ってくる。

「ユナ様とフィナ様の席はこちらになりますから、座ってお待ちください」

どうやら、家族で席の位置は決まっているらしい。

フォシュローゼ家、ファーレングラム家。そして、わたしとフィナ。少し離れた位置にお屋敷で働く者たちの席がある。

わたしは席に座って待つ。

それにしてもドレスは肌寒いね。着ぐるみのおかげで最適な温度調整になっていたから気にならなかったけど。しかも、スカートだから、足元がスースーする。

まだ、少ししか離れていないのにクマの着ぐるみが恋しくなってくる。

座って待っているとグランさん、ミサの両親、最後にミサが部屋に入ってくる。

そのときにグランさんが部屋を見渡して、視線がわたしで止まる。

「……誰かと思ったら、ユナか」

すぐに気付こうよ。

グランさんの前ではクマさんフードを深く被っていないでしょう。

「ユナお姉ちゃん。綺麗です」

「ありがとう」

ミサの心からの言葉に礼を言う。

子供の正直な言葉は嬉しいね。

全員が席に着き、パーティーが始まる。