軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6-36.宿にて

「お疲れさまでした、クレイン様」

会場が出るところで待っていたフォルさんがいた。

何となく晴れやかな顔をしているので、何かあったのかもしれない。

「どうしたんですか?」

「先にカイア様からの用事をすませましょうか。セルフィス女伯爵の爵位剝奪および幽閉が確定いたしました。カイア様より、謝礼を預かっております」

「あ、はい……ありがとうございます」

昨日の件、もう確定したんだ。

フォルさんも彼女に対し、良い感情もってなかったから機嫌いいのか。

受け取った魔法袋を確認すると、貴重な素材や古い本が入っていた。

中を確認すると、古い薬のレシピ集だった。

「これ……」

「今は使われていない薬も多いそうですが、古いレシピも参考になるのではないかと」

「えっと……研究所に回さないんですか?」

「あちらはパメラ様の薬の研究でしばらくは無理なようです」

師匠のは薬師ギルドで出回ってるレシピと違うものも多い。

でも、それだけ価値がある。じっくり研究するならいいことだ。

ちらっと貰ったレシピを確認する。

古いレシピって、今よりも作りにくいだけではなく、素材の入手難度も関係していたりする。

代替素材の開発などにも役に立ちそう。

これはこれで役に立ちそうなので、とても助かる。

「じゃあ、ありがたく、こちらで研究してみますね」

「はい。カイア様から『今回はこれ以上狙われることはない』とのことです」

「今回は……もっと、何とかならないですかね?」

今回セルフィス家の方が落ち着いたけど、今後も他から狙われるって言ってるよね。

「本当に、最後の一押しとして必要だったんでしょうか?」

「家の中での対処というのは、外からは禊がわかりにくいこともあります。今回、はっきりと王家が動き、次代への遺恨がないことを示すのも大事ではあるかと」

「そういうものです?」

「ラズライト様が戻るためにも、無視できない家ですから。悪いとは思っているからこそのお詫びの品です」

そう言われると仕方ないのか。

いや、囮にするならいつ頃は危険とかだけでも言っておいてほしいけどね。

「クレイン様のおかげで上手くことが運んだ部分もあります」

う~ん。

私を囮にするか、ラズ様を囮にするかという話だろうからね。

ラズ様だと、決着着くまでにまた何かありそうか。

「ちなみに、これらの素材、どうしたんですか?」

「クレイン様が喜ばれるのではないかと用意されたと聞いております」

お金を渡されるよりは、手に入らない素材や本の方が嬉しいのは事実だけど。

魔法袋に入っている量を考えると種類も数も多い。

貴重で手に入りにくいだけではなく、薬師が使うことの多い素材だから気になる。

あれだけ師匠と関わっていたラズ様でも、ここまで薬の素材については把握していない。

「カイア様はツルギが目に止めた商品を全て買ったようですね」

なるほど。

目利きをツルギさんがしているなら、それもありそう。

しかも、マーレでは手に入りにくい素材なので、とても嬉しいけどね。

「カイア様に素材とレシピのお礼を伝えていただけますか。それで、ラズ様からはなにか?」

「ラズ様からは宿まで安全確保です。昨日の件もありますので、しばらくはしっかりと護衛が付いていると見せたい。大人しくしていろと」

「遅くないですか?」

すでにカイア様が囮に使った後での護衛って意味がない。

護衛をつけるには今更過ぎる。

「形だけですから。クレイン様を護衛が出来る人は、今は限られておりますので。その強さがあるならラズ様にまわします」

「あ、はい」

それはそうだろう。ラズ様は基本的には従者兼護衛がフォルさんだからね。

今は私のとこにいていいのかなと思ったけど、スペル様が側にいて、カイア様の護衛もいるらしい。

狙われることはないだろう。

クロウは魔導士なので、ラズ様の護衛にはなれないけど。

「でも、ラズ様って、フォルさんくらいしか護衛いないですよね?」

「人手が足りていないこともありますが、以前はレオニス様とフィン様がいればことが足りていました。騎士に叙勲される者の多くは貴族の出であることもあり、側におくことはなかったので」

