軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

119話 竜祭り前夜・戦力充実ルート・"さあ、あなたが失うモノを眺めなさい"

~銭ゲバとの作戦会議の翌日、遠山の屋敷、中庭にて~

「おお、歯よ。何故あなたは私をいつも厄介ごとのループに誘われるのか。か弱き我らを守り給え」

「ディス? もうその2人、ぶっ殺せばいいんじゃないディスか?」

翌日。

主教と話した内容をラザールとストルに話した結果がこれだ。

中庭に元々設置されていたテラス席っぽい場所、白い木の丸テーブルを囲み、いつもの3人で顔を突き合わす。

ラザールは鼻に皺を寄せて目を覆いながらまた祈る。

ストルは毛糸の玉を見つけた猫のような顔をしてパチリと指を鳴らす。

「予想通りの反応サンキュー。ラザール悪いがまた付き合ってもらうぜ。ストル、俺もそうしたい所なんだが、それは今回出来ねえんだよ」

「ディス?」

「あくまで今んとこあの2人は怪しい止まりだ。俺と主教の予想でしかない。まあ、でもお前の言う通り推定チェストするのが1番確実ではあるし、ぶっちゃけその案も出たんだが」

「……王族だぞ?」

遠山の言葉にラザールがぼそりと呟く。

「そこなんだよ、ラザールくん。俺と主教も結局、その一点で暗殺を諦めた。竜大使館でやるのは無理だから、街に出かけたりしてる時とか、計画は詰めたんだけどな。リスクが高すぎる」

主教との侃侃諤諤の話し合いの末、遠山の最推しした"暗殺案"は却下された。

その計画の成否以前に、リスクが大きすぎるというシンプルな理由で。

「計画を詰めたのか……主教殿と審問官殿が理性的であらされるようで何よりだ」

「ふーむ。なるほど。王族。偉い人なのディスね。それで遠山、どうするつもりディス?」

ストルがぴょこんと首を傾げる。長めに結われた水色ポニテが流水のように揺れる。

「おう。まあだいたいの方向性は、俺と銭ゲバの結論として」

遠山が安楽作りになっている椅子の背もたれに体をぐぐっと預け伸びをしながら。

「何もしないことにした」

ラザールとストルに決定を告げる。

「……意外だな。いつものアンタなら暗殺がダメでもなんらかの手立ては揃えていると思ったが」

「えー、消極的すぎませんか? いいのディス?」

2人とも意外そうな顔をする。これまでの彼と彼女の知る"竜殺し"のやり方とは少し違う対応だった為だろう。

「あー、理由はいくつかあるんだが……今回はいつものクソトラブルと大きく違う点がある。例えばホラ、ストルお前と前揉めた時とか、あの白蛇女と戦った時、ああいうのと今回はシチュエーションが違うんだよ」

「どういう意味ディス?」

「教会騎士の時も白蛇女の時も、まあ、あとはこの前のドラ子に謝りに行った時も、俺たちに降りかかるトラブルは大抵、予想だにもしない中、突発的に起こったことだ。今すぐこちらからぶん殴って対処しないとこっちがぶっ殺される的な奴な」

「んー?」

ストルにはまだピンと来ていないようだ。遠山は瞬時に知性1の水色ポニテにもわかるように話を再構成していく。

「まあ、ストルにもわかるようにシンプルに言うとだな。今回はもう既に"これから何かが起きて、どんな奴が敵になるか"が"ある程度目星ついてる状況"なんだよ。これが今までの俺たちの愉快な生活とは違う最大の点だ」

「えー、トオヤマ。でもだからこそ怪しい奴がわかってるのならもうこちらから先手で潰したら早いじゃないディスか」

ストルが自分の握り拳をパターンと空いた手で叩く。乾いた、いい音がした。

「イノシシかてめーは。と言いたい所だが、ストル。お前の言うこともとてもわかる。すげー分かる。アイツらが、何の後ろ盾もないチンピラならぶっちゃけ即殺して教会の権力で揉み消すことも出来るんだが、ま、今回はアレだ。相手もなかなか頭が回るみたいでな。アイツらの今の立ち位置がにくたらしい」

