軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

107 クマさん、熊をどうするか悩む

蜂の木は幹の周りに蜂の巣が囲むようにできている。クマのてぶくろを外して、指を入れるとハチミツが溢れてくる。指に付いたハチミツを舐めると甘くて美味しい。上を見れば枝にも無数の蜂の巣があり、少し恐怖を感じるが、蜂は周りを飛んでいるだけで襲ってくる様子はない。

ハチミツを採取していると、森から二頭の子熊が小さな足で歩いてくる。死んでいるオークを避けながら親熊のところまでやってきたと思ったら、親をスルーして蜂の木に手を入れるとハチミツを食べ始める。

子熊たちよ。それでは親熊が可哀想だろう。でも、ハチミツを食べている姿は愛くるしい。

ハチミツが壺いっぱいになるとクマボックスに仕舞い、熊に別れの挨拶をする。

「いろいろとありがとね。でも、子供もいるんだから危ないことはしちゃ駄目だよ」

言葉は通じないけど気持ちを伝える。親熊はクーンと鳴いて返事をしてくれる。

分かってくれたのかな?

子熊は満足したのか、ハチミツを食べるのを止めている。それを見た親熊は小さく鳴くと移動し始める。森の中に帰るらしい。その後ろを子熊たちがついていく。

わたしは熊と別れたあと、オークの死体を回収する。森を出る前に逃げ出したゴブリンの掃除は忘れない。

街に戻るが今回の依頼の報告はどうしたものか悩む。

今回の依頼では熊の親子たちの討伐はなかった。依頼内容はあくまでゴブリンとオークの討伐だ。依頼内容に熊の討伐は含まれていない。でも、安全面を考えると熊のことを報告はしないといけない。

熊のことをギルドにどう報告をしたものかと悩む。

報告をしても討伐になりでもしたら困る。

う~ん、そうなると人が来ない場所に移動させるしかないのかな。

悩みながら森を出発したが、答えが出る前に街に到着してしまう。到着したときには日は沈み、夕暮れ時になっている。

街に入り冒険者ギルドに向かって歩いていると、ヘレンさんがこちらに小走りで向かってくるのが見えた。

「ユナさん、お帰りなさい。もしかして、もう依頼は終わったんですか?」

「終わったけどね……ヘレンさんは?」

「わたしも仕事が終わったので、その帰りです。それで、浮かない顔をしていますが、どうかしたのですか?」

「ゴブリンとオークの討伐はできたけど、一つ困ったことがあってね」

「なにか、あったんですか? 困っていることがあれば話を聴きますよ。どこまで、手を貸すことができるか分かりませんが、わたしにできることがあればなんでも言ってください。ユナさんには、お世話になっていますから」

ギルド職員のヘレンさんに言っていいものか悩むが、答えが出ないので話を聞いてもらうことにする。

「熊ですか?」

「殺したくないんだよね。悪いこともしていないし」

「それは仕方ありませんね。ユナさんにとって熊を殺すのは自分を殺すようなものですもんね」

別にそこまで大袈裟なものじゃないけど。

「でも、森に熊ですか。確か、数ヶ月前にハチミツを採取しているレムさんが熊のことを話していた記憶があります。もしかすると、その熊と同じかもしれませんね」

「レムさん?」

「蜂の木を育てている人です。ユナさんもあの一面に咲く花を見ませんでしたか?」

「うん。綺麗だったよ」

「あの花を管理しているのもレムさんなんです。蜂の木の周りに花を咲かせて、ハチミツを採取しています」

あの花は人が管理しているものだったのね。だからあんなに一面に綺麗に花が咲いていたのか。

この世界のハチミツはそうやって集めているんだね。

「でも、他の人に盗まれないの? ハチミツとり放題じゃ?」

「大丈夫です。まず、個人で取りに行く人はいないです。蜂が襲わないと言っても絶対ではありませんから。そんなリスクを負ってまで採りに行く者はいません。採りに行っても微々たるものです。気にしても仕方ありません」

確かに、わたしが壷に入れても微々たるものだった。

「それに蜂の木はクリフ様の管理下にあります。ハチミツを売るにはクリフ様の許可が必要になりますから、盗んでもハチミツを売ることはできません」

「蜂の木ってクリフのものなの?」

「どの街でもそうですが、基本、蜂の木は貴重な物のため、領主様が管理をしてます。それはこの街でも例外ではありません。その管理を任されているのがレムさんです」

「そのレムさんが熊のことを知っているの?」

「前に一度、熊のことをお話ししているのを横で聞いたことがあります」

「どんな話だったか覚えてる?」

「すみません。わたしが直で聞いたわけではないので。気になるようなら会いに行きますか?」

「でも、ヘレンさん。仕事は終わったんですよね」

「構いませんよ。ハチミツの件はレムさんに早く伝えた方が良いでしょう」

ヘレンさんの厚意に甘え、蜂の木を管理をしているレムさんのところに行く。

連れてこられたのはハチミツの看板があるお店、ハチミツ屋さん。

店は閉まっているようだ。

「レムさ~ん」

ヘレンさんがドアを叩く。

「いますか~」

ドアが開き、現れたのは四十過ぎの男性だった。

「誰だ。ハチミツなら、安く販売はできないぞ」

「レムさん、こんばんは」

「おまえさんは確か、冒険者ギルドの……」

「ヘレンです。今日はハチミツの件で伺いました」

「聞いたよ。ゴブリンじゃなく、オークが現れたんだってな。俺が見たのはゴブリンだったのに」

「その依頼の件はこちらにいるユナさんが、本日依頼を達成されました」

レムさんはわたしの方を見る。

「くまの憩いのお嬢ちゃんが倒してくれたのか」

「わたしのことを知っているの?」

「ああ、ティルミナから話を聞いているよ。くまの憩いの店のオーナーだろう」

ティルミナさんはこの店からハチミツを購入しているから、わたしのことを知っていてもおかしくはない。

「それに、この街で嬢ちゃんのことを知らない者はいないだろう」

なにそれ?

