軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5-40.決戦

王宮を攻め落とす日の朝。日が昇るよりも前に、王宮に忍び込む準備を始めた。

ネビアさんからの情報では、兵舎にて8時から朝礼がある。その前に朝食を取るものも多いので、自然とこの時間は兵舎にいる人が多い。

朝礼後は各自の持ち場に着くことになるため、王宮が一番手薄になる時間でもある。

さらに、ラズ様が率いる騎士達が到着したこともあり、朝礼には多くの騎士を集めているのか、朝からかなりの人数が集まっていることを確認している。

軟禁している貴族や王弟殿下を人質にするにしても、王都を囲んでいる軍が、攻めてきたら厳しい。そこで人質を使うようなら、貴族を怒らせ、王都にある各家の護衛達も参加することになり、勝ち目は薄い。

騎士達の間でも、噂が広まり、上役は徹底抗戦も辞さないつもりのようだけど、地位のない騎士達からは不満が出ている。

アディ将軍が一部の騎士達を離脱させてしまったらしいしね。

「うーん。これって、一気に騎士達がこっちに来るよね」

「レウス……まあ、そうだね。外への対策のためか、最小限の騎士だけ残して、兵舎に集合してるからね」

今更、王を見捨てる算段でもつけるのか。遅すぎるんだよね。見張りすら集合しているので、今なら王宮の制圧も容易いはず。ラズ様達も動き出すだろう。

むしろ、計画が漏れていて、それを狙っている可能性もある。それなら、この後の処分の時にも、邪魔をしないように兵舎に籠っていたとか、言い逃れがしやすい。

ワイバーンで潜入したナーガ君とアルス君もさくっと合流しているけど、兵舎に動きはない。

モモとシマオウには留守番を頼んだ。隠密行動のため、連れて行くと身バレの可能性があると伝えて、荷物の見張りを頼んだら、大人しく宿で待ってくれることになった。

先ほどから、王宮側はドンパチが始まっている音がする。遠くからは歓声が聞こえるのも、おそらく城門をラズ様達が通過したため、民からの応援の声援だろう。

城門で戦闘にならないように手配され、歓声を受けながら王城へ進めるって結構すごいことだよね。無血開城ってこんな感じなのかな。

「兵舎から誰も出てこないね」

「音が届かない結界って便利だよね。広範囲だと疲れるけど」

「……おい」

「えっと、クレインさんって、あれだよね……」

「いいじゃん、いいじゃん。便利だしさ」

王宮では窓ガラスが割れた音とか、色々と大きな音が王宮側から聞こえている。ただし、兵舎を覆うように音を遮断する結界を張ったため、兵舎側には届いていない。

王宮側からの救援要請を伝えに来る人がいた場合には対処して、気絶させている。

このまま朝礼が終わる前に、制圧してくれれば良かったのだけど、流石にそこまで上手くはいかなかった。

「急げ! 侵入者が城内にっ! なんっ」

王宮へと向かおうとする団体をさくっと不意打ちで倒していく。最初はバラバラで、準備が出来た人からみたいだったが、次々と現れるようになり、気絶させた彼らを隠す前に次の団体がくるようになってしまった。

