軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

120話 魔術学院がやってきた。

「さてさて、どうしたものかねえい。うーん許しがたい、許しがたい予言だねえい」

銀髪の美竜が日差しの差すテラス席の向かい側で小さな顎を撫でながら唸る。意外なまでの表情の豊かさ。

「人知竜、あんた信じれるのか?」

「うん、どういうことだい?」

遠山の言葉に人知竜が机に身を乗り出してくる。シナモンとクリームの複雑な甘さの匂いが鼻に届く。ずっと嗅いでいたくなる、しかし、ずっと嗅いでいたらダメな気がする、そんな匂い。

「予言のことはあの銭ゲバから聞いたんだろ? 俺や銭ゲバはあの時なんか妙な繋がりが発生して――」

「ツナガリ? え? ボク以外のメスと遠山君がつながった?」

遠山は本当はまず、なぜこの竜が予言のことを信じてくれるのか聞いてみたかった。

あの予言はあくまで自分と銭ゲバしか見ていない。ラザールやストルには予言のことははっきりとは伝えていない。あくまで主教との話し合いの結果、竜祭りで厄介ごとが起きそうだという話をしたまでだ。

だから、まず、この竜にいろいろ聞いてみたかったのだが――。

「そんな、そんなのさ、NTRじゃん。ボク悪いけど、同担共存無理だし、匂わせとかほんと無理なタイプなんだよねえい」

無表情で間延びした声のまま美竜がぼそぼそ呟く。

「ええ、これも使っちゃダメな言葉なの? コミュニケーションとりづらい……」

遠山が若干のめんどくささにぼやく。

「しゅぷ」

まただ。いつかの夜の時と同じ、真顔の無表情で人知竜が涙をこぼす。こつーんと小さな水晶がテーブルに転がった。

竜の涙は結晶なのだ。

「うそ、泣いちゃった」

遠山が、ワァとなって少し困る。だがすぐに首を振って。

「いやいやいや、人知竜、アンタがなんで俺にそんなこだわってくれてるのかは知らねえが、ほんとは銭ゲバとはなんでもねえ。アイツは完全に俺の中で分類が銭ゲバなんだ。男とか女以前の存在なんだ」

「……しゅぷぷ、それはそれで特別な存在感があっていやだなあ。なんかこう悪友感というか、こうふとした時に主教ちゃんの綺麗なところとか見かけてドキッとしそうでやだなあ」

「コイツ、繊細なくせにめんどくさい。だが特別っつーならアンタはかなり特別だろ?」

「え」

その言葉に人知竜がまた固まる。だがその涙は止まっていた。

「……あんた、不思議な奴だもんな」

「え?」

「いや、こう、変わったやつでたまに怖いけど、いつも助けてくれる。考えたらよ、あの銭ゲバんときで出会った時も、かなりやばい状況をあんたがどうにかしてくれた。まあ、かなりの残虐ファイトだったけどよー」

天使教会で騎士と揉めた時の人知竜の所業。圧倒的な力を最悪の発想で用いて、相手に使用する、あの光景は、人知竜が騎士をおもちゃのように蹴散らしていく姿は――。

ピコン

【人知竜の特性・”悪のカリスマ”による精神汚染が発生。判定……技能”アタマ・ハッピーセット”技能”拡大する自我”により影響なし。貴方は他人のカリスマを理解することが出来ません】

【属性が”中立・悪”の為特殊な会話選択肢が発生します】

「ああ、 あ(・) れ(・) は(・) か(・) っ(・) こ(・) よ(・) か(・) っ(・) た(・) 」

にっ、と。

遠山が少し笑う。

人知竜がかちーんと固まって。

「あ……その、かお……すき……」

「あ? 顔?」

「すぷぷ、ううん何でもないよ。す、ぷぷ。うーん、そうだともそうだとも。このボクは君のために人知の竜へ。ああ、トオヤマ君、キミのぼうけんの邪魔はしないさ。キミのぼうけんの庇護も保管も管理もしない。僕はただ、キミのぼうけんをずっと見て居たいだけだからねえい」

