軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48話 狭い部屋の中で

「あー…… マジで、疲れた……」

疲れ切った顔で遠山が、宿屋の部屋に戻る。

まだ2日もいないはずのその部屋は妙にほっとする感じすらあって。

あの後はもうてんやわんやだった。

ジジイとメイドには変質者扱いされるわ、ドラ子はなんかくねくねモジモジして全然話にならないわ、変態ドラゴンの方はこっちを黙って見つめるだけで完全無視だったし。

「おつかれ、ナルヒト、 なにがあった、とは聞かない方がいいかな」

椅子に腰掛けたラザールが声をかける、表情からして外で何があったか勘づいているようだ。

「そーしてくれると助かる、一応ドラ子は保護者に引き取られて変態ドラゴンもなんか一緒に帰っていったよ」

ラッキーだったのは手に負えない存在達が割と素直に帰ってくれたことだろう。

変態ドラゴンが爺さんと何か話していた、かと思えばこの世の終わりのような表情をした爺さんが頷き、変態ドラゴンはニコニコとしているような奇妙な光景のあと、みんな仲良く帰宅していった。

あの竜大使館には今頃、竜が2人同じ屋根の下で過ごしているのだろう。強く生きてくれ、竜大使館の人たち。

遠山は投げやりに祈りを終えて、椅子に座り込む。どっと一気に疲れが噴き出てきた。

「そ、そうか、中庭の方からとんでもない威圧感が膨れてると思ったが…… まあ、無事で何よりだ、ん? まさか、全知竜、いや人知竜まで来てたのか?」

「ああ、気づいたら水桶に入ってた」

「頭が痛くなってくるな、もうその辺は竜殺し殿にお任せするよ」

ラザールが戯け手を振る、遠山は薄目をあけて軽口を返す。

「アホ言うな、俺のものは俺のもの、俺の苦労はお前の苦労、だろ?」

「そんな不平等な約束をした覚えはない」

ラザールがしらーっと目を細めてにべもなくつぶやいた。剛田商店の倅のようにはいかないようだ。

「に、兄さん、も、もうアレ、いない?」

「お、ルカ、どした、お前」

おどおど。帽子を被った中世的な少年、ルカが涙目になりながら遠山へ声をかける。

ベッドのシーツをかぶり、くるまって顔だけ出しているその姿はなんかそういう生き物のようだった。

「い、いや、だって、そと、そとに、さあ」

「さっきからこの調子なんだよ、ラザールの旦那が顔色悪くしてるのと同じタイミングでルカまでこうなっちまった。おい、ルカ、兄貴も無事戻ったんだ、もう落ち着けって」

「り、リダ、リダはわからなかったの? 外になんか、ヤバいのがいたのに……」

「え? 何のことだ?」

竜の気配を感じていたらしいルカと正反対に何も気づいてないリダ。

遠山は対照的な2人を眺めてつぶやく。

「ほーん、ルカ、お前やっぱ色々鋭いんだな」

「もう。どうしたのよ、ルカ。ペロとシロたちを見なさいな。すやすやよ、すやすや。あなたも疲れてるのならすぐ寝なさい」

同じくニコやペロシロもその辺の気配は感じ取れなかったらしい。この辺は素質や適性の問題なのだろう。

遠山は子供達の適性を無意識に振り分けていく。

「そうか、電気ねえから日が落ちたら寝る感じになるわけだ」

気付けば窓の外には闇が降りている。部屋の灯りは潰れかけの蝋燭と、それを光源にしたカンテラだけだ。

「でんき?」

遠山の言葉にニコが首を傾げた、電気という概念はやはりないようだ。

「なんでもねえ、こっちの話だ。まだ起きてる連中だけでいい、少し色々話がしたい、今日あったことをな」

遠山は硬めの椅子に腰掛けて、ゆっくり話を始める。長い1日となった今日の話を。

ギルドでの一悶着、門番とのいざこざ、切れ物の商人との出会い、大蛇の狩り、騎士たちとの争い、がめつい主教との取引、そして竜たちの話を。

こどもたちは時に目を輝かせ、時に慄き、時に怯えながらも遠山とラザールの話に耳を傾かせ続ける。

日が傾き、夜の闇が訪れてもその日その部屋には話し声が続く。

遠山とラザールの冒険の話、それはスラムに生きる彼らにとって信じられないほどたのしく、心躍らせるお話だった。

「ほへー、すごーい、それで、それで?! おにーさん首絞められて死んじゃったのー?」

いつのまにか目を覚まし、ベッドから這い出て起きていたペロが目を輝かせて物騒な話をせがむ。

「おばか、ペロ。そしたら兄貴さんはここにはいないわ、そうでしょ?」

ニコが笑いながらペロを嗜める、しかしその声色も明るく。

「あ、アニキ、続きを、続きを聞かせてくれ! その、ストルって奴、どうやって倒したんだ?」

リダはわかりやすく興奮した様子で遠山に続きを求め、

「いや、それよりラザールさんの骨の竜が気になる……」

ルカもじっくりと話を聞いていた。

冒険の話、ここではない、自分ではない誰かの冒険譚がなぜ人をここまで惹きつけるのだろうか。

それは多分、誰しもがそれを心のどこかで望んでるからだ。

自分にも別の生き方があったのではないか、自分だったらどうするか。己の常識の外、安全ではない時間を過ごすこと。その昏い愉しみを人間は多かれ少なかれ心のどこかで望んでる。

