軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-36.スタンピード5日目 〈ナーガ視点〉

〈ナーガ視点〉

グラノスから忠告は受けていた。

「油断をするな」……それは、魔物のことだけではない。

クレインが感じ取っている『何か』、それが判明しない以上、全てに注意をするように……双子にも、アルスとレウスにも…………何が起きるかわからないから、クレインを最優先にしろと言われていた。

クレインがクロウをこの場から離した意味……クロウは、少なくともクレインの考えには従う。わざわざローブを新調し、防御力に不安が無くなっても帰ることを主張したのは、危険があるということ。ティガも同様のはずだ。

グラノスがいない時に油断していたことも、「気を抜くなら、川側に行け」と言われていた。それでもこちら側を希望した。俺が守るつもりだった。

何か、それがわからなくても……何かが起きる。

それをグラノスは確信していたのに……。

「水飛沫〈スプラッシュ〉」

クレインが何度か、ため池の中心に水魔法で刺激を与えていく。

水が跳ねると一緒に魚も飛び跳ねていると、真ん中に見えるように黒い二本角の魚が見えた。

「……黒いの、いたな」

俺の言葉に頷いて、スペルビアに確認をした上で、魔法を撃ちこむと、すぐに進化した。

そして……進化した黒い光を纏う銀色の水竜と目が合い、口を開けた姿がこちらを見てにやりと笑ったように見えた。

ぞくり、背筋に寒気が走り、俺は身を震わせた。

「で、どうするんだ? 倒していいのかい?」

「そうだね」

グラノスとスペルビアが武器を構えた瞬間、聞こえたのは声。

「UGOOOOO(同胞よ、力を貸せ)! GAYAOOOOO(我に力を、我の力を)!!」

その声を聴いた瞬間、今まで全く気付かなかった……体の奥底に閉じ込められていたはずの何かが、奥底から出てきた。

「んがっ……」

俺が体を動かそうとするが……動かない。いや、俺の意思ではなく、身体は動いている。

「……兄さん、スペル様……あの個体、すぐ倒してください」

駄目だ……乗っ取られる。

俺が大剣を向けた先……目の前には泣きそうな顔をしているクレイン。

違う。

そいつだけは…………なぜ、体が動かない。

「あはは……まさか、本当になるとはね。うん、すぐに倒した方が良さそうだね」

「君は下がれ。俺がナーガを抑える。スペル、一人でもいけるよな?」

「ん~雑魚が邪魔しそうだけどね、やってみるよ」

俺とクレインの間にグラノスが入り込む。

その目を見て、安心した。ああ、こいつが……グラノスが俺を止めてくれる。

〈ソウ、上手クイクか……オ前ノヨウに、使イ熟セないト思ウナよ〉

俺がグラノスに襲い掛かる。

グラノスと同じように……大剣に炎纏わせているのに、さらにSPを纏わせている。俺は炎出すだけでも、四苦八苦していて、SPを纏わすことは出来なかった。だが、体を奪った何かは、いとも簡単にやってのけている。

「君は誰だい? ナーガじゃないよな」

「竜ダ……ア奴ガ呼ビ起コシタ」

「へぇ、面白いな。ナーガはペットだけじゃなく、体の中にも竜を飼ってたのか」

グラノス……俺ではないことに気づいた。それでも、俺に遠慮して殺そうとはしていない。斬る時に刀を逆にして、峰打ちをしてくるが……それでも、打撲が……体中に痛みが走る。

手加減はない。俺の攻撃が入ることもあるが…………俺よりも強い。

悔しいとは思うが、安心する。俺が倒れても、あいつが守ってくれる。

「アノ女ヲ消サネバナラヌ、エエぃ、邪魔ヲするナ!」

「クレインを消したいなら、俺を殺してからにしてくれ。恩人をむざむざ差し出す気はない。…………まあ、出来るならな?」

グラノスの目の色が変わった。さっきまで、逆に持っていた刀を持ち替え、構え直す。

クレインを消すと言ったことで、怒らせたらしい。

あいつは容赦ないぞ? 最初から勝てないがな。

〈黙レェェェエっ!〉

峰打ちを止めたグラノスの攻撃に、浅いが切り傷が刻まれていく……しかも、大剣を持っている右腕に重たい一撃が入った。

切られたと思ったが、そこは峰打ちになっていた……だが、痛みで力が入らない。おそらく骨折している。いや、全身が打撲……そして、MPが切れているせいか、体が重く感じる。

「たくっ……手のかかる坊やだな。寝ぼけてないで、起きろ!」

グラノスからの激に答えるように、体に力を入れると一瞬、俺の体が止まる。

その瞬間を逃さないように炎の斬撃が飛んできた。

左肩に熱さと痛み……左腕が動かなくなったな。ちぎれたわけじゃないが……。

〈邪魔ヲするナ!!〉

ふんっ……俺と違うと言いながら、グラノスを倒せないじゃないか。

勝手に体を使っても、何もできてないな。あいつの圧勝じゃないか。

〈黙レ、黙レェェェエ!〉

MPだけでなく、SPが尽きた。それでも炎を纏い続け、体が悲鳴を上げている。

激痛に苛まれているが……グラノスは平気だ。クレインの回復を拒む余裕もある。クレインも、何体ものヒュドールオピスを葬りながらも余裕がある。

あの竜も……もうすぐ、スペルビアが倒すぞ。

〈ハッハハッ……思イ通リにナルと思ウナヨ〉

「GAYAAAAAAAAAAAAA!!(まだ、まだだ……この力を同胞に!!)」

再びの咆哮……それと共に、俺の体に力が入り込んでくる。

なんだ、これは?