「……ばれたか」

「うん。内部に直接繋がる連絡手段あるかな……便利なアーティファクトだけど、民間には流通しないらしいよね」

通信器はフォルさんやラズ様が持っていることは知っている。おそらく、王宮や兵舎にもある程度は常備されているのだろう。

王宮の異常を知ったらしい。そのくせ、しっかりと統率して向かわないあたり、戦力分散させて、こちらに優位にさせようとする騎士もいる。

事情知って残ってるのも一部いるのか……何ていうか、処分の時困りそうだよね。

「貴様ら、何をしている!」

「……」

「無理しないで防御に徹して」

「……ああ」

ナーガ君に伝えつつ、こちらに声を上げた騎士を見る。

私には無理だなと瞬時に悟れるだけの威厳のある壮年の騎士。これは実力が高い。

他の騎士から隊長と呼ばれているが、他とは一線を画す。1対1では、ナーガ君もちょっと厳しいと思う。

ただ、私達は時間稼ぎをすればいい立場。無理に勝つ必要はない。

「任せるね」

「……ああ」

ナーガ君が壮年の騎士を相手にする。ナーガ君も重めの装備をしているけど、相手ほどではない。

相手の騎士は全身プレートアーマーで、重い。

そう、この一団は重装備でこちらに挑んできている。

他の騎士も鎧を身に着けていたけれど、もう少し軽めの装備で、弱点を突けた。

だけど、この一団だけは、全身がプレートアーマーだった。所属している団が違うとかだろうか。

防御力は高い。特に隊長の装備は、私の武器では多少凹むかもしれないけど、他の騎士達が身に着けている物と違って魔法耐性もありそうなので、私だと倒すのに苦労しそう。

他の騎士達も同じようにフルアーマーだけど、こっちは魔法耐性が低いようで、牽制のために撃った魔法でも効果がある。

「簡単に倒れてくれないんだけど」

「王宮に詰める騎士が弱かったら問題あるでしょ」

「あ~、うん、確かに」

むしろ、善戦しているレウスやアルス君の方に驚きだったりする。

人相手では戸惑うかと思ったけど、普通に戦っている。

私は3人のフォローをしつつ、短剣に雷を纏わせて、スタンガンのようにして痺れさせて倒している。

「いいな、便利そう」

レウスが羨ましそうにしている。たしかに、便利ではある。

「今度ね」

「やった」

レウスは素早さと跳躍を活かして、相手を飛び越えて首とか関節を攻撃している。

一応、アーマーで覆われているとはいえ、レウスはSTRも高いから問題なく倒せている。

「ねぇ……あの奥にいる、騎士……倒す?」

集団の奥に控えている騎士を見つけ、他には聞こえないようにレウスに声をかける。

「まあ、出来なくもないけど……こっちが陣形崩すのもどうなの?」

「う~ん。じゃあ、やめとこう。挑発されても、手出し無しで」

「何かあるの?」

レウスにも、ネビアさんの報告書を読ませているけど気付かなかったらしい。クロウを攫った連中の一人。レウスが望むならフォローしようと思ったけど、無理に戦う気はないらしい。

手出ししないようにだけ伝えて、持ち場に戻る。

ただ、私も許せるものでもないから後で、頼んで処理してもらおう。

「はぁっ! つ、次!」

アルス君は意外だった。綺麗な戦い方をしつつも戸惑いがない。

一番騎士らしい、真っ当な戦い方。剣術で相手を圧倒するように戦っている。

兄さんがすぐに足で攻撃とかも含む、トリッキーな戦いのせいで、ナーガ君はそっちに順応しちゃっているから、真っ当な戦いは珍しい。

相手が人だからこそ、順当に強いのがわかる。対人戦での戸惑いもなさそう。

「土壁〈アースウォール〉!」

私は面倒だから、バランス崩して、倒れ込んだ騎士達は、土魔法で閉じ込めて人数を減らしていく。ちょっと障害物のようになってしまったけど、レウスは逆に跳躍を使って、うまく戦っている。

