軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

162 クマさん、ぬいぐるみを頼む

クマ門で帰ってきたわたしは夕食を適当に済ませると、早々に休むことにした。

フローラ様と遊んでくれたくまゆる。王妃様の相手をしてくれたくまきゅう。クマの手袋の中にいた方が疲れが取れると思うけど。召喚すると嬉しそうにするので、寝るときは召喚するようにしている。

ベッドの上にくまゆるたちを召喚すると、わたしのところに嬉しそうに擦りよってくる。

「くまゆる、くまきゅう、今日はお疲れさま。ゆっくり、休んでね」

わたしは寝る前に二匹を 労(ねぎら) い、布団の中に入ると。くまゆるとくまきゅうはわたしの左右に移動すると丸くなる。

二人ともお休み。心の中で言い、眠りにつく。

翌日、急ぎの予定も無かったので午前中をベッドの上で過ごしてしまった。王妃様じゃないけど、くまゆるとくまきゅうは触り心地がいい。触っているだけで気持ちよくなって眠くなる。それで、見事に二度寝をしてしまい、さらにだらだらとしていたら、午前中が終わってしまった。

いつまでもベッドの上にいるわけにはいかないので、白クマの服から黒クマ服に着替えると出かけることにした。

向かった先はシェリーがいる裁縫屋だ。

フローラ様が欲しがるか分からないけど。くまゆるたちのぬいぐるみを作っておこうと思う。もし、いらないようだったら孤児院の子にあげてもいいし、お店に飾ってもいい。なんなら、わたしの部屋に飾ってもいいよね。

クマハウスを出発して、裁縫屋に向かう。いつものクマの着ぐるみ姿で街の中を歩くが、王都と違って不快な視線は飛んでこない。中にはじっと見る者もいるが、王都ほどの数ではない。

王都を歩けば嘲り、興味、驚き、いろんな視線が集まってくるからね。

目的地の裁縫屋には来たことがあるので、迷うこともなく到着する。

お店の中は洋服や 布(ハンカチなど) に関する物が売られている。お客様も数名いて、商品を選んでいる姿がある。このお店は平均的な平民のお客様が客層になっている。そのお客様に接客をしている30前後の女性がいる。

シェリーがお世話になっているナールさんだ。

接客を終えたナールさんが、わたしのところにやってきた。

「あれ、ユナちゃん。いらっしゃい。洋服でも買いに来たの?」

わたしが洋服を着ないことを知っているのに、営業スマイルで迎えてくれる。

「ユナちゃんに似合う可愛い服、選んであげようか?」

「それも、いいんだけど。今日は別件でね。シェリーはいます?」

「シェリー? たぶん、奥で夫と一緒に服を作っているはずね」

「もしかして、忙しい?」

「今は急ぎの仕事も入っていないから大丈夫よ。今、呼んできてあげるから待ってて」

ナールさんは部屋の奥に行くとシェリーを呼ぶ声が聞こえる。すると奥から小走りでシェリーがやってきた。

「ユナお姉ちゃん!?」

「仕事中にゴメンね」

シェリーは横に首を振る。

「ううん。大丈夫だよ。それで、なんですか? わたしに用があるって聞いたんですが」

「うん、シェリーに作ってほしい物があってね」

「わたしですか?」

「仕事が忙しいなら、今度でもいいんだけど」

「さっきも、言ったけど大丈夫よ。シェリー、休憩に入っていいから、奥の部屋でユナちゃんのお話を聞いてあげていいよ」

シェリーの後ろからナールさんが助け船をだす。

ナールさんの言葉に甘えて奥の部屋を使わせてもらうことになった。

「それで、用ってなんですか?」

2人分の飲み物を用意して、椅子に座るシェリー。

「ありがとう」

飲み物を受け取り、一口飲む。

「頼みたいことはシェリーにぬいぐるみを作ってほしいんだけど」

「ぬいぐるみですか?」

人形やぬいぐるみもこの世界にはあるみたいだ。

詳しくは調べていないから、なんとも言えないけど。街を歩いているときに、小さな子供が持っているのを遠目で見たことがある。そのぬいぐるみがなんの動物なのかは分からなかったけど。子供が抱き締めているのは見た。

「うん、くまゆるとくまきゅうのぬいぐるみを作ってほしいんだけど」

「くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんのぬいぐるみですか?」

「作れる?」

「はい、作れますよ」

さすがシェリーだ。頼もしい言葉が返ってきた。

「でも、その前に一度、くまゆるちゃんたちを見せてもらえると助かるんですが、ここじゃ狭いですよね」

シェリーが部屋を見渡す。

決して広い部屋ではない。部屋にはテーブルや椅子、他にもいろんな物が置いてあり、くまゆるたちを召喚するスペースはない。まあ、それは通常サイズのくまゆるであって、子熊サイズのくまゆるたちならなにも問題はない。

