軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第424話:贈り物 後編

「黙って聞いていれば、好き勝手に言ってくれるじゃないのっ!!」

ノックもせずに入室した礼儀知らずにもかかわらず、クラウディアはなんとも尊大なふんぞり返ったポーズである。

「ク、クラウディアさまっ」

その後ろでヌングは女性である――――それもエルフの王族のクラウディアを取り押さえるわけにもいかず、珍しく困った様子で取り乱していた。

「もっと前に詰めて」

そして、そのさらに後ろには隠れるようにララと光り輝く球体が浮遊している。

「ちょっとムッス! 誰が返り討ちに遭ったですって!」

こうなることがわかっていたから、ムッスは応接室に来ないようクラウディアたちに言い聞かせていたのだ。しかも、ヌングにも近づかせないよう命じていた。

「言っておくけど、私は惨鎧斬なんてエルフに負けてないからねっ」

ソファーに座るユウたちを見下ろしながら、クラウディアは興奮気味に宣うのだが。

(こいつら――――)

『異界の魔眼』がクラウディアたちの状態を看破する。

(――――右足を斬られたな。あっちは左腕か……)

今は繋がってはいるものの、強力な魔力残滓が切断面と思われる箇所にこびりついているのを、ユウは見逃さなかったのだ。

自分の戦力を出し惜しみして、ユウに惨鎧斬を倒させるムッスのホラ話かと思っていたのだが、こうして見れば一目瞭然であった。

「負けたんだな」

別にクラウディアたちに向かって言ったわけではない。しかし、クラウディアの長耳は――――エルフの聴力がその言葉を聞き逃さなかった。

「誰が――――」

「お前、負けたのかっ。前も俺に負けてたし、弱いんだな」

「はあああああああぁぁぁっ!? 誰が負けたですって! このオチビがっ!」

ナマリとモモが揃って指差しながら「負けたんだって」と、こそこそ話をすると、クラウディアは烈火の如く怒り出す。

「わあっ!? 怒った!」

凄まじいクラウディアの剣幕に驚いたナマリとモモはユウの後ろへ隠れようと、ユウの背中とソファの間に潜り込む。

「ガキ相手にムキになって、恥ずかしい奴だな」

冷たい視線を向けてくるユウから指摘されると、クラウディアは「ウギギッ」と淑女にあるまじき呻き声を漏らす。その後ろで「戦略的撤退だよ」と、ララが囁く。そのさらに後ろに浮かぶ光球からはクラウディアを馬鹿にするような笑い声が聞こえる。

「こ、このっ」

ユウへ迫ろうとするクラウディアの前に、マリファが立ち塞がる。高レベルの強者が放つ威圧は常人にとっては攻撃と同義なのだが、マリファはクラウディアを前にしても、涼しい顔をしたまま一歩も譲らない。

「なによ。あんた程度が私の邪魔を――――」

「客人に失礼だよ」

仮にもエルフの王族なら礼儀はわきまえなさいと、ムッスから叱られたクラウディアは不満を隠そうともしないものの、素直に引き下がる。

「それで、なにをしに来たのかな?」

「あんたが嘘ばっか言うからでしょうが!」

「僕は嘘を言ってはいないよ。事実、惨鎧斬を倒すどころか返り討ちに遭ったと報告したのはクラウディア、君――――」

「私は惨鎧斬のほうが逃げたって、言ったでしょうが!!」

「四肢を切断するほどの重傷を負って、相手が逃げたとは無理がある。見逃されたと言われたほうがまだ納得ができるよ」

右足を切断されて、なお戦闘を継続しようとするクラウディアを、ララが無理やり抱えて逃げたのが真相であった。

そんなクラウディアとララをなんらかの理由があったのか。それとも、もとから追う気がなかったのだろうか。気がつけば木々の陰に溶け込むように、惨鎧斬は姿を消していた。

比喩ではなく。

クラウディアやララですら、惨鎧斬がどのように姿を消したのかを目視どころか感知することすらできなかったのだ。それは結界担当で、惨鎧斬を封じ込める役割を担っていたテオドーラですらだ。