〈オ前ガ望ンだ力ダロウ……竜ヲ殺し、ソノちからヲ、魂ヲ吸収スル…………オレヲ吸収シタヨウに……〉

……お前を吸収?

つまり、最初からお前は俺の中にいたのか。

〈ソウだ、オ前ノ成長ヲ助ケテヤッた〉

成長を?

ステータスの成長率が良かったのはお前か。

〈感謝シテ、体ヲ渡セ〉

ふざけるな……俺の体を返せ!

主導権を奪おうとしたが……流れ込んでくる力に耐えきれず、膝をついた。

もう少し……体の痛みはつらいが、もう少しで体が戻ってくる。

〈舐メルナ、人間風情ガ!〉

主導権が奪えると思った瞬間、倒されたヒュドールオピスと目が合い、体が硬直してしまった。

「まずい!」

「来るなっ!!」

「AGYAAAAA!!〈仕エロ、オレに従エエエっ!〉」

「ナーガ君!!」

くそっ……やめろ!!!

俺が咆哮を上げ、視界には多数のヒュドールオピス。進化してしまったそれらが、俺に頭を下げて、従う意思を見せている。

「……やれやれ。悪いけど、放置できないよね。君たちが出来ないなら、僕が殺すよ」

それを確認したスペルビアが俺に剣を向けてくる。

しかし、その間にクレインが入って、止めた。

「…………私が止めます。スペル様、そちらをお願いします」

「これ以上の被害は困るよ? 出来るの?」

「やります」

グラノスに回復をかけて、俺に剣を向けるクレイン。

さっき、グラノスに任せた時と違う……覚悟をした瞳をしている。調合や錬金をしている時にはいつもこの表情だが……俺に対して向けるのは珍しい。

涙はない。任せて大丈夫だろう。こういう顔をしているなら、俺程度に後れは取らないだろう。

「グラノスさん!! クレインさん!! レウス君がっ!」

「兄さん、あっちをお願い。大丈夫、閉じ込めるから……直接戦わない」

「…………わかった」

グラノスはどうするか、悩んでいるようだったが……アルスとシマオウがこちらにきて、クレインが指示をする。

こういう時は、クレインは無意識らしいが最善を選んでいるらしい。グラノスは俺に背を向け、アルスとともに川へと向かった。

〈イイぞ、邪魔ナ奴が消エた〉

なぜ、クレインに拘る? グラノスの方が強いだろう。

どちらにしろ

〈ア奴は白ダ、白モ黒モイラヌ……消サネバナラん〉

白? 黒? 何を言っている。

〈白ト黒は世界ノ害悪……サア、殺シテヤる〉

はっ……グラノスに手も足も出なかったくせに、クレインなら?

