作品タイトル不明
135話 バトル・バトル・バトル
冒険者。
古くは狩人と呼ばれ、大戦の時代には傭兵と呼ばれたフリーの暴力装置。
大戦後の世界においては国を跨ぎ、軍では対処できない、もしくは軍隊を出すまでではない暴力が必要な場への供給を目的とした存在。
「ヒヒヒヒヒヒ、はい、2匹目!!」
「ぎゃははははは!! 3匹目エ!!」
彼らはその実力や実績において、等級が振り分けられている。
「お、おい!! な、なんだ、アイツら!? て、ティラコレオが、首を一瞬で!?」
「ラトラカーンもだ!! 目から血を流して、一撃で……!」
4級、3級、2級、"一級"、そして、"塔級"。
例外を除いて冒険者は皆、ギルドの査定により5つの等級に分けられる。
「な、なんだよ、あいつら!? 一級冒険者か?」
「いや! でも一級以上の冒険者はさっきいないって!」
「じゃあなんだよ、あれ! モンスターの頭素手でねじ切る2級以下の冒険者なんて聞いたことがねえぞ!!」
4級冒険者、”なり立て”や””雑用係”と呼ばれるその階級は実質、冒険者というよりは都市のなんでも屋という嫌いが強いだろう。3級冒険者になればようやく”依頼”の中で危険度の低いモンスターの駆除や撃退の仕事が与えられる。2級冒険者ともなれば立派なギルドが保有する”暴力”としてカウントされ始める。
そう、”暴力”。
「ギュオおオオオおオオオおおおおおオオオ」
【ハーヴィーの知識。一級モンスター、”巨人種”ラトラカーン。攻撃の瞬間に鼻を左右に振る癖があります】
「1回、2回、へえ、ほんとだ」
巨躯から繰り出される踏み付けを遠山が引き付けて回避する。丸太を重ねたような太い脚、岩のような皮、しかし――。
「キリヤイバ」
ずぐ。
白きキリを纏うヤイバがモンスターの脚に突き刺さる。その巨躯からすれば別に大したことのない攻撃、致命的ではない部位。
だが。
「ギュル?」
「直刺しだ」
じゅわるり。
「ギュッ!?? ぎゅぎゅオオオおオオオおオオオおオオオ!?」
象の巨人、一級モンスターであるはずの が苦悶の声を上げて前のめりに崩れ落ちる。
巨大で鈍重、そして外皮の硬い獲物は非常にキリヤイバと相性が良い。体の内部にしみ込んだキリに外皮の硬さは関係なく。
今の遠山が従えるその白きキリはもはや再生能力でもない限り真向から立ち向かうことは、すなわち死を意味するものと化していた。
「おっとォ!! まだまだやる気かァ!? いいぜ! 最近、バカ姫の情緒乱行下に付き合わされてストレス溜まってたんだよなあ!!」
ウィスを囲み、唸る4足のモンスター。前、後ろ、左右。4方向から一斉に飛び掛かり。
「ほいっ、ほいっ、ほいっとォ!!」
ぱキャキャキャ!!
ウィス・ポステタス・ヘロスの天与の鋼の肉体は振るわれるそれ自体が凶器。
拳が、脚が、頭突きが。その全ての徒手空拳がモンスターの頭を硬めの果物でも砕くかのようにペシャンコにしていく。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ! あー、オッケー! 次!」
「ぎゃっはははははァ!! やっぱよォ、運動しないといけねえなァ!!」
暴力。
冒険者の価値とは暴力である。
ならば、この2人の暴力の価値はーー。
「いや、こんなもう……」
「等級詐欺じゃん……」
半ば置いて行かれたような形の冒険者達が呆気に取られてつぶやく。
モンスターの注目は完全に、遠山とウィスに集中している。彼らもまた自然の本能が気づいているのだ。
この2匹の化け物を殺さなければ殺される、と。
闘技場のモンスターに逃げるという選択肢はない。なぜなら、今この場にはこの2匹の化け物よりも恐ろしい存在がいる。
「……ふかか」
「すぷぷ」
ぞっ。
「ギ、ギュオオオオオオオオオオ!!」
「うう、ウルルルルルルルオオオオオオオ!!」
「ごぎゃ、ゴオオオオオオオオオ!!」
前門の化け物、後門の竜。
モンスター達に逃げる場所などない。
「やる気満々だな、非常によろしい」
「運動不足にならなくて済みそうだなァ」
猛るモンスターに、優秀な暴力装置の2人が笑う。同時に放った言葉、互いに同じ青い血の返り血を受けて。
「お前、何匹狩った?」
「さァ、覚えてねえけどォ、てめーより多いと思うぜェ、竜殺し」
「あっそ」
「そうだよォ」
「「……………」」
グッソオオア!!
「グギャウオオオオオ!!?」
のそり、背後から遠山を襲おうとしていた獅子のモンスター、飛び掛かかった瞬間、カウンター気味にその顔面へ欠けたヤイバが突き刺さる。
ずり、ずり。巨大を真正面から受け止める。合成素材のブーツ底が砂の地面をがっちり掴む。
「オオ、グギャウオオ……」
「ヒヒヒヒヒヒ」
ぐらり。顔面に欠けたヤイバを突き刺された怪物の体が横倒れ。
立っているのは遠山だけ。
「化け物狩りで飯食ってたんだ。元探索者の力を見せてやるよ」
「へェ、こりゃ、マジでもしかしてもしかすると……おっとォ」
「「「「ワアァァァ
「すげえ!! なんだ、今の!?」
「あの冒険者、受け止めて、そのままどうしたんだ!? テイラコレオが先に倒れたぞ!」
「え、ええ……冒険者って皆あんななの?」
「いや、あんな真似出来るの一級冒険者の上澄みの連中か、もしくは、塔級……」
闘技場が湧く。暴力を嫌悪しつつも、時にそれに強く惹かれるのは定命の者のサガなのだろうか。
「ギ、ぎゃる」
「るっるるるるっる」
「ぼぎゅう……」
モンスター達が、遠山から距離を取り始める。次にウィスに目線を、だめだ、コレも恐ろしい。
モンスター達、初めは強者としての勘とプライドによりこの場で最も厄介な2人から襲い始めた彼らは、考えを変える。
コイツら、恐い。
ならばーー
「あ、あ、こっち、見た……」
「え、え?」
「ひ、本物の一級モンスター……」
「やばい、来るぞ! ウール! ビーノ! 対モンスター戦フォーメーション!! 俺が前衛のパターン!!」
「わ、わかったよ! アルノ!」
「り、了解、やってやる、やってやるぞ、思い出せ、アガトラに来た理由を!!」
次にモンスターが狙うのは、弱そうな奴らだ。
