軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6-38.武闘大会三日目(2) ツルギ視点

「寝ているのか?」

「……邪魔をするな、シュトルツ」

選手の控室は自由に過ごすことが許されている。

4回戦を終え、午後の試合に備えて、仮眠室で休んでいると声がかかった。

「勝ったのか?」

「無論。そちらはどうだ? 回復が間に合うのか?」

「あ?」

「昨日の疲れがだいぶ残っているだろう。午前の試合、威力がだいぶ落ちていたな」

「わかってるなら、邪魔をしにくるな」

クレインとの戦いが未だに尾を引いている自覚はある。

ただ、午前の相手は三回戦を勝ち上がったのがおかしいくらいに弱かったから支障がなかった。

「君ならどうする?」

「うん?」

「俺は優勝しなくてはならない。兄君のために……クヴェレ家の実力を示すために。兄上からも必ず優勝しろと言われている。その一番の障害が疲弊しているのなら、邪魔をしないか?」

「おい……ゆとりが足りないんじゃないか? 侯爵家ともあろう者が」

「なに、顔馴染みとの会話を楽しんでいるだけだ。周りはそう見る。それに半年前までは冒険者をやっていた身だ。冒険者は結果が出せるのであれば、手段を選ばないのは日常茶飯事だ」

清々しい笑顔で言ってのけるシュトルツにため息しか出ない。

つまり、俺が体力を戻すために休んでいるのを承知で、回復の邪魔をしにきた。

自分が優勝するために手段は選ばない。

「性格悪くないか?」

「君には負けるな」

「俺は優勝には興味ないぞ。むしろ、するなと言われてる」

「君は戦いの中で楽しくなるタイプだ。器用に勝敗を譲ることができるはずがない……好きな女とも楽しくなって本気になった」

それを言われると否定がしにくい。

側を離れて、手合わせをする機会も無くなった。

「つい、楽しくなったのは認めるが……」

クレインはいつもは遠慮して魔法攻撃ももっと直接的であり、当たらないことを前提としている節もある。

本気で勝つために、じわじわこちらの体力を削ってくるのは珍しくて、楽しくなった。

あの一撃で決めなければ、次はやられるという確信があったから本気だった。

ただ、流石に今後を左右する計画を聞いてるだけに、優勝する気はない。

大事だったのはクレインが俺を応援するか、どうか。

「ちなみに、この後の計画はどこまで聞いてるんだ?」

「何も聞いていないな。やはり、何かあるのか?」

「半年後、優勝者が率いる使節団と共和国との交流試合という名の模擬戦がある。しかも、共和国でな」

「君が優勝すると、当然、途中で負けた彼女の実力も見たいという話になるのか」

「そういうことだ。こちらとしても、君が優勝してくれた方が手間が増えない」

使節団のメンバーは、優勝者から順に決めることになる。

当然、俺との試合を見て興味を持った連中がクレインを所望する。

「親善というが、下手をすれば戦争か」

「まあ、半年を待たずに帝国から開戦される可能性もあるんだろ。共和国にしても帝国に侵略しても、ボロボロな状態だからな。ここ数か月の派兵で共和国もうま味が少ないことがわかった。王国の土地のが良く見えるんだろう。共和国が帝国をたきつけ、帝国もなんとか立て直したいためにちょっかいを出してくる」