相手の方が人数が多いのは面倒だけど、苦戦というほどのことはない。

次から次へと増え、せっかく閉じ込めても、土壁を壊そうとしたりする動作は増えたけど、その分隙もできるので、倒しやすくもある。

「ぐっ……」

ナーガ君は防御に徹するように言ったため、上手く戦っているけれど、じわじわと他の騎士が増えてくると私達のフォローも間に合わなくなる。

今は様子見をしている騎士が動き出すとさらに不利になる

どうしようかと思った瞬間に、声が聞こえた。

「「「「「うぉおおお!」」」」」

遠くから、大勢の雄叫び。

そちら側に視線を送ると、バルコニーに王弟殿下の紋が描かれた布が垂れ下がっている。

王弟殿下を救出し、国王を捕らえたということだろう。また、雄叫びが聞こえた場所が城の入口の方から聞こえた。

気配察知を展開すると、こちらに向かっている気配も感じる。後は、本隊に任せて大丈夫そう。

「撤退するよ!」

「オッケー」

「……ああ」

「う、うん」

私の言葉に3人が頷く。ナーガ君が戦っていた相手から一歩下がった瞬間に魔法を撃つ。

「水の矢〈ウォーターアロー〉」

「くっ……」

「行くよ!」

ナーガ君とアルス君が見張り台の方向へ走り出す。追えないように魔法で壁をいくつか作り、妨害しつつも私とレウスは逆方向へ。

騎士達が動きにくいアーマーを着ていることもあり、私とレウスは素早さを活かして翻弄しつつ、塀や屋根などの高所に逃げて、王宮を脱出した。

「お疲れ様、レウス」

「おつかれ~、ナーガ達も無事だよね?」

「多分。途中までは見てたけど、ちゃんと逃げてたし……隠れた場所からワイバーンで逃げたと思う」

王城の方にはラズ様達の兵が詰めかけていた。もう、これ以上何か起きることもないはずなので、宿でゆっくりする。

しばらくすると、ナーガ君とアルス君も帰ってきた。

街の様子も明るくなり、今のところ城下で争いは起きていない。

夕方になると、王が替わることが通達され、街はどんちゃん騒ぎになっていた。

「……これで、終わるのか」

「多分ね。ラズ様から接触があるだろうから、私はもう少しこっちにいるけど……3人はどうする?」

正直、できる事は終わったから、あとは任せて帰りたいのだけど……。私の場合はラズ様の許可を取ってからがいいだろう。

面倒事に巻き込まれるのは嫌だけど、クヴェレを巻き込んでいるのと師匠と兄さんの件もあるから、王弟殿下にもきちんと伝えないとだ。

それがいつになるかはわからないけれど……。忙しいだろうから、しばらく放置される可能性があるので、3人を巻き込むのも気が引ける。あと、滞在費が高くつく。

「先に帰る?」

「クレインだけで危なくない? 大丈夫なの?」

「う~ん。まあ、シマオウを置いていってくれれば、多分平気。王弟殿下に伝えるまで時間がかかる可能性もあるし、ずっとこっちにいると滞在費がね……気になっちゃうのでね。もう、危険はないよ」

「…………わかった」

王都は物価が高い。

それが必要経費だというのもわかっているけど、それはそれ。お金に困っているわけじゃないけど、どうしても気になってしまう。

それに、ナーガ君達だってここにいてもやることがなくて暇だろう。クロウ達も心配ではある。

「う~ん、でもさ、今日は城門とかも封鎖解除で混乱してるから、明日とか?」

「そうだね。疲れただろうし、今日はゆっくりと休んでからだね。クロウ達にも無事終わったことを伝えないとだから、先に帰って伝えてくれる?」

「任せて。あっち、大丈夫だよね?」

「多分……なんだかんだで、嫌がらせする暇はなかったと思う。他の貴族も混乱状態だったしね」

戦力が粗方こちらに来ているのは心配なんだけど……なんとなく、風向きが変わった気はしたんだよね。

「……無理するなよ」

「うん。大丈夫……面倒ではあるけど、師匠と兄さんの件、しっかりとかたを付けて帰らないとだからね」

翌朝。

出立するナーガ君達を見送った。ワイバーンで帰るので、危険もないだろう。

宿でシマオウとモモと戯れていると昼頃にネビアさんから呼び出された。

「ネビアさん……その恰好って?」

「んふふふっ……」

聞いてはいけないことだったらしい。ものすごくいい笑顔なのに圧を感じる。

王宮で見た騎士の恰好に似ている。白い騎士服にアクセントは青。とてもよく似合っている。

いつもの少し胡散臭い裏の人間を彷彿とさせる恰好とはちがって、正規の騎士に見える。

「さて、クレイン・メディシーア様。お迎えに上がりました。王弟殿下が貴方にお会いするそうです」

「えっと……思ったより早いですね? てっきりラズ様から呼ばれるものかと」

「ええ。皆、忙しくしているので、手が空いている僕がきましたよ」

「ネビアさんが? むしろ、今こそ情報屋として色々忙しそうなのに」

「ええ、くそったれな雇い主に嵌められまして。王弟殿下をお助けした第一の手柄として、共にカイアナイト殿下の騎士になりました。……今回の件で知り過ぎた僕を裏に情報を回せないようにするのでしょうね」

