軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-35.スタンピード5日目

翌日。

ダムの下にいくつかの足場……小島を用意した。そして、ダムから飛び移れるように、その部分については、雷壁〈サンダーウォール〉を外して、行き来ができるように準備した。

そこから上流に抜けていくことは可能……でも、昨日の時点でも何匹か逃げているので、今更ではあるけど。

「今回は逃している数は少ないよ。上流側も仕事なしで困っていると思うよ」

「えっ……」

もっと逃してもよかったなら、魔法を行使し続けたりしなかったのに……。下準備に使っていた魔石だって消費してしまったし、大変だった……。

「さて、じゃあ、僕らは向こうでヒュドールオピス・ケラスの討伐をするから、後は頼むよ」

「うむ。こちらは任せてくれ」

「アルス、レウス。大丈夫だと思うが、無理ならすぐに退け。多少逃したり、ここら辺に被害があっても、こっちの双子が責任を取る。お前らが無茶をする必要はない。シマオウ、すまないが彼らを頼む」

兄さん、言い方。

まあ、それはそうなんだけどさ……こっち側の土地に被害だしたら、ラズ様は私や兄さんにはちくちく言いそうだけどね。彼らを責めることは無いとは思う。

シマオウにも二人と一緒に戦ってほしいと伝えると「GURU~」と返ってきた。モモも「にゃー」とシマオウの上で鳴いている。

ナーガ君もシマオウに「……頼む」と言っているので、大丈夫そうだ。

「ひどいな~。僕らだって、五月蠅いこと言われたくないから、頑張ってほしいんだけどな。ね、弟?」

「クレイン嬢。大丈夫だ、こちら側もしっかりと見ておこう。彼らもここ数日で実力は上がっているから危険はない」

そして、ため池の方へと向かうがなんとなく足が重い。

「心配性だね。それとも、何か起きると確信してるのかな?」

「……いえ。わからないから、不安というか……その、レベルが上がってステータスは上がっているので、何か起きても大丈夫とは信じています。でも、彼ら、実戦経験は少ないので……何かあった時の対応力がない」

「ふ~ん?」

楽しそうに唇を上げながらも、何かを探るような瞳。

なんだろう? ラズ様が私の能力を詳細に知らせているとは思わないけど……まあ、調べていてもおかしくない。

でも、確信しているわけではないのだけど……。スペル様、何か知ってる?

「それよりも、どうやってバイコキュプリーノスを進化させるんだ?」

「そうだね。殺してしまっても困るからね……刺激して、進化してくれると助かるんだけど」

「私が水魔法で刺激を与えてみます。水耐性があるので、ダメージは入らないと思うので」

「うん、それはいいね。じゃあ、やってくれる?」

「はい…………水飛沫〈スプラッシュ〉」

ため池に水魔法・水飛沫〈スプラッシュ〉を撃ち込んでいく。

水しぶきと一緒にユニコキュプリーノスが飛び跳ねていたりする。

「……黒いの、いたな」

「どうします?」

「そこに撃ち込んでくれる?」

「わかりました」

バイコキュプリーノスに向かって、何度か水魔法を撃ちこむと、飛び跳ねた瞬間に光り輝き、形が変わっていく。

「……これが…………」

通常個体のヒュドールオピスと違い、特徴的な青い宝石のような二本の角。

そして、体色は銀色に光っているのに、黒くも見える。なんだろう……黒銀? 不思議な色合いをしている。

大きさは、7メートルくらい? 通常のヒュドールオピスより少し大きい。ただ、対峙してればこっちのが強いのはわかる。

鑑定をすると、ヒュドールオピス・ケラスと表示されている。

「で、どうするんだ? 倒していいのかい?」

「そうだね~」

私がその迫力に一歩後ずさったが、逆に兄さんとスペル様は前に出た。

兄さんとスペル様が武器を構えて攻撃をしかけようとした瞬間、ケラスが咆哮する。

「UGOOOOO! GYAOOOOO!!」

びりびりっと肌に空気が突き刺さり、痛みを感じる。体が重く……重圧を感じる。

その瞬間に、直感が発動し、体にびりびりっと痺れを感じて、その場から一気に距離を取る。

「兄さん! 離れて! 距離を取って!! スペル様も!」

「ぐっ……」

咆哮のせいか、ため池のあちこちで光っている。どうやら、今の咆哮がきっかけで進化した……その数、20匹くらい? まだ、ため池にはいっぱいユニコキュプリーノスがいるけど、咆哮の度に進化したらまずい。

