軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6-39.国の均衡

午後のツルギさんの試合が始まると違和感があった。

「本気でやってない?」

「そう? タンクとの戦いに慣れてないだけじゃないの?」

「いや、それはないです」

訓練相手がナーガ君とレオニスさんだった時点で、タンクとの戦いは慣れてる。

そもそも、私も盾を使うので、彼は大小さまざまな盾を使う相手の戦いは熟知している。

「演出だろうなぁ。今までと違い、一撃で倒せなかった相手に苦戦してるように見せてるだろ、あれは」

クロウも手古摺るはずがないという感想。

ただ、動きがちょっと悪いかなとは思うけどね。

「ふ~ん。実際、彼の実力は結構厄介なはずだけどね~」

「練習相手を考えればなぁ……全員がどこかで上回ってくる相手だろう」

そう。外から見ても、ナーガ君ほど打たれ強くないし、レオニスさんほどの技術も無い。

私でもいくつかの対抗策が浮かぶのだから、当然、苦戦する相手ではない。

「圧倒的に勝ち過ぎるのも良くないのでな。ほどほどに力を抜くように言っておいた」

「それが、あれ? でも……負ける気はないみたいだね」

しばらく打ち合っていたけど、距離を取って、胸元から短刀を取り出した。

全然、負ける気は無さそう。

あっさりと盾を破壊するという驚異的な攻撃力を見せつけた。

「カイア。目立つなとも言っておくべきだったんじゃない?」

「決勝では出さぬように言っておく。何度も見せては切り札とならないからな」

うん。それって、シュトルツ様が勝つ未来しかない。

刀装備しないと本来の強さ出せないのに、それを封じるんだ。

いや、まあ、なんとなくこれからの動きが決まっていて、段取りを組んでいるだろうけどさ。

「詠唱、するんだなぁ」

「うん、出来たんだね」

クロウの言葉に、うんうんと頷くしかない。

魔法の詠唱をしているところを初めて見た。

いや、そもそも使っている魔法も知らない魔法だけど。

「クレイン。あれ、どう思う?」

「ラズ様の聞きたい意図わからないですけど、見せ技ですね。あの魔法で痺れることはあっても、倒しきるのはきびしい。あれを見せたことで、その前の盾の破壊の印象を吹き飛ばすのが狙いじゃないですかね」

「派手だが、そもそもあいつの魔法攻撃は威力は低いからなぁ。飛ぶ斬撃をやってた方が強い」

そうなんだよね。

いや、そもそもがINTよりSTRが高すぎるんだけど。

「それなりの威力はありそうだったけどね」

「多分、ラズ様がやれば威力が倍くらいにはなります」

風・雷の魔法適性はツルギさんとクロウのが上である。

他の属性なら私の方が多いけど、風と雷は二人の方が多種多様に使える。

ラズ様も得意なのは風魔法だから、私よりもあの魔法使えるんじゃないかな。

「倒しきれないか。でも、クレインは倒しきれるの?」

「……」

「無理だろうなぁ。人を制圧することはできても、殺すことができる性格をしてないだろう。同じように、痺れさせて動けなくするように威力を絞るだろうなぁ」

「だよね~。じゃあ、君がやるの?」

スペル様の問にクロウは困ったように笑う。

魔法で人を殺すことが出来るのか。

それを求められる事態が起きるから、聞いているのかな。

「私もクロウも薬師です。人を救うことが仕事であって、殺すことが仕事ではありません。もちろん、力不足で患者を救えないことは起きることはあるでしょうけど」

「うんうん。そのスタンスを忘れないようにね~」

「スペル様?」

「できれば、自分のところにきた患者が救うべきか否かも、しっかりと判断してほしいところだけど。それはそっちがやるのかな」

クロウに視線を送ったスペル様の笑顔がぞくっとした。

何かある? 何か、聞かない方がいいような気がする。

でも、逃さないという猛獣の瞳でスペル様がこちらを見ている。

「何でもかんでも救おうとするからなぁ。横で口は出すことはできるが、何を想定してるかわからないと対処はできない。俺は直感もないし、あいつほど人の裏や思惑を読める訳じゃないんでな」

