軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

表と裏 5

いくら考えても、先ほどの言葉の意味は分からないまま。

それでいて私が抵抗しても力の差で無意味だと察し、終わりの見えないキスを受け止めることに必死になる。

やがて繰り返すうちにギルバート様の手がするりとドレスのスカートの下に滑り込んできて、慌てて声を上げた。

「ま、待ってください! 何をする気ですか……!?」

「わざわざ言わせたいんですか」

「違います! そ、そうじゃなくて、今はそういうのじゃないというか、お風呂にも入っていないですし……」

あと1回、近いうちにノルマをこなさなければいけないのは分かっている。けれどあまりにも突然で、全く心の準備ができていなかったため、精一杯の抵抗をした。

するとギルバート様は目を瞬いたあと「そんなことを気にしていたんですか」と小さく笑う。

「当たり前です、ギルバート様だって嫌でしょう」

「いえ、別に。むしろあなたが恥ずかしがって泣く姿を見られそうなので、良いかもしれませんね」

「し、信じられない……!」

もうとことん私を虐めることに重きを置いている姿に引いていると、ギルバート様は私に触れていた手を離した。

「では、次はあなたの方から誘ってください」

「えっ」

「残り1回のせいで、少し調子が悪いんです」

ギルバート様はそう言って立ち上がり、息を吐く。

「俺からは絶対に誘いませんので」

笑顔ではっきりと告げられ、ここまで言い切られた以上、ギルバート様の方から来ないのは間違いなさそうだった。

義務といえども私の方から誘うなんて、恥ずかしすぎてできる気がせず、冷や汗が止まらなくなる。かと言って今この場で、というのも流石に無理だった。

ギルバート様だってそれを十分理解した上で、私が困るのを楽しむために言っているに違いない。

タイミングだって分からないし、そもそも私達の関係は普通とは違うのだから、誘い文句だって見つかりそうにない。

「そのまま、俺のことだけ考えていてください」

ぐるぐると必死に考える私を見て、ギルバート様はふっと口角を上げる。そんな彼はもはや私を苦しめるプロなんじゃないかと、本気で思った。

心身ともに疲れ切ってふらふらと自室へ戻った私は、そのままベッドに倒れ込んだ。帰ってきてからするつもりだった勉強だって、すぐにはやる気が起きなかった。

「はあ……」

「ずいぶん旦那様と、熱い時間を過ごしたようですね」

「や、やっぱりみんな知ってるの……?」

「はい、もちろん」

門の前での行為は既に、主人の帰宅を待ち構える使用人達の知るところとなったらしい。もう誰にも会いたくないと、私は枕に顔を埋めて声にならない悲鳴を上げた。

次にお兄様に会うのも、恐ろしくてたまらない。そもそも妹に向ける目じゃないというニュアンスの、ギルバート様の言葉の意味も分からないまま。

(私と元のイルゼが別人だと知っているから、他人に向けるような目をしていたってこと……?)

無茶振りに必死になっていたこともあって、お兄様がどんな顔をしていたのか、あまり記憶になかった。

「そもそも、ただのお兄様と私への嫌がらせなのに」

「……ナイル様もですか?」

「ええ。そもそもお兄様が私にキスをさせたり、したりするから不快に思ったギルバート様があんなことを……」

私としては巻き込み事故でしかなく、深い溜め息を吐いていると、リタが黙り込んでいることに気が付く。

「リタ?」

「……そう、なんですね」

そう呟いたリタの声はやけに低くて、どうしたんだろうと思っていると、いつも通りの笑顔を返された。

気のせいだろうかと首を傾げつつ、次のノルマのお誘いもどうしたら良いのだろうと、頭を抱えたのだった。

◆◆◆

帰宅してすぐに執務室に向かうはずが、だいぶ遠回りをしてしまったと、自嘲するような笑みがこぼれる。

先程の行動全てが自分らしくないという、自覚はあった。

「……本当に、調子が狂うな」

彼女の感情が自分以外に揺さぶられていることに、どうしようもなく苛立ってしまう。自分以外に笑いかけている姿や触れられている姿にも、腹が立って仕方なかった。

(俺にはいつも、戸惑った顔しかしないというのに)

そうさせているのは俺自身だと分かっていても、彼女を責めたくなるのは、この感情を認めたくないからだろう。

椅子に腰掛けたところで、すぐにモーリスがやってきた。

「ギルバート様、ご報告があります」

モーリスの表情はひどく強張っていて、よくない知らせであることは明白だった。

書類の束を受け取り、目を通す。どうやら以前から頼んでいた、イルゼに関する調査報告書らしい。

大方、過去の彼女のどうしようもない悪事が明らかになったのだろうと考えていた俺は、とある一文で目を止めた。

とても信じられない、信じられるはずがない内容に自身の目を疑ったものの、何度見ても結果は変わらないまま。

「……嘘だろう」

──そこにはイルゼ・エンフィールドはゴドルフィン公爵夫妻と血縁関係がなく、平民の生まれだと綴られていた。