作品タイトル不明
134話 同族の時間
「よし、じゃあまあそういうことで! 手筈通りに!」
ごにょごにょ。
素直なドラゴンになった人知竜と話し合いを終える。
もしも、緊急事態が起きた時の備えだ。
「……マジか、こいつ」
その、あり得ない要求にカノサがぼそりとつぶやいて。
「すぷぷ。ああ、わかったとも。みんな、話の通りだよ。ボクからのお願いだ。もし、コトが起きれば、トオヤマくんの言葉通りの対応をお願いするねえい」
「「「「「は、我らが母よ」」」」
人知竜の言葉に、騎士鎧の魔術師たちが片膝をついて跪く。
考え得る段取り、準備、全て終わった。あとは、もうやり切るだけだ。
「 鳴(・) 人(・) くん」
「あ?」
ふと、人知竜の呼びかけ。顔を上げると、彼女の寒気のするほどの美しい容姿が。
涙袋がぷくりと膨らんで、口がもにょもにょ。その表情、なぜだろう、少し、ほんの少し懐かしい気がして。
「頑張ってね」
彼女が笑った。
「お、おお。アンタもな、人知竜。うちのボスを頼んだ」
「すぷぷ」
遠山の返事に微笑みながら振り返り、主教を連れ立って去っていく。あちらは大使館の中庭の中央へと続く道、貴賓席は向こう側。
「いよし、行くか」
そして、遠山の向かう先は別の方向。冒険者たちが連れ立って一定の方向へ向かっていく。
自然と進む足、遠山は1人で人の波に混じっていった。
【キリヤイバカウントが進行します。……白い血は既に貴方の全身に広がりました。あなたの体はよく霧に溶けることでしょう。新たなる遺物の拡大解釈に辿り着きました】
◇◇◇◇
「蒐集竜さまの狩猟大会、入り口はこちらでーす、地下への道になっています! 順番にお進みください!」
「あ、この誓約書にサインもお願いします! 怪我、欠損、死亡した場合には竜大使館からご遺族に弔慰金が見舞われまーす!」
「参加資格のある方は冒険者ギルドに登録されている方のみになります! また一級冒険者以上の資格の方は、別の入り口へお願いします」
「これ全部冒険者か……凄い数だな」
しばらく冒険者たちの人の波に乗って歩いていると、見覚えのあるウェイトレス衣装の女性たちが声を張っている様子が確認出来た。
「参加希望の方ですか? こちらへお並びくださいね!」
「あ、どうも」
ニコニコ笑顔の彼女たちは、冒険者ギルドの受付たちだ。竜大使館の仕事に、ギルドは協力しているらしい。
中庭の隅っこ、人の波が進む道はどんどん下っている。よく見ると、地下道への入り口のようなものが先に。
「おい、アイツ……」
「黒髪に、細い目、それに竜細工のローブって……」
「あの履物……噂だと魔術学院に造らせたとか」
「俺はドワーフの工房を脅して出させたって聞いたぞ……」
「蒐集竜のカイビト……」
「塔級冒険者と依頼で揉めて、それを追い払って聞いたけど」
「嘘だろ、そんなことできるかよ、塔級っていや、ヘレルの塔を自由に行き来するような化け物だろ?」
「え、魔術学院の全知竜と一緒にギルドに来たって……」
「教会騎士や主教を手籠にしてるらしい……」
「いや、あの銭ゲバさんはないだろ」
「ああ、確かに……」
ひそ、ひそ、ひそ。
辺りの冒険者からの視線を感じる。だが、今までのものと違って剥き出しの敵意や害意ではない。
【あなたの脅威度、知名度が一定値に上昇した為、力量の乏しい者との戦闘やトラブルは非常に起きにくくなっています】
なるほど、これは便利だ。
遠山はメッセージを眺め、これまでこの街でそれなりに色々なことにケジメをつけてきた甲斐があった。
「噂される立場ってよお、存外悪い気分じゃあねえよなあ」
ぞっと、背筋の痺れが脳へ。
何も、気付かなかった。後ろに人が立っていることなど……。
「……俺に話しかけてんのか?」
「おお、よくわかったなァ……よお、久しぶり、竜殺し殿」
聞き覚えのある声、視線だけ後ろへ。