「あー、ラザールのアレはビビった。目覚ますとよー、なんか馬鹿でかい骨のトカゲみたいなんがいてよ」

「驚いたのはこっちのほうだよ、あれだけ泡を吹いて顔も真っ青、死人の顔だった男が笑いながら起き上がるんだからな。マーヤジーアの奥底にいる死人かと思ったさ」

「地獄の底的な表現か? 何言いたいのかだけはわかるよ」

そして、遠山とラザール。2人の冒険者もまたたのしげに、まんざらでもなさそうに死にかけた出来事を話す。

人は冒険譚を聴くのも好きだし、話すのも好きだ。

それはやはりその本質が、危険を冒すことにより繁栄してきた種族、その所以なのかもしれない。

「すげえ…… でも、待てよ、兄貴たち、たった1日でかなりヤバい目に遭ってるんじゃ……」

「……たしかに。普通の人間なら確実に午前中で死んでる気がするけど」

「まあ、ほんとだわ! だ、だめよ! アニキさん。ラザールさん! あなた達が死んだらとても悲しいもの! 私、きっと泣くわよ!」

「そーだねー、やだなー、2人がいなくなるのはさー」

子供たちは冒険譚に目を輝かせながらも、彼らにすらわかるその綱渡りの1日に慄く。

遠山も今更ながら、長い1日を振り返りかなりやばかったことを改めて自覚した。

「あー…… わり、少しはしゃぎすぎた。その、すまん、ラザール。俺がもう少し考えてりゃ、ここまでヤバい目に遭ってなかったかもしれん」

死んでもおかしくなかった。それは自分もラザールも同じだ。

あの時、あの門番を始末したのは完全に自分の独断、後先をあまり考えず、誰にも目撃されずに殺せるという判断だけで始末した。

その結果が今日という1日だ。何かを間違えていればここにラザールも自分もいなかったかもしれない。

この子供たちはいつ戻るかもわからない自分達をずっと、この狭い部屋の中でーー

「ふ、ふふふ、ははははは」

遠山の思考を止めたのは、ラザールの笑い声だった。低く、しかし大きなその声。面白くて仕方がないというような。

「わ。お口すごいわ、ラザールさん」

「カッケェ、牙すげえな」

トカゲスマイルに何故か子供たちが目を輝かせる。

まあ、わからないでもない、かっこいいよね、牙とか。遠山はラザールの笑い顔を見てぼんやり考えた。

「おっと失礼、ふ、らしくないな、トオヤマナルヒト、アンタは何に謝ってるんだ」

笑いを収めたラザールが改めて遠山に問う。

「いやだから、あれだよ。そもそもあの門番どもを俺がその、ほっとけばここまでヤバい目に遭わなかったよな、て話で」

遠山が、今実感となって自らを覆う不安を口にして。

「問題ない」

その言葉をラザールが遮った。

「問題ないさ、ナルヒト。俺たちは、いや少なくとも俺は今日、痛快だった。たしかに死にかけたし、今日で全てが台無しになってもおかしくはなかった」