遠山とウィスの初動に完全に置いて行かれた冒険者達はすぐに動けない。だがそれぞれがそれぞれの価値、暴力としての価値なりの動きを始める。
「ギャオオオオオオオウ!!」
「ぎゅおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ひ、いいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「あ、あわ、あわわ、矢、そうだ、弓矢!!」
「うわっ! あぶねえ!! てめえこのへたくそ!!」
モンスターの威に怯え、パニックになるのは多くの2級未満の冒険者たち。圧倒的な経験と才能不足。脅威にたいしての反応が拙すぎる。
「周りの4級、3級が邪魔だ! 流れ矢が多くなってきた!! どうする!? バーンズ!」
「おい!! 冒険者連中! パーティー単位で固まれ!! 連携するぞ! 一匹のモンスターに固執すんな!!」
「周囲360度から来るぞ!! 戦士職! 重装の奴は固まれ! 斥候はひきつけて弓矢を!! 魔術師の術式構成を急がせろ!!」
「あの化け物2人が敵を引き付けてるうちに体勢を整えろ! とにかく生き残ればいいんだ! ”冒険者よ、死にたまう事なかれ” だ!!」
如実に等級の差が現れる。
モンスターに対して背を向ける4級冒険者。武器を構えようとする3級冒険者、徒党で固まり、役割通りに動こうとする2級冒険者。
「アルノ、スキルを使う! フォローを!」
「了解、うっお!? ティラコレオ、やべえええええ!! 剛力薬、もう最後の1本なんだけど!」
「うわあああああん!! 法術維持するのもうムリいいいいいいい!! あのテトラカーンとかいう奴、天使様の祝福をうすくしてるう!! 一級モンスターの権能最悪っ!!」
「もうできる! いと尊き眷属、”抱擁と憐憫の眷属、メルヴィー”! あなたの瞳を御貸しください! スキル・セット”停止”!!」
「ギャウ!?……」
「ぎゅるるっるるるるるるる!?」
「ごっるるるるっるる!?」
モンスターの動きが固まる、金縛りにあったかのように。
「おい! あのガキどもがなんかやったぞ! 芸術都市の冒険者だ!」
「負けてられねえ! 気合い入れろ! あの化け物2人組に全部持っていかれるぞ!!」
「目つきの悪い黒髪とごつい赤髪ばかりにやらせるな!!」
実力のある者は適応し始める。突発的なモンスターとの戦闘、これに適応できるゆえの2級冒険者という位であるゆえに。
そして、暴力としての質が悪い者から、間引かれ始める。
「グアオオオオオオ!!」
戦う恐怖に負け、冒険者の隊列から離れたもの、それを逃がすほどモンスターは甘くない。
「あ、ワア! ワァ!! ワア!!!」
戦う恐怖に負け、冒険者の隊列から離れたもの、それを逃がすほどモンスターは甘くない。
「やだっっ!! ヤダっ!! ヤダっ!!」
「具ルルルルルルルルるおおおおおおおおおおおおおおお」
尻餅つきながらめちゃくちゃに振るわれる槍。そんなものモンスターが意に介するはずもない。
モンスターが冒険者の喉笛を狙って。
終わるーー。
「ふかか。良い。今日だけよ、祭り、故な」
パチン。
美しい指鳴らしの音が、会場に響いた。
空に浮かぶフロア。玉座に深々と座る蒐集竜の長い指の音だ。
しゅぼっ。
「グギャウオオオオオ!? オオオオオ!!?」
「ワア!! ……ェ?」
モンスターに地面に押し倒され、あとはそのまま頭を食いちぎられるだけだったはずの4級冒険者が呆気に取られる。
それは、焔。金色の焔がまるで、盾のようにモンスターと冒険者の間を遮ってーー。
「みなさーん! ここでこの狩猟大会の特別ルールのご説明でーす! 今大会はアリスお姉様のお慈悲によって、モンスターに殺されそうになった雑魚……いえ! 弱い人に対してアリスお姉様が手ずからお護りになってくださいます! あ! でも、アリスお姉様の金色の焔に守られた時点でその方は失格ですので自力で闘技場の出口まで逃げてくださいねえ〜! コレで良いですね、アリスお姉様」
「良い。聞け、定命の者。本来であれば、自らよりも強大なものに挑み、敗れた時の代価は己が生命でしか払えぬものだが……よい、今日だけはその摂理、オレが自ら取り払ってくれよう。今日は祭りだ。たまにはその小さき命の矮小さを気にせず、振る舞ってみせよ」
「え、これ……」
「す、すげええ……蒐集竜様が手ずから、俺たちを」
「それって、つまり、竜の加護がある……って事!?」
「最高じゃん……」
冒険者たちがその事実に震える。
どんな形であろうとも今、自分たちは竜に関係している。
その事実は否応なくヒュームの魂を震わせて。
「ああ、それと。オレは貴様らが、己がよりも大いなる者に挑む貴様達の姿が嫌いではない。期待しているぞ、危険を冒す者達よ」
ぱちっ。
アリス・ドラル・フレアテイルの美しい目が片目だけ閉じ、ギザ歯がちらろと覗く笑顔がふりまかれる。
それは、燻りだした炎にガソリンを直接振りかけるのと同義――。
「「「「「ーーウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」」」」
【"竜のカリスマ"により付近の冒険者から状態異常"恐怖"が取り除かれました。ヒューム達に数種類の戦闘補正が付与されます。”スキル”のクールタイムが短縮されます】
熱だ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! ここで聞いたか‼ お前ら! 竜の加護だ!! 我らが竜が見守ってくださるぞ!!」
「ここでやらなきゃアガトラの冒険者の名折れだぞ!! おい!! きやがれ! モンスター!!」
「す、すごい、なにこれ、力が……頭がさえる、魔術式がとんでもない速さで構築されていく、ああ、ごめんなさい、人知竜様……違うんです、浮気とかじゃないんですううううう、でも、これ気持ちいいいいいい」
「うそ、もう、”停止”が使える……!! アルノ! もう一回”停止”行けます!! いや、今なら連続で!!」
「まじか、アガトラの冒険者! 協力を!! モンスターの動きをまた止める!!」
「法術が、溢れる……教会の中よりも祝福がどんどん濃くなって……」
「お、おい、これならば俺たちもうやれるんじゃ……」