「竜大使館か……」

ラザールがうめく。

「そ。表向きは王族、しかも今は王家の慣例に従って竜の従者見習いとなってる。この状態で連中をこちらからチェストするとどうなるか、はい、ストルくん、わかるかな」

「スッキリする!」

「ラザールくん、君困るよ。きちんとさあ、この子の教育しなくちゃ」

「悪い見本に憧れてるんじゃないか?」

遠山のぼやきに、ラザールが喉を鳴らしながらにやりとストルの方へ笑みを向けた。

「あ? なんだそりゃ」

その反応に、遠山が首を傾げ、ストルの方へ視線を流す。

「デデデデイス! ら、ららららラザール、今の発言は見逃せません! わたしがいつトオヤマのことをそんなふうに言いましたか!?」

何故か、ストルがプルプルと震えながらラザールへ詰め寄っている。

「おっと、騎士殿。俺は何も悪い見本がナルヒトだとは一言も言ってないが?」

「ッーーこ、のリザドニアン、イジワル! トオヤマ、みてくださいこの顔! この牙! ディス!」

「ははは、は、こらこら騎士殿。君は力が強いんだからもう少し手加減を……ガッ!?」

ぐにゅんとラザールのトカゲ顔を掴んでもちゃもちゃと揉み回すストル。馬鹿力で顔を揉まれたラザールがすぐに悲鳴を上げていた。

「うんうん、お前らも仲良くなってるようで何より。さて、ストルが俺に憧れてくれてるのはありがたく受け止めて、だ。話を戻すと、用は今、こちら側からアイツらに手を出すと一気にこっちが悪者になっちまうってこと。んで俺らの今の立場的に"悪者"になるのは避けたいんだよ」

「教会の勢力下にいる今の状況では、そう簡単に動けない、ということか」

首を揉みながら、ストルから解放されたラザールがつぶやく。

「平たくいやそーゆーことだ。今回のトラブルはな、つまり俺たちの行動1つミスれば、俺らの大きな後ろ盾である"天使教会"を巻き込んで全て終わるってことさ」

「むー?」

どうやらまたストルはピンと来ていないらしい。

「……わたし達の敵がいるんディスよね? そいつらの正体も分かっている。やっぱりもう、 チェスト(殺す) が1番ディス?」

水色の瞳に輝きはない。美しく、澄みすぎている泉のようだ。

遠山が額を揉みながら、この純粋な騎士を説得出来る言葉を探す、探してーー

「今回は、負けたら全部終わるんだ」

「ディス?」

「教会を巻き込んでいる以上、今回だけは"完全勝利"しなくちゃならねえ。負けたら終わり。今の生活も、これまで勝ち得たモノも全部失う」

危機感。

遠山鳴人の頭は酔いや ヤバ女(名瀬瀬奈) による工作であらゆるトリガーが外されている。

だが、それでもなお、聡く、流れを読むことが出来るが故に感じる今回の竜祭りやあの予言。嫌な予感がする。

今回の敵、これに負ければーー

「今の、生活が消える……?」

「あ?」

「む?」

思考に沈みかけていた遠山を引き戻したのは、ストルの微かな呟きだった。

「それ……わたし、嫌、ディス」

表情が、固まっている。まるで、恐ろしい夢を見てそれに慄いている幼子のようだ。

「お、おお」

「ふ」

遠山はストルのその様子にただ驚き、ラザールはなぜだろう、少し嬉しそうにその様子を眺めていた。

「わかり、ました。……トオヤマ、あなたの判断に従います。だから……わたし、嫌、ディス」

震える声。そして遠山は信じられないものを見た。

ぽたり。大きな水色の猫目から溢れたのは、涙。

ツヤツヤの白い頬を球のような涙が伝って、テーブルにシミを落とした。

「あれ、ストル? うそ、ストルくん? え? 泣いて……え? ラザール!? なんで!?」

「ニコー、いるかい? ナルヒトが君の大切な友人を泣かしてしまった。手助けしてくれ」

わたわたし始める遠山を尻目に、愉快トカゲが中庭で遊んでいる遠山の一味随一の陽キャに声をかけた。

「トカゲッ! お前、ニコはずるいだろ! 正論陽キャ少女に叱られる20代男性の姿はきついぞ」

「ラザールさん!? なんですって!? またお兄さんがストルちゃんをいじめたの!? ダメよ! 最近、ストルちゃんはお兄さんに対して少し距離感が掴めてないというか、計りかねているというか、少しナイーブな感じなのに!」