「大丈夫だよ」

わたしはそう言って、クマの手袋を前につきだすと、子熊化したくまゆるを召喚する。

「うわぁぁ」

シェリーはくまゆるを見て驚きに声をあげる。

「ユナお姉ちゃん! なんですか。この小さいクマさんは」

「くまゆるだよ。召喚獣だから、小さくもできるんだよ」

巨大化はできないけどね。

「かわいい」

くまゆるの説明をすると、シェリーはくまゆるの両手を握る。

「このサイズのぬいぐるみを作ってほしいんだけど大丈夫かな?」

「は、はい。大丈夫です。あっ、ちょっと待ってください」

シェリーはそう言うと後ろの引き出しから、なにかを探し出し始める。そして、目当ての物を見つけると戻ってくる。

「ユナお姉ちゃん。くまゆるちゃんを計らせてもらっていいですか?」

ビシっとロールメジャーを伸ばすシェリー。

「いいけど。くまゆる、じっとしててあげて」

くまゆるは小さく鳴き、返事をする。

「それじゃ、くまゆるちゃん。計らせてもらうね」

くまゆるに近付くシェリー。

「まずは腕を計らさせてもらうね」

くまゆるの腕にメジャーを押し付けて計り、メモを取る。

「今度は足を計るね。あと足の裏もいいかな?」

くまゆるは座って足の裏を上げる。そこをメジャーで計るシェリー。

「今度は胴回りを計るから動かないでね」

くまゆるは言われた通りにじっとして素直に計られる。

「次は尻尾をいいかな?」

くまゆるはクルッと半回転して、シェリーに背を向けて、可愛い尻尾を見せる。シェリーは揺れる尻尾にメジャーを当てて計る。

「頭も計っていいかな?」

くまゆるは頷く。

メジャーで頭のサイズを計る。さらに細かい部分もサイズを計る。

もし、これが自分がされたらと思うと怖いね。あらゆるサイズを計られる恐怖。知らなくても良いことも知らされる恐怖。まあ、成長の余地があるから、まだ平気だけど。怖いことは変わらない。

ブルッと震えてしまう。

「ユナお姉ちゃん。どうしたの?」

「な、なんでもないよ。それよりも、大丈夫なの?」

「はい、くまゆるちゃんのサイズは全て計らせてもらいました」

シェリーの手元のメモには、くまゆるのデータがこと細かく記載されていた。

これが自分のデータだったら、破って燃やして灰にしているね。

「それと、くまきゅうちゃんも同じ大きさでいいんですよね」

「うん、同じでいいよ」

大きさに違いはないはず。

あったとしても微々たるものだろう。

「それで、どのくらいでできそう?」

「う~ん、仕事もあるし。夜の時間を使って……」

「シェリー、なにを悩んでいるんだい」

隣の部屋から30前後の男性が現れた。

「テモカさん」

現れたのはシェリーがお世話になっているテモカさん。

シェリーが服の作り方、刺繍の仕方も教わっている人だ。

「ユナちゃん。こんにちは」

「はい。シェリーを借りてます」

「いいよ。そんなに忙しいお店じゃないからね。それでなにを悩んでいるんだい」

優しそうなおじさんだ。

「ユナお姉ちゃんにくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんのぬいぐるみを頼まれたんです」

「クマってこの子のことかな?」

テーブルの上に乗っているくまゆるを見る。

「はい。くまゆるちゃんです」

テモカさんはくまゆるを見てから、シェリーが書いたくまゆるのデータを見比べる。

「うん、面白いね。そういうことなら、しばらく休んでいいよ」

「でも、……」

いきなりの申し出にシェリーは戸惑う。

それはそうだ。いきなり休んでいいと言われたら。

「さっきも言った通り、忙しいお店じゃないし。今まで、ナールと二人でやってきたんだから大丈夫だよ。それにこれは勉強になるよ。作ってみるといいよ」

「ありがとうございます」

頭を深く下げるシェリー。

「でも、ぬいぐるみが完成したら、勉強だよ。まだまだ、教えることが沢山あるんだから」

「はい!」

嬉しそうに返事をするシェリー。

良い人のところで勉強をさせてもらっているみたいだね。

この夫婦には理由は分からないけど子供がいない。だから、シェリーを娘のように可愛がっているようだ。

しかも、院長先生の話では養子の話もあるそうだ。そのことでわたしは院長先生に相談を一度だけ受けたことがある。

『その夫婦が良い人で、シェリーを大切にしてくれる人ならいいと思うよ』

『そうですね』

『あとシェリー本人が受け入れるかどうかだね』

ってアドバイスになったか分からないことを院長先生と会話をした。

現状ではしばらくは様子を見ることになっている。いきなりだとシェリーも断る可能性もあるので、もっと娘のように仲良くなってから伝えることにしたらしい。

わたしができることは、なにも言わずに見守ることぐらいだ。

親と喧嘩をしていたわたしには一般常識ぐらいしか、アドバイスはできないからね。

「ぬいぐるみを作るときは、お店にある物は自由に使っていいからね」

「いいんですか?」

「ぬいぐるみを作るのも勉強だからね」

優しくシェリーの頭を撫でるテモカさん。

でも、シェリーを借りて材料まで出してもらうわけにもいかない。

「材料費と技術料はちゃんとわたしが払うよ。だから、失敗とか気にしないで作って」

「ユナお姉ちゃん……」

元から払うつもりでいたから、なにも問題はない。

ただ、問題はぬいぐるみの相場が分からないと言うことぐらいだろう。しかも、既存の物を作るのではなく、一から作るのだから、普通なら高くなるはずだ。

「掛かった材料費はわたしに請求していいからね。もちろん失敗した分も含めて」

偉い人は言った。物作りには、失敗から学ぶことがあると。

ゲームでも同じこと、敵と戦って間違った戦いで敗れたなら、違う方法で戦えばいい。

新しいクマのぬいぐるみを作るんだ。失敗するだろうし、失敗すればその分も費用が重なる。

「だから、テモカさんもシェリーが失敗して生地を無駄にしても怒らないであげてね」

「始めから怒るつもりはないよ」

この人ならシェリーを安心してまかせられるね。

「それじゃ、テモカさん。今から作り始めていいですか?」

「その顔は、止めたら雨が降りそうだね。急ぎの仕事も無いから自由にするといいよ」

「ありがとうございます」

許しを得たシェリーは嬉しそうにお礼を述べる。

わたしはやる気になったシェリーの邪魔にならないように、テモカさんにお礼を言ってお店を出た。

うん、完成が楽しみだ。