「やるしかねえ!! もうどぶさらいや、飼い猫探しだけじゃだめだ!! 人生をここで変えるぞ!! そうだ、俺たちは――」
「「「「「「冒険都市の冒険者なんだ!!」」」」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
一気に冒険者が息を吹き返す。連携して動いていた2級以上の冒険者はもちろん、質の悪い暴力であるはずの3級や4級までモンスターに立ち向かい始める。
「おおおおおおおおおおお!! すげええ! 冒険者たちがやり始めたぞ!!」
「いけえええ!! がんばれえええええ!!」
「冒険者はアガトラのものだけじゃないって所みせてやれ!!」
観客もまた湧き始める。戦いと興奮のるつぼ、祭りの熱気が遠山の頬に届く。
「すげえな、ドラ子」
「……金色の焔、やっぱアレをどうにかしねえとなァ……」
竜の声などなくても暴れていたイカレ2名が若干はぶられた感じでぼやく。
「「「「「「ウオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」
「「「「「「「グギャウオオオオオ!!」」」」」」」
「いまだ!! ウール!」
「分かってる! 止まれ、動くな! ”停止”!!」
「法術詠唱、”ヘレルの詩、第3篇34P猛りと鎮静の岸辺”……そこの魔術師さん! 合わせて!!」
「ひーん! 教会の法術使いと協力とか先輩に怒られるよおおお!! 術式、仮設提唱!! ”変性系統! モンスターの外皮の脆弱性についての考察”!!」
1匹、また1匹、冒険者の連携がモンスターの数を減らしていく。
冒険者とモンスター、入り乱れての乱戦、しかし、あのスキルをうまく扱う少年と少女の冒険者パーティを中心にわずかに戦いの天秤が冒険者に傾き始めてる。
「あ、やべ。出遅れた」
「おっと、割といい勝負するじゃねえか。さすがはアガトラの冒険者。それにあれは芸術都市の冒険者装備かァ。帝国、どうしてまた、見下げたものじゃあねえなァ」
この狩猟大会のルールはシンプル。
より多くのモンスターを狩ること。より長い時間この闘技場に立ち続けること。
つまり、それ以外のルールなど存在しない。
「行ける!! 押せる!」
「おい、バーノン、今なら……」
「ああ、分かってる、アイツら、だな。おい、冒険者! 聞け!! 俺たちはここに勝つために来た! 竜の前で栄光と武勇を示すためだ!! 勝つために必要なことがあるぞ!!」
【警告、2級冒険者、バーノン・スミスの技能”戦場把握”、加えて、”戦場のカリスマ”、”指揮上手”、”演説の才能”が発動しています】
「お?」
遠山の視界に映るメッセージが異常を伝える。
「あの2人だ!! あいつらをほっておくとまたモンスターを狩り尽くされる!! 今の数ならいける!! パーティーを分ける! モンスターの相手は重装備の戦士職! 斥候と法術師、魔術師、それに腕に覚えのある遊撃は、あの2人だ! 黒髪と赤髪を押さえろ!!」
「「「「「おうよ!!!!!」」」」
冒険者たちが一致団結、そして、このタイミングで――。
「ねえ、アリスお姉さま、よろしいですか?」
「む? ふむ、まあ、問題なかろう、我が竜殺しだ。造作もないさ、好きにせよ」
「あらあら――羨ましいなあ……すう~みなさ~んきいてくださあああああい!!」
「なんだ!? 上、あのメイドさんだ!」
「竜のメイドだ!」
「なんとビッグニュースでええええす! 今、この闘技場にかの有名なお方が参加されていることがわかりましたああ! 先ほど獅子奮迅の活躍をみせた黒髪の冒険者様! もしかしたらすでにお気づきのお方もいらっしゃったかと思いますがあ!! なんとそこにおわすお方はああああああ!」
闘技場の上をふわふわ浮かぶフロアからフォルトナのよく通る声が響いて
「あ、しまった」
「”竜殺し”様でえええええええええええええええええええええええええええす!! 竜殺し様も狩猟大会に参加されていまあああああああああす!! ふふふふふふふ、蒐集竜様の御命を1つ奪った豪傑の方! さあ、皆さま、歓声を以て彼を紹介させていただきますねええええ! 竜殺しのトオヤマナルヒトさんでえええええええええええええええええええす!」
煽り。煽り。煽り。
一瞬の間を置いて。
「「「「「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」」」
「すげえ!!! 竜殺しだ! 本物だ!! 噂できいたことあるよ!!」
「なんか”カラス”と争ったり、教会を牛耳ったりしてるって!!」
「魔術学院をパトロンにしてるって!!」
帝国市民の観客のボルテージは最高潮。熱気と揺らめきで発熱しそうだ。
そしてー―。
「き、聞いたか、竜殺しって……」
「あ、思い出した! この前、ギルドで見た! すげえ銀髪の美人に負ぶわれてた!!」
「ユト・ウエトラル!! あの塔級が言ってた古代種をやったっていう奴だ!!」
「いや、それより、やばくねえか? 竜を殺すような化け物に俺たち喧嘩を――」
【竜殺し、及びあなたのアガトラでの名声値が”アガトラのやべえ奴”まで上昇しています。これにより、冒険者たちの戦意が――】「いや!!! みんな逆に考えるんだ!! これはチャンスだ!!!!!」
「「「「「「「「え」」」」」」」」
「確かに彼の名声は今や噂話で一度は誰しも聞いたようなものだ、だが、それほんとなのか? カラスや天使教会、果ては古代種、魔術学院。――冒険者が眉唾ものの話にビビってどうする?」
「「「「「「「「お、おお」」」」」」」」」
「我々は冒険者だ」
「「「「「「「「お、おん」」」」」」
「冒険者とは!! 危険を冒す者!! 人生をそれに捧げ未だ見果てぬ世界を見んとする戦士のひとつ!!」
「「「「「「「「「お、おおお」」」」」」」」」」
「つまり!! 竜殺しのその噂が本物か! それを確かめるのみこれ! 冒険だろ!!!」
「「「「「「「「「「「おおおお、おおおお? ――オオオおオオオおオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