たしかに。

優秀なタンクであるレオニスさんと斥候がいれば、基本的には大丈夫かなとは思う。

斥候ならフォルさんも能力が高いけど。守る点では、タンクほどの安定力がない。

「そもそも、ラズ様の求める護衛がレベル高すぎる気はしますけど」

「そうでしょうか?」

「う~ん。多分、冒険者やってたから、斥候ほどではなくても実力を見分けられますよね。多分、自分より強い人にしか護衛任せないとなると絞られますよ?」

そもそもがラズ様って魔導士としてタンクに守られるのに慣れている。

タンクが超一流なレオニスさんって時点で、比べると安定感なくなるだろうしね。

「ラズ様って人の生まれに拘らないだけに、普通に騎士志望の貴族子息より、実力ある冒険者との方が上手くいきそうですけどね」

「やはり、そう思いますか? 実際、信頼できる方を探すにも時間がかかりますから、ラズ様の昔の伝手で雇うのも有りだと思ってはいるのですが」

信頼できるかは大きいのはわかる。

だけど、それこそ普通の貴族なら生まれで信頼も担保すると思うんだけど。

ラズ様って私ですら重用してるから、逆に貴族出身者からは嫌がられそう。

「今後、お手伝いいただけますか?」

「手伝えることは構わないですけど……」

「ありがとうございます」

そのまま、宿まで送ってもらった。

ただ、こちらを窺うような気配はちょくちょくあった。

敵意ではないのかもしれないけど、注目を集めているのかもしれない。

「危険はないって話だったのでは?」

「はい。危険ではなく、さりげなく知り合っておきたいのですよ。ラズ様を通さずに直接依頼を考える方は多いですから」

「それをしないって宣言したんですけどね」

むしろ、それをクロウに割り振っているのに……そっちに行かないのは、クロウにはいかない。

師匠の顧客とか含め、薬師としてはちゃんと引き継いだのはクロウなんだけど。

いまだに私の方に接触しようとする。

宿に戻っても来客とかを告げられたが、疲れてることにして部屋に引き籠った。

「それはそうでしょ」

夕方まではゆっくりと休ませてもらい、夕食はラズ様と取った。

宿なので、クロウもいる。

クロウではなく私と知り合いたい人が多いと話題を振ったところ、当然のように同意された。

「見た目がなぁ……成人男性と思春期中の女子だったら、どっちが騙しやすいかは自明の理だ」

「ちょろそうに見えるよね。そうでなくても、クロウは神経質っぽく見えるから関わりたくないんだろうけど」

見た目か。

実際、クロウは目を細めてるときは、鑑定してたりする。

悪意とか持ってる人にも気付く能力を使ってそうではあるんだよね。

私の直感の方がそういうことがわかりそうな能力なのに、使い熟せていない。

「実際、紹介を頼まれることは増えているけどね。こっちでも断ってるけど、絶対はない。ただ、落ち着くまでは大人しくしていてほしい」

「大人しくしてますよ?」

「大会参加をレオニスに任せなかった時点で大人しくしてないだろうなぁ」

「う~ん。レオニスさんに任せるべきじゃないって思ったんだよね」

理由はわからない。

だけど、レオニスさんが大会に出てもいい結果にはならない気がした。

「わかる気はするがなぁ。実際、ラズライト、あんたの立場が不確定過ぎる。今後、どうするのかもわからない状態で、あの大会を優勝する可能性のあるレオニスに任せるのはどうなんだぁ? ある程度の段階で負けておいた方があんたを担ぐ者も減るだろうよ」

「僕の立場か……そこは深く考えなかったけど。変わらずにいるのも難しいのかな」

「それはそうだろう」

クロウの言葉にうんうんと頷きを返す。

実際、貴族として半端者という立場だったラズ様は王の息子となった。

しかも、王を救出したという英雄的要素持ち。

持ち上げたい人なんていくらでもいる中で、レオニスさんという切り札を出していいのかってことでもある。

「まあ、見せ札としてはクレインは優秀ではあるしなぁ。危なくなったら勝手に逃げるが」

「そうなんだよね。でも、そういう点では巻き込んでも罪悪感はないよね」

ひどい。

ラズ様は楽しそうだけど、巻き込む気満々だよね。

ただ、実際、後見役がいないと困るので、しっかりと協力はするけど。

「それで、どうするんです? フォルさんも護衛とか心配してましたけど」

実際、今後どうするつもりなのか。

ラズ様の動きって、他の皆はともかく、私は巻き込まれる訳だしね。

「それなんだよね。一応、僕が動かせる軍を持つ必要はあるとは言われてるかな。今後のことを考えると早急に」

軍。

いや、それを雇うと大変だよね。維持するにしても、あの町で?

そもそもが冒険者多いから、戦力は高いのに、軍まで持ったら、ラズ様を担ぎ上げたい側が喜ぶだけだよね。

しかも、獅子身中の虫ではないけど。

軍作るために人を募集したら、スパイとか色々と面倒な人が寄ってくる。

「……面倒ですね」

「普通に軍を持つならね。君が懐刀っていう実績も出来たからね。魔法系を集めても問題ない。そっちを雇おうかなと思ってるよ」

「なるほど。そもそも、冒険者で溢れているから、戦力が足りてないのって魔法系ですもんね」

冒険者の中で足りなくなるのが魔法系とヒーラー系。

あの町は近接アタッカーは溢れているので、もしも戦力が必要となるなら魔導士かな。ヒーラーは少ないし、聖教国との関係とか色々ある。

「雷魔法の使い手がいないのは問題だと思いますしね」

「上級魔法の使い手は普通なら団長クラスなんだけどね。異邦人だと覚える確率も高いだけ」

「でも、一回戦に戦った相手、爆魔法ではなく火魔法でしたよ?」

「彼は最初から火魔法10だったからね。上位魔法よりも得意なんでしょ」

なるほど?