兄さんと一緒に動いて、手柄を上げたから……巻き込まれちゃったんだ。

今後王家として国を率いる立場になるからこそ、情報屋として自由にさせるわけにいかなかったとか? とにかく、無理矢理首輪付けられちゃった感じか。

「着替えを手伝いましょうか?」

「いえ、大丈夫です。薬師としての正装で行きますから」

着替えてから、宿の下には馬車まで用意されていて、それに乗り込み、王城へと向かう。そんなに距離はないけれど、馬車に乗って行かないと中に入れないくらいには人が集まっていた。

「思ったよりもすごいですね」

「新しい王へとお目通りしたい貴族は多いのですよ。その順番によっても、王家からの信頼がわかりますからね」

「……メディシーアは貴族ではなくなったんですよね?」

「んふっ、それを決めるために呼ばれたのでしょう? ちなみに、午前中に侯爵家までは済ませていますが……伯爵家相当ですよ」

やられた!?

王への謁見の順番とかは、この際どうでもいいけど……伯爵家の順番に割り込んでるってこと? いや、でも、ラズ様だって私の希望は知っているよね?

「……わかりました。ここではっきりさせます」

「んふっ……ええ、期待していますよ。僕も大切な子達を巻き込みたくないので」

ラーナちゃん達かな? 親代わりのようなことを聞いた気がする。私の元へ預けているのが喧騒から遠ざけるためなら、彼としてもこの状況は困っているのだろう。

ここではっきりとさせて、貴族に煩わされないようにしておきたい。

「急に呼び出してすまないね、クレイン・メディシーア嬢」

「いえ、新たなる王となられる青の君にご挨拶できましたこと、恐悦至極にございます……」

「ありがとう。……君の身内のこと、すまなかった。兄王の過ちにより、君にはつらい経験をさせてしまった。心から謝罪させてほしい」

う~ん。狸だ。

王弟殿下としては、その状況を利用して王になったわけだし、王として簡単に頭を下げてはいけない立場でありながら、私に頭を下げている。

周りにも見せることで、メディシーアは被害者であるということを示しているのだろうけど……。

「……はい。王弟殿下が悪いとは思っておりません。以前から、メディシーアに目をかけていただいております。感謝こそあれど、そのような謝罪は不要です。ですが、師匠を、兄を……殺した王家を許す気はありません。それに従う騎士や貴族も……」

激情にかられそうになり、一度、呼吸を整えるために、息を吐いてから、吸う。私が伝えることは一つ。

もう一度、王弟殿下と視線を合わせてから、言葉にする。

「意味が分からないままにずっと嫌がらせを受けました。もう貴族に関わる気はありません。メディシーアは、師パメラとともに滅びました。私はラズライト様の専属薬師です……それを許してくださいますよう、心からお願い申し上げます」

「……以前から、君にはメディシーアの家の仕事を関わらせる気はないと聞いていたよ。だからこそ、確認したかった。貴族として断絶することは君も了承していることだね?」

「はい。……貴族になりたいと思いません。また、薬師として必要であれば、調合を行いますが……病気など、体調の情報は極秘となります。ラズ様に報告できない情報を他の貴族から得るわけにはいきませんので」

私の言葉と王弟殿下の言葉に頷くと周囲の貴族達が驚いたようにこちらを見ている。ただ、薬師って、健康管理面で大事だからね。なんの薬を飲んでいるかだけでも、情報となる。