びゅんっと、飛んできたニコがストルに寄り添い、遠山に声を向ける。

「に、ニコちゃん! そ、そんなこと言わないで……」

ストルが顔を手で隠しながらうずくまる。耳が、真っ赤になっていた。

「え? ダメだったの? でも、ストルちゃん、最近お兄さんと話す時無理して何か明るい感じ出してるから、私てっきり、なんか意識してるのかなって」

「トオヤマ、ラザール! わたし、ニコちゃんと買い出しに行ってくるディス! お小遣い使いますからね!」

「お、おー、気をつけて」

「夕飯までには帰ってくるんだぞ、2人とも」

凄い勢いで復活したストルに、遠山とラザールが手を上げて。

「ニコちゃん、行きますディスよ!」

「キャッ! もう、ストルちゃん、私、1人で歩けるわ! でも、えへ。こんなふうに抱っこされるの好きかも」

「もう! この天然人タラシ少女!」

ニコをお姫様抱っこしたストルが、風のような速さで中庭を駆け、ついでに塀を飛び越えて出掛けていった。

せめて門から出ろ、門から。

遠山がぼーっとその様子を眺めて。

「……なんか、アイツら最近すごい自由になってきたな」

「ふ、ああ、そうだな」

1番声がでかいのがいなくなったテラス席、ふと遠山が中庭で遊ぶ子供たちを眺める。

「う、ごおおおお……ルカぁ、どうだァ!? 少し持ち上がったか?」

「ううん。全然。無理だよ、リダには。この重りを使った鍛錬、ストルや兄さんがやってる鍛錬じゃん」

「うるせえええ! 少しでも鍛えて、早く役に立つ、んだ! むごおおお」

「あはは、頑張れー、リダ。腰に気をつけてね」

「ぶだ」

中庭の一角ではリダとルカ、ペロとシロがわちゃわちゃしている。

遠山やストルが鍛錬に使っている重し代わりの砂袋をリダが持ち上げようとしているようだ。

「ま、がきんちょどもはああやって騒いでるくらいがちょうどいいや」

「ああ、子どもたちが年相応にはしゃげるのは平穏の証だ。……ナルヒト知ってるか? 最初は夜、眠る時に彼らは順番に目を覚ます癖がついてたんだ」

「うん?」

遠山の返事に、ラザールがくすっと笑う。

「おそらくスラムでの生きる為の習性だろう。夜、全員が眠っていては何かが起きた時にすぐ逃げ出したりできないからね」

ラザールもまた、子どもたちを眺めている。赤い目を細めたその姿は、まるで何か眩しいものを眺めているようにも見えた。

「だが、最近はもう誰も起きない。何故だか分かるかい? ナルヒト」

「衣食住たりてるからだろ」

「それもある。だが、1番の理由はアンタさ」

「なんだそりゃ」

意外な言葉に、遠山が背もたれに体をまた深く預けて。

「安心してるんだ。彼らは。もう、夜に起きなくても生きていける。その居場所をアンタが作ったんだよ。あの子たちの運命や生き方はトオヤマナルヒト、君が変えたんだ」

「買い被りすぎだ。人が人を変えるなんて烏滸がましいよ、ラザール」

あまりそういうのが好きではない遠山がラザールの言葉に鼻を鳴らす。

「ふ。ああ、ナルヒト、君ならそう言うだろうとも。だが……」

ラザールが肩をすくめて、また小さく笑う。優しい眼差しを中庭に向けて。

「ふんがああああ、あ、あ! 見ろ、少し! 少し持ち上がった!」

「あ、ほんとだ」

「わー、すごーいリダ」

「だび」

「この光景は悪くない」

影の牙が、己の人生の中で最も穏やかだ暖かさに満ちた時間を味わう。

白い鱗が、陽光を浴びて少しキラキラとしていた。

「ラザール」

遠山が友人の名前を呼んで。

「うん?」

「竜祭り、成功させようや」

「ああ、もちろんだ」

短い言葉、短いやりとり。この2人にはそれだけで十分だっ

「さて、彼らに混ざって俺も少し鍛錬をしてくるよ。おーい、みんな俺も混ぜてくれ」

「お! ラザールさんもやろうぜ!」

「ラザールさんなら、持ち上げられるでしょ、簡単に」

「わー、まっしぶ」

「だっしぶ」

子どもたちに混ざって、リザドニアンが砂袋を持ち上げる。それを見てまた朗らかな声が中庭に響いた。

「楽しそうでなによりだよ、トカゲさん」

