軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

43 夜闇の襲撃者たち

乱暴に叩き続けられる馬車の扉。

重たい金具がぎしぎしと擦り上げ、今にも破られそうだった。硬い木材が悲鳴を上げるたびに、胸の奥に嫌な振動が響く。

私はレオナルドと共に床に膝を突き、彼の背に身を寄せる。彼の剣がすでに抜かれているのを確認しながら、私自身も準備を整えた。

深呼吸一つ。緊張を抑えるように、意識を指先に集める。レオナルドがちらりと振り返る。彼の夜明け色の瞳は冷たい決意に満ち、頷いた。

「準備は」

「完了」

「いくぞ」

「おしっ」

自分に気合いを入れるように呟いた。次の瞬間、外から破られるより先に──レオナルドが外側へと蹴り飛ばすように馬車の扉を開放した。

扉が軋みながら鈍い衝撃音と共に外へ跳ね、車内に街道の冷たい空気が流れ込み、ひやりとした風と共に外の影が目に飛び込んできた。

開かれた入り口の向こう、立っていたのは黒いマントを纏った男だった。影の輪郭は逞しく、こちらに向かって無骨なナイフを構えている。殺気を纏った、獲物を狩る野犬のような目。

男が一歩踏み出した瞬間。

──ダン、

街道と林に重低音が轟き渡る。

空気を裂く衝撃が鼓膜を震わせ、硝煙の匂いが鼻を刺した。

黒マントの男は、動きを止める。次の瞬間、体全体がガクリと折れ、糸の切れた人形のようにゆっくりと崩れ落ちた。

マントの合わせから覗く金属の胸当ては、中央がひどく凹んでいる。男の手からナイフがこぼれ落ち、乾いた音を立てて地面に転がった。

「魔導具か!?」

後方にいた別の男が叫ぶ。

倒れた男の背後にいた男が慌てて手を翳す。空気が揺らぎ、半透明の壁が目の前に立ち上がった。青白く光る、魔力の障壁。

私は構わず、レオナルドの肩越しに、再びショットガンの引き金を弾いた。

炸裂する発砲音と共に飛び出した弾丸は、光の膜に触れた瞬間、一瞬だけ波紋のような揺らぎを生じさせた。が、そのまま何事もなかったかのようにすり抜けて、真正面にいた男の腹を撃ち抜いた。

「ぐっ……!」

息を呑む声。驚愕と痛みに顔を歪めた男は、障壁を維持することもできず、両手で腹を押さえながら膝を折った。

続けてさらにもう一発。奥にいた男は状況を察したのか、対魔法用の障壁から対物理用に切り替えようとしていたが──銃の弾速はそれより速い。

入り口を陣取っていた男たちが次々と伏すと、馬車の座席と天井の合わせ目が同時にバタンと音を立てて開いた。

仕込まれていた隠し蓋が開き、影のように三人の騎士が飛び出してくる。

全員、鎧は着けずに動きやすい軽装にマントを纏い、手にした剣は既に抜き放たれている。

同時に、レオナルドも馬車の外へ飛び出した。三人の騎士も彼に続いて飛び降り、整然とした動きで敵陣へと切り込んでいった。

彼らが出た後、馬車の扉をすぐさま内側から押し戻し、再び閉ざす。

車内は再び静寂を取り戻したが、その外では剣戟の音、怒号、枝葉を揺らす振動が渦を巻いている。

私は銃を握り直し、窓際へと身を寄せる。カーテンを払って隙間を作るように僅かに窓を開き、射線を確認する。

外はもう夕闇が深く、周囲の木々が影となって広がっている。その影の間を走り回る人影。

剣と剣のぶつかる金属音。掛け声。呻き。馬車を狙って集まった襲撃者たちと、レオナルド、それに飛び出した三人の騎士が激しく交錯していた。

御者席にいたはずの男の姿が見えない。だが、それは想定済みだった。

ヴァレスティ家の兵士である御者は、襲撃の気配を察した瞬間に逃げ出す振りをして林の奥へと姿を消した。実際にはとって返して別方向から敵へ斬りかかるための動きだ。林の影に紛れたその身が、背後から一人の襲撃者を切り伏せる様子を、私は辛うじて目に収めることができた。

騎士たちは馬車の前後左右に陣取って私を護り、レオナルドは縦横無尽に駆け回り、戦場を荒らしていた。

「いや強」

レオナルドは前線で二人を同時に相手取り、押し返している。鋭く踏み込み、相手の剣を受け止め、瞬時に反撃へと転じる。

無駄のない所作。彼の剣筋は洗練されていて、焦りも荒さもない。躊躇のない一撃ごとに確実に相手を削っていった。

そしてその中の一人が、裂帛の気合を込めて叫んだ。

「殺せ!」

その声が合図であったかのように、空気が一気に震える。襲撃者たちが一斉に動き出す。

すぐに次の影が駆け出してくる。鎧は金属ではなく革製のようだが、その分動きが速い。レオナルドと交錯するかと思われた瞬間、彼の剣筋が閃き、走り寄った男の武器ごと叩き伏せた。鋼の音と共に、相手の体が地面に叩きつけられる。

