軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第433話:暴露

都市カマー貴族街に惨鎧斬が出現したことは現場にいた衛兵隊からの一報により、瞬く間に拡散されていく。

そして、衛兵隊は驚くべき速さで対応を開始した。貴族街に通じる道を全て封鎖したのだ。なんの説明もなく一斉に封鎖したために市民に混乱が生じるのだが、ここで詳細に説明してもより大きな混乱を生むだけだと、各隊の隊長判断により説明をせずに封鎖を強行する。

同時に貴族街に取り残されることになった各邸宅へ避難するよう声をかけていく。

これは非常に面倒な作業になる。なにしろ、この邸宅に住むのは多くが貴族やその関係者ばかりだからだ。一般市民のように説明もせずに避難を呼びかけても、素直に従わない者が少なからずいることが予想された。

「迅速な対応に感謝する」

ある邸宅の玄関で衛兵からの避難の呼びかけに、執事ではなく当主代理の男性が直接応対する。この男性はある伯爵家の三男で自領と都市カマーでの商談を任されているのだが、今回もいつものように商談関連で都市カマーに滞在していたのだ。

「すぐに使用人を集めなさい」

「はっ。直ちに」

執事は碌な説明も受けていないにもかかわらず、主からの指示を受けるや否や、すぐに行動を開始する。

「避難する際は北ではなく南の道からお願いします」

「重ねて感謝する」

着の身着のままで素直に避難を開始する貴族を前に、衛兵のほうが驚くほどの素直さであった。だが、これが真っ当な貴族の姿であるのだ。民が普段思い描く傲慢で威張り散らしている貴族の姿など、極限られた一部の貴族でしかない。多くの貴族は自領の発展と税と民とのバランスに日々頭を悩ませているのだ。

「私たちが先頭を――――」

先行する主に、護衛たちが軽率な行動だと意見しようとするのだが。

「いや、 都市カマー(ここ) は私のほうが詳しい。このまま一気に貴族街の外に向かうぞ」

その言葉を言い終わる前に、男は時間が惜しいと拒否する。そのまま進んでいると、ある一件の邸宅前で揉めている者たちが視界に入る。

「碌な説明もなく避難をしろと言われても、はいそうですかと従うわけにいかん。どうしてもというのならば、侯爵閣下の文書でも持参してくるのが道理であろう!」

使用人を引き連れて門前で声を張り上げているのは、この邸宅の当主である貴族本人であった。

(あれは……衛兵を敷地内にも入れずに門前で、それも当主自ら抗議――――いいや、あれは子供のように駄々をこねているのか。なんたる礼儀知らずか)

見たところ年齢は自分より一回りは上、30代後半といったところだろうか、と男は判断する。

(貴族失格。いや、あの者が悪いのではないな。親がまともな教育を施さなかったのだろう)

一瞬、両者の間で視線が交差するのだが、それを無視して男は素通りしようとする。

「出直してまいれ」

野良犬でも追い払うかのように手を振る貴族を前に、衛兵たちも感情的な目つきになるのだが。

「そうですか」

隊を率いる上司は素直に引き下がる。

「よろしいので?」

「やむをえん」

不満そうな声を隠そうともせずに、部下の一人が言葉をかける。近くにいたためにやり取りが聞こえていた貴族の男の顔が険しくなるのだが。

「全ては救えん。次の家へ向かうぞ」

その言葉に貴族の男は一瞬、虚を突かれたかのようになるのだが、衛兵たちは「はっ」と短く返事をすると、本当に次の邸宅へ向かっていく。その背に顔を青くした貴族の男が「待て」「言い訳をしないのか?」「事情を話せば」などと言葉をかけるのだが、衛兵隊が反応することはなかった。

なおも衛兵隊を呼び止めようと、半ば叫ぶように口を大きく開いたそのとき――――轟音が空気を震わせ響き渡る。轟音の正体は雷である。晴天の空より雷が落ちたことに皆が空を見上げると、もう一発の、落雷とは形状の違う光線のような雷が降ってくる――――否、放たれるのが見えた。それも立て続けにだ。

「急ぐぞっ」

それを見た避難中の貴族の集団は足を早めるのであった。

「ぜぇぜぇ……っ」

息を切らせながら浮遊する剣の上に乗るクラウディアは、顔だけでなく全身から汗が滴り落ちている。普段ならこのような醜態を晒すことはないのだが、それを取り繕う余裕もないのだ。