「言っとくけど」

「恥ずかしい」と、袖を引っ張るララの手を払い除けて、クラウディアは言葉を続ける。

「あいつ、大したことないわ」

このクラウディアの発言に、ムッスは無理があるよと言わんばかりに眉間に指を当て、顔を小さく左右に振る。

「その大したことない奴に負けたのが、お前だろうが。それに話を聞く限り、惨鎧斬一人に対して、お前らは最低でも三人がかりだろ」

「ふっ……」

痛いところを突かれたのだろう。誤魔化すようにクラウディアは失笑する。肩にかかった髪の毛を振り払う所作すら美しいのは、腐っても彼女がエルフの王族だと嫌でも思わせた。

「ふっ、じゃねえよ。恥ずかし――――」

まだ言い足りないのか。ユウが追撃しようとすると、マリファの横を通り抜けたララがユウの手を握る。警戒していたにもかかわらず、易々と突破されたマリファは慌てた様子で振り返る。

「ジョゼフにクラウディアが負けたことは言っていい。でも、私のことは言わないで」

ララを捕まえようとしたマリファの手が空を切る。そんなマリファには見向きもせずに悠然とクラウディアの隣へと戻ったララは、これでよしとばかりに頷く。

「は?」

ユウがそっと右手を開くと、そこには銅貨が一枚――――100マドカである。

「口止め料」

「あ~っ! あ、あんた、自分だけズルいわよ!」

「これが大人の交渉術」

銀髪を手ぐしで整えるララは、妖艶な大人の女性を演じているつもりなのだろうが、その見た目や金額の低さから少し無理があった。

「せこっ! せこいわ! 恥を知りなさいよ! 大体ね、銅貨一枚って、どうなのよ」

「見てられないわね。これじゃ私まで同類と思われるじゃない」

光球が二人を押し退けるように進み出ると、光球の中からさらに小さな光球が、ユウに向かってゆっくりと近づく。だが、その小さな光球はユウに届く前にマリファの手によって遮られる。