そこには頷きを返す。

一から説明をしておいてほしい。説明しなくてもある程度、貴族の動きを分かっていた人が側にいた。今はいない。

いや、多分、そういうのがティガさん辺りも出来そうではあるんだけど。

やらせない方がいいんだよ、多分。

「これから先、他国の異邦人が助けを求めるとき、君たちのところに行くことが増える。その時、拒否できるかな~? 例えば、患者の幼い子を連れてきたりしたら受け入れそうだよね」

「いや、前提おかしいですよね? なんで直接来るなんて考えるんですか? それなりに、私たちの情報は伏せられているし、そもそも研究のための私有地ですよ?」

領地とかではなく、10人くらいが暮らしている研究のために切り拓いた場所。

帝国の国境に近いことは認める。

でも、国境の正規ルートではない。

国境山脈という大きな壁があるからこそ、通常であれば王都の東側から帝国に抜けるのが一般的。あくまで、商人とか、少人数が行き来するだけのルートだ。

共和国側も王都の南側に国境があるから、かなり遠い。

亡命してきた異邦人がいても、私達の住む場所まで来ることはあり得ない。

「どうだろうね~。わかっていることは、貴族は一枚岩ではない。繋がりを持つために何でも利用してくるのは、どの国で同じ。国境付近がきな臭いからね……注意しておいた方がいいよ~」

スペル様の言葉にラズ様は視線を反らし、カイア様は唇の端を上げた。

本当に、私のところに逃げてくる可能性があるってことか。

でも、国境付近がきな臭いとして、なんで私達のとこまで?

「えっと……まず聞きたいんですけど、国家間の戦争が起きるんです?」

「いずれ、起きるだろうな。難民と異邦人の返還交渉は旧帝国の支配層から散々届いている。食料も住む家も無い。資材も確保できない中でこれから冬を迎える」

冬……。

確かに、生き延びるのは厳しい。雨風防げる家と食料だけは生きるのに必須すぎる。

「あちらの言う通りに返せばどうなるのか、そなたもわかるだろう? 特に異邦人はわが国以外では奴隷となる。だが、実際のところ、王国内でも食料不足は懸念されるため意見は割れる」

「今のところ、帰りたいなら帰っていいということにしてるけど、そんな人いないよね~。王国の異邦人で帝国に渡ったのも、半数は逃げ出して戻ってきたよ。国境の検問は厳しい状態が続いているらしいよ」

食料不足。前にも話はあったけど、悪化の一途を辿っている感じか。

それは確かに、人によって考え方ってかなり分かれそう。

「実際、帝国って食料生産は優秀でね~。王国も10年くらい前だとかなり頼ってたんだよ。近年は依存はほぼなくなったんだけどね」

「うむ。共和国は今でもかなりの部分を頼っているのでな。異邦人による反乱で、帝国ごと破滅。今年の収穫はひどいものだ。帝国の食料がないと共和国も共倒れする」

共和国は砂漠だもんね。

たしかに、食料はそこまで生産できないのか。

「帝国復興のために王国もそれなりに人は出しているし、金もだした。だが、足りぬ。人員はこちらに難民として逃げているからな」

「食料問題・難民の問題で、戦争が起きるのは……理解できました。でも、なんで私のとこに来るんです?」

「飴と鞭、かぁ。巻き込んでくれるなよ」

クロウの言葉にはっとする。

強硬派をカイア様が束ねるなら、穏健派はラズ様になるのか。

そうすると、戦争が始まっても、戦争を望まない人はラズ様側と接触するってこと?