ラザールが深く椅子に腰掛ける、しっかりとしたガタイを年季の入った背もたれが受け止めて、小さく悲鳴をあげた。

遠山は黙る、何故か口を挟めずにいて。

「だが、痛快だった。ああ、生まれてきて今日ほど痛快だった日はなかった」

まっすぐ、その爬虫類の瞳、縦に裂けた瞳孔が遠山を見る。

「え?」

ラザールの低く、しかし弾むような声。

遠山は戸惑いの声を上げる。

「考えてみろよ、ナルヒト。俺たちはこうして生きている、我ら小さく幼くも聡明で賢い仲間達のいるこの小さな部屋に、生きて戻れたんだ。はは、しかもだぞ、あれだけ好き放題に、欲望のままに暴れたうえで、だ」

深く椅子に腰掛けたラザール、腕を組んだまま言葉を続ける。

瞳は爛々と輝き、その声は勢いを増していく。

「俺たちは気に入らないものを始末し、邪魔者を蹴散らし、危機を乗り越えて、この日を終えた。間違いなく俺たちは今日、この冒険都市、いいや、帝国、いや! 世界で誰よりも自由な存在だった」

その男の半生に自由はなかった。戒律の厳しい部族に生まれたその男はすぐ影に愛されたことにより、王国の暗部に取り込まれる。

「お、おお」

遠山は知らない、闇と影と義務の中生きてきたその男にとってどれだけ今日という1日が喜びで溢れていたのかを。

殺す相手を己で決める自由、信頼出来る相手に己の命を託す自由、己の道を己で決めることの出来る自由。

「痛快じゃないか! あの教会が俺たちを認めて譲歩した。あの騎士の連中すら俺たちの命には届かなかった! そして竜達ですら、俺たちの道を阻むことはなかったんだ」

自由に、己の死に方を決めれる自由。

そのどれもが、影の牙、ラ・ザールにとって喉から手が出るほどに欲しいものでーー

「だから、ナルヒト。アンタが言うべき言葉はそれじゃない。謝るなよ。胸を張ってくれ。俺たちは帝国の誰よりも上手くやった2人組なんだ。俺は楽しかったさ。ありがとう、ナルヒト」

だからこそラザールは礼を言う。己にそれをもたらしてくれた友へ。

強く賢く、しかしどこか危なっかしい友人へまっすぐな言葉を送る。

「お、おお、そうか……」

思わぬ言葉に遠山は固まる。

何を言っていいか、何を言われたのかいまいち飲み込めないほど、ラザールの言葉に驚いていて。

「わあ…… 私も! 私もよ! 兄貴さん! 初めて何もしない1日を過ごしたの。お洗濯のお手伝いしたり、お皿洗ったりってとてもたのしいのよ! だって失敗しても誰も死なないんだもの」

ニコが朗らかに、固まっている遠山に身を寄せてぎゅっと抱きつく。

暖かく、柔らかい。遠山はまた固まる。

「お、俺もだ、アニキ。周りを気にせず寝れる場所なんて、ほんとに生まれて初めてで…… 体を洗ったり飯を食うのって、こんなにたのしかったんだって…… それはアニキが俺たちを見つけてくれたからだ」