「これは……」

「最強聖女のありがたい加護が込められたアミュレットよ」

「感謝しなさいよね」とテオドーラは言葉を綴る。賄賂とはこういう物をいうのだと言わんばかりに、クラウディアとララを煽るようにテオドーラが纏う光球は左右に揺れる。

「馬鹿じゃねえの。こんな物いらねえよ」

勝ち誇っていたテオドーラの動きが止まる。そして、マリファは冷笑を浮かべながら「ご主人様はいらないそうです」と、テオドーラに向かってアミュレットを突き返す。

「なっ!? な、なっ、なっ……なんて罰当たりな子供なの!!」

ピカピカと発光するテオドーラを、後ろでクラウディアとララが指差して笑う。

「もういいかな? これ以上は恥を晒してほしくないんだけど」

ユウたちの視線に耐えられなくなったのか。ムッスは部屋から出ていってほしいと退出を促すのだが、当のクラウディアたちには聞こえていないようで口喧しく言い争っていた。

「誰を嘲笑っているのか、わかっているのかしら」

「あははっ。誰って、あんた以外に誰がいるのよ。こ、こ、あはっ、こんな物いらねえよ、だって! あははっ!!」

「ぷ、ぷぷっ。テオ、カッコ悪い」

「気安くテオなんて呼ばないでくれるかしら。その名を呼んでいいのは、私のジョゼフだけよ」

「だ、誰が私のジョゼフよ! いい加減に人の婚約者に手を出すのは止めなさいよね!」

「それは同意。二人とも私のジョゼフから手を引くべき」

「最初から相手にされていないことに気づかないなんて、なんて哀れな女たちかしら」

「はああっ!? 相手にされてないのは、あんたでしょうがっ! このチンチクリンが!」

「クラウディアの言うとおり、テオはチンチクリンなのを認めるべき」

「…………殺されたいのかしら? 私がいくら温厚で寛大とはいえ、限度というものがあるのね」

「いい機会だわ。身の程というものをわからせてあげるわ」

「わかるのはクラウディアとテオ」

ユウたちをそっちのけで、口ではなく実力行使に移ろうとしていた三人であったのだが。

「暴れるなら外に行けよ」

「お行儀が悪いのはダメなんだぞっ!」

ユウはともかく、ナマリやモモのような小さな子供から、純粋な瞳で注意されるとバツが悪いのか。クラウディアたちは迸らせていた闘気や魔力が収束していく。

「あんた、惨鎧斬と戦うつもり?」

まだ機嫌が悪い様子で、クラウディアがユウに問いかける。

「なんで俺が戦わないといけないんだよ」

「そう。それがいいわね。あんたじゃ負けるわよ」

「大したことがないって言ってたのは、どこの誰だよ」

「――――鎧よ」

「あ?」

「あいつ自身は大したことないわ。レベルも私より10も高くないと思う」

クラウディアよりレベルが高い時点で大したことがあるのだが、そこには口を挟まずにムッスは黙って二人の話を聞く。

「あの変な鎧が厄介なのよ。繋ぎ目がないのに自由自在に動かせるみたいだし、私が何度斬りつけても自動修復――――いえ、再生してるみたいだわ」

鬱陶しいと思いつつも、ユウはクラウディアの言葉に耳を傾けていた。クラウディアたちを退けた惨鎧斬に興味を持ち始めていたのだ。

「あと、あいつ自身は大したことないわ」

「何回、同じことを――――」

「多分、あいつのジョブ構成は生粋の戦闘職じゃないわね」

「――――どうして、そう思う?」

「あいつ、回転する円盤や刃を自由自在に操るんだけど、わざわざ装飾なんて施していたわ」

それなりに説得力のある言葉であった。

魔法で物質系を武器化する戦闘職の多くはより威力や殺傷力を高めるために、硬さや斬れ味、重量などには関心を示すのだが、戦闘力に関与することのない装飾などには、基本的にはこだわらない。そんなモノにこだわるのは生産系や技術系、それに芸術系のジョブに就く者たちである。

クラウディアが言いたいことを言い終えたのを見計らって、ムッスから合図を送られていたヌングはクラウディアたちを部屋から退室させる。

「クラウディアたちが悪かったね」

「そう思うなら、普段から躾しとけよな」

演技ではなく、本当に悪いと思っているのだろう。ムッスは申し訳ない顔で謝罪の言葉を口にする。

「惨鎧斬については、僕のほうでも配下に調べさせているんだけど、セット共和国は他国へ情報を開示しないことで有名な国で、初めて現れたという場所はセット共和国でも北部の――――今は地名も変わってしまっている。それに惨鎧斬が関与したと思われる事件を調べようにも、情報にアクセスできるのはセット共和国でもごく一部の上級議員に限定されているようだ。どうやらセット共和国の上層部には、よほど他国に知られたくないことがあるみたいだね。それにセット共和国内で暴れていた惨鎧斬に対して、どうしてレーム大陸中の国々が討伐に協力的なのか、ましてや懸賞金まで協同でかけているのか思うところがある」

頼みもしないのに、ムッスは配下が調べた情報が記載されている紙の束をテーブルに置く。

「それで惨鎧斬を倒す気にはなってくれたかな?」

「それはお前の仕事だ。食客を全員投入してでも、倒せばいいだろう」

いくら惨鎧斬が強かろうが、ムッスの抱える食客を全員投入すれば倒せるとユウは見ていた。

「それはできない」

その言葉にユウは無関心な目を、マリファは蔑む目をムッスへ向ける。

「そんなに自分の命が大事か」

「それはそうだよ。これでも大国の大貴族だからね。 徒(いたずら) に自分の身を危険に晒すわけにはいかない」

そんな二人を前にしても、ムッスはいつもと変わらぬ様子で紅茶を口に含む。

「ゴッファ領にかの悪名高き惨鎧斬が現れ、被害や治安が悪化する可能性が高いとはいえ、たかが犯罪者一人のために食客をカマーへ集結させるわけにはいかない。

ユウ、君ほどじゃないにしろ。僕にだって敵は至るところにいるんだ。魔物や魔獣に、人族の支配を良しと思わない他種族、ウードン国内の敵対派閥だって油断ならない。今でも謀略であれこれ仕掛けてきている。それに他国だってウードン王国に対して友好的な国ばかりじゃない。こちらが把握しきれないほどの間者が送り込まれているんだ。

