作品タイトル不明
終章、序章、第8.5話、あるいは蛇足 少女Aの独白
今日は私の中学校の卒業式だった。
会えないのかな、と思っていた 麟(りん) と久しぶりに話ができた。
通りすがりの麟にいきなり写真撮影をお願いしちゃったお父さんを褒めてあげたい。
麟とは小学一年生の時からずっと一緒だ。
私が麟を初めて男の子として意識したのは小学三年生の時だった。
それまで自分が恋愛をするなんて全く考えたことはなかったのだけれどもある朝教室に入ると黒板に私と麟の名前が並んだ相合傘の絵が大きく描かれていた。
前の日に私と麟が偶々二人で下校したところをクラスの誰かが見ていたらしい。
私が呆然としているとすぐ後から麟が教室に入ってきた。
「本当はつきあってるんだろ」と二人してみんなから 揶揄(からか) われた。
そう言われて初めて私は自分が麟を男の子だと意識していることに気がついた。
私は恥ずかしいし、気づいていなかった自分の気持ちにびっくりしたし、何より突然揶揄われてどうしたらいいかも分からなくなっちゃって大きな声で叫んで泣いてしまった。
「違う、そんなこと絶対ない、相羽くんなんて好きじゃない、本当の本当に大嫌いだ」
今だったらもっとうまく対応できたと思うけれども小学三年生の私には無理だった。
好きな子に好きだとバレないように正反対のことを言っちゃうなんて、ほんと子供だ。
普段は『麟』呼びなのに『相羽くん』なんて言ってしまった。
結局、麟は私の気持ちに気づくことなく私も何も伝えられずに、ただの仲の良い同級生、同学年の生徒のままで小学校どころか中学校の卒業式になってしまった。
毎年、バレンタインデーには義理チョコの振りをした本命チョコを渡そうとしてきたけれども渡せずじまい。その日に限って麟の奴なぜか見つからないんだ。今年もダメだった。
まさか誰かと隠れて会っているからじゃないだろな。
うそうそ。
麟にも同じクラスの女子にも同じ学年の女子にも他の学年の女子にもそんな素振りはまるでない。私が観察している限りで麟とお付き合いしている女子もお付き合いしたいと思っている女子もいないはずだ。私以外は。
先日、麟の御両親が事故で亡くなった。
交差点で停車中に居眠り運転のトラックが後ろから突っ込んだらしい。テレビのニュースにもなっていた。
真っ青な顔の先生に連れられて学校から病院に行くために教室を出た麟は、そのままずっと学校を休んでいたから卒業式にも出られないのかと心配していた。
今日は出られて良かった。
だからといって、とても話しかけられる雰囲気ではない。
私だけでなく、みんなそうだ。何て声をかけたらいいか誰にも分からなかった。
そのまま麟とは話もできずに卒業式は終り、私はお父さんとお母さんと校門で『卒業式』と書かれた看板と一緒に写真を撮ろうとしていた。
そこを丁度通りかかった麟にお父さんが声をかけてしまったのだ。
麟に家族写真を撮らせるなんて残酷すぎる。
けれども麟は気にした様子もなく私もお母さんもまさか、残酷だからやめましょうなんて言えるわけもなく麟に家族三人で並んだ写真を撮ってもらった。
その後、自分は写真を撮ろうとしない麟に、私は親の前なので恥ずかしくて「相羽くんは?」なんて、つい他人行儀な呼びかけをしてしまった。いつもは『麟』なのに。
「じゃ、私が撮って後で送るよ」
麟は『スマホをまだ持っていない』と言うから私のスマホで写真を撮ることにした。
お母さんがさりげなく二人で並んで撮るように勧めてくれたのでツーショット写真も撮れた。お母さんも褒めてあげたい。
「これあたしのID、スマホ手に入れたら連絡して」
別の高校に行く友達に渡せるようにIDを書いたメモを用意していた私自身も褒めてあげたい。
おかげでスムーズに麟に連絡先を伝えられた。スマホを手に入れた時から麟とも連絡先を交換したいと思っていたけれども口に出すのはハードルが高いと感じていた。
麟がスマホを手に入れ次第連絡が来るはずだ。
私と麟は高校も一緒である。
何気に頭がいい麟と同じ高校に通うため私は必死に受験勉強を頑張った。
その甲斐あって四月からも同じ学校だ。
卒業式だからと今日告白をしたりされたりしてうまくいった子たちを何人か知っている。
私もそうしたっていいだろう。もう小学生ではない今ならば自分の気持ちと正反対ではない言葉を素直に口に出せる気がした。
でも今、麟はそんな心境じゃないだろう。
今言わなくても高校は三年間また一緒なのだ。同じ電車で毎日通っている間に機会はあるはずだ。
私は麟とのツーショット写真をスマホの待ち受け画面に設定した
高校で新しく友達になる誰かに待ち受け画面を見られて麟との関係をもし聞かれたら何て答えよう。
にひひひひ。
早く麟から連絡が来ないかな。