作品タイトル不明
囲いは、外から壊れた
北部防御村——包囲下。
「射かけろ!!」
怒号。矢。土壁へ突き刺さる音。
乾いた木柵。削られた門。疲弊した兵。
防御村は、まだ立っていた。だが——
「西柵、損耗!!」
「南側、負傷者三!!」
「水は!?」
「節約中です!!」
「……」
村長代行でもある老兵は、歯を食いしばる。
包囲は、既に長い。
最初は、耐えれば援軍が来ると思った。
次は、耐えれば敵が先に疲れると思った。
だが、現実は。
「……」
敵は居る。今日も前に、減らぬ様に見える程、
前に。
「……っ」
壁上の若い兵が、震えた声を漏らす。
「……もう」
一拍。
「……限界では」
「黙れ!!」
即座に飛ぶ、怒声。
「口にするな!!」
言えば、終わる。
戦とは、兵だけではない。
“終わりかもしれない”
それを口にした瞬間。本当に、終わりへ寄る。
「……」
だが皆、薄々は理解していた。
削られている。確実に矢も体力も心も。
その時、外の左側面遠方。
ドッドドドドドッ——……
「……?」
最初に気付いたのは、壁上見張り。
「……騎兵?」
「……?」
別兵も、顔を上げる。
包囲正面ではない。村前でもない。
左。
「……敵増援か?」
最悪が、脳裏を過る。まだ、増えるのか。
「……」
だが、違った。
「……あ?」
敵包囲兵側が、先に乱れた。
「……?」
前に居た敵兵が、何故か。横を、見た。
「何だ?」
「右!?」
「……?」
防御村側からは、一瞬理解が遅れる。
次の瞬間。
「敵襲!!」
「右側面!!」
「敵だぁぁぁ!!」
「……!?」
防御村兵、全員が止まる。
敵が、叫んでいる。こちらへではない。
“自分達の横へ”
「……何?」
老兵が、思わず目を見開く。
「……横?」
そして。
「ヤァァァァァッ!!」
草原を裂いて現れた。
騎兵。側面。一直線。
「……っ!!」
土埃。速度。槍。
それは、防御村兵がここ数日、見続けていた“押す敵”ではない。“裂く味方”だった。
「……旗!!」
「……!」
「あれは……!!」
見えた。領旗。
「味方だぁぁぁぁ!!」
その叫びは、悲鳴ではなかった。
包囲下で、初めて上がる。
“生き返る声”
「援軍!!」
「横からだ!!」
「囲いの脇を裂いてる!!」
「……!」
防御村内。空気が、変わる。
さっきまで、削られていた兵達の目に、別の火が戻る。
「……」
老兵は、その光景を見た。
敵包囲兵が、前ではなく、横を向く。
崩れる。裂ける。叫ぶ。
つまり——
“前が、薄くなる”
「……」
理解した。今だ。
「全兵!!」
声が、村中へ響く。
「門前部隊——」
一拍。
「押し返せぇぇぇ!!」
「「おおおおおっ!!」」
門が開く。完全開放ではない。
だが十分今まで、押されるだけだった槍が。
初めて、前へ出る。
「押せぇぇ!!」
「村は、まだ生きてるぞ!!」
「……!」
外にクラウス隊。横。内。防御村。前。
「挟まれた!?」
敵兵が、初めて本気で理解する。違う。
数だけなら、まだ違う。だが——
“包囲していた側が、包囲されるかもしれない”
そう思った時点で、囲いはもう。囲いではない。
「下がれ!!」
「無理だ!!」
「右が崩れた!!」
「村兵まで出て来たぞ!!」
「何故だ!!」
答えは、単純。
“助けが来た”
ただ、それだけ。だが——包囲される側にとって、その“ただそれだけ”がどれほど、重いか。
「……」
若い兵が、涙混じりに笑う。
「……本当に」
槍を握る手が、震える。
恐怖ではない。
「……来た」
その言葉。誰か一人ではない。
壁上。門前。負傷兵。村人。
皆、同じだった。
「……来たぞ」
春。
その日。
防御村を救ったのは、圧倒的兵力ではない。
煙でも、火でもない。
“もう無いかもしれない”
と思い始めていた者達へ。
外から脇腹を裂いて現れた。
“まだ、終わっていない”
その事実そのものだった。
そして——囲いは中から耐えただけではなく。“外から壊された”