広大な領地を護るためにも、否が応でも戦力は散らす――――適切に配置する必要があるんだよ」

肩を竦めながら「困ったものだよね」と、ムッスは嘆くのだが、そこに悲壮感はない。

「それにいまだ滞在中の一部の貴族や商人たちも問題だ。彼らに犠牲者が出るようなことがあれば、我がバフ家の家名を汚すことになる」

「さっさと帰らせればいいだろう」

「僕としてもそうしてほしいよ。でもね、彼らは帰りたがらないんだ」

「なにを――――」

惨鎧斬が近くに現れたにもかかわらず、帰りたがらない各地の領主や富豪たちに、ユウは理解できないと言葉を口にしようとして、あることに辿り着く。

「 自分(・・) が狙われていると、思っているのか?」

「やっぱりそう思うよね」

あっけらかんとした様子で、ムッスは言ってのける。

「貴族や財を築いた者たちなんて、多かれ少なかれ後ろめたいことの一つや二つは抱えているものさ。でもさ、彼らの怯えようときたらなかったよ。惨鎧斬がゴッファ領に現れたと伝えただけで、震え上がってるんだからね。誰も彼もが カマー(ここ) にいたほうが安全だと思っているようだ」

後ろめたいことというムッスの言葉に、マリファの脳裏に嫌な記憶が蘇る。

バリューの抱える奴隷狩りによって、親だけでなく友人や知人――――村を丸ごと失ったマリファの胸中やいかに。表情こそいつもと変わらぬものの、目の奥深くでは濁った色が見え隠れしていた。

「まあ、引き続き惨鎧斬に関しては僕のほうで調べてみるさ」

「どうやって、遠方のセット共和国について調べるんだよ」

「そんなところまで調べに行かなくとも、 近く(・・) にいるじゃないか」

「誰より詳しそうな者が」と、ムッスはつけ加える。おそらくは惨鎧斬を恐れて宿に引きこもっている貴族や商人たちのことなのだろう。どのように彼らから情報を引き出すのかは、ユウには興味はなかった。どうせ知ったところで不快になるだけだろうと、ユウは確信に近い予感がしたからだ。

「ではユウの友として、お願――――」

誰が友だと、ユウが心中で思ったそのとき――――

「ユウっ!!」

汗だくのニーナが部屋に飛び込んできた。

「来て!!」

尋常ではないニーナの様子に、ムッスも無作法を咎めることはない。そもそも応接室まで来れたということは、ヌングが許したに他ならないからである。

スラム街にある孤児院――――普段であれば、子供たちが走り回っている大部屋の一室は多くの人が横たわっていた。

異様な光景であった。

なぜなら――――

「痛えっ!! 痛えよおぉぉ……」

「目が、俺の目が! ちきしょう!! 誰が俺の目をっ! 返せ! 返せよっ!!」

「うわ~んっ。痛い痛い痛いっ。シスター……なんにも見えないよぉ」

「誰か、誰かいないのか? 俺の目が変なんだ。なんも見ねえんだ。誰か教えてくれっ。俺の目はどうなっちまったんだ!」

「おにいちゃ、おねえちゃ、いたいよ……おめめがいたいよ~」

「シスター、どこにいるの? まっくらでなんにも見えない。みんなは大丈夫?」

大人だけでなく、孤児院の子供たちも床に横たわっている。そして誰もが目に包帯が――――眼球を抉られていたのだ。

皆が痛みと不安から泣き叫び、それを必死にシスターが落ち着くように声をかけていた。

「ユウさんっ、来てくれたんですね」

青い顔をしたシスターが、ユウを見るなり感極まって涙を浮かべた。

「わ、私の魔法ではこれ以上の治療は……っ」

自分の無力を嘆くわけでもなく、シスターは自分にできることを懸命にこなしていたのだ。だが、大人だけでなく、なんの罪もない無力な子供たちまで傷つけられたことに、理不尽な行いに、神へ祈りを捧げるわけでもなく憤りを感じていた。