黒いパツパツの執事服に、逆立つような赤い髪。目鼻の整った凶暴そうな顔の男。そして、腰には、 兜(・) 、(・) バ(・) ケ(・) ツ(・) ヘ(・) ル(・) ム(・) が(・) な(・) ぜ(・) か(・) ぶ(・) ら(・) 下(・) が(・) っ(・) て(・) い(・) て(・) 。(・)
遠山は、この男を知っている、屋敷であの女と一緒にいた奴。
「……名前も知らない相手と気軽に話せるほどコミュ力、たくないんだよ」
「あ〜わかるぜえ、その気持ち。馴れ馴れしく話しかけられても何話して良いかわかんねえよなァ……どうも、改めて、ウィス・ポステタス・ヘロスだ」
「……トオヤマナルヒトだ」
「トオヤマナルヒト、珍しい名前だな。どこの出だぁ?」
間延びした声はしかし、はっきりと。いつのまにか立ち止まっていた遠山たちの周りを冒険者たちがそこだけ避けるかのように進んでいく。
「……ポステタス」
「ああ?」
「突っ立てると他の人の邪魔になる。列に並んで歩こうぜ」
遠山の言葉に、赤髪の男が一瞬、キョトンとして。
「ーーぷっ、ぎゃはははは!! ああ、確かにィ、そりゃそうだァ。お前の言う通りだなァ。ちょうど俺様も、狩猟大会に参加するつもりだったしなァ」
ひとしきり笑ったあと、ゆっくり歩き始める。
重心が全くぶれず、いつ歩き出したか気配ですら分からない。
ーー幸運と英雄。
あの予言の内容が頭で反芻されて。
「冒険者なのか?」
「ああ、この前登録してきたァ。全然仕事してねえからまだ4級だけどよォ」
並んで歩き出す2人。遠山より頭2つほど大きな身長、ガチガチの白兵戦は不利そうだ。
「奇遇だな、俺も4級だ。中々仕事に集中できなくてよ」
「あらら。忙しいのかねェ」
「ああ、忙しい。……この街に来てから、いろいろトラブルに巻き込まれ続けててな」
コツコツコツ。いつのまにか、地下へ続く道はかなり暗く。
「へえ、どんなァ?」
少し、ヘレルの塔の回廊に似ている。壁にかけられている松明が道を下る冒険者たちに影を落としていく。
「竜の屋敷に連れて行かれたり、スラム街ではチンピラに絡まれたり、街では騎士に処刑されかけたり、バカ強い化け物に殺されかけたり、とかーー」
「ふうん……」
遠山の言葉に、ウィスと名乗る男が顎を撫でて。
「ああ、後は……この竜祭りで、殺されるかも知れねえとか」
ぼそり。
遠山が舌に毒を乗せて。
「ーーへえ、そりゃあ、穏やかじゃあねえなァ……」
にいっと、ウィスが笑う。
「ああ、全くだ。……今日は連れはいないのか? フォルトナ・ロイド・アームストロングは」
「おお、こりゃあ、アレだな。お前に駆け引きで挑むのは無謀らしいなあ。よく知ってんじゃあねえかァ……どこまでわかってんだ?」
「さあ。なかなか今回の敵はいやらしくてな。いつもみたいに即ぶっ殺して終わり、とはならないのが厄介なんだ。竜の懐に入るとは恐れ入ったよ」
「おお、竜殺しにそう評価されるとは、うちの姫様も捨てたもんじゃあねえらしいなァ……いいのか? 警戒対象にこんなに簡単に接近されてよお……」
まるで、いつ溢れるか分からない水の溢れそうなコップの表面のような会話だ。
互いに既に、必殺の距離。
でも、2人とも並んで歩き続ける。
「ああ。むしろそっちのが楽だ。敵がはっきりしてわかりやすい」
「……やりにくいなァ、お前」
「そりゃどうも。で、用事はそれだけか?」
「いや、むしろここからが本番かなァ……」
人の波が、止まる。
「あ、おい、見ろよ、出口か?」
「光が……」
「なんか、聞こえねえか?」
周りの冒険者たちがざわめき始めて。
「「「「ワアァァァァァァアアアアアアアアアアア」」」」
圧を待つかのような声量。びり、びり、びりと。
「冒険者の皆様、どうぞ、前へ」
先導していたギルドの職員が、出口へ、光と声の響く方へ導く。
「い、行くか……」
「ここまで来たんだ、行くしかねえよ」
「蒐集竜さまの御前試合だぞ。活躍すれば一気に有名になれる……」
冒険者たちは、前へ。
遠山とウィスもそれに混じって前へ。
