作品タイトル不明
白の戦場
白い息が、空に溶ける。
静かに降り続ける雪。
地は、ゆっくりと白に覆われていく。
エドワルドはその様子を見つめていた。
「本格的に、来ましたな」
レオンが肩をすくめる。
「ああ」
短く答える。
「冬だ」
一歩、踏み出すとザク、と足音が鳴る。
「……重いな」
足場が沈む。
「動きが鈍る」
ぽつりと呟く。
兵の動きも遅くなるし、踏み込みが浅い。
目を細める。
距離が、開く。足場が悪ければ近づくまでに時間が掛かる。
「……なら」
一拍。思考が繋がる。
「……遠距離か」
小さく呟く。
「……?」
レオンが顔を上げる。
「何か思いつきましたか」
「……ああ」
エドワルドは頷く。
「以前、思い付いた話だ。クロスボウの大型化」
「……!」
レオンの目がわずかに見開く。
「あれですか」
「ああ」
視線を前に向けたまま言う。
「射程と威力は上がる。だが——重い。台車を使わなければ移動もままならない。なので扱いづらい」
「……」
「この環境なら」
足元を見ると白く覆われた地面。
「動きは鈍る。なら——」
一拍。
「多少、扱いが悪くても問題にならん」
「……なるほど」
レオンが頷く。
「機動が落ちる分、遠距離の価値が上がる」
「ああ」
エドワルドは答える。
「環境が変われば——最適も変わる」
「……」
風が吹き雪が舞う。
「……試す」
短く言う。
「試作品を持って来い」
「はっ」
レオンが動く。
「……」
やがて運ばれてくる。
通常よりかなり大きい——どこか粗い作り。
木材の継ぎ目。
強引に補強された弓部。
「……試作品、か」
エドワルドはそれを見つめる。
「まだ調整中との事です」
レオンが補足する。
「強度を優先した為、重量が増しているとか」
「……」
軽く触れる。
「確かに、重いな」
「その分、威力は出ておりますが……」
「扱いは難しいか……」
頷く。
「……やはり、どれかを取れば、どれかが落ちる」
小さく呟く。
「……」
兵に渡す。
「準備しろ!」
「は、はい!」
ぎこちなく動かす。
「……っ。安定しません……!」
「だろうな」
「撃て」
放たれる矢。
「……!」
雪を切り裂き、遠くへ飛ぶ。
「……届くな」
明らかに、従来より遠い。
「……ですが!」
兵が顔を歪める。
「次が、遅いです!装填に時間が掛かります!」
「ああ……」
エドワルドは頷く。
「構え直しも遅いし連射は効かん」
一拍。
「……だが」
目を細める。
「一撃は重い」
「……」
雪は降り続ける。白く変わる戦場。
「……使いどころ、か。前には出せん。だが——後ろからなら使える……守りに置くか……」
ぽつりと呟く。
「試作品としては、悪くない。だが——」
視線が鋭くなる。
「これでは、まだ戦えん」
「……」
レオンが黙って聞く。
「削るか」
小さく言う。
「重さか、安定か……選ぶしかないな」
「……」
エドワルドは小さく笑う。
「面白い。完成には程遠いが」
一拍。
「——だからいい」
その言葉だけが——静かに、白の中に消えていった。