「どうした? そんなに息を切らせて」

一方の惨鎧斬は余裕すら漂わせる口調である。事実、傷まみれのクラウディアやララと違い、惨鎧斬には掠り傷すらない。

(信じられない鎧だわ)

惨鎧斬からの猛攻を凌ぎながら、クラウディアとララは何度も惨鎧斬を斬りつけていた。あの惨鎧斬からの攻撃を防ぐだけではなく反撃までしているというだけで称賛に値するのだが、残念ながら惨鎧斬が纏う鎧に傷をつけることすら叶わないのが現状である。

(ララも普段は見せない剣技まで使っているのに、こいつ化け物にもほどがあるわ)

何年も一緒に戦ってきたクラウディアですら初見の技をララは使っているのに惨鎧斬には通用しないのだ。

当然、クラウディアも普段は見せないような剣技を放ち続けている。

惨鎧斬を削り切る前に、クラウディアたちのほうがこのまま削られそうになるほど追い込まれていた。

(場所が悪いわね)

衛兵隊より避難完了の合図はいまだ送られてこない。市街地ではクラウディアたちは全力で戦うことができないのだ。もし周囲を気にせず力を発揮すれば、逃げ遅れた者がいた場合にまず即死するだろう。

一方の惨鎧斬は特に気にした様子もなく力を思う存分に振るうことができる。それは惨鎧斬が周囲の被害を気にせず戦えるからではない。戦闘スタイルの違いである。数多の円盤を完璧に操作し、敵以外は無闇に被害をもたらすことのない惨鎧斬の戦闘スタイルは市街戦でこそ真価を発揮するのかもしれない。

「少し困った」

「困った、だと? それだと頑張ればなんとかなるみたいな言い草じゃないか。この惨鎧斬を前に舐めた口を利くなよ」

魔法により浮遊するララは、クラウディアと同じように汗を流しながら上空より惨鎧斬を見下ろし呟く。突破口が見つからないのだ。

「さて、遊びはおしまいだ」

無数の円盤の形状が槍――――ランスのように変化する。顔にこそ出さないものの、これまで惨鎧斬が操る円盤を――――斬撃による攻撃を剣で防いできたクラウディアとララは心の中で舌打ちをする。斬撃から刺突に攻撃を変える気なのだろう。線から点による攻撃――――これから始まるであろう惨鎧斬の攻撃は、先ほどとは比にならぬほど厄介なものになる。

「失礼いたします」

殺し合いの最中とは思えない場違いな声音であった。

メイド服に身を包むダークエルフ――――マリファが一礼しながら声をかけたのだ

(ダークエルフの少女……こいつがマリファか)

惨鎧斬の手が止まる。

(ちょっと! なに考えてるのよ! ニーナって子といい、レナって子といい! 戦力の逐次投入なんて愚策もいいところでしょうがっ! そもそもパーティーのリーダーであるサトウはどこにいるのよ!! あ~!! なんだかイライラしてきたわ!! ニーナって子はさっさと逃げるし、フフって子はチラチラ姿を見せてわ隠れるし、最近の子ってばなにを考えてるのか理解に苦しむわ!!)

パーティーであるならば一緒に来ればいいものをと、なぜバカ正直に順番に現れる必要があるのかと、クラウディアはいつまで経っても衛兵隊からの合図が来ないこともあり苛立ち始める。

「その異形の鎧……あなたが惨鎧斬ですか」

「ほう……知っているなら話は早い。サトウはどこにいる?」

「ご主人様ならいますよ」

そっと、マリファは自分の胸を手を重ねる。

「常に私はご主人様と一緒です」

なぜかわずかに頬を赤らめるマリファの姿に、思わず惨鎧斬はクラウディアの反応を窺う。しかし、惨鎧斬から反応を求められても困るとでも言うように、クラウディアたちも困惑していた。

「は、はあっ!? なに私のほうを見てんのよ! 困惑してるのはこっちのほうなんですけど! ちょっとララ、あの子がなに考えてるのか説明しなさいよ」

「多分、私の心が常にジョゼフと一緒なのと似てるかも」

「だ、誰が常に一緒よ! 人様の婚約者に手を出してんじゃないわよ!」

「クラウディア、いい加減に私のジョゼフに付きまとうのは止めたほうがいい」

くだらない茶番を繰り広げるクラウディアたちを放置して、惨鎧斬はマリファと向き合う。

(サトウがここに向かっているのか。それともフフのように隠れているのか。どちらにせよ、引きずり出してやればいい)