そこは。
「ウオオオオオオオオオ! すげえ、冒険者だ! めっちゃいる!」
「ローク! 頑張ってー! 死なないように頑張ってねー!」
「あ! おねーさん! 俺、麦酒ひとつ! 食べ物は……あ〜あの、リザドニアンのパン屋の不思議なパン食わずに取っとけばよかったわ〜」
「賭けだよ〜賭けれるよ〜狩猟大会の優勝者で賭けれるよ〜」
そこは、闘技場だ。
円形の舞台には砂が敷き詰められ、冒険者たちの歩みで砂埃を舞わせる。
舞台をぐるりと囲む高い壁には観客席がずらり。アガトラの住民たちが興奮ぎみに騒ぎ、笑い、酒を飲む。
段差をつけて上に上に登るような作りのそれ、高い場所ほど客の衣装が豪華になっていっているような。
「あ」
目を細めていると、最上階になんとなく見覚えのある連中の姿が見えた。銭ゲバたちは無事、貴賓席とやらに入れたらしい。
「なあ、トオヤマナルヒト、いい街だよなあ、ここ」
「……」
不意にかけられたウィスの声に遠山は無言で答える。
「色んな奴らが色んな理由で生きているよなあ。ヒューム、獣人、ハーフリング、ドワーフ、ハーフエルフ。その中には悪い奴もいれば良い奴もいる、夢や野望、あるいは平穏、それぞれ求めるもんがあって、それぞれがそれぞれの人生を必死で生きてる」
「意外だな、そんなこと考えるタイプなのか?」
「俺サマぁ、こう見えて理知的な方でなァ……。んでよお、冒険都市はやっぱいい街だぜ。色んな奴らがたくさんいて、でも、たった一つの強力な法則に従ってる、面白え街だ」
「法則? なんの?」
「あー、そりゃあ」
ウィスが口を開いて。
「お集まりのみなさま!! 本日は、竜祭りのめでたき日にようこそ! 我が主人の館へお越しくださいました!」
突如、頭上から響く声。
冒険者たちが、一斉に上を見上げる。
ふわり、ふわり。足場が浮いている。そこに女がいた。
「あれは……」
「おいおいおいおいおい……あのバカ姫、そんな打ち合わせしてねえぞ」
遠山とウィスが似たような顔、なんか苦い食べ物を口に入れられたような顔をして。
「だ、誰だ……?」
「綺麗なメイドさんだ……」
「わかる、なんか、高貴っていうか……」
「冒険都市の皆様こんにちは! 冒険者の皆様、初めまして! わたくし親愛なるアリス・ドラル・フレアテイル様の元で、侍女見習いをさせて頂いております、フォルトナ! 王国、第三王女のフォルトナ・ロイド・アームストロングと申します!」
「は、お、王国……?」
「第三王女のフォルトナ様だと……?」
「いや、バカな、そんな話……王国からは何も……」
「だが、あの南領のティーチ家が事情を知らずに招き入れるとも思えんぞ」
「貴族両院と王国で内密に話をしてたんじゃないか?」
ざわり、ざわり。観客席がざわめく。下層の席の人々はその女の容姿を、上層の人々はその女の肩書きを。
そのどれも驚嘆として受け入れられて。
「あらあら、ふふ。ごめんなさい、驚かせてしまいましたね。竜祭りを皆様に楽しんでもらうため、無理を言って内緒で遊びに来てしまいました! アガトラのみなさーん! きっと、 ほ(・) ん(・) の(・) 少(・) し(・) の(・) お(・) 付(・) き(・) 合(・) い(・) に(・) な(・) る(・) で(・) し(・) ょ(・) う(・) け(・) ど(・) 仲良くしてくださいねー!」
流水のような麗しさの緑の髪、星型の虹彩、クリクリと丸い瞳は人懐っこく煌めき。黒と白のメイド服、頭にちょこんと乗せたカフスが似合う。
王族の持つ選ばれた血により醸造された人の美を彼女は持っていて。
「なんか、なんか、いい……」「ああ、いい……」「好きかも」
ひまわりのような微笑みに、ぽーっとする市民たち。
「うわ……」
「うわ……」
チベスナと苦労人だけがまたなんか非常に不味いものを無理矢理口に入れられたような顔を。
「はーい! じゃあそういうことで今からわたくしが、この狩猟大会の説明をさせていただきますねー!」