「ユウさんっ」

アルコムに所属する男が、ユウを見るなり駆け寄る。

「バジル、わかっていることを言え」

「へ、へいっ」

ユウから放たれる圧力に、バジルは震えながら報告をし始める。スラム街の至るところで目を抉られる事件が起きていることを、被害者は皆が気づけば眼球を失っており、誰に、どのようにして目を抉られたのかがわからない。目撃情報も皆無。被害者の隣りにいた者ですら、気づいたときには仲間の眼球が消え去っており、眼窩が顕になった姿に悲鳴を上げ、その声を聞いて被害者も自分の眼球がなくなったことに気づくほどの早業――――どころではない。

人知を超えたかのような出来事であった。

被害者は性別、種族を問わず。また幼い子供も含まれていた。なぜ、わざわざ貧しい者がいるスラム街が犯行現場に選ばれたのか。犯人の目的が皆目見当がつかないのだ。

「シスター」

「はいっ」

「怪我人はここにいるので全部か?」

「いえ、入り切らない人たちが廊下にもいます」

百人もいない。

大した人数じゃない。

なにを慌てる必要がある。

自分に言い聞かせるように、ユウは心の中で呟く。そして、実際にユウは瞬く間に怪我人の治療を終える。

「ナマリとモモ、それにマリファはここにいろ」

どこか様子のおかしいユウの指示に、ナマリたちは素直に従う。

何度も感謝の言葉を口にするシスターの声が聞こえていないかのように、ユウは孤児院の出口に向かって歩いていく。

「ユウ……」

背後からかけられた声に、ユウは立ち止まる。

「ユウのせいじゃないよ」

「俺が気にしてるとでも?」

「だって……」

ただならぬ雰囲気のユウを放っておけないと、ニーナは声をかけたのだ。

「見てただろ? 一人残らず治したんだ。そもそも、あいつらは赤の他人だぞ。なんで俺が気にする必要があるんだよ」

(なら、どうして――――)

“そんな顔をしているの?”

そう問いかけることが、ニーナにはできなかった。

「少し独りにしてくれ」

“一時的なものだよ”

目が再び赤くなっているユウに向かって、ニーナは言ってあげたかった。

(もう『強奪』の副作用が出始めてる)

ユウの『強奪』は呪いが強すぎて“消す”ことができなかった。だから 現状(・・) では副作用の痛みを緩和することしかできなかったんだよ、と。

これを素直に言うことができれば、どれだけ楽だろうか。

小さくなっていくユウの背を見送りながら、ニーナは見送ることしかできなかった。

スラム街を歩くユウを見るなり、多くの者が口さがなく噂話をする。「アルコムの連中がやられたらしい」「きっと落とし前をつけさせる気だ」「だれが犯人なんだ?」「ガキの目が抉られたらしい」「お~怖っ。関わりにならないように気をつけねえとな」などと、好き勝手にほざく。

そんな声を無視しながらユウは歩き続けると、空き地を見つける。そこで手頃な場所に土魔法で土台を創り、腰を下ろす。

(なんだ……)

そっと自分の胸にユウは手を置く。

(どこも怪我をしていない)

それなのに胸が痛むことに、ユウは訝しむ。

普通の人ならば、それは心の痛みだとわかっただろう。

だが、ユウにはそれがなんなのかが理解できなかったのだ。

(この痛みは――――なにっ!?)

不意にユウの周囲に漂っていた精霊がざわつく。そのことにユウが気づくと同時に――――

(この臭いは――――)

ユウの『索敵』スキルを始めとする数々の感知網を潜り抜け――――否、最初からその場にいたようにその男は――――惨鎧斬は立っていた。

「よお。お前がサトウか」

その辺の道端で知人、友人にでも出会ったかのように、惨鎧斬はユウに気安く声をかけた。