「冒険者よ!!! 死にたもうことなかれ!! 冒険者よ、前へ!!!」
「「「「「「「「「うおオオオおオオオおオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo
」」」」」」
なんか、あっというまにやる気満々マンの冒険者が血走った目でこちらを見ている。
「そして今や!! 我らには蒐集竜様のご加護ぞある!!! これは冒険だ!!! 竜殺しに挑むぞ!!!! お前らは何者だ!!!! 言え!!! 叫べ!!! アガトラの戦士よ!!! 我らは!!!」
「「「「「「「「「「「冒険者だ!!!!!」」」」」」」」
ぎらつき、蒸気をあげがら武器を構える愉快な連中の出来上がり。竜の加護はもちろんのこと2級冒険者だろうおっさんの言葉と扇動の技術により、冒険者はすっかり出来上がってしまった。
「……ひひひ、あのおっさんやるなあ。味方に欲しい」
「おお~こりゃ、竜におだてられいい気になってからによォ」
蒐集竜のバフを受け、、余裕のできた冒険者たち、彼らの血の気のおおい視線が遠山とウィスに注がれる。
「あいつらは一級クラスの実力者だ!! つぶさないと全部持っていかれるぞ!」
「竜殺しだけじゃない!! あの赤髪もだ!!」
「ウール、どう思う……?」
「悪手だよ!!! どう考えても!! 竜殺しって!!? あれは手をだしちゃやばいですってば!!」
「でもでも、なんか周りのアガトラの冒険者やる気満々だよお! どうするの! アルノ!?」
「どうするって、……あークソ! ”フィオナ村愚連隊”目標、黒髪の冒険者! 竜殺し! 赤髪の執事服!! 今はもうアガトラの冒険者たちの勢いと竜様のバフに乗る!! 祭りだ! それにあの人らも竜様の焔で死ぬことはない!!」
「うっわー本気ですか!? 嫌な予感しかしないけど!」
「でも、アルノが言うなら! あ、魔術師さんも手伝ってね!」
「え、え~、自分もっすかァ!? ……あ。あれ、あの黒髪の人、どこかで見た事ある気が……うわああ、知らせ石がこんなに真っ赤になってる……絶対にヤバい人じゃん……」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 竜殺しと赤髪を先にやるぞ!! あいつらさえ退場させれば優勝も夢じゃねえ!!」
「そうだ! アガトラの冒険者の底力を見せてやれ! 等級詐欺組をつぶせ!」
「竜殺しに挑め!! 祭りだ! 祭り!!」
「すっげえ勢い!……みんな、もうやるしかない!! ウールの”停止”が作動した瞬間にたたみかける! ビーノは法術でみんなの強化! 魔術師さんはなんか遠隔で攻撃!! いいかい!?」
「や、やるしかないのか……停止、きくのかなあ!!?」
「でも、今の竜様の加護がある状態なら……」
「遠隔で攻撃って!! なんか指示自分のだけ雑ウ! これだから下界の実習は嫌いなんすよ!! でも、人知竜様もいらっしゃるし……ああ、もう!! 術式、仮設提唱開始!!」
「いいぞ!! おい、野郎ども! 芸術都市の冒険者のちびっこたちに負けんな!! 目標!! 黒髪と赤髪だ!!」
「いくしかない!! ”フィオナ村愚連隊”! 根性だ! ファイヤー!! サンダー!!」
「「ファイヤー!! サンダー!!」
冒険者の集団が完全に狙いをこちらに定めたようだ。
魔術師の術式が地面をもりあげ、岩を作り、それが空中に浮かび上がる。
竜の加護、それから法術による強化。身体能力や士気を底上げされた冒険者たちが武器を構え、砂埃を巻き上げながら突進してくる。
そしてー―。
「スキル・セット!! ”俺は全てが止まったそれを願う” 停止、最大出力!!」
モノクルを装備したオールバックの美少年、彼の金色に輝く瞳が遠山とウィスを映して――。
「お? マジか」
「ヒュー、いいスキルじゃねえか、うらやましいよォ」
びたり。
体が動かない、口はかろうじて動く、だがそれ以外、指先から足の先までまるで石か何かになったよいにピクリとも。
【警告・ウール・ホロロインの眷属スキル”停止”が発動しました。最大3分間、身動きが取れません】
【警告・抱擁と憐憫の眷属”メルヴィー”の影響下にあります】
[ほろろろ。動かないで、ネっ、ネッ、ゆっくりしようヨ、ネっ、ネッ]
ぎゅっ
と。
体が動かない理由が分かった、何かに抱きしめられている。そして聞こえるはずのない囁き声が生暖かい息と一緒に届いて。
「よしっ! アルノ! スキルが完全にハマった!! いけます! 頼む、頼むから動かないでくれ!」
「よしっ! 恨みっこなしだぜ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!! 進めえええええ!! 竜さまに冒険者の力を証明するんだ!!」
眷属。信仰対象である天使にその地位を認められた目に見えないが確かに存在するこの世ならざる超常の存在。
その力は定命の者に対抗できるようなものではない。”竜”、もしくは塔級冒険者や高位の教会騎士など、人中を超えた領域外にいて初めて対抗できる可能性が生まれる、そのような力。
「あーやべえ」
「うーん、どうすっかなァ」
今、遠山鳴人とウィス・ポステタス・へロスははっきりとそれに囚われて。
「行ける!! 進めええええ!!」
「あいつら斃して! モンスター片付けて! その次はあの目立った芸術都市の冒険者のガキどもをつぶすっ!!」
「え!!? アルノ! なんかおっさんどもが不穏なこと言ってるけど!?」
「想定内っ! アガトラの冒険者だぞ! 民度なんてあるもんか!! それでも今は力をあわせるんだ!」
勇敢な冒険者たちが、眷属の力によりびくとも動けない遠山とウィスに迫って――。
「ヒヒヒヒヒヒヒ」
「ぎゃっはっはっはっは」
【眷属スキルへの対抗ロール開始。特性”お前の血は白色だ”により付与された”神性”発動。眷属からの影響を中和します――ほっほっほ、ほうれ、わぬしよ、儂がおってよかったのう……ほれ、小童、儂の勇者じゃ。手を離さんかい」
ぼきり。
[あ、アッ、指、折られたっ!!?]
「クソヘルムゥ、てめえ、こういうのが仕事だろォ?」
『――A/O system ON』
ぶううううん。
[あ、え、あええええ?]