惨鎧斬がマリファに向かって右手を伸ばしたと同時に、マリファの足元から無数の虫が現れ惨鎧斬へ襲いかかる。

「虫使いか……珍しいジョブだが、たかが虫如きで惨鎧斬に通用するとでも」

奇っ怪な虫の動きは速いと言えば速いのだが、このレベルの者たちから見れば欠伸が出るほど遅いものであった。しかし、虫が惨鎧斬の足元から腰にまで群がり始めても、惨鎧斬の自動攻撃が発動しない。

「なにっ!?」

そのことに誰よりも惨鎧斬が驚く。

「その鎧が敵意や殺意に反応するというのは本当のようですね」

フフからの情報をティンたちから又聞きしていたマリファは、とりあえずは情報に嘘はなかったと判断する。

「ぬおっ……」

マリファの操る虫の一種――――オスミウム虫は一匹で80キロを誇る甲虫である。その甲虫が群がる惨鎧斬にかかる負荷は想像を絶するだろう。

「あなたが先に敵意を向けたんですよ」

胸元まで這い上がってくるオスミウム虫を、慌てて手で払おうとする惨鎧斬に向けてマリファは語りかける。

「虫はそれに反応しただけです」

『赤手空拳』のメリットならばともかく、普通の者なら――――否、 兵(つわもの) であろうと数十トンもの負荷をかけられれば満足に動くことすらできなくなる。

「そうか……虫に自我などあるわけがない」

惨鎧斬も理解したのだろう。

小さな虫に自我と呼べるほどのものがないことに。大型の魔蟲や高ランクの魔蟲の中には知能の高い種もいるのだが、マリファが操る虫はあまりにも小さく、知能も低い。これでは敵意や殺意に反応する惨鎧斬の自動攻撃が発動しないのも道理である、と。

「くくくっ。まさか惨鎧斬にこんな弱みがあったとはな」

首元までオスミウム虫に群がられているにもかかわらず、惨鎧斬は笑う。

「そのように余裕を見せていてよろしいのですか? その大型の鎧に私の虫の重量が加わっているのです。このままだとまともに動くどころか、圧死してもおかしくありませんよ」

「優しいんだな? 敵の心配をするなんて」

鎧の覗き穴から一匹のオスミウム虫が侵入しようとした瞬間、惨鎧斬の全身から無数の針が飛び出し、身体中に群がるオスミウム虫を串刺しにする。

「その程度の弱みは弱点にもならんよ。俺が操ればいいだけだからな――――このように」

オスミウム虫を振り払いながら惨鎧斬が右手を振るうと、円盤が展開されてマリファへ襲いかかる。対するマリファは黒い霧を前方へ展開――――黒霧羽蟻の群である。円盤と接触すると同時に鉄の強度を誇る黒霧羽蟻が火花を散らし、それをものともしない円盤が黒霧羽蟻を蹴散らす。

「そら、そのままだと死ぬぞ?」

目前にまで迫る円盤を前に、マリファの表情は変わらない。氷のような視線を惨鎧斬に向けたまま円盤を横に避けようと動く。

「バカっ!」

「ダメっ!!」

思わずクラウディアとララが叫ぶ。

少し横に動いたくらいで躱せるなら、クラウディアたちも苦労はしない。マリファの動きを追尾するように円盤は軌道を修正する。このまま必殺の一撃である円盤によって、マリファの胴体が横に真っ二つになると思われそのとき。

「誰がバカですか」

奇妙な木がマリファを護るように生えてきて惨鎧斬の操る円盤を絡め取っていた。それでもなお動こうと高速回転し続ける円盤であったのだが、徐々に回転速度が遅くなり始め、やがて完全に停止する。よく見ると、円盤には黄土色の液体が付着していた。その液体が円盤の回転や動きを阻害していたのだ。

マリファが使用したのは樹霊魔法第4位階『 粘樹玉(ピッチ) 』、樹の至るところに小さな玉のような部分があり、その玉の中には高粘度の液体が詰まっている。

(コロとランを置いてきたのは正解でしたね)

もし、この場にコロとランがいれば初撃で殺られていた可能性が高かったと、マリファは判断する。コロたちが弱いからではない。地を駆け、真正面から戦うことが主である二匹の戦闘スタイルはあまりにも惨鎧斬と相性が悪いのだ。

「お前も多少は対策を考えてきたようだ。無駄だがな」

無数の円盤がマリファの周囲を浮遊する。

「その数をご自慢の虫や樹で防げるか試してみるといい」

死臭――――クラウディアは自身ではなく、マリファから濃い死臭を嗅ぎ取る。このままでは間違いなくマリファは死ぬと、こんなときにサトウはなにをやっているのかと、そう思ったそのとき。

