軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

119 クマさん、経験を語る

マリクスは剣を取り出し、ティモルが後方で短い杖を持って待機している。

シアとカトレアは剣を構えながら、もう一匹のゴブリンを自分たちに引きつけて戦っている。

一匹のゴブリンがマリクスに向かって走り出す。そこにティモルの火の魔法が襲う。ゴブリンの動きが一瞬鈍る。その隙にマリクスが詰めより、ゴブリンに剣を振り落とす。ゴブリンは「ギギギ」と唸り、錆びている剣で防ぐ。

ティモルは後方で杖を持っているってことは魔法使いだよね。それにしては魔法の威力が低い。

わたしの魔法と比べちゃ駄目と分かっているけど、威力がない。

学生だからかな?

それとも、前で戦っているマリクスに気をつかって魔法を弱くしたとか。

でも、魔法で一撃で倒せるなら、マリクスが前に出る必要はないよね。

マリクスの剣技もたどたどしい。ゴブリンの攻撃には隙が多いのに攻め倦ねている。

「くそ」

マリクスは舌打ちをして後方に下がり、ゴブリンと間合いをとる。マリクスとゴブリンとの距離ができると、ティモルが魔法を撃ち込むがゴブリンには命中しない。

マリクスは再度踏み込んでゴブリンに剣を振り落とすが、ゴブリンは剣で受け止める。

ここから、無防備なゴブリンの頭に魔法を撃ち込みたくなる。

う~ん、他人が戦うところを見るのが、こんなにもどかしく、ストレスが溜まるとは思わなかった。

視線を少しずらし、シアたちの方を見る。2人はマリクスと少し離れた位置で戦っている。

シアが剣で牽制しながら、カトレアが魔法で援護している。

こちらも、優勢に戦っているが倒しきれていない。

「シアさん、わたくしが強めの魔法を撃ち込みます。その隙にお願いします」

カトレアは少し離れた位置から火の玉を複数撃ち込む。

ゴブリンに命中するが、やっぱり致命傷にはなっていない。でも、動きを止めることはできている。

その隙にシアがゴブリンとの距離を縮めて、至近距離から右手に集めた火の玉を撃ち込み、ゴブリンの体勢を崩す。ゴブリンは魔法を喰らって、一歩、二歩後方に下がる。シアはさらに踏み込み、左手に持った剣を振り落とす。

ゴブリンの腕を切り落し、さらに喉に向けて、剣を突きだす。喉に突き刺さったゴブリンは地面に崩れ落ちる。

決着はついたけど。やっぱり、簡単には倒せていない。

カトレアの魔法も動きを鈍らせるぐらいか。

もっと強い魔法は使えるのかな?

「はぁ、はぁ、終わったわ。マリクスの方は?」

マリクスの方の戦いも終わっていた。少し苦戦もしたが、二人のコンビネーションで倒していた。

うーん、こんなに苦労するものなの?

「大したことはなかったな」

そう言っているわりにはマリクスとティモルは肩で息をしている。

たったのゴブリン1匹で。

これが普通なのかな?

でも、ゴブリンを倒せるってことは、ランクEの駆け出し冒険者ぐらいの実力はあるってことだよね。

そう考えると、この年齢なら十分な強さなのかな?

さすがにオークやゴブリンの群れに遭遇したら無理だけど。

エレローラさんが言っていた通り。ゴブリンとの戦いになったら、一匹相手が限界かな。

見た感じ、魔法の威力不足もそうだけど、経験が一番足らないように見える。

ゲーム初心者のように、どこに攻撃をしていいか戸惑うところもみえる。

わたしはゲームの世界で、魔物や人と何千、何万と戦ってきた。何度も死んで、何度も負けて、経験を積んできた。死ぬことや負けることで得る経験もある。負けたことで、次回、勝つための力を得ることができる。なにが、自分に足らないのか。なにが、必要なのか。けど、この子たちは負ける経験ができない。負ければ死が待っている。死んだら終わりの現実の世界。

わたしが馬の操縦を一回も経験をしていないことと同じことだ。

経験があれば下手なりに馬車の操縦もできるし、不安にもならなかったはずだ。わたしは馬車を操縦する経験がないため、馬車の操縦はできないし、1人で運転席にいれば不安にもなる。