「えっ、あっ……」
ばしゃ。
「ウール!?」
モノクルを付けた少年の冒険者が急に倒れた。目と鼻から血を流し、身体を震わせて。
「あっ。あっ。あっ」
「よし、動けた、――よう、冒険者ども」
「あ~、やっぱ油断ってのはよくねえなァ……あのバカ姫の悪い癖がうつってらァ、やるじゃねえか、冒険者ァ、悪くねえ作戦だぜ」
「お、おい!! お前んとこのスキル! 効いてねえぞ!!?」
「どういう事だ!!? 一級モンスターだって動かなかったのに!!」
「知るかよ! おい、おい、ウール!! ウール! 大丈夫か! おい!」
「や。ばい、アルノ、逃げ……あの2人、ダメだ、手を出したら、絶対に、絶対に敵にしたらダメな奴だった……」
「っくそ! ウール!!? おい!」
「うそ、ウール!? どうしたの!? なんで!?」
「あれ、うそ、魔術式が、作動しなくなって――」
「落ち着け!! この人数差だ! 数で押し切る!! 進め! 進めええええ!」
「いや、無理だって!! ウールのスキルが破られた! こんなの初めてだ!! アイツら、やばい――!!」
それでも迫ってくる冒険者。身動きが取れるようになった遠山がチベスナの目で彼らを見つめて。
「どォするゥ? 竜殺しィ すげえ人数だなァ」
「あー? どうするも何も、決まってるだろ、そんなもん」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「行くぞおオオオおオオオおオオオおお竜殺しいいいいいいいいいい」
「2級冒険者パーティー!! ボーン団! バーノン・スミス!! 参る!!」
付近の冒険者達はこの瞬間に限り、死なない。
蒐集竜がそう言ったのだ。ならばそれは理由などなく絶対の事実である。
遠山鳴人は竜の力を知り、それを信用している。
つまり、殺す気でやってちょうどいい。
そう、この男の頭はーー。
【技能発動、頭ハッピーセット】
「まあ、いいや。だったら見せてやるよ、竜を殺した力を」
遠山がローブをの結び目をほどき、赤い探索者パーカーの首元を空ける。
「おっと閃いちまったァ。どうする竜殺しィ、この人数だ、協力するかァ?」
「笑えねえ、てめえごと全滅させてやるよ」
「――ぎゃっはっはっは、上等ォ」
冒険者とモンスターが入り混じり、動き続ける中、その2人だけがぴたりと動きを止めて。
「「遠慮なくやるか」」
ニッ、と似たような人相の悪い笑みを浮かべた。
「遺物、霧散」
「漂竜物・弄月」
ぞわり。
その背筋の震えを覚えたのは、この会場にいた一級冒険者以上の力量を持つ存在。
即ち。
「あ、やば」
聖女。
「すぷぷ」
人知竜。
「これは……」
「……へえ、コレが」
「王国の副葬品と、あれは、似ているけど、もう一つのは……」
「魔術式、ではないのか?」
居合わせた塔級冒険者と、古魔術師。
そして
「あらあら、ウィス……それ使うんですね」
「ふっ。ナルヒトめ。加減を知らぬ奴よ、全く」
少し、嬉しそうに笑う幸運と竜。
「満たせーー」
遠山の首元から噴き出る白いキリが闘技場を包む。
その目、白が溶け込み、今や茶色の瞳は乳白色の濁った輝きを放ち。
首から噴き出るキリの量は、大雨の次の朝に平原に溜まるものよりも多く、濃く。
「照らせーー」
バスターソード。
いつのまにか赤髪の男、ウィスが肩に担いでいたその刀剣。刀身はボロ布で巻かれた見窄らしい形の大剣が輝く。
2歩先も見通せない白いキリの中、その青白い輝きはみるみる膨らんでーー。
「いっ!!
「
「
だが、もう全てが遅かった。
遠山が首元からヤイバを引き抜く。
ウィスがバスターソードの剣先を地面に突き立てる。
「キリヤイバ」
「 ノイモント(新月) 」
じゅわり。
ブォン。
「ッあ」
「ギュッ……!?」
「ジュッ」
それは、まさに暴力。
刻まれる、刻まれる、刻まれる。白いキリに潜む鋭い爪と牙、ヤイバと化したモノの鋭きが振るわれる。
モンスターを、冒険者を、等しくキリが包んでいる。
照らされ、爆ぜる。
それは単純なエネルギー。熱と光量を持つシンプルな力そのもの。
モンスターを冒険者を照らし、熱し、吹き飛ばす。
斬撃と爆発。
闘技場に無秩序、無差別、無慈悲な破壊が撒き散らされて。
キリと光。
遠山を包み込まんとする力をキリが堰き止め、斬り刻む。
ウィスに食らいつかんとするキリを力が照らし、吹き飛ばす。
「ヒヒヒ、面倒だな」
「厄介だなァ、吹き飛ばねえのか」
互いが互いに向かう暴力を己が暴力で防ぎ合う。
それはこの世の単純な法則の光景。暴力には所詮、暴力でしか立ち向かえないということだ。
「ひ、い、ああ」
「お、ああ、キリ、キリが!!? うわあああ」
「光が、逆流するっ!? フアアアアア!?」
「だ、だから、ヤバいっていったのに……!!」
「ま、魔術式、が、食われてっ!!? 上書きされる!? これ、古魔術師並みの浸食っ――!?」
「法術が、だめ、塗りつぶされて――」
「く、くっそおおおおおおおおおお。うわああああああああああああああああああああああ!!?」
そして、その無差別な暴力は不運な冒険者達に向けてもーー。
「ーーふかか。面白い」
ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ。
それでも竜。これこそが竜。人の振るう破壊の力を玉座から立ち上がることもせずただ指を鳴らすだけ。
金色の焔は、その竜の言葉通りに冒険者達の盾となる。キリの斬撃も新月の呼ぶ正体不明の爆発も、全て金色の焔と喰らい合い、打ち消し、消えていく。
「あ、ワア!! ワアァァァァ!? あ、焔が……」
「嘘でしょ……なんも出来なかった……」
「いや、これ、一級冒険者どころじゃ……」
「これが、竜殺し……」
「今の光……なに……」
砂煙が晴れたのち、動いているのは金色の焔に護られた冒険者だけ。
モンスター達はみな全て、物言わぬ骸と化した。外と内から斬られたもの、圧倒的な力そのものにさらされ爆ぜたもの。
自然を支配し、この世界の中で明らかに人類よりも食物連鎖の上に君臨するモンスター達はみな、人の暴力の前に敗れた。
「わお、やりすぎ……あー、こほん! 凄い一撃でしたねー! あ、アリスお姉様の焔に護られた方は早く退場して下さ〜い! 誤魔化そうとするのはお勧めしませんよ〜」
「げほっ。すげえ砂誇り……お~よかった、ヒトは死んでねえ、セーフセーフ」
遠山が周囲を眺めながらぼやく。
「あー……バカ姫、じゃねえや、メイド見習いさんや! どっちがたくさんモンスターを狩ってんだァ?」
周囲の冒険者がよろよろと闘技場から退散していくのを横目にウィスがフォルトナに語り掛けて。
「えーと、お姉様?」
「なんだ、フォル。貴様、数えておらなんだか? ふむ、ナルヒトが先ほどのキリヤイバも含めて24、ポステタスが先ほどの副葬品を含めて、25と言ったところか」
「おー、どうもォ。だ、そうだが、竜殺し。あー、こりゃもう勝負は決まっちまったかなァ」
「いやいや、そうでもねえよ。メイド見習いさんよ。ルールは確か2つだったよな。より多くのモンスターを狩ること、そして」
「ええ、より長く、この闘技場に立ち続けること。ですね」
「ふーん。じゃあアレだな、お前、邪魔だな」
「ぎゃっはっはっはー、嗚呼、気が合うなァ、俺でもそうするよ」
立っている者は2人だけ。
互いに笑い、モンスターの骸の山に囲まれて。
遠山が、左手にキリヤイバを右手にメイスを握り、肩に構え。
ウィスがバスターソードをくるりと弄び、片手で刀身をまっすぐ掲げて。
「「お前が倒れろ」」
飛び出すのは同時。
遠山がメイスを振り上げて、ウィスの頭を狙う、しかしそれは陽動、本命はキリヤイバによる包囲、殲滅。
それを全て承知の上、ウィスがその誘いになる。狙いはシンプル、正面突破。
「死んだらごめんな」
「テメェこそォ!!」
迫るメイス、地を這うように振り上げられるバスターソード。
両者の距離が限りなく、ゼロになって。
【警告・古代種が付近にいます】
「あ?」
遠山の視界にメッセージが。
カタカタカタカタカタ!!
