作品タイトル不明
静かな侵食
更に俺は、グレゴールから詳しい話を聞いた。
「……全部話せ」
短く言う。
グレゴールは一度頷き、淡々と続けた。
「はい。まず一つ目」
「備蓄状況の把握です。これは恐らく、商人経由で詳細を確認するつもりかと」
「……まあ、それはいい」
エドワルドは腕を組む。
「情報戦としては基本だ。どこに、どれだけあるか。それが分かれば、攻め所も見える」
問題は——その先だ。
「二つ目は?」
グレゴールはわずかに間を置いた。
「備蓄倉庫への工作です。具体的には、発火装置の設置」
「……発火?」
眉がわずかに動く。
「はい」
グレゴールは続ける。
「現地調達可能な物のみで構成されております。土瓶に油を入れ、藁に細工を施した導火を使用。火を付けてから一定時間後に燃え移る仕組みです」
「その間に離脱する算段か」
「はい」
エドワルドは目を細めた。
単純だが——厄介だ。
「藁……か」
「ええ」
「お兄様は、かなり試した様です」
グレゴールの言葉に、エドワルドはため息を吐いた。
「……やりそうだな」
「長さによって燃焼時間を調整し、確実に燃え上がるよう改良を重ねたと」
「……そこまでやるか普通」
レオンが横で小さく笑う。
「徹底してますな」
「徹底しすぎだ」
エドワルドは即座に返した。
「三つ目は?」
少し声が低くなる。
グレゴールもそれを感じ取ったのか、わずかに声を落とした。
「井戸への混入です」
「……何を入れる」
「毒草です」
空気が一瞬、重くなる。
「土瓶に数種類の毒草を入れ井戸へ投げ込む」
「蓋は?」
「紙を数枚重ねた物です」
「……なるほどな」
エドワルドはゆっくりと頷いた。
「時間差か」
「はい」
「紙が溶けるまでに枚数によって数日〜二十日程度。その後、水が中に入り込み、毒が広がる仕組みです」
「どれくらいで効果が出る」
「一、二週間ほどで嘔吐や下痢を引き起こすとの事です」
「……殺しはしない、か」
「はい」
グレゴールは頷いた。
「即死性ではなく、継続的に体力を削る類です。また疫病との判断もつきません」
エドワルドは机を指で軽く叩いた。
トン、トン、と乾いた音。
「……兵站潰しか」
「はい」
「水と食料。両方を揺らせば、軍は動けなくなります」
理屈は、分かる。あまりにも合理的だ。
「……」
だが。エドワルドはしばらく黙ったままだった。やがて、ぽつりと呟く。
「持ち込みも容易だな」
「はい」
グレゴールが続ける。
「藁、紙、毒草」
「いずれも不自然ではありません。毒草も、薬として持ち込めば疑われにくいかと」
「……だろうな」
エドワルドは頷いた。
「土瓶も現地で手に入る。わざわざ怪しまれる物を持ち込む必要がない。完全に“日常の中”に紛れる」
レオンが腕を組む。
「気付いた時には遅い、ですな」
「ああ」
エドワルドは短く答えた。
「倉庫は燃え。水は使えず。原因がハッキリしなければ、兵は動けなくなる」
「その上で侵攻を行なっても……最悪だな」
だが。再び沈黙。
エドワルドはゆっくりと息を吐いた。
「……確かに。父上の気持ちは分かる」
ぽつりと呟く。
「これは……」
一瞬、言葉を選ぶ。
「“戦”ではあるが綺麗な戦じゃない」
レオンが静かに言う。
「ですが、効果は絶大です」
「ああ」
エドワルドは頷く。
「だから厄介なんだ」
視線を落とす。
「……守る為、か」
小さく呟く。自分も同じだ。
守る為に、ここまでやってきた。
その線は、どこにある?
「……」
やがて顔を上げる。