「「「ワアァアアアアアアアアアアアア!!」」」
「はい、ありがとうございまーす! いい街ですねえ、冒険都市、さすがはアリスお姉様の棲家! 蒐集竜さまの街です! では、お集まりの皆様! コロシアムをご覧ください! 今、皆様が眺めておられる方たちを! 万夫不当、己の腕と実力のみで今日の糧と明日の栄誉を求めるアウトロー、冒険者の皆様です!」
「がんばれー!」
「儲けさせてくれよおおおおお!!」
「あれ、チルドはどこ? あ、いた。ウケる……大丈夫かな」
観客たちが冒険者へ注目を。
「ポステタス、ひとついいか?」
「おお、どうしたァ、トオヤマナルヒト」
「狩猟大会って、具体的に何するか知ってる?」
「……お前も大概だなァ」
「狩猟大会のルールは単純明快そのままです! コロシアムにいらっしゃる冒険者様は、ただひたすら、一心不乱に自らの存在意義を果たして頂くのみにございます!」
「存在意義……?」
フォルトナの言葉に、遠山がぼやいて。
「はい! その存在意義とは……おっと、こほん。ふふ、でしゃばりすぎちゃいました。いい街ですね、アガトラ。ついついこちらも気持ちが盛り上がってしまいます。あとのご説明をお願い出来ますか? ーーアリスお姉様」
フォルトナの言葉、そのすぐあと、人々は不思議と口を噤んだ。
本能がそうさせた。
「ふかか、良い。くるしゅうない」
「お、あ……」
「わ、あ」
「ままー、みて、とても」
「あ、あ」
「きれいだねー」
アガトラの人々はみんな、彼女のことを知っている。
ふわりと浮かぶ大理石のような石の足場がもうひとつ。
「待たせたな、皆。すまぬ、許せ。少し用事が長引いた。アガトラよ、そこに住まう人よ、オレ、だ」
「「「「「「「「「「」」」」」」」」」」
竜。
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
「良い、楽にせよ。オレの街のヒトよ。今日は良い日だ。仕事や遊び、日々によく励み、よくぞ今日という日まで生き延びた。よくぞオレの家にまで辿り着いた。褒めてつかわす。誇れよ、子に伝えよ、孫に伝えよ、己はその目で竜を見て、竜の言葉を賜った、と」
金色の髪、白磁の肌、蒼い瞳、暴力的な、人ならざる美貌。
アリス・ドラル・フレアテイル。蒐集竜がここに。
ーーわーー
割れんばかりの大歓声、再び。ヒトのどうしようもない魂の部分が叫ぶのだ、ヒトのどうしようもない根源の部分が感涙に咽ぶのだ。
あれこそが、竜。彼女こそが、竜。
我、竜を見たり、我、竜を聞いたりと。
ものを知らぬ子は、今初めて己の心臓がここまでに熱いのだと知った。世に慣れた大人は今久しく己の心臓がなんのためについているのかを思い出した。
竜。
その存在に、ヒュームはどうしようもなく焦がれるのだ。
「うおお、ドラゴンムーブすげえな」
そんな圧倒的な熱の中、遠山鳴人が友人の様子を見上げてボヤく。
改めて、本当に今更のことながら思い知らされる。
ここは、自分の世界ではないのだと。
「ーーっ」
竜と目が、合った。
「あ」
と思ったらふいっと逸らされた。
少し、遠山は傷つく。だが
「あの野郎……いいぜ、そっちがそのつもりなら嫌でも直接会いに行ってやるよ、ドラゴン」
謎の闘志を胸に遠山のモチベーションがアップする。
「こほん。さて、なんの話だったか……おお、そうだ、そうだ。今日の催しの話よな。そう、存在意義だ。冒険者よ、オレは貴様らが、そうさな、嫌いではない」
その言葉だけで、アガトラ出身の冒険者の何人かがなんか、倒れた。
「矮小な身、限りある命、乏しい技術でそれでも己よりも遥かに強大な存在に挑み、それを狩り、糧にする。良い、定命の者の持つ輝きの本質とは、それだ。不可能に挑むその気概にこそ、オレは価値を感じている」
響く竜の声。
これだけ人がいるのに誰しもが息を呑んで、一言も漏らさない。
「故に、示せ」