「オオ?」
ウィスの腰に巻かれたバケツヘルムが鳴動。
「ふかか、良い。そなたらの武、見事なり」
竜が最後に残った2人を見下ろす。
縦に裂いた青い瞳を歪ませて。
「我が眷属に挑むに相応しい、ぞ」
「ブオるるるるるるるる、るるるるるるるるる」
間の抜けた隙間風のような音がした。
それはやけに熱を帯びて、やけに生暖かい。ああ、それは生き物の鳴き声だ。
ずん。
闘技場の一角、1番大きな大門が開かれて。
ずん。
暗がりから、それが現れた。
「ぶおるるるるるるるるる? るるるるるるる?」
「うわ」
「趣味悪ゥ……」
茶色の体毛に覆われた巨躯。地面を踏みしめる蹄を備えた二本足。隆々と脈打ち、今にも弾きれそうな筋骨。
「ぶもおおおおおおおおお、ぶるるるるる」
牛の頭の巨人。
ぶるると首を振り、背中や首周りを掻きむしりながら現れる。雑にまかれた荒布の腰蓑に、金色の胸当て、角には金色のコーテイングが為されて。
びりり、足の底が痺れる感触は細胞が慄いている証だ。
古代種、それの持つ威を遠山はすでに経験している。
【技能"オタク"発動。敵モンスターの正体を看破します】
「牛頭に、バカデカい図体。オイオイオイオイオイ、マジかよ。ミノタウルス、いるのかよ」
「オイオイオイオイオイ、この威圧……古代種なんじゃねえのォ? 聞いてねえよ、クソが。あのバカ姫知ってやがったな……」
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! あんだあのモンスター!! 初めて見たぞ!!」
「すげえええええええええええええ!! つよそおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「いてててててて、あれ、うわ、もしかして古代種……? 退場になってよかったかも」
「な、なんなのよ、この街……帝都のコロシアムよりも、やばいモンスターばかりじゃない……」
「もう、あの二人でも無理だろ……」
「はーい、皆様どうぞご覧くださいませー! 狩猟大会の大目玉、蒐集竜様の蒐集品の一つ!古代種、"ヘレルの門番"でーす! 怖いですねー! この子1匹で騎士を備えた街でも滅びるかもしれませんねー! フフ、でもアガトラの皆様はご安心を! ここには優秀な冒険者が存在します。狩って殺して生き延びる! 我らヒュームの業を煮詰めた彼らに祝福と”幸運”があらんことを、ね! アリスお姉さま」
「ふむ。よかろう。聞け、アガトラの民。そこなモンスターは以前、我が執事が暇つぶしに捕えてきた獲物でな。なかなかに聞き分けが良い故、我が館で禄を食ませてやっておるのだ。我が蒐集品の一つだ。今日は祭りゆえに、そなたらにも赦そう、我が蒐集品の拝謁を。そして期待せよ、我が街の冒険者、定命の者が試練に挑み、気を吐き、それを打倒する様を。――健闘を期待する、ぞ」
ドラ子。いや、蒐集竜アリス・ドラル・フレアテイルがアガトラの民に告げる。憂いを讃え薄く開かれた瞳、気だるそうなのに、はっきりと伝わる声。
見た目、言葉、所作。その存在全てがヒュームの魂を揺らす。
「わああああああああああああああああああああああああああああああああああ
沸く、沸く。ヒューム達のボルテージは最高潮。
だがその中で、チベスナ一人が不機嫌そうに鼻を鳴らして。
「アイツ、また目を逸らした」
頭上にいるあの竜はまた、遠山と目があった瞬間、ふいっと目を逸らしたのだ。
遠山鳴人はそれがやはり気に入らない。
「どうあっても優勝しねえとこっちを見るつもりもねえらしいな」
やる気が上がってきた。大歓声と熱の中、遠山が目の前の古代種、彼の知識ではミノタウロスと呼ばれていたそれを見つめる。
「ぶもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
神話に語る、迷宮に潜む悲劇の化け物。ミノタウロス。見た目からして他のモンスターとは一線を画すのが解る。
「最後の大物だなァ、どうする、竜殺しィ、仲良く一緒にアレを始末するかァ?」
「ひひひ、だから、笑えない冗談よそうぜ――早い者勝ちで」
「ぎゃははははは。だろうなァ!!」
「ぶるおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
大観衆の歓声を塗りつぶす雄たけび、びりびりと世界が割れるんじゃないかというほどに揺れる。
モンスターが、目の前の冒険者を敵と見定めて。
「ぎゃっはっはっはっは!! 古代種とやんのは久しぶりだァ!! まあ仕方ねェ! どうせやんなら楽しもうやァ!」
雄たけびに反応し、ウィスが狂暴な笑みを浮かべて駆け出す、英雄の膂力で踏みにじられた地面がぼこりと足跡を沈ませて。
「ぶるおおおおおおおおおあああああああああああああ!!」
「ぎゃっはっはっはっははっは!!」
英雄と神話の化け物、いや、ここではヘレルの、天使の化け物が殺し合う。
振り下ろされる拳、舞う砂煙、その中から、ぞん、飛び出す赤髪の英雄。
「動き、良し! 力! 良し! 戦術、イマイチ!! デカブツなのに自分で目くらまししてりゃァ世話ねェよ!!」
巨大な拳、腕を足蹴にモンスターの巨体を橋のように駆け上る。
「よう、こんにちはァ」
「ぶも!?」
ずぶん。
そのまま回転しながら振るわれるバスターソードの一撃、モンスターの首を狙ったその一撃はヘレルの門番、ミノタウロスがとっさにウィスめがけて頭突きを放ったことにより狙いがずれる。
「おっとォ!! 勘はいいなァ! 戦い慣れてやがる!!」
「ぶ、もお!?」
角。金色にコーティングされた角、一本がバスターソードの一撃によって刈り取られる。
「かってえ! いいねェ! やりがいを感じる!」
一進一退の攻防、しかし、優勢なのはヒトの方だ。身一つ、剣一つで見上げるような巨体、正真正銘の化け物と肉弾戦を繰り広げるその威容。
「強いな、あいつ」
やはりシンプルな戦闘能力は、どう考えても追いつけそうにない。ゆえに遠山は考える。
今、自分にある手札を。今、自分に出来ることを。人生とは今この手にあるものでやりくりしていかなけばならないのだから。
「よし、やるか」
ひゅううううううううう。手に握ったままのヤイバに白いキリが集まり始める。
遠山の目、その茶色の虹彩にシロが混じる。
【警告・キリヤイバカウントが進行。――おお、わぬしよ。出来上がってきたのう、良きかな……】
「うるせえ、お札マッチョ。――仕事の時間だ。力貸せ」
キリヤイバを取り出す首の穴はふさがっておらず、そこから白いキリが昇る。
両の目の中にも白いキリが浮かび、揺らめき、虹彩に収まらないそれが目から漏れ出して。
「かしこみ、かしこみ、奉るーー」
もう、この男は戻れない。
探索者の到達点に手を掛けた、掛けてしまった。己の開けてはならない可能性に遠山はすでに触れてしまっている。
「 遺物拡大解釈(オーバーロード) 」
うぞり。ぞねり、ぐねり。
遠山の周囲にどうしようもなく溜まる乳白色のキリ。それは液体と見紛うほどに濃く、重たく、湿っている。きっと、魂もそうなのだろう。
