軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3.マーシャル・カイルモア

大きな光の球が、テントの真ん中に忽然と現れた。フィルバートを取り囲む兵士たちは面食らうばかりだ。あちこちから悲鳴のような声が上がる。ジャスティンとコリンも驚きの表情を見せている。

橙色の光の中に白い閃光が走り、完全武装したルーファスの姿が浮かび上がった。もうひとり男が姿を現したが、すぐによろめいて床に倒れた。

『観念しろマーシャル・カイルモア。お前のことは、もうすべてわかっている』

ルーファスが銀色に輝く剣先を、偽物のレノックス男爵の喉元に突き付ける。

『……どうして名前を……。そのことは、誰も知らないはずだ……』

マーシャルが首を絞められたような苦し気な声を出す。あまりにも衝撃が強すぎたのだろう、彼は続く言葉を失った。

「な、なんだこれは! ここにグレイリングの皇弟殿下がいるはずがない!」

「幻覚だ、幻覚に違いない!」

「それにしては姿も声も……まるで本物じゃないか……っ!」

混乱して後ずさる兵士たちを、ミネルバは声で制した。

「皆さん、落ち着いてください。これは私がグレイリング帝国の宝物から賜った力です。この指輪に宿る偉大な力から生まれ出でたもので、危険はありません」

そういうことにしておくのが、一番不都合が無いだろう。千里眼の能力に磨きがかかっているのか、実際にトパーズからの贈り物なのかは定かではないが。

ミネルバの言葉に兵士たちが「おお!」と歓声を上げた。

『お前はこの世界の人間の中でも、並外れて邪悪な男だ。お前が犯した罪の明確な証拠は、すべてそろっている。我がグレイリング帝国は、真に罪を負うべき者に必ず償いをさせる。肝に銘じておくがいい』

凛々しく強く、そして勇敢なルーファスの声が響く。

マーシャルの茶色い瞳に凶暴そうな光が宿る。しかしルーファスの部下が素早い動きで彼をうつ伏せにし、左右の手を背中にねじり上げた。両手を後ろで縛られながらも、マーシャルは不敵な笑みを浮かべた。

『願っていた結末とは程遠いが、私の勝ちであることに変わりはない。王太子フィルバートを破滅へ導いてやったし、アシュラン王家の面目は丸つぶれだ! フィルバートをそそのかすのは恐ろしいほど簡単だった。頭ではなく心で動く愚か者を操るのは楽しかったよ。私にとっては勝利の一種だ!』

マーシャルの顔が不気味に歪む。その目は嬉しくてたまらないと言わんばかりに輝いている。

『フィルバートは尊敬に値しないにもかかわらず、特権だけを享受していた。私は奴の未来をめちゃくちゃにしてやりたかったんだ。アシュラン王家へのちょうどいい復讐になる上に、国民のためにもなるだろう? あんな頭空っぽな暴君を王に頂くなんて、不幸以外の何物でもないからな!』

一種の狂気、あるいは心の病に侵されたかのように、マーシャルは痙攣するほど笑い続けている。

『しかし、バートネット公爵家の排除には苦労したよ。あの家族は揃って優秀で、男は腕の立つ者ばかり。国王や王妃を失望させたことはないし、全力でフィルバートを守っていたからな。私は時間をかけてフィルバートの歪んだプライドを刺激し、意固地にしてやった。奴が自分から絆を断ち切ってくれた瞬間に、私の勝利は確定していたんだ!』

笑い声が一層高まっていく。マーシャルの体内には腹黒い悪魔が潜んでいるに違いない、誰もがそう思うほど不気味な声だった。

『異世界人について膨大な研究を積み重ね、ついに召喚に成功した。異世界の神が私に応えたんだ! 私が周囲とは一線を画す存在である証拠だっ! 私こそ真の王族、高貴なる魂の持ち主っ!!』

『お前の魂は、高貴などとは対極にあるものだ』

ルーファスがぐっと声を低くした。

『この世界の神が、お前の野望を阻止した。社会の常識を無視し、人々を危険に陥れるようなならず者を、我らの神は決してお許しにならない』

『この世界に神などいないっ!』

マーシャルの顔から笑みが掻き消え、激しい怒りがみなぎる。

『この世界には神なんていない……いたら私を見捨てるはずが……酷い仕打ちをするはずがないんだ。私は平民なんかじゃない、誰も存在を知らないだけの王族なんだ……っ! 王位を取り戻すために、異世界人のとてつもない力、未知なる力を利用するしか──』

『ルーファス殿下、祭壇も作りかけの召喚陣もバッチリ壊しましたよ。笑い声がめちゃくちゃ耳ざわりなんで、そいつボコボコにしましょう。マーカスさん、自慢の拳でやっちゃってっ!』

『おうともよ! いやまてまて、こんな不気味な男を殴ったら俺の拳が穢れるっ!』

場違いに陽気な声が響いた。球の中に得意満面のロアンと、肩で息をしているマーカスが映し出される。

『残念だったなマーシャル。いままでの会話で時間稼ぎをしているつもりだったのだろうが、我が配下の精鋭たちはとっくの昔に隠し部屋を見つけていた。お前の最後の望みは潰えたぞ』

ロアンとマーカスの後ろに、誰かのマントを肩から掛けられたセリカがいた。彼女はぐったりしているリリィを支えている。その周りに屈強な兵士たちが弧を描くように立っている。

マーシャルが深い絶望に取り憑かれたような顔になった。彼は「くそっ」と叫んで額を床にぶつけた。

『すべての時間と労力、努力が無駄になったのはセリカのせいだ……ちょっと魅了魔法が使えるだけの、何の価値もない異世界人め。頭が悪く、浅はかで能力も低い女め。お前は本当に役立たずだ。召喚されてきたのがお前でなければ、いまごろ欲望のままに世界をむさぼり尽くせたのにっ!』

怒りに満ちた叫びを耳にし、セリカが傷ついた表情を浮かべた。マーシャルの突き刺すような茶色い瞳に見つめられて、彼女は身がすくんだようになっている。

ルーファスがぐいっとマーシャルの胸ぐらを掴んだ。

「セリカ……」

麻痺したように動かなかったフィルバートの口から、小さなつぶやきが漏れた。