帝国から王国が独立し、その後王国から共和国が独立した。

特に共和国は独立が許された経緯には手放してもいい土地であったということがある。

砂漠が多く、作物が育ちにくい。

そういう事情があるから、豊かな土地が欲しい国だ。

共和国側は王都の南、共和国との国境側からを警戒すればいいんだが……。

ダンジョンで鉄やらの金属が取れるのも魅力があるマーレスタットを含む、公爵領を狙う可能性もある。

王国は今が狙い目。ここで仕掛けないなら立て直す。

王国は元から評価の高い王弟に変わったことで、年数を経れば厄介な相手となる。

異邦人という戦力も、人数の差で優位なのは今だけだろう。

奴隷は短期的には扱いとして有用でも、王国のように管理しつつ自由を保証する方が自ら協力するようになる。

「君の場合、決勝までは、何があっても勝ち上がらないといけないか」

「そういうことだ。しかも、俺の方には厄介なのが残ってるだろう?」

「次の相手か……本当に邪魔をしたようだな」

カイアの計画では、派閥形成にあたり、主戦派は取り込む。

だが、その手綱の所在をはっきりとさせておく必要がある。

とくに、共和国側に領地がある家は、でかい顔はさせられない。

共和国国境に近い家の騎士を勝ち上がらせる訳にはいかない。

「正直、ここまで削られなければ余裕だと思ってたんだがな」

「いや、それでも負けるとは思えないが?」

「多少は苦戦したように勝たないとだろう。やり過ぎて反発も困る」

「きな臭いから打てる手を打っておくというなら、彼女が使節団にいた方が危険が無いと思うが」

それはそうだ。

クレインは直感で危険を察知する。

そういう点では、他国への使節団に入れておくだけで、使節団だけでなく国自体の安全度が格段に上がる。

宰相がクレインを参加させた理由もここにある可能性をカイアから告げられている。

少なくとも、現段階でもこの大会で一番活躍した魔導士として、クレインの名が上がる。

出来れば、クレインの株を少し下げるくらいはしておきたい。そのための体力回復だというのに……。

「健闘を祈る」

「なら、休ませろ」

「それはそれだな。あと、俺も面倒な奴らに絡まれたくはない。君といれば声を掛けられないからな」

結局、ほとんど休むことも出来ずに午後の試合が開始された。

「試合開始」

相手は、重騎士。

フルプレートは黒鉄だが、問題は盾だな。

120センチはある大きな丸盾。

縁を特殊な光る金属で補強している木製の盾。

鑑定したところ、エンシェントトレントの盾となっている。

トレント自体は、弱い木の魔物。

軽くて丈夫が素材の売りだが、エンシェントとなるとそれなりに固い。

縁の金属も貴重なものだろう。

小手調べに、飛ぶ斬撃を撃ってみる。

「この程度か」

俺の攻撃を一歩足を下げたが軽く受け止めた。

その後、嘲る様に相手が挑発してくる。

たしかに、予想以上に盾は固いようだ。

「だけど、まあ、それだけなんだよな」

相手の装備は良い物だ。

俺の攻撃を受けきることができない奴ばかりだったのを考えれば、少し後退ったが、受け止めたのだから実力もある。

だが。

おっさんなら盾を使って攻撃を反らしただろう。

盾の消耗が激しい正面から受けるなんて真似はしない。

ついでに、力も打たれ強さもナーガのが上だろう。

攻撃を正面から受けて、あいつなら微動だにしない。

「まあ、しばらく打ち合うくらいはするけどな」

接近して剣を振りかぶるが、当然、盾でガードされる。

「俺に傷を付けられると思うなよ」

「あ? 盾の素材がいいのは認めるが、腕が悪い」

「なんだと!」

叫びながら盾を向けてタックルしてくるが、ひょいっと後ろに飛んで避ける。

攻撃を盾で防いでいるだけで、自分からはたいした攻撃はしない。

素早さも低く、こちらが疲れるのを待っている、防御重視のようだ。

「事実だろう? 防御だけで素早さがないくせに、接近しても捕らえようとしない。それで勝てるつもりか?」

「俺の絶対防御は崩せない。いずれ、お前が疲れたところで止めを刺すだけだ」

「絶対防御? 笑わせるな」

固いことは事実だが、破れない訳ではない。

「事実だ」

「そうかい」

やろうと思えば、後ろに回って攻撃なんかもできるが、この大会は正々堂々が基本。

接近戦で盾を攻撃をする方が後々面倒なことにはならない。

「無駄だと言っただろう」

「じゃあ、耐えて見せろよ」

剣を鞘に仕舞い、胸元から短刀を取り出す。

「はっ……そんな短剣で何をするつもりだ」

「さて、な…………いくぞ」

短刀にSPをこめる。

相手はどんな攻撃であっても受け止めるという顔をしている。

刀の極みがあった頃には、ドラゴンの固い鱗すら貫けたが……さて、あの盾ならどうだろうな。

「縮地……一念岩通」

一気に距離を詰めつつ、盾の中心に突き立てるようにスキルを放つ。

ガヅアアンという大きな音と共に、相手が後ろに吹っ飛んだ。

俺の攻撃を受け止めた盾はぴしぴしっと音を立てた後、割れた。

「なっ……!?」

威力は落ちていても、これくらいはできるか。

虎の子である大盾を失い、呆然としている間に詠唱を始める。

魔法を披露してアピールもしておく。

簡単な風魔法はクレインとの戦いでも見せたが、それだけではない。

「ま、まてっ!」

「遅いな……」

魔力を圧縮させ、詠唱を始める。

俺の魔法がそこまで攻撃力はない、ただの虚仮威ではあるんだが。

今後のために、印象操作も大事だからな。

「……雷轟電転〈サンダーボルテクス〉」

会場中に音と共に凄まじい雷が、渦を巻くように駆け巡る。

派手なだけで、威力が高い訳ではないが、その前の攻撃でもだいぶ消耗していたため、痺れて倒れた。

やはり、素の能力はナーガ以下だな。

ナーガだと俺の魔法では倒せない。

「この程度であの子の評価が変わるとも思えないんだがな」

ちらっとクレインの方に視線を送る。

スペルがにこにこと手を振っているし、カイアも手を上げた。

クレインは、視線は合った気はするが反応ない。

だが、何か考え込んでいるのか、表情が暗い。

クロウがゆっくりと頷いたので、何もないのだろうが。

とりあえず、明日が終わるまで、選手は隔離だからな。

なにかあったのか、少々心配だが、やるべきことをやるしかない。

控室に戻って、にこにこ笑うシュトルツは、逃がす気はないとばかりについて来る。

やはりスペルの双子、良い性格をしている。