でも、そんなことよりも……久しぶりの死を予感させるような直感は、先ほど立っていた場所の真横……隣にいたナーガ君から感じている。

「んがっ……」

私の隣にいた、ナーガ君が頭を押さえて、膝をついた。

「……兄さん、スペル様……あの個体、すぐ倒してください」

苦しんでいたナーガ君が顔を上げて正面を見た……瞳が違う。

レウスのような爬虫類を連想させる、瞳孔が縦に開いた瞳のナーガ君が……大剣を私に向けて構えている。

正気ではない。それだけはわかる。……操られている訳ではなさそうだけど、放置できない。

「あはは……まさか、本当になるとはね。うん、すぐに倒した方が良さそうだね」

「君は下がれ。俺がナーガを抑える。スペル、一人でもいけるよな?」

「ん~雑魚が邪魔そうだけどね、やってみるよ」

兄さんが私とナーガ君の間に入り、刀を構えている。しかも、炎を纏わせながらもSPも纏わせ、淡く光っている。

兄さんは本気で相対するつもりのようだ。

「スペル様。通常個体は私が倒します。兄さん……大丈夫?」

「おいおい。手合わせでナーガに後れを取ったことはないぜ? 寝ぼけている弟分をたたき起こすのは兄の仕事だ」

「じゃあ、行こうか……悪いけど、詠唱時間を稼いだり、君をかばったりは出来ないからね?」

「不要です……乱風鎌〈ウィンドスキャットサイズ〉」

ため池のケラスのいる右側に走り始めるスペル様に返事をしながら、反対側に走りながら、いくつもの風の鎌が通常個体のヒュドールオピスの首を刎ねていく。

ユニコキュプリーノスが雷魔法を苦手にするが、その基礎魔法である風魔法も効果が高かった。進化しても同じらしく、しっかりと効いている。

だが、一体倒せば一体進化する……キリがない。まだ、池には沢山のユニコキュプリーノスがいる。

「……やるしかない」

複数の風の鎌を操り、スペル様側のヒュドールオピスを優先的に倒していく。

こちらに攻撃してくるヒュドールオピスの攻撃を避けつつ、鉄銀の剣にSPを纏わせて白く淡く輝く上にコーティングするようにMPを纏わせ金色に輝かせる。

「くっ……」

攻撃を避けつつ、返す剣で水竜の鱗を裂きつつも、完全には倒しきらない。弱らせたままにして、新しい元気な個体を増やさせない。逆にスペル様側のヒュドールオピスは邪魔をさせないように、出来る限り迅速に、魔法で仕留めていく。

雷魔法は範囲魔法でスペル様に当たる可能性もあるので、風魔法を操る方がやりやすかった。

「もう少し……」

スペル様を支援する動きは難しいが、一人でもきっちり攻撃を与えており、このまま攻撃していれば倒せるのがわかる。それまでの時間稼ぎであれば、私の方も問題は無い……。

ちらっと兄さんとナーガ君の方を確認すると、いい勝負をしているように見える。

普段なら兄さんのトリッキーな動きで翻弄されているナーガ君だが、正気を失っているせいなのか、他に理由があるのかわからないけど……肉を切らせて骨を断つとまではいかないけど、兄さんの攻撃を受けながら反撃しているらしい。

兄さんの方もダメージをそれなりに負っている。

二人とも体力が5割、削れている……回復をと思ったが、兄さんと視線が合った瞬間に首を振られた。

回復しなくていいということらしい。

「わっ……ガード! ……あぶなっ」

つい、余所見をしていたら、数匹のヒュドールオピス達から水魔法が噴射される。慌てて盾を前に構え、技を使って、耐える。

幸い、MDFはナーガ君にはちょっと劣るが、私もかなり高い。そんなにダメージを負うことは無かったけど、その隙をついて、何体かが接近してきたので、囲まれる前に距離を取る。

体勢を立て直して、再度、魔法を唱えようとした瞬間……。

「GAYAAAAAAAAAAAAA!!」

再びの咆哮……しかし、これは最後の断末魔だったらしい。スペル様の真横にヒュドールオピス・ケラスが倒れている。

「流石……」

邪魔さえ入らなければ、一人であっさり倒せるらしい。

これ以上は増えないだろうと、今いるヒュドールオピスを倒してしまう。スペル様も手伝ってくれたので、さくっと倒し終えた。

「兄さん、だいじょう……」

兄さんとナーガ君の方を確認すると、ナーガ君は2割を切っている。危険域だと思うが……蹲り、頭を両腕で抱えているナーガ君に兄さんは警戒を解いていない。

違う。鑑定でナーガ君をよく見ると……ヒュドールオピス・ケラスの死体から淡い水色の輝きがナーガ君に移って……HPが徐々に回復している?