上位魔法使うための収縮できないからではなく?

「魔法使うのって、意外と才能の分野だったりします?」

「意外ではなく、そうだよ。むしろ、君達が雷魔法使える方が異常だよ。今日の戦いを見て、クレインと合同演習したいって話がでるくらいにはね」

「嫌です」

「まあ、最低でも僕の魔導騎士団でもできてからだから。増やしていかないといけないとこだけど。手伝う気ある?」

「私です?」

「クレインとクロウがいれば、簡単に人材を見極めできそうだしね」

クロウがいれば、鑑定で悪意がある人は、ある程度は弾けそうだけど。

私は命の危険がない限り、あまり役には立たないと思うのだけど。

「そこまで関わらせて大丈夫なんですか?」

「大会に出た時点で君が筆頭騎士だから。だからこそ、誰も彼も受け入れる訳にはいかないでしょ?」

「じゃあ、魔導士とタンクばっかり集めてみます? ラズ様も魔導士ですし、異色ですけど。たしか、魔法騎士団って持ってないんですよね?」

「僕はもちろん父上や兄上達も直属はないね。魔法を使える者はちらほらいるけど。まあ、悪くないかもね。ただ、魔力が多いってなると貴族に絞られるよ?」

「ラズ様の下に付きたがる人がさらに減りそうですよね」

元々の騎士団はいるけど魔導士を大勢抱えてはいないって話だった。

どうせ魔導士では騎士とか相手では、接近戦では勝ち目がない。近寄らないようにするためのタンクがいる方が扱いやすい。

「そこまで急ぐ必要があるのか?」

「騎士も魔導士も極端に減ったからね。今、国全体で軍備は減ってる。そして、他国は増強されている。今のところは動きが無くても……」

「攻められる可能性はあるのかぁ……まあ、異邦人の扱いでも他国と差があるしなぁ」

「急いで、必要ってのは理解しました」

ラズ様の護衛は別で。

戦闘集団としては最初からタンクと魔導士の混合編成で用意すればいい。

普段は魔導士は冒険者に貸し出ししたら、町の採算さらによくなるよね。

ラズ様の場合、身内から命を狙われることはないだろうから取れる手段だけど。

「じゃあ、そうしようか。父上と兄上に頼んで、護衛の騎士は少数だけ家の者をまわしてもらおう」

「いいのかぁ? ただの思いつきにのって、護衛を減らして」

「大会が終わった後、全く雇わないとかできないからね。僕の護衛がいないことは事実だし、売り込みもある。それなら指針を立てておいた方がいいし、悪くないと思うよ。僕も信頼できないのを側に置きたくない」

立場が変わった以上、多少は人を雇う必要があるのだろうけど。

フォルさんが側にいれば、緊急時には対処できそうだしね。

「ちなみに、クレイン。君の戦いぶりを見て、いくつかの部署から君を引き抜きたいって話が来てるけど?」

「ラズ様の部下ってことで、新しい人達の面接しますね! 任せてください」

絶対に嫌だ。

陛下とかセレスタイト殿下がわざわざ声かけしたりしないだろうから、それ以外ってことだよね。

「ラズ様こそ、これから領地増えるんです?」

「今までとたいして変わらない。多少、地域が増えるかもだけど、今のところはそういう話はない。爵位の話もないしね」

「いずれはマーレ以外も治めると?」

「近隣に新しい町が出来るし、他の村も含め……カイ兄上次第だけどね。ただ、場合によっては兄上は宰相になるのかもね。宰相変わったばかりだからすぐにではないけど、今の宰相は長く続ける気も無さそうだし」

セレスタイト殿下の子どもが領地を引き継ぐにしても、すぐには難しい。

カイア様が公爵となって、あの土地を治めることになる。

ラズ様はその補佐。

ただ、今まで通りにマーレ含め、その近隣を領主代理として治める。

そう思っていたけど、状況次第では変わるのか。

「とりあえず、あと一週間は王都で過ごすと思っておいて」

「一週間……もうちょっと短くは?」

「カイ兄上はしばらくこっちにいるから、領地の不在が長くなる。それで先に戻る許可を得て、一週間後。これで最短かな」

ラズ様は私より先にこっちに来ているし、移動距離を考えるとマーレの不在期間も長い。

「他家の目があるから行きはそれなりの規模で来たけど、帰りはその必要も無いからさっさと帰るよ」

いや、行きはカイア様も一緒だったから、規模でかかったのに。

さっさと帰るって、それは護衛はフォルさんと私達だけとか言わないよね?

道中に危険はないと思うけど……確かに、早急に部下を必要としているのかも。