「ッ!?」
「ぶるう!?」
その異質を、英雄と古代種が感じ取る。命のやり取りのその最中、両者が互いに動きを止めたのは、遠山鳴人から感じる言いようのない、"気持ち悪さ"からーー。
「キリヤイバ・"魑魅魍魎狭霧山野絵巻物語"」
お囃子の音が、もう耳のすぐそばに。
祭囃子の音が聞こえ、周囲の空気は湿って温かく。まるで夏祭りの夜のような。
ぞねり。
『ジュロロロロロロロ』
『シャロロロロロ』
キリの向こう側からそれらは現れる。魂を核とし、キリを肉とし、この世に這い出る。
それは遠山鳴人の冒険の足跡。彼の前に立ち塞がり、彼の冒険の試練であった者たち。
『カンカンカンカンカンカンカンカン』
『カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン』
身を捩らせ地を這う何匹もの三つ目の大蛇。ティタノスメヤ。
この世界にはないはずのソレ、道路標識を頭にし、金属と肉が混じったような歪な細い身体に、二対の羽を生やした異形のクリーチャー。" 標識アタマ(ヨモツイクサ) "。
魂の保存と使役。
遠山鳴人はキリヤイバの持つ本当の力に限りなく近づいてしまっている。
「行け、殺してこい」
『シャロロロロロホ
湧く、湧く、沸く。
キリの瀑布と共に、一斉にキリの肉体を持つ魑魅魍魎がミノタウルスへと押し寄せる。
「ーーハッ。やっぱ、テメェ、気持ち悪いなァ」
カタカタカタカタカタカタ。微細に振動するバケツヘルムを抑え、ウィスがその場から大きく飛び退き。
「ブルオアオオオオオオオアアアア!??」
『シャロロロロロ!!』
『カンカンカンカンカンカン』
モンスター対モンスター。
キリの大蛇がそのしなやかな身体をもたげ、大口を開いてミノタウルスに喰らいつく。
キリの標識アタマが手に持った踏切の遮断機を振り翳し、ミノタウルスに突き刺していく。
「ブルオアオオオオオオオアアアア!? ルオオオオオ!?」
圧倒的な数の暴力。
白く揺れるキリが模る、遠山鳴人が打倒したかつての敵達が、いまや遠山の武器として機能する。
それは冒険の報酬。挑み、打倒し、手に入れる。彼がかつて望んだ冒険のあり方は、キリヤイバの性質と能力を決めていく。
「ブル、ルオア!」
しかし、古代種。
この世界最大の人外魔境、ヘレルの塔。
常人であれば3分、冒険者であれば3時間、そして、人域の最奥に辿り着いた理外の存在、塔級冒険者であれば3日は生き残る事が出来るだろうと言われるその魔境を棲家とする化け物。
『シャロ!?』
『カカン』
剛力。自らにかみつくキリの大蛇の口を掴み、縦に引き裂く。まとわりつく標識アタマを片手でつかみ、おもちゃのように地面にたたきつける。
ミノタウロス。怪物の条件たる怪力、シンプルな力とはどのような状況をも力づくで打破してしまう。
「ブモおオオオおオオオ!!!」
吠える、キリの魑魅魍魎たちをその怪力によって散り散りにさせて。
「かしこみ、かしこみ、奉る――」
「ブ……!?」
ねっとり。
ミノタウロスが雄たけびをやめた。
古代種。大戦より前の時代からこの世界に息づく真の化け物。いずれは”竜”にすら並び立ちうる可能性のある生命のひとつ。ヒュームの街など単体で滅ぼしかねないそれが、今はっきりと、遠山を警戒して――。
【条件を達成しました】
【キリヤイバが”トレナ・ロイド・アームストロング”の魂を保存している】
【特殊なイベントが発生します・”双子の再会”】
【以降、フォルトナ・ロイド・アームストロングとの特殊会話選択肢が追加されました】
「…………トレナ?」
その呟きは闘技場にいる遠山の耳には届かなかった。どうでもいい話で、この世界ではよくある話だ。
「ぶもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
最大級の警戒、威圧。それは古代種が縄張り争いをする際の行動。なぜか、ここに古代種なぞいるはずもないのに。
ミノタウロスは、ただそこにいる”たった一人の人間”へ二足歩行も忘れて四つ足で地面を踏み鳴らしながら吠え続ける。
「ほう……」
「うそ、でしょ」
「こうはい……」
「おいおいおいおいおいおい、ありかよォ……そんなのォ」
「ああ、綺麗だねえい」
「……古代種?」
ウィスに加え、観覧席にいる一定以上の水準にある実力者もまた異変に気付く。
遠山に背後に拡がる乳白色のキリが、とぷん、波打って。
「白蛇女、行こうか」
『――アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!』
悪しき者よ、我が悲劇を嗤え。
キリヤイバが蒐集し、保存し、遠山の前に散った偉大な者の魂がここに。
白い蛇の躰、その口からずるりと飛び出す怖気のするほど均整がとれた、女体。
その肉をかたどるキリが波打ち、彼女の髪に色を取り戻す。誰も見た事のない夏の森の奥から切り取ったような美しい深緑。
【キリヤイバによる古代種の使役を開始します。キリヤイバカウントが進行。あと二回……】
どうしようもないものが混ざっていく。
遠山はそれをもう怖いとすら思えない。ある種の寄生虫を宿した生き物が寄生虫の為に恐怖心を喪うのと同じように。
「前へ」
目から白い靄を漏らしながら、遠山がキリヤイバを構えて。
『――ええ、あははは。あなた、いつもこうして戦ってるのね。――わかりました』
やけに流暢に話す白蛇女、彼女の顔は一瞬、とても穏やかなものへ変わって。
「ぶもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
『あはははははははあはははあはははははははは!!』
古代種と古代種の殺し合い。
それは本来ならばヘレルの塔でしか見れない光景だ。
ミノタウロスの剛腕が、白蛇女の顔面を殴り飛ばす。しかし、不死の蛇。下あごだけ残った顔で笑いながらミノタウロスの巨体に白い蛇の躰を巻きつけ締め付ける。
『――ハ、アハハハハハハハハハハハハハハ』
じゅわり、立ちどころにキリが集まり再び彼女のかつてあった肉を再現する、魂が折れぬ限り、その身体に終わりは訪れない。
「ぶもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」
『おいで』
じゅわり。
『シャロロロロロ路ロ炉路ロ炉路ロ炉路ロ炉路ロ炉路ロ炉路ロ炉路ロ』
湧く。
かつての冒険の試練。白蛇女の最大の脅威は群れの統制と再生にある。遠山をはっきりと死へと追い詰めた恐るべき群れの脅威がミノタウロスへ。
血管を幾重にも浮かばせながら暴れもがくミノタウロス、笑いながらその長い躰で獲物を追い詰める 白蛇女(ナーガ) 。
同格の存在の殺し合い、しかしここには天秤を傾ける者が2人も。
「おっとォ明確に隙ありィ」
「ぶるおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
ざんざんざん!!