どういう状況?

それに……直感…………肌に纏わりつくぴりぴりとした感触が消えていない。

「まずい!」

「来るなっ!!」

ナーガ君が蹲っていたのを止め、立ち上がろうとした瞬間……ナーガ君と兄さんの方へと走る。

兄さんが止めるが、首を振って……間合いのぎりぎりのところで、止まる。

「AGYAAAAA!!」

「ナーガ君!!」

ナーガ君から、先ほどと同じ……ヒュドールオピス・ケラスと同じ咆哮が発せられる。

同じ……じゃない。より、大きく……そう…………川の方まで聞こえる程の大きな咆哮だった。

「……やれやれ。悪いけど、放置できないよね。君たちが出来ないなら、僕が殺すよ」

明らかに、今の咆哮により、先ほどよりも多くのユニコキュプリーノスが進化してしまった……。

すでに、ため池は決壊し、池にいた全てがヒュドールオピスとなり、こちらに敵意を向けている。

だが、スペル様が剣を向けているのはヒュドールオピスではなく、ナーガ君だった。

そう……先ほどのヒュドールオピス・ケラスがナーガ君と他のヒュドールオピスを操っていたように、今、ヒュドールオピスを操っているのはナーガ君。

ナーガ君を倒せば、全てが終わる。

でも、それをさせるわけにはいかない。私が……嫌な予感がしながらも、ナーガ君に守ってもらうつもりで、私がこちらに組み込んだのだから。

戦力を分けるときに……安易に……甘えたことを考えずに……もっと、慎重に考えていれば、防げたかもしれない。

ナーガ君と戦いたくないと考えて……兄さんに見透かされて、任せて…………結果、彼を失うとか絶対にいやだ。

「…………私が止めます。スペル様、進化してしまったそちらをお願いします」

「これ以上の被害は困るよ? 出来るの?」

「やります」

兄さんに光回復〈ヒール〉をかける。そこにシマオウに乗ったアルス君が助けを求めに来た。

「グラノスさん!! クレインさん!! レウス君がっ!」

「兄さん、あっちお願い。大丈夫、閉じ込めるから……直接戦わない」

「…………わかった」

兄さんはナーガ君と私を交互に見た後、焦っているアルス君を見て、瞳を閉じる。そして、頷いて、アルス君の後ろにひらりと乗って、大河の方へ向かっていった。

ナーガ君の大剣は、炎を宿している。ナーガ君のMPでこんなに長時間もその炎を保つことは出来ない。可能性としては……生命力を削っている。

口から涎を垂らして、瞳は充血している。血を流して、全身打撲……致命傷こそないだけで、ボロボロなのは見てわかる。

ナーガ君のHPが4割強まで回復し……先程よりも強化されているのがわかる。

そのまま戦えば、力で押し負けるのがわかっているので、先手必勝で魔法を使う。

MDFが高いことは承知しているけど、攻撃ではなく拘束なら関係がない。

「ナーガ君、ごめん……蔦の檻〈アイヴィケージ〉……………………土壁〈アースウォール〉」

正気ではないナーガ君の手足を蔦で拘束する。

ナーガ君も引きちぎって抵抗しようとするが、さらに蔦を増やして魔力で硬化させて、動けないようにして、そのまま土壁で覆う。

大剣の炎が、壁の中の酸素を燃やし尽くし……無酸素状態になれば、気絶するはず。

ナーガ君を助けるためなのか、四方を土壁で囲まれている土壁に、ヒュドールオピス達が水を噴射したり、体当たりをしてくる。ナーガ君を閉じ込めた壁を破壊させないように防ぎながら、私もヒュドールオピスを倒していく。

スペル様もサクサク倒しているので、問題はない。

……ナーガ君を閉じ込めてから、直感は止んでいる。危険は去った……。

あとは、こいつらを倒すだけだ。

全部倒した後…………アルス君達の方に救援にいかないと。

まだ、終わってない。