軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

re竜

◇◇◇◇

俺の名前はウィス・ポステタス・へロス。本当は世界の王になりたかったんだが、すげえバカな女と出会ってしまってすべての人生設計が狂っちまった不幸な男だ。

そして俺は、今、大いなる戸惑いと新たな不幸のスタートラインに立っている。

「ええ〜! 蒐集竜様、その人とお風呂まで一緒に入られたんですか!? もう、それ……結婚しているのでは?」

「な、に? それはどういうことだ、フォルトナ」

「いや、ねえ。だって普通、乙女の柔肌をなんでもない殿方に見せるなんてしませんもの。ねえ、ウィス?」

「お姫ーーフォルトナ様、蒐集竜様に失礼かと。あなたは今、あくまで竜大使館に仕えるメイドということを忘れずに」

思わず、いつもの癖で話しかけてしまう。

この大使館における自分の役割を忘れてしまうほどに目の前の光景は、いや、この女の行動が理解できねえ。

この女、バカ女、幸運バカ。マジで何を考えてやがる。なんであの蒐集竜とガールズトークしてんだ? いつの間にそんな仲良くなりやがった? いや、そもそも竜だぞ? 定命の存在と仲良くなんてそんな概念すらねえはずだ。

「よい。フォルトナ、ポステタス。貴様らはじいやが選んだ我が大使館の者だ。それに幾分かは気晴らしになる」

「「ーー……」」

「なんだ?」

思わず、俺も、そして珍しいことにこのバカ姫様も息を呑んだ。なぜかって? その貌だ。竜の貌があまりにも人で、そんで綺麗だった。

「いえ、王家に伝わる竜を讃える詩歌から学んだことと、今のあなた様は随分と、違うようで、少し驚きました」

「おい、ーーフォルトナ」

馬鹿がまた距離感を考えねえことを言い出した。

もうだめだ、止めねえと。

ここで竜の怒りを買えば応戦せざるを得なくなる。竜だけならまだいい。最悪、俺の命と引き換えにすれば3つほどの命を削ることは出来るはずだ。

そうすれば、復活までの時間でこのバカだけは逃がしてやれる。

問題はあの爺さんだ。アレが出てきた瞬間、全てが終る。

竜大使館は俺たちを厄介な”天使教会”の邪魔から防ぐための防波堤であると同時に、一歩対応を間違えれば一瞬で噛みちぎられる怪物のアギトの中でもある。

蒐集竜、鬼人、そしてメイド。

この3人がその気になれば帝国も王国も終わる、そんなやべえ場所に潜りこんだのは一重にあの”メイド”がなぜかよくわからないタイミングでよくわからないまま寝込んだという情報を手に入れたからだ。

まさしく幸運、そんなチャンスをこいつは――ていうかそもそも竜大使館に潜りこむとか馬鹿なこと真顔で言いだしたのはコイツなのに! マジで何を考えてんだ。

「良い、続けよ」

だが、俺の予想とは違い、竜はこのバカの言葉にも特に気分を害した様子はない。本当にどうなってんだ。――竜か。本当に?

「わたくしが知る竜という生き物は、もっと触れ難いものでした。世界に選ばれた柱たる存在。世界の成り立ちや概念が形として現れたもの。そこには理解や、共感、ましてや定命の者への遠慮などあるはずもない。だって、竜は他者のことを考える必要なんてないんですもの」

「ほう? フォルトナ。古い盟約を交わしたヒュームの子孫よ、貴様、なかなかに興のわく話をするではないか」

竜の眼が、バカを見つめていた。

「……」

竜の眼は見つめるだけでその力を発現させる。俺はバカが丸焼きにさせられないようにいつでも動ける準備をして――。

「ポステタス。良い、昂るな。別に焼いたりはせぬさ」

「――寛大なお言葉ありがたく……」

やべえ。お見通しか。もう意味が分かんねえ。竜としての性能を持ちながら、たまに雰囲気やしぐさがどこまでも人で。

なあ、おい。バカ姫。

俺たちは一体ナニに喧嘩を売ろうとしてんだよ?

「さて、フォルトナ、先程の話だ。何故、貴様は竜は他者のことを考えなくて良いと申す? 気になる、言え」

「あら、簡単なことですわ。だって、初めから貴女様たち独りぼっちで生きていくことを設定された生き物なんですもの」

「…………おまッ」

「……」

「ふかか、なるほど。貴様なかなかに痛い所をつくな。ふむ、言い当て妙だ」

「確かに我らは貴様の言う通りの存在なのだろうな。竜に家族はあれど、結局は強すぎる自我の集合体、1人では生きていくことが出来ないから家族になっているわけでもない」

「我々、か弱き定命の者からすれば羨ましい在り方でございます」

「ほう、フォルトナ。貴様、竜に憧れるか?」

「強き躰、美しい姿、永遠に等しい命。定命の存在で貴女に憧れぬものなどいません」

「ふかか。そうか、――故に。竜殺しを望むか、小さきモノよ」

「…………ぇ」

ぇ。

ありえない。竜からの読心対策はしている。なのに、読まれた?

「ふかか。なるほど、やるではないか。血を分けた姉と兄を殺し血の呪いを終わらせるとは。残酷に、冷酷に、慈悲なく殺したようだ。ほう、親の方はあえて生かしておるのか。魔術式で魂と自意識だけを殺し、傀儡化。なるほど、だから帝国は王国がすでに貴様の手に落ちたことを知らぬわけだ」

「……おい、お姫様、こりゃ」

全てお見通しらしい。俺か、バカ姫か、どちらかの心を読まれた。俺の血は元々上位生物からの読心に耐性がある、だとすれば今読まれたのは、バカの方か?