経験は人の力になる。技術にしろ、精神にしろ、経験がその人間の成長に繋がる。

わたしがもし、ゲームで経験を積んでいなかったら、たとえクマ装備があったとしても苦労したと思う。

戦うことに恐怖を覚え、魔法の使い方のコツも分からず。剣の振り方、対人戦もできなかったはず。

まして、魔物を殺すことはできなかったかもしれない。

初めてゲームで魔物と戦闘をしたとき、あまりにもリアルで恐怖を覚えた記憶もある。それも、回数をこなしてくることによって慣れてきた。

あの頃のわたしがこの世界に来ていたら、貰ったお金で引きこもっていた確率は高かったはず。

それ以前に、初めて出会ったウルフに殺されていた恐れもある。

それだけ、経験が大切なのは知っている。

だからこそ、この学園では経験を積むために、この実習訓練をおこなっているんだと思う。

エレローラさんも国王もなにかを学ぶための実習訓練だと言っていたし。

旅の苦労、馬の管理、夜営の大変さ、魔物の怖さ、仲間との信頼、旅の護衛の信頼関係、その他いろいろとある。魔物との戦いもその一つだろう。

わたしの役目は、それらを学ぶのに危険がないように護衛をするのが仕事になるんだと理解する。

なんとも、難しいことだ。

帰ったらエレローラさんに文句の一つも言ってやりたい。

「でも、本当にゴブリンがいるとは思いませんでしたね」

ティモルがゴブリンの死体を見る。

「そうだな」

「でも、これでクマさんが魔物を発見できることが証明されましたね」

シアが嬉しそうに言う。

「信じられないですけど」

全員がわたしの左右に座っているくまゆるたちを見る。くまゆるたちは視線を向けられて首を傾げている。

「偶然じゃないのか?」

信じたくないのか、そんなことを言い始めるマリクス。

隣に座るくまゆるとくまきゅうを見る。うん、信じることができないね。普通の小熊にしか見えない。わたしだって異世界じゃなかったら信じなかったと思うし。

でも、わたしの代わりに代弁してくれる者がいる。

「クマさんが嘘を吐くわけないでしょう」

「そうですわ」

シアとカトレアが睨みつけるようにマリクスに言い寄る。

マリクスは一歩、二歩と下がる。

シアとカトレアは一歩、二歩と詰め寄る。

「それに、証明したでしょう」

「偶然で発見できるなら。マリクスが偶然でいいので距離と魔物と数を教えてくれませんこと?」

無茶を言うカトレア。

さらに一歩、踏み込む二人。

「わかったよ。だから、そんなに怒るなよ」

「分かればよろしいですわ」

二人は満足げな顔をしてマリクスから離れる。

「それにしても召喚獣ですか。初めて見ました」

ティモルがくまゆるたちを見つめる。

メガネがあればメガネの中心をクイと押す仕草が似合っただろう。

まあ、目の前でやられたら、メガネを割ったかもしれないけど。

「たしか、ユナさんでしたか? その召喚獣にどんな力があるんですか?」

「教えないよ。さっきはシアがわたしのことを信じてくれたから、教えてあげただけ」

「ユナさん……」

シアが嬉しそうにする。

「そうですね。変なことを聞いて申し訳ありませんでした」

素直に謝ってくるティモル。

意外と礼儀正しい?

マリクスたち四人はゴブリンの死体を処理する。

処理をしないと死体に魔物が寄り付いてしまうためだ。授業でもちゃんと習っているのか処理をしている。

「それにしても、そのクマがいれば実習訓練も安心ですわね」

死体処理を終えたカトレアが戻ってきて、くまゆるを抱き抱えて馬車の運転席に座る。

カトレアに場所を譲るふりをして、手綱をカトレアに渡す。カトレアはなにも考えずに手綱を受け取ってくれる。

よし、これで安心だね。

「悪いけど、次回から、ゴブリン程度なら教えないから」

「あら、そうですの?」

「実習訓練にならないからね。みんながゴブリンぐらいは倒せることが分かったし。もちろん、危険な魔物が近寄ってきたら教えるけど」

「でも、それって意味がないんじゃ」

シアが口を挟む。

「だって、ゴブリン程度が現れても倒せるし、強い魔物が近寄れば教えてくれるなら、あまり、意味が無いかも」

「なら、くまゆるたちの力は使わないようにしようか」

わたしはくまゆるたちをクマの手袋の中に戻す。

「本当に消えてしまいましたわ」

抱いていたくまゆるが消えて少し寂しそうにするカトレア。

「そういうわけで、今後はクマたちの力は使わないから、ちゃんと周りに気を配って実習訓練の続きをしてね」

クマは使わなくても探知魔法は使うんだけどね。

不意をつかれて、死なれでもしたら困るから。

「当たり前だ。そのクマが居なくても大丈夫だ。今回だって、情報がなくてもゴブリンぐらい倒すことはできた」

マリクスが叫ぶ。

ゴブリンぐらい、倒せても自慢にもならないと思うけど。

全員馬車に乗り込み、村に向けて出発する。

シアとカトレアにくまゆるたちを召喚してほしいと頼まれるが断る。

ここはしっかりしないといけないところだ。

でも、夜には2人が寝た頃に隠れて召喚して、周囲に危険がないか見張ってもらった。

目的の村に着くまでに魔物との遭遇はゴブリンと、もう一度だけあった。

数はまたしても2匹だったので4人に任せる。

前回の戦いよりはスムーズに倒していた。前回の戦いの経験が生かされたってことかな。

そして、前方に目的の村が見えた。