軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

148話 人知の竜VS耳 その1

「ああ、全く面倒だねえい。ほんと、ゴキブリのようにどこからでも沸いてからにさあ……やはりこの世は敵ばかり。くだらないねえい」

現れた黒衣銀髪の魔女。

魔術の祖にして、決してその怒りを買ってはならない竜の一頭。

「さて――」

こきっ、美しき銀髪の魔女が細く白い首を鳴らして。

「まず、君は少し静かにして貰おうかな?」

「OHHHHHHH!?」

一瞥。

銀髪の魔女がそれだけで耳の怪物を水の牢屋に閉じ込める。

「OH,PUKAPUKA、CHAPUCHAPU……UMM? A,GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!??????」

最初は水球の中で呑気に泳いでいた耳の怪物、しかし、一気に悲鳴を上げて、黒焦げに炭化し始める。

「王水牢。水の中に閉じ込めても死なない者を足止めする為に作った術式だ。肉体の水分と反応して焼き焦げる気分はどうだい?」

縦に裂けた瞳孔が、耳の怪物を見つめる。

彼女の苦い記憶――ある恐ろしい存在との戦いの反省から作った魔術式。

「さて、これでしばらくはお話が出来るねえい。王女さんに、英雄君?」

「話が、違うぜ……」

「あ、あ、あ、な、なんで」

英雄と王女は、今、はっきりと自分達の敗北と死亡の可能性を認識していた。

この女、この竜だけはまずいのだ。

そもそも、この竜狩りの計画は、人知竜とあの鬼人たる鬼人をいかに帝都外に追いやるかが肝だった。

この2人がいる時点で、話にならない。そんな存在なのだ。

「ど、ど、どうして、ここに、ジーアマーヤ樹海に転送したのに」

「ああ、君、まだ自分の権能の全てを使いこなせていないのか。君がこの怪物から幸運を使って逃れようとしただろう?」

「えっ」

さらっと返す人知竜、フォルトナは呆気にとられる。

「あのおかげで幸運はこのボクを呼び寄せた。正しいねえい。この世界では最もこの化け物と戦うのが上手なのはボクだろうから」

「ANNGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」

耳の怪物の悲鳴をバックコーラスに決して敵に回してはいけない竜が笑った。

「君は自覚的に幸運を扱う事で権能を手に入れた、だが、残念だね。これまではほぼ世界のシステムに近い無敵の能力だったのに、己の権能としてデザインしたせいで、幸運の挙動の理不尽さはかなり減少しているね。ああ、良かったよ、王女さん」

フォルトナが、この事態を呼び寄せたのだ。

大いなる災いを退けるために、より大いなる禍を呼んでしまった。

「その能力を持っているのが、君のような普通の人類で安心した」

にっこり微笑む竜。

「本当に、あいつじゃなくて良かったよ、おえっ、吐き気がしてきた」

人知竜が、戦場を見つめる。

「AAAAAAAAAAAA!! DORYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

ばしゃあああああああああん!!

王水で出来た牢が始める、酸化して真っ黒こげに焦げたお耳ボディが、ころころと転がって。

「reborRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRNNNNNNNNNN!! GAHAHAHAHAHAHAHAHAHA、gyAAAAAAAAHAHAHAAHAHA!!」

そのまま大笑いしながら、一気に再生、つるぴかすべもち肌のお耳に元通り。

「ああ、全く笑えるねえい、そのでたらめな再生能力。だが、馬鹿みたいに再生する化け物の相手はもうこれで二度目だ。君にあまり恨みはないがね、耳の怪物」

ひゅ、ぱしっ。

どこからか飛んできた魔術師の杖。

先端に紅い宝石が具わったねじ曲がった杖を魔女が構えて。

「これは――奴あたりだ。もはや叶わぬリベンジマッチ、キミであの屈辱を果たさせて貰おうかねえい」

「さあ、どれからやるべきかねえい」

小さく笑う。

王女、英雄、魔女、耳。

三すくみで四つ巴の戦い。

「まあ――」

「GYAHAHA」

魔女が首を傾げ、耳が同じく耳を傾げ。

「全員殺すか」

「GYAHA!!!」

同時に嗤う。

「ひっ!!?? ウィス!!」

「分かってらァ!! しゃがめ、馬鹿姫! 死ぬぞォ!!」

「術式、仮説構築開始」

「GYAHA!!」

魔女が、魔術式の構成を編む。

世間一般の常識として、魔術師が扱う異常の術、その行使には呪文と術式の構築という手間を挟むため、接近戦では不利、それが定石ではあるが。

「OBU!?」

ゴン!!

耳の怪物が、一歩を踏み出したその瞬間にはもう地面が変化し、巨大な腕となって耳の怪物を握りしめ、潰していた。

肉片と赤い血が草原にしみこむ。だが、同時に。

「YEAAAAA!」

ぼんっ。魔術式によって生まれた土の腕は破裂、半分ほどぺちゃんこになったままの耳の怪物がそのまま魔女に向けて狂ったように走り出す。

耳の怪物が振るうは大力、それは指先1つで竜の命に届きうる恐怖の力で。

耳の怪物の腕が伸びる、魔女の細い首をねじ切ろうとするその腕はしかし、

一撃。

魔女の細腕が、耳の腕を絡めとり、そのままねじ折った。

「このボクが、苦手をそのままにしておくとでも?」

「GYA??」

耳の怪物は、初めて迷った。

自分とは距離を置きたいはずの魔女が自分の眼前に迫って――。

「君達のやり方は知っている、不死に任せた考えナシの突撃、突貫、突進、頭が悪すぎて吐き気のする戦術だが――認めよう。その戦術はやり切る事が出来ればこれ以上ないほどに脅威だと」

魔女が杖を振りかぶる。

そして、一言二言。

「是は、ボクの恐怖の容。しかし、同時に――勝利と強さの記憶でもある」

杖の容が代わる。

それは刃を持っている。

それは柄を持っている。

それは片側の刃である。

それははまぐり刃である。

それは――斧である。

「術式仮説構築完了――前進の手斧」

人知竜が振り下ろした斧が、耳の怪物を真っ二つに断った。

「すぷぷ。最悪」