稲妻のような早さ。もはや赤い影にしか見えないウィスが跳躍、ミノタウロスの頭上から一気に降下。繰り出されるバスターソードの斬撃がその肉に腱にダメージを与えていく。
「ぶ、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
『アハハハハハハハハハハハハハハーーァっ』
ぷちゃっ。
スイッチが入ったのだろうか。
牛の頭の化け物、迷宮の奥に潜む現代においては神話によって語られるそれが白蛇女の頭を掴み、握りつぶす。
再生に時間がかかるほどの致命的なダメージ、白く長い躰がほどけて地面に崩れる。周りのキリの蛇たちも立ちどころに伸びきった輪ゴムをちぎるようにミノタウロスの手にかかって。
「ぶるうおおおおおおおおおおおおおお!!」
どんどん、胸を叩いて吠える。
アイツだ、あの小さき者だ。アレを殺さなければまたこの気持ち悪いのは何度でも起き上がってくる!!
ミノタウロスが今、この場で最優先で滅ぼさなけらばならない者を捜して――。
「ぶ、も?」
いない。
蛇の群れを裂いた先、さきほどまでいたはずのソレがいなくなっていて。
白いキリ、白いキリだけがその場に溜まり、
『ほほほ。ああ……実った、哉……』
キリの中から決して聞こえてはならない声が響く。
「来い、お札マッチョ」
『よしなに』
ずっ。
キリの奥が揺めき、ぼやける、その瞬間。
「ブ、っも!?」
キリの中から現れたのは、大きな腕、灰色の血の気の失せた肌、ゴツゴツした筋肉、そして、びっしりと墨で書かれた梵字。
それが、がっしりとミノタウルスの頭と首を掴む。もがく、もがく、もがく。
モンスターの身体を引きちぎるミノタウルスの剛力をもってしかし、その梵字だらけの腕の拘束を払うことは出来ず。
「やれ」
「ブッーー」
ごきん。
ぷらん……
ミノタウルスの尻尾が力なく地面に落ちる。首を逆向きに撥ねられた身体が、だらりと垂れ下がり。
「よし、探索、いや、討伐完了っと」
キン。遠山の首にキリヤイバが収納される。それだけで、嘘かと思うほどに周囲に満ちていたキリが晴れていった。
「え
「いま
「……
「さて、あとはーー」
遠山が、右手にメイスを握りしめて。
がきききききききききぃいいいいいいいいいいい!!
確実に何かが壊れたかと錯覚する硬質な音。
噛み合うのは菱形の鉄の鈍器、メイスの先端と無骨なバスターソードの布に覆われた刀身。
「おっとォ、もしかしてバレてたァ?」
「心配するな、俺でもそうする。大技で大物狩った直後だもんな、1番取りやすいよ」
「いいねェ、話が合うじゃァ、ねえかァ! ぎゃっはっはっは! お前、やっぱ竜殺しだナァ!! なんだァ!? さっきのは! テメェ面白すぎるだろォ!」
返す刀振るわれるバスターソードの一撃。一瞬受けることも考えたが、すぐにそれをやめて反射的に打ち付けるようにメイスを振るう。
がきいいいい!!
布に覆われた刀身のはずなのにどんな力を込めたらこんな硬質な音が響くのだろうか。
半ば遠山が弾かれるように2人の間に距離が生まれる。
「馬鹿力が!」
「いやァ、お前もそう悪くねェぜ!」
古代種の撃破により、もはや闘技場で動くのは遠山とウィスだけ。つまり、ここで勝てばそのまま優勝だ。
だが、今更ながら遠山は自分の選択を誤ったことに気付く。
「ミスった、乱戦のままにしとけば良かった」
「ぎゃっはっは! 仕方ねえよ! 古代種とか出たらテンション上がってそっち狙っちまうよォ!」
「いかん、ぐうの音も出ねえ」
【技能"戦闘思考"発動します】
今のやり取りで理解した。
どう考えても、白兵戦では勝てない。分が悪すぎる。
キリヤイバによる仕込みでの不意打ち、魑魅魍魎を使用しての人界戦術、それか切り札の強力な魂の使役。今、遠山の取れる手札のほとんどをシュミレートするもそれも通用しそうにない。
となるとあとはもう自爆覚悟の無差別キリヤイバしかないのだがーー
「おっとォ? 考え事かァ!? スッとろくなってんぜえ!」
「う、お!?」
バスターソードの大ぶりの一撃を囮に、ウィスの前蹴りが遠山の腹を蹴飛ばす。
背中につけ抜けるような衝撃、痛みがないのが逆に怖い。ローブと内に着込んだ探索服がなければ立てなくなっていただろう。
「いい服着てんなァ、竜殺し!」
「そりゃどうも!」
たたらを踏んだ瞬間、バスターソードの剣先と共に突貫してくるウィス、遠山がその場を転がって躱す。
「やべ」
悪手。避けたのではない、避けさせられた。
まるで怪物の一撃かと錯覚するようその一撃は、遠山の身体を無意識のうちに対怪物種戦のような広範囲の攻撃を交わすための大きな回避行動へと誘導させて。
「隙ありィ」
ここぞとばかりコンパクトに振り下ろされるバスターソード。
負ける、いや、これ、もしかして。
ウィス・ポステタス・へロスが――。
――祭りの日、あなたの死は英雄によってもたらされる。
[ Be strong and mighty]
[Knights Templar Officially Adopted Equipment vs. Paranormal S3000 Series "Great Helm" Activation condition achieved. The presence of a ”searcher” is detected within a radius of 1 meters]
[An unknown random number has been identified. A serious relic erosion reaction has been identified and an ethical evaluation of the use of the A/O system will be initiated]
ーーカタカタカタカタカタカタカタカターー