強い強いとは耳にしていたけれど、私は彼が倒れているところと追い詰められているところしか見たことがなかったので……。正直実感はなかったのだが、なるほど、強そう。

窓越しに視線を走らせて、私は息を呑む。視界に入り込んだ一人が、騎士の死角から刃を振り上げて迫るのを見つけた。

銃口をその影に合わせ、深く息を吸う。狙いを定めると、余計な思考は消えた。

乾いた破裂音が夜気を裂いた。男が腹を押さえて前のめりに倒れる。

私は窓から身を引き、素早く馬車の反対側の窓へと回り込む。さて、こっち側の敵はこの攻撃の仕様を把握しているだろうか。

銃を構え直し、影に気付かれるより先に狙撃。弾丸が走り、木の陰に潜んでいた男が悲鳴を上げて崩れた。

林の影から矢をつがえていた男が、こちらへ狙いを定めている。

──発砲。

乾いた音が響き、矢は放たれることなく男の手から滑り落ちた。肩を押さえた彼が呻き声を上げ、仲間に引きずられるように後退する。

射出されているのは実弾ではない。制圧用のゴム弾である。

とはいえ、ゴム弾でも当たりどころが悪ければ死に至ることもある──が、ヘッドショットより胴体を狙った方が的は大きいし、防具もある。即死でなければポーションで治療が可能だ。その辺りの調整と打ち合わせも済んでいた。

何故一般オタクである私がショットガンなんぞ扱えるのかと言えば、それは私がオタクだからである。

一人のオタクとして生まれたからには、やはり人生で一度くらいは銃と魔法を撃ちたいものだ。生憎、異世界に転移しても魔法を使えるようにはならなかったが──射撃の体験は日本でも出来るので。

幸いなのか、私にはそこそこ才能があったようで、馬車周りの距離くらいであればそこそこ狙える。

引いた引き金の数をカウントし、手に持つショットガンを収納。再び、装填の済んでいる二挺目を取り出す。

銃声が夜気に吸い込まれていく。騎士たちの戦闘の合間を縫い、私は狙撃を重ねた。

林から飛び出してくる影を撃ち抜き、あるいは剣戟の死角から不意に迫ろうとする者を撃ち落とす。

障壁を張られることもあるが、完全に間に合う者は少ない。弾速に対応できず、障壁が揺らめくより早く肉体に衝撃が叩き込まれる。

狙撃の反動で手首がじんと痺れる。火薬の臭いがまだ鼻腔に残っていた。

だが敵は怯まない。遮二無二に突っ込んでくる者、障壁で無理やり進もうとする者、仲間の屍を踏み越えて馬車に手を伸ばす者。どれもこれも命知らずで、正規の兵とは思えない。

馬車に取りつこうとする敵は、レオナルドと騎士たちが刃を交えて食い止める。私はその周囲を狙い、彼らの死角から迫る者を撃ち抜いた。

とにかく敵の数を削ぐこと。それが私の役割だ。

圧倒的に数が多いのは敵の方なので、フレンドリーファイアを過度に気にする必要はない。気を配るのは、縦横無尽に駆け回るレオナルドだけ。彼を撃ち抜くなどという愚を犯すわけにはいかない。

レオナルドが馬車のすぐ前で、二人の敵を相手取っていた。剣閃の軌跡は短く、鋭い。魔力の火花がはじけ、敵の武器が砕ける。

彼は間違いなく、この場で最も戦えている存在だ。だが、その彼の背後にも、もう一人が迫ろうとしていた。

──撃つ。撃たなきゃ。

だが、間に合わなかった。

……と思った瞬間、騎士の一人がその男の胴を横薙ぎに斬り払っていた。

思わず息を呑む。騎士たちの連携は確かだ。この人数差でここまで持ちこたえるとは。

レオナルドは言わずもがな、騎士たちも皆、鍛え抜かれた実力者ばかりだ。立ち回りに迷いがない。誰かが前に出れば、別の者が背を守る。まるで一つの意志を持つ群れのような連携。その動きがなければ、とっくに馬車は押し潰されていただろう。

だが、どうしても数はごまかせない。こちらの消耗が勝るのは時間の問題だった。

──ガンッ。

馬車の扉が乱暴に揺れる。私のいる側ではなく、反対側だ。騎士の壁をすり抜けた複数人が手をかけて、一気にこじ開けようとしている気配。

「……っ」

ためらっている暇はなかった。

このままでは内部に侵入される。そう直感した瞬間、私は目の前の扉を押し開け、外へと飛び出した。

「あかり嬢!」

背後から騎士の声が私の名を呼ぶ声を聞きながら、私は振り返らずに街道を横切って林の方へ走った。

「女が逃げた! 林に入ったぞ!」

「捕まえろ!」

怒号が追ってくる。枝を踏み砕く音、足音、金属のきしむ音。数人がこちらに回ったらしい。予想通りだ。

夜気が肌を打つ。湿った土を踏みしめ、林の闇に飛び込んだ。

林は戦場の喧噪からわずかに隔てられているだけなのに、空気の重さがまるで違う。虫の声すら遠のき、木々のざわめきが耳に響く。心臓の鼓動だけがやけに大きく聞こえた。

暗い林の中は見通しが利かない。

けれども不思議と、敵の気配は背後にしかない。草むらや木陰に潜んで矢を放つ者も、槍を構える者もいない。林の奥から新たに湧いてくる影はない。

どうやら隠し玉はすでに出し切ったようだ。こちらを仕留めるための戦力は、もう出払っている。

つまり、ここで私が捕まるか、それとも凌ぎ切れるか。

運命の針は、今まさに揺れている。