まっすぐ見つめてくるリダ、その視線から思わず目を逸らしてしまう。

「……俺も、だよ。ほんと、あの時はサイフ盗んでごめん」

ルカが目を逸らしつつもまた、頭を下げる。遠山がおずおずと手を伸ばし帽子越しに頭を撫でると、にへらと年相応の笑顔をこぼした。

「ふふふー、みんながねー、こんなに穏やかなのは初めてだよー、ありがとねー、アニキー」

座っている遠山の背後からペロが首に抱きつく。

「…………おお」

子供たちに囲まれて団子のようになり、上手く話せなくなっている遠山を見て、ラザールが少し笑った。

「ふ、みんな、我らが竜殺しはどうやら照れてしまったらしい」

「うっせ、タコ。……あー、ガキども、そろそろ寝とけ。明日からまた色々これからのこと話したりするからな。俺は疲れたからもー寝る」

纏わりつく子供たちをゆっくりと離して、遠山がぼやく。らしくなく無駄にその言葉はどこか刺々しく。

「まあ、照れてるわ! 照れてるのね、ふふ、どうしようかしら、兄貴さん、普段はあんなにかっこいいのに、今はとてもかわいいわ…… あれ、ほんとにどうしたんだろ、私……」

「おい、お前ら、兄貴はお疲れだ! 寝させてやろうぜ、アニキ、もし子守唄が必要なら言ってくれ、ペロやシロを寝かしつけるのによく歌ってたから得意なんだ」

「気持ちだけもらっとく。このベッド貰うぞ」

ニコとリダの言葉に手を挙げて、遠山は空いてるベッドに座り込む。藁を敷き詰めて上からシーツを被せただけのボロベッド、しかし今はこれでいい。

「……兄さん、一緒に寝てあげようか? おれ、体温高いから暖かいよ?」

何故か顔を赤くしたルカが指先をモジモジしながら俯いてつぶやく。

「それも気持ちだけ貰っとく、寒くなってきたらまた頼むかもな」

「……そっか、わかったよ」

少ししょんぼりしているルカ、こう見ると本当に男か女かわからない。将来はイケメンに育つことだろう。憎たらしい。

「おう、おやすみ、ルカ」

遠山はゴロリとベッドに横たわる。身体を横向きにこどもたちやラザールに背を向けて、窓に映るぼんやりとしたカンテラの火を薄目で捉えた。

「そうか…… そうだな」

そうだ、ラザールの言う通りだ。

欲望のままに。

全てを自由に生きる権利。もともと人間はみんな自由だ。忘れているだけで自分がどう生きようと、どう死のうと全てを自分で決めることが出来るのだ。

生きることとは、つまりそういうことだ。選択の連続で、未来が分からずとも人は選び進み続けなければならない。

たどりつくべきところに辿り着くようにできている。

そして、今日、遠山はたどり着いたのだ。全員を生かし、1日を終えるというゴールに。

それで充分だ。恐れるなどない。

「タロウ……」

冒険がここにある。かつて己と小さなもふもふの友が夢描いたぼうけんのつづきがたしかにここにある。

何故か、遠山は自分の手のひらにその感触が残っていることに気付いた。

そこにいないはずの彼のぬくもりが何故か、近くにあるようなーー

「……ま。その、なんだ。よかったよ、お前らがいい奴らで」

ふっと、遠山は言葉を漏らした。聞こえるかどうかは二の次、ただ伝えたかっただけだ。

「ん? ナルヒト、なんか言ったか?」

「いや、何にも。じゃあ、寝るわ、お疲れさん」

考えないといけないことはたくさんある。新しい家のこと、この町での立ち回り、そしてパン屋のこと。

あの商人ともまた話し合わないといけないだろう。冒険者としての稼ぎもまだまだ必要だ。

日々のルーティン化と、新しい家の家賃の確保、やることはたくさんある。

それに今考えているパン屋の計画、ラザールの腕前と自分の知識を合わせての作戦、だがいまいち自分のパンに対する知識が足りない。

「…………」

知識と力、それがほしい。得るために、失わないために、辿り着くために。