「この場で宣言すれば、撤回はできないけど、いいね?」

「はい。以前にもお伝えいたしましたが、無理やりでも貴族にさせるなら亡命します」

「困ったね。その気持ちは変わらないということだね?」

「……むしろ、強くなりました。師匠も兄も、この国に殺された。この国に拘る理由はありません。……恩人であるラズ様の薬師であり続けたいとは思いますが、これ以上貴族からの嫌がらせを受ける場合、あの土地から離れることも考えます」

王弟殿下が困ったように騒めく貴族達に手で押さえるような仕草をして、黙らせた。貴族の調合はしないと言ったようなものだからね。

もし、作るなら、王弟殿下に病の情報が駄々洩れということになる。それでも構わない人だけ、依頼がくるだろう。平民なら貴族に従えと命じられても、仕えているのは王族というさらに上ということもしっかりと伝える。

ついでに、ラズ様は大事だけど、嫌がらせを受けるなら捨てると伝えて、これでも嫌がらせする猛者はいるのだろうか。

「気持ちはわかったよ。私としては、メディシーアときちんとした形で和解を望む。君が貴族になりたくないのであれば、それで構わない。だが、この国にはいてほしい。こちらで出来ることはしよう。君の望みは何かな?」

「……王弟殿下は私の主であるラズライト様の父君です。王弟殿下もまたお仕えする方でしょう。ですが……王として、国としてということであれば……お願いがございます」

私の言葉に王弟殿下がゆっくりと頷いた。これで、言質をとれる。

「師・パメラを殺す要因となった騎士達とそれを褒めた上長、および、兄・グラノスをこの謁見の間で殺そうとした騎士全てに対し、厳正な処分をお願いいたします。また、兄・グラノスの遺体の返還を。それをもって、この国並びに王とメディシーアとの和解とさせていただきます」

「グラノス卿を殺した騎士、ではなく、その場にいた全員ということかな?」

「はい。どのような理由があろうと、謁見の間にて、武器を持たぬことを承知で、武器を抜き、この場を血で汚すような騎士……王の命令があっても、捕らえるだけで済ませることが出来たのに、殺したのは彼らの意思でしょう? 武器を抜いた全員の処断が必要では?」

謁見の間に詰めることが出来る騎士がどの程度の地位かは知らないけれど……。全員、何らかの処分が必要なのは間違いない。

そもそも、そのせいで王弟殿下達が王宮に軟禁される事態になってるから、私が言わなくても王弟殿下は罰したとは思うけどね。

ただ、どちらにしろ、国や貴族と和解するつもりがないのは兄の遺体を求めた時点で伝わるだろう。

じっと王弟殿下を見ると、苦笑が返ってきた。

「そうだね。これからしっかりと罪状を調べよう。君には最終的にどのように罰したかを知らせるようにするよ。それから、幽閉されてしまい、その後も忙しさで調べていなかったが、グラノス卿の遺体の行方も調べよう。すまないね、遺族として知りたいことだろうに、今まで放置してしまった」

王弟殿下も生きていることを知っているので、遺体のこととかを考えなかったのだろうなとは思う。

おそらく、見付からないという結果にしかならない。むしろ、前王が後々を考えて、秘密裏に処分したということにして、報告でもくるのだろう。

「……兄さんも、師匠の隣の場所に墓を作ろうと思っています。早めにお願いいたします」

「承知したよ。また、ラズを通して連絡しよう。急に呼び出してすまなかったね。これからも良い関係を作りたいと思っている、クレイン薬師」

「ありがとうございます。……御前、失礼いたします」

貴族連中も王家と同罪スタンスで行くため、ラズ様の紹介無しに私に接触はしないだろう。はっきりとこちらのスタンスを出したので、後は王弟殿下が調整するはず。

スペル様達であれば、別だけど。他は基本的には関わらない。

「んふふっ……いいですね。もっと、逃げ腰かと思いましたが、ずいぶんと大胆に要求しましたね」

「ネビアさん……平民になったから、身分を理由に貴族がいいように利用しようとするくらいは、私でもわかってます。最初が肝心だということも……。手出ししたら、亡命するくらいは言ってもいいと思います。ラズ様には、今日は疲れたので休みます。明日伺いますと伝えてください。ここまででいいです」