遠山がテーブルに頬杖をついてつぶやく。口角が少し上がっていることを遠山は知らない。

遠目から、しばらく遠山は仲間が騒いでいるのを静かに眺めーー

「……ふざけてんじゃあねえぞ」

無意識のうちに漏れたのは、明確な怒り。

あの予言は遠山に示したのだ。

この光景を奪おうとしている奴らがいる、と。

「どいつもこいつも、次から次へとワラワラ湧いて来やがって」

遠山は、この世界に来てから得たものを、彼の冒険の報酬を眺める。何も喪う気はない、何も奪わせるつもりもない。

自分が進むべきその道に立ち塞がる者がいるならば、自分の邪魔を、己の欲望の敵になるものがいるのならば、遠山鳴人の答えはいつだって決まっている。

「どこからでも来やがれ。ぶっ殺してやるからよ」

緩い風が、中庭を駆けた。

「うん、やはり、君はそう言う顔が素敵だねえい。すぷぷ」

当たり前のように最近屋敷に住み着いている人知竜が、また当たり前のようにいつのまにかテーブルの真向かいに座っている。

「意志と殺意と知性が渾然一体となってる。ノリだけで汚い笑い方しながら全てをめちゃくちゃにする馬鹿とは違うところがとても良い……やっぱ知性って大事だよねえい」

「……おー。ちょうどアンタと話したかったよ、人知竜。どこに行ってたんだ?」

竜たちの奇抜な登場方法に最近、諦める形で慣れてきた遠山が手を上げて声をかける。

「おや、嬉しいねえい。僕のことが気になるのかい? 少し天使教会にお茶を飲みに行ってたんだ。今から大事な時期だろう? 主教ちゃんは有能で賢い子だけど、敵も多いからねえい。少しばかり、そのお手伝いさ」

ピコン。

【特殊なイベントが完了しました。"人知竜"からの好感度がカンストしている為、彼女が独自にあなたの為に動いた結果、竜祭りにおいて第二聖女派によるクーデター計画が防がれました。特殊イベント"カノサの屈辱"の発生が延期されました】

どうやら、知らない所でまた、あの銭ゲバがげばげばしているらしい。遠山は人知竜が教会にやって来た時の彼女の反応を想像して少し笑った。

「……おや、トオヤマくん。今、もしかして誰か他のメスのことを考えて笑っ……た? え、まって、脳が死ぬ。え? なに? そんな顔もするの? もっと見せて色々な顔をもっとボクに見せてよ、My Dragon Slayer」

うつろな顔をしつつも、頬だけは紅潮させた美竜がぐいっと遠山に顔を寄せる。

本当に、顔が良い。肌はきらめく綺羅星のようで、目鼻はくっきりと。歴史に名を遺す名匠が生涯をかけてなお、たどり着けぬだろう精密さで。

「近い! 近い近い近い! 大丈夫だ! あの銭ゲバはもうギリ俺の中では男だ! だから、距離考えろ距離! 顔面偏差値で殺される!」

「おや、すぷぷ。その言い方、もしかして図らずに、ボクの見た目はキミのお気に召しているのかな?」

にいっといたずらっ子のように人知竜が笑う。水銀を溶かし、丁寧に編み込んだような銀髪が風に手櫛をされているようにそよいでいる。

「銀髪に弱いんだ、俺は」

「――勝った。第3部完。すぷ」

腕組みしながらにまにましつつVサインしている目の前の美竜を遠山が眺める。奇妙な奴でよくわからないことも多いが、何度も彼女には助けられてきた。

「……なあ、アンタさ、なんで俺にこんな味方してくれるんだ?」

疑問をそのまま問うた瞬間、遠山が、息を呑む。

人の記憶に最も深く関わる五感は"匂い"だと言う。その時、遠山の鼻に香ったのは、クリームのような甘い匂いーー。

それもまた、懐かしき遠山鳴人の青い春を飾った記憶の一つ。

「『君のことが大好きだからだよ。遠山鳴人くん』」

「…………え」

その匂いをさせる女のことを遠山は決して忘れない。

「な、ぜ?」

目の前の、女。美竜が微笑む。その薄く、薄く目だけ笑っていない笑い方、それはーー

「おっと、すぷぷ。いや、安心してねえい。僕はぼくだよ。ごめんねえい。彼女、たまに浮き出てするんだ。君も罪な奴だねえい。……魂だけになってすら、なおも残る想い、いや、妄執か。すぷぷ、ああ、これだから君たちは面白い」