「で、でも、異邦人がそこまで情報を持ってることは無いんじゃ……」

「貴族が流すよね~。自分にも利益がある。異邦人という切り札となる存在に恩を売るために、接触を図るならきみがいいと伝えるはずだよ。きみとの繋がりも作れる可能性があるしね」

にこにこと怖いことを説明するスペル様に寒気がしてくる。

これ、詰んでる?

というか、これで繋がり持たされたら、私は嫌がるよ?

明らかに、面倒事持ち込まれるってことなのに受け入れるはずない。

そもそも、戦力増強とかもそこから出ているなら、私も戦場に行くことになったりする?

「クレイン。そんなに心配しなくても、君が前線に行くことは無い。戦力増強が急務であるけど、戦力が異邦人である必要もない。こちらに目を付けて、異邦人を送り込んできても断ればいい。それと食料不足でも、数年は蓄えてるよ、あの強かな共和国だから」

「ラズ。現実は教えておくべきだ。今年は持つが、来年には厳しい。そして、帝国の食料生産は今のままでは戻らない」

「戦争をするなら、食料だけじゃないよね~。鉄や薬やポーションなんかは特に必要。そういう点では、マーレは狙われる土地だよ」

「スペルも不安にさせないでよ。物資調達のため、帝国から狙われる町だってわかってるよ。でも、ずっと管理してきたんだから、対策もわかってる。大丈夫だよ」

あれ? つまり、ラズ様の中でもあの町は狙われるのが前提なんだ。

たしかに、ミリエラ鉱山ダンジョンの資源豊富だから、戦時中になればあのダンジョンって重要?

春先から、ダンジョンの管理がちょっとずつ厳しくなってるとか、噂は聞いていたけど。割と前から、警戒態勢だったのか。

ラズ様は冒険者とは良好な関係を作っているし、鉄とかの資源を加工する職人たちもあの町には多い。

「今のところ、薬やポーションも余裕がある。足りなくなっても、補充には困らない人材もいる。そこまで警戒する必要はないよ」

「いや、もっと早急にあの町の戦力強化が必須じゃないですか!」

ラズ様の護衛とか、騎士団と作るとかより、攻められた場合の防衛戦力が必要。

「国境山脈から大軍で攻めるのは厳しいから、あの町は言うほど強化は必要ないが……ふむ、気になるなら防壁なども検討するか?」

「それなんだけど、ティガから新しい町の建設に考えている案もらったんだけど、防壁の構造を参考にして、町の周囲に堀を作るのはいいかなと思ってるよ」

「堀ね~。異邦人って平和ボケのイメージだったんだけど、そういうのも考えるんだね」

ティガさん……いや、大工連中も含めて、休む暇なしかな。

開拓地も周囲は堀を掘ってあるけど、結構魔物達にも効果はある。

いや、でも、そもそも飼ってる魔物達のせいか、獰猛な魔物でも近寄らないようになった感じもする。

「とりあえず、ラズ様が魔法兵を雇って、最初にやる事業が町の強化堀作りってことになりそうですね」

「土魔法の適性がある魔法兵はそんなにいないと思うよ? 戦闘において使いにくいから人気がないからね」

「許可が出るなら、付与で土魔法使える杖を何本か用意します。新人教育に交代でやらせれば、土魔法を覚える可能性もあるし、一石二鳥です」

土魔法でも、穴を掘ったり、土を固めるくらいなら難しくない。土を操る感覚を掴むなら、土魔法を付与した杖を使うだけでいける。

「ふ~ん。本当に、可愛いね~」

うん、頭を撫でてくるスペル様にぞわっとした。

やばい、付与のことを他家に漏らすのはだめだったのかもしれない。

ちらっとラズ様を見ると呆れている。

カイア様の顔は怖くて見れない。

「ラズ。王家が用意したことにせよ」

「わかってるよ、兄上。町の方での調整も必要だし、人員確保も時間かかるから。その間に、一度納品するよ」

うん。計画自体は進めていいらしい。

とりあえず、強化するだけで、攻めてくることがないのを祈るけど。

戻ったら、忙しくなりそうだ。