軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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迷宮島から船上都市ビグシープ、そして海洋都市アマールへと移動し、今はゼパーネル家の邸宅にまで戻ってきた。

ユミルを乗せたままのAEC装甲指揮車ドーチェスターをリモートコントロールで操作し、正門を通過させて厩舎へと向かわせた。

今はまだユミルを外に出すのは不味いだろう。一人にしても暴れることはないだろうが、外に出しては先ほど以上の騒ぎになってしまう。

もう少しだけユミルに我慢してもらおう。

邸宅内でアシュリーの横を歩きながら、アマールを出港してからビグシープ、迷宮島、再びビグシープへと、俺が見てきたことを全て話しながらサロンへと向かった。

アシュリーたちはバーグマン宰相から連絡を受け、俺が予定を切り上げてアマールに戻ってくることをすでに聞き知っていた。

帰還する日時こそ伝えていなかったが、宰相や王太子たちは俺の帰りを待ち兼ねているらしい。

「とにかく無事でよかったわ。ユミルは一人で大丈夫なの?」

「多分ね――お腹を空かせて鳴き出す前に食事を与えたいし、アマールに置いておくわけにはいかないからね」

「バーグマン宰相から避暑地のことを聞いているわ。この街の北西にトリントという小さな村があるの、その近くの森に王族が夏を過ごす別荘があるわ、大きな厩舎付きでね」

「トリントには、ここから何日ぐらいかかるのかな?」

視界に浮かぶマップを拡大操作しながら、 迷宮竜(ラビリンス・ドラゴン) に打ち込んだピンの移動速度や現在地を確認する。

アマールに到達するまでにはまだ時間があるとはいえ、 迷宮竜(ラビリンス・ドラゴン) の討伐作戦を実行に移すことを考えれば、もうあまり時間が残されていない。

アシュリーは俺の問いに首を振って答えた。

「直接向かうことは険しい山々のせいで無理。元々、陸路で辿り着けるような場所じゃないの、王都から転送魔法陣で転移するしか移動手段がないわ」

隔離された安全地帯というわけか、外から人が流入しない地ならユミルの存在を隠すのに都合がいい。

「バーグマン宰相に連絡を取り、準備が出来次第すぐに移動させよう」

「連絡の必要はないわ」

「えっ?」

「だって、そこで待ってるし」

そう言ってアシュリーがサロンへと繋がるドアの扉を開けると、中にはゼパーネル宰相やカーン王太子だけでなく、アーク王子やバーグマン宰相の姿もあった。

「待っておったのじゃ、シュバルツ」

サロンに入っていく俺に最初に声をかけたのはゼパーネル宰相だった。相変わらず白い磁器のように真っ白な肌と輝くように白い髪、ソファーに身を沈めて足を投げ出し、ぷらぷらと遊ばせながら俺の横や背後に視線を向けて何かを探している。

「――それで、ドラゴンの赤子はどこなのじゃ?」

「厩舎ですよ……目立つ子ですから、警護の兵たちに姿を見られて騒がれても困ります」

「あ、あのッ……近くでその子の姿を見ることはできるのですか?」

アーク王子と一緒にソファーに座っているラピティリカ様が、少し顔を赤らめながら興奮した様子で聞いてきた。

山茶花(サザンカ) で冒険者として修行してきた彼女にとっては、自然界の覇者であるドラゴンは魔獣の一種などではなく。畏敬の念を抱く対象だったのかもしれない。

「人を襲わないように約束を交わしました。まだまだ幼い子なので、刺激しなければ大丈夫だと思いますよ」

「それは凄い。ドラゴンは人智を超越した知性を持つというが、生まれたばかりで人の言葉を理解するばかりか、人だけが行う約束という行為をドラゴンにもさせるとは……さすがは“枉抜け”か」

カーン王太子もドラゴンに興味があるようだ――いや、興味がない人なんていないのかもしれない。

それに、ドラゴンと約束を交わすなんて人ではない何者かにしか出来ないかもしれない。

カーン王太子の最後の呟きは、集音センサーでやっと聞き取れるほどの小さな声だったが、ゼパーネル宰相の視線が僅かに振れたのを見ると、彼女の長い耳には聞き取れていたのかもしれない。