「……人知竜、アンタ俺の知らない所でもしかして想像以上に色々やってんのか?」

空いた口がふさがらない、今の笑い方は、そして人知竜の言葉は、つまり――。

「すぷぷ。ああ、いい感じだねい。その感じでもっと、もっと僕のことを考えてくれたら嬉しいな。でも安心しておくれ、もう彼女自身は輪廻に旅立っている。今残っているのは純粋な想いだけさ。まあ、僕からしたら重すぎてどうかと思うけどねえい、すぷぷぷぷ」

「あ、はい」

怪しく笑う彼女を眺め、しかし遠山は考える。

実はあの予言に対抗する為の策はすでにいくつか用意している。銭ゲバと昨日打合せしたもの、そしてこれから詰めていくもの。最後に遠山個人が用意しているもの。

だが、まだ――。

「まだ足りない、だろう? 僕の竜殺し」

「――」

その眼、その舌、その貌。それは遠山の知る謎の愉快な美竜、今まで見てきた人知竜の顔ではなかった。

古き竜の一柱。ヒュームに”魔術式”という可能性を与え、この世のルールを書き換えた異端の祖。ヒトを知り、ヒトをたぶらかし、ヒトをその虜にさせる上位生物の貌。

彼女もまた蒐集竜と同じく、完全なる相互理解など不可能な存在、そう思わさせられる。

「キミは金色の竜を殺し、カラスを殺し、教会と手を結び、古き白い永遠を殺し、夏の夢から帰還した。キミはこれまで数々の死の運命を乗り越え、冒険を進めた。だが、キミも理解しているだろう? 今回は今までとは違うってさ」

竜が人間へ問う。

「はあ……アンタも大概食えねえな。ああ。今実は結構困ってて。味方で、強くてヤバい奴の助けが欲しいんだ」

「すぷぷ。安心しておくれよ、僕のトオヤマくん。こう見えて僕、陰謀、画策、暗躍、計画、仕込み、立案、実行。そういうの得意中の得意でねえい。……まあ、でもバカと火とカッパと鬼だ出てくると一気には負けフラグ立てちゃうんだけどねえい」

「なんだそりゃ……。なあ、人知竜ーー」

足りない、竜殺しと影の牙、第一の騎士。そして教会だけではきっと足りない。

だから、遠山は目の前の上位生物との取引を持ち掛けようと――。

「いいよ」

「え?」

「いいよって言ったのさ。大体の都合はもう、あの主教ちゃんから読んで知ってる。すぷぷ、ああ、君たちは聡く、用心深く、そして正しい。断言しよう、その予感はきっと、当たるとも」

全てを見透かしたような目で、どこまでも愉しそうに彼女がすぷぷと笑う。

遠山は取引をしようと思っていた。彼女の助力を得るために彼女の求めるものを探ろうと。

でも、遠山鳴人は勘違いしていた。彼女にとって求めるもの、彼女が欲しいものはもうとっくに、遠山は彼女に与えている。

「ああ、ようやくだ。ようやくさあ、キミとこうして、すぷぷ。楽しめる。ああ、たのしいなあ。いつも眺めるだけだった君と、今度はこうして一緒に頭を悩ませることが出来る? さあ、敵はどんな奴だろう? どんな策を考えているんだろう? 何を求めているんだろう? どんな力でどんな方法で、僕たちの目の前に立ち塞がるんだろう? ああ、そうだ、ボクはずっと君とこうしてみたかった。――ああ、ほんの少しだけ、貴様にも感謝してあげるよう。恐ろしい化け物ども」

彼女が過去でもあり、未来でもあるある記憶を、ある最恐の敵を無意識に口ずさみ。

彼女が求める報酬へと、笑いかけた。

「さあ、トオヤマ君。考えよう、備えよう。たくさん話して、たくさん試そう。そう、そして――」

彼女は、ようやくここへたどり着いたのだ。

「冒険の準備を始めようじゃあないかい」

【”人知竜”が味方になりました】