今の言い方だと街の住人全員がわたしのことを知っていることになるんだけど。

横ではヘレンさんは頷いている。

なぜ、頷く?

「それで、いくつかお話が聴きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「ああ、もちろんだ。中に入ってくれ」

ヘレンさんが尋ねるとドアを開け店の中に通してくれる。店の中に入ると棚の上には商品が並んでいない。やっぱり、ハチミツが採れなくなったせいかな。

さらに奥に進み従業員の休憩室なのか、椅子とテーブルがある部屋に案内される。

「座ってくれ。それで、本当に魔物は倒してくれたのか?」

「倒したけど、一つ問題があって」

「なんだ。また、他の魔物でも現れたのか?」

レムさんの笑顔が一瞬で消えて落ち込む。

「いえ、魔物はいません。蜂の木にいる熊は知ってますか?」

「熊? ああ、あの熊か」

「知っているの?」

「もちろんだ。我々、ハチミツを採取する者にとって、あの熊は命の恩人(熊)だからな」

「恩人ですか?」

「過去にゴブリンに襲われているところを救ってもらっている。それは一度や二度じゃない。うちの従業員もゴブリンに襲われているところを助けてもらっている。もしかして、熊を見たのか!?」

腰を上げて体を乗り上げてくる。

予想外の反応だ。

「はい」

「そうか。生きていたか。あんなにゴブリンがいて、さらにオークだろ。もしかして殺されているかもと思って心配していたんだ。そうか。生きていたか。良かった」

おじさんは本当に嬉しそうに喜んでいる。

「蜂の木を守るために、ゴブリンとオークと戦っていたけど」

「そうなのか!? 熊は大丈夫なのか!?」

心配そうに尋ねてくる。

「子熊共々、四匹とも無事だよ」

「子供! 生まれたのか!? こりゃ、皆に教えないといけないな」

本当に嬉しそうに熊のことを話してくれる。その表情を見るとわたしも嬉しくなってくる。

どうやら、熊の件は杞憂に終わりそうだ。

「もしかして、熊たちのことを心配して、ここに来てくれたのか?」

「依頼内容はゴブリン、オークの討伐だったけど、熊は討伐はしないで戻ってきたから」

「そうか、わざわざ、すまない。あの熊なら大丈夫だ。危険はない。むしろ、居てくれて助かっている」

「それじゃ、熊があの森にいても、なにも問題は無いのね」

「ああ、もちろんだ。あの熊たちが魔物を倒してくれるから、俺たちは安心してハチミツを採取できる。その代わりに熊たちがハチミツを食べているときは、俺たちは暗黙の了解で食事の邪魔をしないようにしている」

つまり、レムさんが蜜蜂のために花を用意して、蜜蜂からハチミツを分けてもらう。

熊は魔物を退治して、ハチミツを分けてもらう。

「レムさん。このことはクリフ様は知っているのですか?」

ヘレンさんがわたしたちの話を聞いて、疑問になったことを尋ねる。

「いや、知らせてない。話すと討伐されるかと思ってな」

「話しておいた方がいいですよ」

「だがな」

レムさんは渋る。一般的に熊は凶暴であって、利益はない。

魔物討伐は冒険者にさせると言われたら、熊の存在価値が無くなってしまう。わたしとしては魔物を倒さなくても、あの森にいてほしいけど。そうはいかないんだよね。

「わたしの名前を出していいですよ。クリフには貸しがあるから、話は聞いてくれると思うよ」

「ユナさん。クリフ様に貸しがあるって、しかもクリフ様を呼び捨てって、自分がどんな凄いことを言っているか、分かってますか?」

へレンさんが呆れたように言う。

確かに、常識的に考えて、貴族を呼び捨ては良くない。でも、孤児院の一件以来、わたしの中ではクリフになっている。今更、変えられないし、クリフ本人もなにも言ってこない。

「本当にいいのか?」

「いいよ。もし、それでも熊を討伐するって言ったら教えて、わたしが熊をなんとかするから」

今のところ考えは思いつかないが、クリフが討伐命令を出せば、最悪森から連れ出さないといけない。

「それじゃ、ありがたく、嬢ちゃんの名前を使わせてもらうよ」

「でも、その熊を大事に思っているなら、依頼を出すときはちゃんと報告をしてください。間違って熊を討伐されてもしりませんよ」

ヘレンさんが注意するが、確かにそうだ。知っていれば、ここまで悩まなかった。

「そうだな。それはすまなかった。それと嬢ちゃん。改めてありがとうな。蜂の木も熊たちも守ってくれて」

「仕事だから、気にしないでいいよ。あの熊たちが安心して暮らせるなら何も言うことはないから」

「ああ、大事に見守っていくよ」

「もし、あの子たちになにかあったら言ってください。すぐに駆けつけるから」

「そのときは頼む」

レムさんは嬉しそうに頭を下げる。