「あー……つまり、まあ、味方してくれるってことだよな? 話を戻すけど、あの予言を――」

「信じるさ。遠く懐かしき場所から来た探索者よ」

「おっと」

なんだ、今の言葉は。

遠山が彼女の言葉の意味をかみ砕くよりも先に、銀髪の竜が机にしなだれ、遠山を斜め下から見上げながら語りかけてくる。

「キミには天使からの特典がついているだろう? あの知識の眷属を依り代に君には”世界の底”からの情報が見えているはずだ。すぷぷ。……あの馬鹿は聴く、だったらしいけどねえい。その力の恐ろしさと厄介さを僕はよく知っていてねえい」

白いテラス席に垂れる美竜の銀髪が、陽光をまぶしてきらめく。髪のはざまから見上げてくる黒曜石の眼は暗く、深く。ただ、美しい。

「天使……やっぱこの力はそれ由来か」

「あくまで予想の範疇を出ないけどねえい。そしてあの主教ちゃん。あれもあれで食わせ物でねえい。本来ならば世界の舞台には上がってこなかった存在。天使に全く選ばれていなかったのに、本当に純粋に本人の資質と努力と度胸のみで、天使にその存在を認めさせ秘蹟を完成させた傑物」

「うん、十分にありえるねえい。イレギュラーの ヒ(・) ュ(・) ー(・) ム(・) 2(・) 人(・) 。それが揃い、互いに相性の良い 秘蹟(システム) が共鳴してもおかしくはない。いや、むしろ起こるべくして起こるはずだ。……え? 相性が良い? 魂のテクスチャたる秘蹟の相性が良いって事は、つまり2人は魂レベルでの補完が可能ってコト? え? そんなのもう、運命の相手じゃん。え? トオヤマくんの運命が主教ちゃん?」

「いかん、コイツ勝手に自分のスイッチ押して怖い感じの雰囲気出してくる、無敵か」

「いやだなあ、もう無敵だなんて。すぷぷ。ボクは不敵くらいさ。だから存分に頼ってくれて構わないよう。……いや、ほんと無敵って言いたいんだけどねえい。……なんで、アイツ死なないの? 銃で撃っても火で焼かれても水で窒息させても、なんなの? 心をさあ、折ろうとして悪魔の選択を教養してさあ、救うものと見捨てるものの強要をして削ろうとしたらなんで焼身自殺? なに? あれはなに? あ、う、来るな、来るなよう……殺してるんだぞ? なんで死なない?

