軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

拾い過ぎた先に、本線

泥濘下流域——エドワルド隊、横腹進軍継続中。

「……うーむ」

エドワルドは、馬上から泥流跡を見渡しながら。小さく唸った。

「……」

何か変だ。堰を切った。水は流れた。敵補給隊を襲った。そこまでは、良い。

だからこそ——その“流れた方向”と並行し、

自隊も進めている。

理由も明確。

泥濘中心を無理に横切れば、今度は自分達が沈む。ならば沿う。下り渡りやすい地点を探す。

理屈としては、正しい。

だが。

「……」

未だに、決定的に渡りやすい地点が、見当たらない。半日までは、掛かっていない。

「……」

長いそれに。

「……」

長いだけなら、まだいい。

問題は。

「……増えてるな」

ぽつり。

「……はい?」

隣のレオンが、首を傾げる。

「……違和感だ」

「……」

エドワルドは、前方の回収班を見る。

敵補給箱、糧食、矢束、槍、交換車輪、薬草袋、布、馬、荷馬車。

「……」

見つける。回収する。仕分ける。

使える物。あとで回収。破棄。

それ自体は、当然。

当然だが——

「……レオン」

「はい」

「……何か、違和感が拭えん」

「……」

レオンも少し黙る。そして。

「……そうですな」

珍しく、即答しなかった。

「普通、軍が進めば」

一拍。

「糧食は減り」

「……」

「消耗品も減り」

「……」

「補給が来ねば、段々心細くなる」

「……ああ」

その通り。

だが——

「……我々」

レオンが、少し遠い目で。

「進めば進む程、糧食が増え」

「……」

「消耗品は新しくなり」

「……」

「しかも増え」

「……」

「挙句」

一拍。

「後で回収、が増えております」

「……」

エドワルド、数秒だけ黙る。

「……」

その通りだ。馬も増える。荷馬車も、増える。

武器も、増える。何なら、整備品まである。

「……」

もはや、進軍というより。

“歩く補給再編”

「……だよな?」

ぽつり。

「……南下した敵は」

一拍。

「……ここまで、大軍だったのか?」

「……」

レオン、苦笑とも困惑ともつかぬ顔。

「……情報を纏めておりますが」

紙束を見る。

「……随分と、潤沢ですな」

「……」

潤沢。その表現が、妙に正確で嫌だった。

「おーい!!」

前方回収班。

「また見つけたぞー!!」

「……」

「今、回収に向かう!!」

兵達の声は、少し明るい。当然だ。

拾えば、増える。

だが——

「……」

エドワルドの違和感は、逆に濃くなる。

「……ん?」

前方。回収兵の一人が、何かを持ち上げた。

「……旗?」

泥濘。破損荷車横。半ば埋もれていた布。

「エドワルド様ー!!」

声が、少しだけ裏返る。

「……旗が、違います!!」

「……?」

空気が、変わる。

「……持って来い」

「はっ!!」

泥塗れの布。少し洗い広げる。

「……」

見覚えが、ある。

だが——南下補給隊ではない。

「……これは」

レオンの顔色が、変わった。

「……まさか」

「……?」

エドワルドが、布を見る。

敵本線補給印。

「……」

数秒。

「……エドワルド様」

レオンの声が、静かに低い。

「……もしかすると」

一拍。

「本線補給隊も、一部巻き込んでおります」

「…………」

沈黙。

「……えっ?」

思わず、素で出た。

「……まさか」

だが——視線が周囲をなぞる。

多過ぎる糧食。多過ぎる整備品。

多過ぎる予備車輪。質の違う補給箱。

「……」

辻褄が合う?

南下補給だけでは、この量は少し妙だった。

だが——本線補給まで含むなら。

妙に、納得してしまう。

「……」

エドワルドは、空を見た。

兄上は、盛大過ぎだ。

自分は——

「……水量が」

ぽつり。

「……少し、多過ぎたのか?」

「……少し、ですかね?」

少しでは、ない気もする。

「……」

だが、現実は現実。つまり。

南下補給破壊。

本線補給一部損耗。

「……」

それ敵が、かなり困るな。

「……」

エドワルドは、再び前を見る。

「回収優先度、変更」

「……!」

「本線印物資——最優先」

「……!」

「詳細分類急げ」

「……!」

「父上へ伝令」

「……!」

低く。

「南下補給壊滅に加え——」

一拍。

「……敵本線補給、一部巻き込みの可能性あり」

「はっ!!」

伝令が走る。

レオンがぼそり。

「……敵からすると」

「……?」

「かなり、嫌でしょうな」

「……」

嫌、どころではないかもしれん。

だが——

「……まあ」

エドワルドは、少しだけ肩を竦めた。

「……流れた物は、使わせて貰う」

「……」

その通りだった。

その日。

エドワルドは、敵補給隊を沈めた。

……つもりだった。だが実際には。

“その先”まで流れていた。

そして本人もまた、拾い過ぎた先で初めて知る。自分が切った堰は、思っていたより。

少し多くずっと先、遠くまで、敵を削っていたのだと。