その姿を、その言葉を焼き付けようと、人が竜だけを見つめて。
「故に、魅せてみろ。この祭り、我が狩猟大会で貴様らに望むことは2つだけだ」
縦に裂けた竜の眼がヒトを、危険を冒す者を眺めて。
「狩れ、そして、生き残れーー以上だ。フォル、あとは任せた」
「はーい! 承知いたしました! それでは冒険者の皆様! 狩猟大会の概要掴めましたか? 今のアリスお姉様の言葉が全てでーす!」
がこん。
がこん。
がこん。
闘技場の四方から、音。
それは扉が開いた音だ。
「え?」
「お?」
「あ?」
「なるほどね」
「バカ姫め、全部説明しとけや……」
「冒険者の皆様! これからたくさんのモンスターがコロシアムに投入されまーす! 狩猟大会のルールは2つだけ! たくさん狩って!ーー」
「うるるるるるるるるるる」
「ロロロロロロロロ」
「ギュゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」
もちろん扉から出てきたのは、モンスター。
四つ足の獅子に似たモンスター、長い鼻と鋭い牙を持つモンスター、そして、二本足の一つ目の象のようなモンスター。
それが何匹もうようよとーー。
「ーー最後まで立っていた方の優勝でーす! あ! 公平を期すために、ヒトをやめてる領域にかかるレベル3、一級冒険者以上の方はこの後の御前試合のみに出るようにしてますので、2級以下のみなさんで頑張ってくださーい!」
「え、え?」
「じ、陣形を組め! モンスターだ! いつも通りにやれば大丈夫だって!」
「い、いやいやいや! いつも通りって! これ、これさあ! 囲まれてるじゃん!!」
「え、うそ、うそ、も、もう始まるの? うそ」
ここに、一級冒険者以上の人外はいない。ある意味、真っ当な反応だ。
突如現れたモンスター、しかも。
「テラコレオに、シャードノーズ、それに、ラトラカーン!?」
「待って!? 一級のモンスターじゃねえか!?」
「き、聞いてねえってーーそんなの!」
これが、普通の反応。元々ヒトは化け物に怯えるように出来ているのだから。
「グラオオオオオオ!!」
「う、うわああああああああ!?」
怪物が、よだれを撒き散らしながら、冒険者へと迫って。
「ぐぎゅ」
「びゃえ」
だが、それよりも、早く。闘技場のある地点にて、2匹のモンスターの息の根が止まった。
「え?」
観客席の多くの人は目を丸くして固まる。一部のヒトは特に驚かず、ある者はにやつき、ある者は額を抑え、ある者は目を細めて。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
「ぎゃはははははははははは」
嗤い声。
そうだ、モンスターが恐れる存在とは、つまりこういう奴らだ。
まともではない奴ら。
嗤う、奴らだ。
「いーね。シンプルでわかりやすくて簡単だ。最近、頭使うイベント多かったからよー、こういうのでいいんだよ、こういうので」
ず、ず。欠けたヤイバを目玉に突き刺された二本足の象のモンスターがゆっくりと崩れ落ちる。その身体から青い血を垂れ流して。
白いキリが一瞬で、モンスターを。
「さて、久しぶりの運動だァ、塔級どころか一級もいねえのは退屈そうだがァ、まあいいかァ」
首を捻じられ、ぷらんぷらんにさせられた獅子のようなモンスター、そして長い鼻をちぎられたバクのようなモンスターも倒れ伏し。
英雄の膂力が一瞬でモンスターを。
互いに屠った獲物の死骸を足蹴に、既にその目はこの場で最も危険な存在をとらえている。
遠山の細い目がウィスを見る。ウィスの赤い燃え盛る炎を閉じ込めたような眼が遠山を見る。
遠山が、ウィスが、同時に感じる。この場で最終的に残るのはーー。
欠けたヤイバの鋒が、血に濡れた英雄の人差し指が互いを交互に差して。
「「ーーお前は最後だ」」
同時に、キリが、力がモンスターへと狙いを定めて。
「ふふ。それでは! 狩猟大会、スタートです!」
竜祭り、2日目が始まった。