「さあ、始めよう――――ぬうっ!? 来たかっ!!」

殺意、それも強い――――どころではなかった。

「出てこいサトウ! 隠れていても惨鎧斬の前では無駄だぞ!」

達人になればなるほど、敵意や殺意を消そうとする。“意”を察知されれば、事前に動きを予想されるためだ。だから、限りなく“意”を小さくすることで、読みづらくさせるのだが――――だが、ユウは逆に殺意を隠そうとしなかった。あまりにも強い殺意は惨鎧斬だけでなく、殺意を向けられていないクラウディアたちまでをも覆い尽くしていた。

「なに考えてんのよ」

「これは――――いい手かもしれない」

強大な殺意によって、周囲を塗りつぶしたかのように殺意が覆う。そのせいで惨鎧斬はユウの居場所を掴むことができないでいた。

「色々と考えてくるじゃないか。だが、それでどうする? 隠れたまま、どうこの惨鎧斬を倒すつもりだ」

煽るように周囲へ言葉を放つ惨鎧斬であったのだが、内心では冷静そのもので「これで役者は揃った」と思っていた。

「さあ、さあさあ! どう俺を――――」

レナに続き、再び惨鎧斬は言葉の途中に攻撃を受ける。自身の足元の大地が爆ぜるように吹き飛び、不可視の爆撃のような風が惨鎧斬を空高く舞い上げたのだ。

(ま、不味いっ)

惨鎧斬が焦る。

鎧と着用者を含め数百キロを優に超える惨鎧斬を空高く吹き飛ばすほどの風魔法に焦ったのではない。

(大地から引き離されてしまった)

地に触れているからこそ、惨鎧斬は無限の力が奮えるのだ。それを気づいていたのか、それとも無意識あるいは偶然なのか。惨鎧斬はユウによって、天高く放り出されてしまった。

「く、くくっ。いいだろう。空中戦だろうが、惨鎧斬に弱点などないことを教えてやる」

しかし、ユウが姿を現すことはなかった。このまま空中で攻撃を仕掛けてくると思っていた惨鎧斬は拍子抜けする。

そして、そのまま最高点まで舞い上がった惨鎧斬の身体は、今度は頭から地上に向けて落下し始める。このまま地上に激突しても、惨鎧斬を着ている自分が死ぬどころかダメージを負うことはない。落下死がユウの狙いならば見当違いも甚だしいと、些か失望する惨鎧斬であったのだが。

だが――――惨鎧斬は気づいていなかった。このとき、地上から自分に向けて風が筒状に繋がっていたことに。

「…………なんだ、あれは?」

小さな物体がゆっくりとこちらに向かってくるのが、惨鎧斬の目が捉える。最初はわからなかったが、やがてそれが歪な火の玉だと惨鎧斬は気づく。

「火の玉? ファイアーボールか? なんとも不細工なファイアーボールがあったものだ」

人の頭部よりも一回り大きなファイアーボールの正体は、ユウのオリジナル魔法『 蜀紅蓮(しょっこうれん) 』である。火の玉が間近に迫るも、それでも生粋の戦闘者ではない惨鎧斬は脅威を感じなかった。

だから―――― まとも(・・・) に頭部に『 蜀紅蓮(しょっこうれん) 』が命中した。

「封鎖状況はっ?」

「貴族街への封鎖は完了しています! 引き続き避難を進めています」

「よし! 完了次第、衛兵隊を惨鎧斬の包囲へ向かわせるんだ」

ムッスの館にある会議室では、武官と文官が慌ただしく動き回っていた。

「惨鎧斬のほうはどうなっている?」

「現在、クラウディアさまとララ殿が交戦中と」

武官の会話を聞いて、ムッスは頭を抱え込みたくなる衝動を無理やり抑えつける。

「よりによって、なぜあの二人が交戦するかな」

「武人としてプライドの高い両名ですから、負けっぱなしというわけにはいかなかったのでしょう」

「プライドよりも私の指示に従ってほしいところだ」

このような状況であるにもかかわらず、ムッスは軽口を叩く。その姿に重苦しかった会議室の雰囲気が和らぐ。

「惨鎧斬が貴族街に現れたのは良くはないが最悪ではない」

ムッスの言葉に、武官や文官たちが同意するように無言で頷く。これが人通りの多い商店街や市民が住む住宅地区であったならば、どれほどの混乱が予想されたか。

「失礼いたします!!」

一人の文官が会議室へ飛び込んでくる。これに驚く者は皆無であった。すでに惨鎧斬が現れてからは日常的な光景であったからだ。

「ムッス様、こちらを」

汗だくの文官は手にした資料をムッスへ差し出す。この男は惨鎧斬のことを調べるよう派遣していた文官の一人である。資料に目を通すムッスであったのだが、これまでに入手してきた情報を補足するようなものばかりで、目新しい情報はなかった。