? なんで嗤う? 何が面白い? なんで殺してるのに、死んでるのに、笑うんだよう……」

急に頭を押さえて呻きだす人知竜。もごもごとすごく低い声だ。

「おーい、人知竜。頼む。1人で闇モードに入ったり、どやったり、怯えたりするのはやめてくれ。置ていくな俺を」

「おっと、ごめんねえい、えへへ」

遠山の言葉に、人知竜が笑う、しかし、遠山があることに気付く。

人知竜の、その銀の髪を触り続ける白魚のような指が――。

「……あんた、ほんとに」

震えていた。彼女は本当に震えていたのだ。

だから、遠山は立ち上がり。

「え?」

「大丈夫か? 震えてる」

その指を手に取って握る。驚くほどに滑らかな指の質感も、その肌の冷たさも大して気にはならなかった。

「すぷ」

人知竜が固まる。

遠山は自分がやってしまったことに気付かない。

「え?」

「あ、う。さ、さわ、さわわわ、さわ――」

人知竜の様子がやばい。電動マッサージ機の強みたいに振動し始めた。どう考えても生き物がしていい動きではなかった。

「え? なに? なんなの? ラザール? ラザール!? ラザール君!? なんかお客様がね! おかしいんだけど、も……」

微振動し始めた人知竜。やばいと思った遠山がラザールに助けを――。

「――ハイチュー」

「「「おわ!」」」

「「――」」

神妙な顔をした薄情白トカゲはすでにその己の才能を最速にて発動。

影により離脱を。行動と判断が速い。遠山がよびかけた時にはシャドウ・ハイチューというセリフの半分はすでに言い終えていた。

「スキル使用が速い!!」

遠子ども達とともに影の中に潜り、もうどこにも気配はない。

「あいつ、いつも俺を見捨てる……」

竜関係の時のラザールの行動はとても速い。遠山は決して目を合わせてくれなかった友人の姿に唸りながら――。

「ご、ごごごごめんねえい。遠山君。少し、ボク、ボク、帰る、帰るから、ま、また、竜祭りのことは話し合おうね、ね? ほ、ほん、ほんとごめん。……触られた、さわられた。遠山くんから、トオヤマくんから触られた。え? これ、婚……イン? いや、落ち着け、落ち着け、ボク。ヒュームのことはヒュームに……そうだ! 学院歴代学院長、賢人会の招集を! そうだ、落ち着け、おちつけよおおう」

なにやらこの”あくのかりすま”の美竜がやばいことを口走っている。

嫌な予感がする。

「おい! 待て、人知竜!? 何!? 会議って何の話!? 落ち着けよ、本当に!」

「どうしようどうしようどうしよう。お、お。オスから、男の人から触られちゃった……あつくてかたくて……いや、そうだ、違う落ち着いて――落ち着かなきゃ、そうだ、そうだ、そうだそうだそうだそうだ」

ひっひふーと呼吸する人知竜。

ドラ子もそうだが、この竜という生き物、基本的にみんな人の話を聞かない。

遠山の嫌な予感がどんどん膨れ上がって――。

ピコン

【人知竜の好感度がカンストした状態で味方加入が発生し、さらに会話コミュで好感度をさらに上昇させた為特殊なイベントが発生します。――ワロタ】

「なんだ、このメッセ」

「人知の竜の名のもとに。我が輩よ、世界の真理を解き明かし、牙なき身としても定理に抗うモノたちよ。――学院よ、いざここに「」

「え、人知竜? なに? それ」

「疾く来たれ 人知の竜の命である」

「え、だから! ――あ?」

その日。

帝国の歴史年表にあらたな出来事が刻まれる。

”魔術学院”。大戦期から存在し、今もなお国家規模の勢力としてこの世界に認知されるその存在。魔術式と呼ばれるスキルでも秘蹟でも副葬品でもないこの世界の力のひとつを操る存在、魔術師たちの故郷。

いまやもはや記録も定かではない200年前に終結しら大戦の時代。教会の古い資料だけでも、その勢力は少なくとも10以上の国を一勢力として敵に回し、その9ツを滅ぼした。

そして最期は、世界をつかさどり、世界を焼き滅ぼせる力を持った炎の竜に戦いを挑み、1つの命を奪った理外の存在。

それは――。

「な、んで」

影が差す。

日差しを遮るそれは突如、なんの脈絡もなく。

「ごめんねえい。また、すぐに来るから、今、今は顔、みないで――」

人知竜が消える。遠山に顔を見られないよう俯き、そのまま指をパチリ。

それだけで彼女は消える。最後に遠山が見たのは銀色の髪の隙間から覗く真っ赤な耳だけ。

彼女はどこに消えたのだろう。いや、考えるまでもない、きっとあそこだ。

遠山は上を見上げる。

上(・) 空(・) を(・) 。

日を遮り、突如現れたソレを。

「ほんと、人の話きかねえ」

魔術学院がそこにある。

大きなプロペラを底に。それには山がある。緑がある。そして城のような建物が生えている。

世界を揺蕩う空飛ぶ島がそこに。

帝国南領・サパン・フォン・ティーチ辺境伯直轄地。冒険都市・アガトラ上空1000メートル。

魔術学院がやってきた。