今よりもっと、強くなる必要がある。欲望のままに振る舞うのなら、今のままでは必ず限界がくるだろう。

重くなる頭、目を瞑った瞬間、脳みそにじわりと広がるような眠気。

幼い頃、学校のプール後の昼下がりの授業と同じような眠気に襲われた遠山はすぐにその意識を手放す。

より良い生活を求めるために、力と知識への渇望を思い描きながらーー

遠山鳴人の異世界生活、2日目が終わろうとしていた。

………

……

TIPS? 夢とは人の脳が睡眠中に、記憶の処理を行う過程で過去の記憶や直近の記憶を映像化されるものである。心身の状態が反映される内的なものである。

だが夢には本来その存在が知り得ない情報や、存在しない記憶の映像が流れることもよくある。

果たして夢を見る人間の内側には一体何が棲むのだろうか。

ぱち、ぱち。

「んあ?」

何かが、弾ける音。遠山鳴人は目を覚ました。視界に飛び込んでくるのは光。

ああ、もう朝か? どれくらい寝ていたのだろうかと身体を起こす。

ラザールや子供達の様子を確認しようと辺りを見回すと。

「………あ?」

間抜けな声が漏れる。

誰もいない、いや、それどころかーー

「どこだ。ここ」

ぱち、ぱち。弾けるのは火の音、暖炉だ。レンガで作られた暖炉の中、赤々と激る薪が炎に舐められながら弾ける。

暖炉の灯りが照らすのは、無数の本棚。それが何列にも並び、見通せる範囲全てに広がっている。

遠山が寝ていたのは安くて硬い藁を敷き詰めたベッドのはず、なのに今はフカフカの絨毯の上に座り込んでいて。

「ああ、ようやく目を覚まされましたか。上級探索者殿」

ぬっと、闇から声が響いた。

「っ、誰だ」

「誰だと思いますか?」

鈴を鳴らすような笑い混じりの声。

女だ。

暖炉とランタンの灯りが、彼女を照らしている。

赤ブチ眼鏡に、羽飾りのついた帽子、どこかで見たことのある制服に似た服装。

目を引くのは灰色の髪、てらてらと暖炉の火に映されるそれは奇妙な美しさを併せ持つ。

「……質問に答えろ、トカゲ男とガキンチョどもはどこにいった」

怪しさ全開の登場に、遠山の言葉も鋭く。

「ああ、その点ならばご心配なく。彼らはどこにも行っておりません。アガトラの安宿の一部屋でぐっすりご安全に夢の世界でございますれば。ええ、あなたと同じように」

「同じ?」

「はい、あなたがたはどこにも行っておりません、あなたもね。ここは、あなたの夢の中、起きている時に見る夢ではなく、眠っている時にしか訪れることの出来ないあなた自身の心の中にございますれば」

女が笑う、女が囁く。

遠山鳴人の夢の中の住人が主人に向けて微笑みを向ける。

空席は複数、その1つを埋めた存在。

天使に侍りし複数の力たち。その中で1つを担当するその女。

「……疲れてんな、妙な明晰夢まで見ちまってる」

「ふふ、ええ、その通り。ここはあなたの夢。現実ではない空間。どうぞお気楽に、無警戒に、無思考に、愚昧に振る舞って頂ければ幸いです」

眼鏡の奥、ガラス玉のような瞳、髪の毛と同じ灰色の瞳がチェシャ猫のように歪んで。

「………お前。誰だ」

遠山は問う、己の夢の住人へ。

これが、遠山鳴人にとってはじめての夢の住人との邂逅。

試練に挑む者、試練に魅入られた者の夢には常に奴らが棲まうのだ。

ゆめを、みる。それは人類、ホモ・サピエンスが遥か昔から外界へ立ち向かうために備えた防衛機構。

人は、夢の中、試練に備えるのだ。

夢の住人が腰を折る、薄い胸に手をあて90度腰を折り曲げる儀式礼のような姿。

「私は…… ハーヴィー。知識の眷属、ハーヴィーと申します」

その空席は埋まった。女には資格があった。かつて化け物と揶揄された女には空席を埋めるにふさわしき才能と、力があった。

「どうぞよしなに、我らが夢の 主人(あるじ) 殿」

ばちり、一際強く暖炉の薪が弾けた。