「ありがとう」

「いえ、では私は次の――――あっ」

「どうかした?」

「これは特に重要な情報ではありませんが……」

この緊迫した状況で言っていいものかと、悩む文官に対してムッスは些細な情報でも、あとになって重要になることもあると、文官へ話すよう促す。

「セット共和国北部のポラメアル地方ですが、以前の名前はダーシズという地名だったそうです」

「そうか。ダーシズね」

「ありがとう」と、目の前の文官に軽く手を挙げて礼を述べると、ムッスは机の資料に目線を動かそう――――として動きが止まる。

「待てっ」

普段の姿からは考えられないムッスの取り乱した声に、会議室内の視線が自然とムッスへ集まる。

「え!? な、なにか私に落ち度でも?」

「違う! ポラメアル地方の改名前だ」

「ダ、ダーシズ地方です。あの……これになにか気になる点で――――ひっ!?」

机を強くムッスが叩くと、文官はその場で飛び上がりそうになる。

「そうか……そういうことだったのか! セット共和国が非協力的なわけだ。これじゃ協力できるわけがない! なにせ自分たちの手で――――」

突如、会議室が大きく揺れる。

「なんだ!?」

「惨鎧斬の攻撃か?」

「すぐに確認しろっ!!」

「俺は外に行く。お前はムッス様の護衛を」

「任せろ!」

これまで以上に慌ただしく動く武官や文官たちをよそに、ムッスだけは落ち着いた様子で考え込むのであった。

空高くで大爆発が起こると、その衝撃波が都市カマー全体を揺るがす。あまりの衝撃に至るところで叫び声や子供たちの泣き声が聞こえる。

「や……やってくれるじゃないか」

貴族の邸宅のあった更地には大きな穴が空いていた。高所より墜落した惨鎧斬が大地に刻んだ傷跡である。その穴から弱々しい声が消えてくると、縁に手がかかる。

穴の中から姿を見せた惨鎧斬の姿にクラウディアたちは息を呑む。異形の鎧は炭化するように黒ずんでおり、右腕の肘から先が消し飛んでいた。

「なんで今ので生きてんだよ」

同じく姿を見せたユウは完全武装である。

自分の『 蜀紅蓮(しょっこうれん) 』をまともに喰らって、なぜ原型を留めているのか不思議そうにしていた。

「ざん…………惨鎧斬は無敵の……鎧だっ」

「そのザマでよく言うな。鏡でも見てこいよ、自分が今どれだけ無様な――――」

そこでユウの言葉が止まる。

惨鎧斬の頭部の装甲が崩れ落ちて、中身が露わになったからだ。それにより惨鎧斬の顔が見え、ユウの『異界の魔眼』が情報を読み取る。

「やっぱりエルフだわ」

「凄く痩せ衰えてる」

クラウディアは惨鎧斬の中身が思っていたとおりエルフだったことに、ララはあれほど大きな鎧の中身が骨と皮だけのように痩せ衰えた男だったことに驚く。

しかし、ユウは違った。

「ダークエルフ……だとっ?」

その言葉にマリファが驚いた様子で尋ねる。

「ご主人様、惨鎧斬はダークエルフなのですか?」

「はあっ!? なに言ってんのかしらね。どこからどう見ても――――」

「アルビノ」

「アル……アルなんたらが、どうだっていうのよ?」

ララの言葉にクラウディアが反応する。

アルビノ――――先天性白皮症や先天性色素欠乏症または白子症などと呼ばれる。遺伝子疾患がある個体の名称で、先天的なメラニンの欠乏により体毛や皮膚は白く、また個体によっては目が赤くなるなどの特徴がある。

「じゃあ、なに? こいつって、エルフじゃなくてダークエルフだってこと?」

「そう」

惨鎧斬の正体がダークエルフならば、エルフの王族である自分のことを知らなくてもなんら不思議ではない、と。変なところで納得するクラウディアをよそに、ユウは種族ではなく違う部分で驚いていた。

「ロキュス――――お前、死徒だな」

明らかとなった惨鎧斬の名前をユウは呟くのであった。