無駄だな。二人に勝てるはずがない。

〈舐メルナぁ!〉

大剣に炎を強く宿す……ぐっ……胸にズキッと痛みが起きる。

体は限界だろう……だが、そうでなくても……クレインが危険な状態で戦うはずがない。俺と戦うことを選んだ時点で、勝ち筋はない。

「ナーガ君、ごめん……蔦の檻〈アイヴィケージ〉…………土壁〈アースウォール〉」

クレインの魔法が発動し、四肢が植物の蔓に拘束される。引きちぎろうとするが、それ以上の魔力が込められ、そのまま周囲を土壁で覆われた。

〈クソォォォォ!!〉

流石だな……。

俺はまだ……二人には勝てそうもない。

お前も諦めて、俺の中に戻れ。体は返してもらうぞ。

空気が無くなり、意識が薄れていく……。

「……ここは?」

「目が覚めたかい? テントの中、今は夜営中だな。朝まで寝るといい。だいぶ無理させたからな」

「……水竜はどうなった?」

「無事にミッションコンプリート。討伐は完了……と言いたいところだが、少々問題は残ったな。君はどこまで覚えている?」

「……クレインに土壁に閉じこめられ、酸欠で気絶したとこだ」

俺の返答に、グラノスは楽しそうに目元を下げた。俺が意識があったことが楽しいらしい。

「俺にボコられたのも、覚えてるのか」

「……ああ。表面の意識を奪われていただけで、全て見ていた」

「なるほど。俺が起きろと言った後、隙を見せたのは君が中で頑張っていたのか」

「……主導権を奪えそうだったが……その後、あの黒い水竜の力が体に流れ込んできた。主導権を再び奪われた……すまなかった、迷惑をかけた」

油断をしているつもりはなかったが、俺が足を引っ張ったのは間違いなかった。しかも……水竜の魂も、あの謎の竜の魂もまだ、俺の中にいる。

前までは、わからなかった力。

力が漲っているとともに、今まで分からなかった自分のユニークスキルを理解した。

「……俺のユニークは、竜種を殺すとその力を、魂を取り込むらしいな……水耐性がカンストした。魔法はたいして変わってないがな……強化されている」

「それはすごいな……積極的に竜種を狩っていけば最強になれるな」

「……興味はない」

俺の言葉に安心したように笑う。

竜種を狩り、強くなることは……目立つだろう。現状、そんなことをする余裕はないくらいは俺にもわかる。

「そうか。君が竜種を狩りたいと言い出したら、どうしようかと思ったが」

「……俺の暴走はあんたが止めろ。あんたになら悔いはない……俺の中にいる竜はクレインを狙っている……俺もむざむざと体を明け渡す気はないが……」

「なにかあるのか?」

「…………黒とか白とか言っていたが……世界の害悪とか……詳しくはわからない」

俺には理解できなったが……クレイン個人ではないが、何かあるのだろう。

俺の体を使ったところで、どうにか出来るとも思えないが……。

入れ替わった瞬間、不意打ちを出来ていれば別だろうが……よくよく考えると咆哮の後、その一瞬で俺から距離を取っていた。次からはさらに警戒するだろうから、チャンスはないだろう。

「…………俺の身では、クレインを狙うことは出来ないだろうが……」

「竜種を前にすると暴走する可能性があるというなら、対策は考える必要があるだろうな。竜人まで巻き込むなら、話も変わるしな」

「……まて、どういうことだ?」

「君の咆哮で、レウスも少々な。まあ、俺が鎮めたんで被害はないがな。それよりも、君は考えないといけないことがある」

レウスが?

いや、俺はともかく、レウスもぼこぼこにしたのか?

俺の体が痛みもないくらいに、きれいさっぱり怪我が治っているのをみると……クレインの負担、大きかったんじゃないのか?

「……クレインは大丈夫なのか?」

「けがはない。MPはだいぶ消費したらしいな。だが、さっき夜営を交代したとこだが、大丈夫だろう」

「……そうか」

「ああ……君が考えるのは、そっちの蛇だ」

「……ん?」

にょろにょろっと俺の腹の上に蛇が這ってきている。

額の辺りには紫色の宝石が二つ嵌っている黒い蛇。まあ、魔物だろうが……。

「……こいつは?」

「君の傍から離れなくてな。一通りヒュドールオピスは倒したんだが……バイコキュプリーノスは二匹いただろう? だが、あの一匹だけで、もう一体は行方不明。クレインはその蛇を見て、すごく嫌そうな顔をしていることもあってな……俺が鑑定して調べると正体がわかって面倒だと思って、していない」

「……増やすと怒るか?」

「諦めてると思うがな」

「……そうか。…………名は、オリーブでいいか?」

蛇に確認をした後、テイムをする。

やはりというか、テイムした後のステータスを確認したら、ヒュドールオピス・ケラスと表示がある。どうして蛇の姿になったのかはわからないが、進化した上で蛇に変化しているらしい。

「君のネーミングセンスがわからんな」

「……適当だ。黒いだろ。あんたも見逃したんだ、共犯だ……」

「やれやれ。まあ、君にひどいことをしたお詫びということで、今回は君についてやろう」

蛇に手を伸ばし撫でている。おそらく、最初から分かっていて庇っていたのだろう。

それに、グラノスも何だかんだといいながら、動物が好きなのはわかっている。モモを肩に乗せていることも一番多い。シマオウを枕にしていたり、キャロ達にもよく高価な草を餌として与えている。

「朝まで寝るといい。朝になったら、俺とクレインは侯爵家の別邸へ出発する。悪いが、君はレウスとアルスとともにマーレに戻ってくれ」

「……ああ。迷惑かけて悪かった」

「それは他の奴らに言ってやれ。俺も迷惑をかけることはあるからな、お相子だ」

そう言って、自分の寝袋に戻っていった。

朝までの3時間……もう一度、寝るか……。

俺がグラノスに背を向けるようにして横に眠るとその前にとぐろを巻いてオリーブも寝るようだ。まあ……いいだろう。明日、クレインからのお叱りは甘んじて受ける。

それよりも……白と黒か。

クレインが世界の害悪と言われることは納得が出来ない。

神父様に聞いてみるのがいいだろうか? 白と黒……竜がクレインを狙う理由について……。

原因がはっきりしない限り……俺はクレインと距離を取った方がいいのか。一瞬考えたが、それは嫌だった。守ってやりたい……俺よりも強いけれど。

それでも、一緒に……。