「ええ、お疲れさまでした。ゆっくり休めるといいですね」

こっちに接触しようとする人は護衛であるネビアさんが追い払ってくれ、王城の車寄せにて、馬車に乗ったところで、ネビアさんとも別れた。

なんか、最後が不吉な言い方だったのが気になるけれど……ゆっくり休むよ。そして、明日にでもラズ様のとこに挨拶して、帰りたいと思っていたけど……。

「取次を希望される方がいまして……こちらを」

宿の支配人がわざわざ部屋に来て、一言。ついでに渡されたのは手紙。封蝋はカイア様とラズ様の二人分ある。そして、開いてみると、どちらも白紙。

指示は書かれていない。これは、手紙を持ってきた人に話を聞けということだろう。明日、ラズ様のところに行くと言った手前、時間を知らせに来てくれた可能性もあるので、無視はできない。

「この部屋に呼んでください」

「承知いたしました」

ロビーの方に向かい、会おうかとも考えたけど……。この宿、どうやら他の貴族もこの宿にちらほらといる。王都には屋敷を持っている貴族がほとんどのため、宿に泊まる必要はないことを考えると部屋を出たくないんだよね。

正直、ここで他の貴族との出会いなどしたくないわけで……部屋に呼ぶことにした。

「失礼いたします」

しばらくして、部屋に入ってきたのは騎士服に身を包んだ兄だった人。

髪の毛の色も髪型も違う。顔には大きな傷があるし、見た目は随分と違うけど、それでもわからないはずがない。

「……っ…………」

「すまん……泣かないでくれないか?」

姿を見るとぼたぼたと涙が溢れてきた。

色々と言いたいことが沢山あるのに、言葉が出てこない。喉の奥が引きつり、しゃくりあげるだけで、何を言えばいいかも、上手くまとまらない。

「……っ……」

「俺の死を聞いても、泣いてないと聞いていたんだがな」

なんで相談してくれなかったんだとか、心配したとか、勝手に死ぬなとか、言いたいことはあるのに、言葉にならない。

少しからかうような言い方をして笑いながら、頭を撫でられ、さらに嗚咽がひどくなる。

「……うぅっ……でっ…………っと…………にっ……」

「ああ、すまん。落ち着くまで、待つ。大丈夫だ」

抱き寄せられると知らない香水の匂いがした。

もう、グラノスという個人を認識できるのは声と口調だけだろう。

それすら……さっきみたいに丁寧な口調で話されたらわからなくなる。

この人の手でグラノスは消えたんだと認識し、涙が止まらなかった。

「落ち着いたか?」

「ありがとう……ごめん、止まらなくて…………もう平気」

漸く涙が止まった後、ゆっくりと話をしようとも思ったけど……。

それは叶うことはなく…………。

迂闊にも流され、やらかした……。

翌朝、にゃーにゃーと餌を求めるモモの鳴き声で目を覚ました。

昨夜は部屋にいることすら忘れるくらいに静かにしていたくせに……今は、顔をぺろぺろ舐めて、起きることを促してくる。

怠くて仕方ないのだけど……回復魔法を唱えてから、起き上がる。

ベッドサイドに手紙が残っていた。

『ツルギ・シュヴェルトは、君達の開拓地の監査官として任命される予定だ。しばらくはカイアに付き合うことになるが、定期的に顔を出す。これからもよろしく頼む。

追伸 ラズから話があるから、訪ねてくるようにと伝言を預かっている。時間は君に任せるそうだ。 ツルギ』

とりあえず、この後、どんな顔して、ラズ様に会いに行けばいいのか……こんなはずじゃなかった。お風呂に入って、冷静になってから考えよう。

朝からどっと疲れてしまった。ラズ様に報告したら、さっさと帰ろう……。