「シュバルツ、トリントで赤子を保護する準備は整っておる。陛下もお前の頼みならばと、快く了承してくれた。それに、覇者の子を王国に迎え入れられることは吉兆だとも言っておられた」

「ありがとうございます、バーグマン宰相」

「それで、ここへ戻ってきたこということは……くるのじゃな?」

「えぇ、バーグマン宰相。 迷宮竜(ラビリンス・ドラゴン) は北上する大船団の一つを追いながら、このオルランド大陸を――海洋都市アマールを直撃する進路をとっています」

「島一つほどの大きさを持つ、動く迷宮……そんなもの、なんとかできるの?」

アシュリーが漏らす不安は、サロンに集まった全員の不安だろう。カーン王太子の隣に座るアナスタシア妃はカーン王太子の手を握り、アーク王子はラピティリカ様の肩を引き寄せていた。

「海洋騎士団はアマールの南海に展開させておる。ビグシープからの避難船にも対応せねばならぬからな。で……どうじゃ、準備とやらは出来たのか?」

「はい、ユミルを――ドラゴンの赤子をトリトンに送り次第、最終的な準備に取り掛かりたいと考えています」

「シュバルツさん……その、 迷宮竜(ラビリンス・ドラゴン) というのを、本当に倒せるのですか? カーン兄様やバーグマンとも話し合いましたが、バイシュバーン帝国との緊張感は高まる一方です。王国中の騎士団をここに集結させることは不可能――それに……それほどの大魔獣を上陸前に倒すことは、残念ながら海洋騎士団一つでは荷が重すぎます」

普段は宰相たちやカーン王太子との話し合いに参加しても、ほとんど自分の意見は述べずに協議を見聞きして勉強している風だったアーク王子だが、今日は――というより、第二王子のキリークが謀反を起こして以降、アーク王子はここアマールで精力的に帝王学を学んでいるという。

王位継承権第一位のカーン王太子の病状は安定してはいるが、現実的に王位を継承して王政を引き継ぐのは難しい。

クルトメルガ王国の王位継承権を持っているのは、女性を含めてまだかなりの人数がいる。

だが、順位付けがなされている以上、実質的な次期クルトメルガ王は継承権第三位のアーク王子になる。その自覚が、協議への参加となって現れたのだろう。

「倒せる――とは断言できませんが、海洋騎士団が 迷宮竜(ラビリンス・ドラゴン) と激突する前に、島の地形が変わるほどの攻撃を加えます。それで倒せなかったとしても、相当な深手を負わせられるはず……そこを海洋騎士団に攻めてもらえれば……」

「アマールの護衛船団も出すのじゃ。報告によれば、魔獣を吐き出しながら海上を進んでおるのじゃろう? 一匹たりともアマールの沿岸部に近づけることは許さないのじゃ」

「ありがとうございます、ゼパーネル宰相。そうして貰えれば、心配ごとがまた一つ減ります」

「シュバルツ、貴方の冒険譚をもっと聞いてみたいわ。 迷宮竜(ラビリンス・ドラゴン) というのは、一体どうやって生まれたの?」

「喜んでお話ししますよ、アナスタシア妃」

サロンに一つ空いた二人掛けのソファーにアシュリーと共に座り、給仕が持ってきたグラスを受け取る。

これにはサロンに集う全員が興味を示した。報告として受け取っている経過報告ではなく、冒険譚――物語として話を聞くことは、邸宅の一室で 政(まつりごと) に忙殺されている彼らにとって最高の娯楽とも言えるだろう。

迫り来る危機を娯楽と捉えるのは如何なものか――とも思われるが、その危機を切り抜けてこの場に戻ってきた俺の話を聞いて、少しでも不安や恐怖を取り除きたいのかもしれない。

カーン王太子の手をしっかりと握りながらも、僅かな震えを抑えきれていないアナスタシア妃の手を視界の隅に捉えながら、詩人が歌う英雄譚のように、これまでの経緯を話し始めた。