頼む、またいつもの計画の内の一つであってくれーー。

「あ、は。ええ、完全予想外。どうしましょう」

ダメっぽいわ、これ。たははと頬を掻くバカ姫、珍しく割と本気で焦っているらしい。

「よい、そう恐れるな。いま、考えておるのだ。オレは」

「と、おっしゃいますと……?」

何故かまだ竜はこちらに怒りを向けてこない。バカ姫の問いに長い脚を組み替えながら竜が応える。

「王国はいずれ、オレと我が竜殺しの敵となっていただろう? あの国はそういうものなのだ。いずれ必ず、ヒトの復権のために立ち上がる。この星の頂点生物の座を奪い返すためにな。……貴様の姉は覇王として、貴様の兄は覇王の剣として。だから、驚いた。なんの力もない貴様が生き残るとは。……ほめて遣わす。あの幼き弱き双子の少女がここまで成るとは」

「……あ、れ」

異変が起きる。バカ姫の声が震えていた。

「お姫様……?」

「ふかか、ようやく思い出したか? 久しいな。 フ(・) ォ(・) ル(・) 」

言葉を失う。竜がまるで、懐かしい旧友に出会ったかのような、優しい顔を。

いや、いやいやいやいや、そういうことか! バカ姫! やるじゃねえか!

"幸運"だな!? やりやがった、やりやがったよ、このバカ!! 土壇場のワイルドカード! あの全てをめちゃくちゃにするクソ能力!

"幸運"で因果を捻じ曲げた、竜の記憶すら捻じ曲げたんだ!! 詳細はわかんねえが、幸運にもこう、昔竜となんらかの交友があった的な思い出を幸運で捏造してーー

「な、ん」

あ、れ?

おい、バカ姫。フォルトナ。

お前、なんだよ、その顔ーー。

「気にするな、オレも思い出したのは貴様らがこの屋敷にきてからだ。あの時、ナルヒトの屋敷で会った時にすぐ思い出せなかった。王家の呪いの影響か、単純に昔のオレはヒューム、貴様らにちょうど失望していた時だったせいか。

「わ、わた、くし。なんで、忘れて……」

初めて、初めて見る顔をフォルトナがしていた。

お前、そんな顔もするのかよ。

「さあな。大方あの王か、貴様の姉の差し金だろう? あの2人は王家の血に強い影響を受けていた。ヒュームの宿願の為にオレに関する貴様の記憶が邪魔だったのではないか? それを貴様が始末することで枷がゆっくり外れたのだろう。秘蹟か、副葬品かまではわからないがな」

「――」

「お、おい。お姫様。な、なにを」

信じられねえモンを見た。バカが膝をついて、頭を下げた。ブラフではなく本気でこいつが誰かに敬意を向けてるとこなんて初めてみた。

「おひさしゅうございます。アリスお姉さま」

「ああ、長らく。フォル。小さきヒューム。姉のトレナは――」

「別れました。あの人は、弱いですから」

「ふむ? そうか。存外、アレはアレで面白味があったと思えるがな。まあ、今となってはだが」

「幼き頃、たった3日ではありますが、貴女様と過ごした時間は忘れたことはありません。あの強い日差しと美しい海、白い砂浜。ともに過ごした時間は、決して」

「懐かしいな。まさかまた会えるとは思わなんだ。これはオレにとっても、ああ、喜ばしいことであるぞ」

「貴女様のうつくしさ、気高さもお変わりなく。しかし……それ以外は――」

「まるでヒト、か?」

「っ――竜殺し様、ですか? 貴女を変えたのは」

「はあ、厄介だ。本当に厄介な男だあやつは。昔のオレなら、フォル、貴様の今の言葉、昔のオレならきっと」

「ええ、焼かれていますね。アリスお姉さま」

ニコリとバカ姫が笑う。

俺は、見たことがなかった。フォルトナ・ロイド・アームストロングがこんなふうに笑う姿を。

いつもによによと目だけ笑っている気持ちの悪い笑顔しかしなかった女が、目の前の竜に心からの微笑みを向けている。

「……」

「ふかか、言いおる。貴様が何を思って竜大使館を訪れたのか、今はもう良い。我が古き思い出よ。再会を嬉しく思う。楽にせよ。――竜祭りもある。楽しむといい、我が街の宴をな」

「ありがたきお言葉。アリスお姉さま。従者の身で差し出がましい真似ですが――」

「良い、貴様の口から話せ。思い出話も悪くない。ああ、そうだ。フォル、貴様に少し、相談をしたいのだ」

「相談……ふふ、なんなりと」

お前、お前マジか。

バカ姫、この状況どうすんだよ。もうどうにもなんねえよ

「――顔を合わすと気まずい友人と、どうやったらもと通りの仲になれると思う?」

「「え」」

「そ、それは、どういう……」

「ふむ、そやつの貌を見るとうまく言葉が出ないのだ、それに身体も熱く、思考が回らぬ。だから顔を合わせたくない。……ああ、今気づいた。オレはこのように様子のおかしい自分をそ奴に見せたくない、というのもあるらしい」

「「好き避けじゃん」」

「SUKIYOKE? それはなんだ?」

「あっ」

ほんと、どうするんだよ。

バカ姫。

俺たちは、これからこの竜を殺さなくちゃいけないのによ。