軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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蛇頭の迷宮地下五階、正道を外れて向かっていた大部屋から聞こえた激しい戦闘音。その音に戦況の不利を察し、俺は救援へと向かった。

最後のナーガを撃ち斃し、大部屋のナーガは全滅した。俺が斃したナーガが五匹。大部屋を見渡すと、他にも黒い靄に包まれていく死体が見えた。

数は四つ、どうやら戦闘が開始した時点での数は九匹だったか。探索者パーティーの被害は死者一名と言う結果になったが、最終的に迷宮に遺体を飲まれ、その魂を狩られる事だけは防げた。

「た、助かった……」

ナーガの全滅を見て、俺の背後から安堵の声と座り込むような音が聞こえた。

「あ、あんた、助かったぜ……」

「いえ、礼には及びません。同じ探索者として、迷宮で狩られては困りますからね」

視界に浮かぶマップにはこれ以上の光点は映っていない。大部屋に埋まる水晶クラスターをFLIR(赤外線サーモグラフィー)モードで確認していくが、 水晶蜘蛛(クォーツスパイダー) の擬態もないようだ。

周囲の安全が確認できたところで、探索者たちの方へ振り返り、そちらの状況も再確認した。

生き残った探索者パーティーは男性三人、女性一人。そして、男性探索者の背には軽装の女性探索者が背負われていた。

俺の立ち位置ではその表情は見えないが、もう一人の女性探索者が目に涙を溜めて、その髪を撫で続けていた。

「地上へ戻れそうですか?」

「……俺たちはまだ動ける。だが、狩られたのが斥候役でな……ナーガの火属性魔法に下半身を焼かれて、その……」

そこでリーダーと思われる男性探索者の言葉が切れた。他の探索者たちは、仲間を失った悲しみに暮れながらも、各々の傷を回復させ始めている。

人数は減ってもここはまだ地下五階、すぐに地下四階に上がり、ファットスコルピオンを避けて進めば帰還はそう難しくはないと思うが、何が障害になっているのだろうか。

「何か問題が?」

「いや……」

「ここまでの迷宮地図がないんだ、地上へ戻る道順が判らない」

口ごもるリーダー格の対応に気を揉んだのか、別の探索者がそう答えた。どうやら、このパーティーは地図の管理を斥候役に一任していたようだ。改めて背負われている女性に目を向けると、下半身には布が巻かれ、その下を見ることは出来ない。

焼かれた――、そして地図の紛失。迷宮地図が入った荷袋か道具袋ごと焼失したか……。

「では、私の地図を使ってください」

「いや! それでは君はどうする?!」

「私はここまでの道順を正確に記憶しています。心配はご無用です」

もちろん嘘だ。

だが、 TSS(タクティカルサポートシステム) に保存されている地図のスクリーンショットや、マッピングされているマップを確認すれば道に迷うことはない。

大部屋の入り口に置いてきた荷袋を取りに行き、中から俺がドーチェスターで描いた未完成の地図を差し出した。

「未完成の迷宮地図ですが、地上に向かうだけなら問題ないはずです」

「あんたは本当に大丈夫なのか? それにこの地図……、こんな綺麗な地図は初めて見た……」

「これすごいな、《測量》持ちか? 俺も初めて見たぞ、こんな凄いものを本当にいいのか?」

「……タダでは上げませんよ? 救援は何れお互いさまの状況もあるでしょうが、これは別です」

「そ、そうだな……。助かる、代金はどれくらいだ?」

「そうですね……。魔石を、今回の探索で得た無属性魔石を全てで」

「無属性ってあんた……。いや、ありがとう。おい、無属性魔石を集めてくれ」

「わ、わかった。ちょっと待っていてくれ」

本当は無償でもよかった。探索者が探索者を救うことは当たり前のことだ。自然界での獲物の取り合いならまだしも、ここは地下迷宮だ。

迷宮討伐と言う一つの共通目標の前では、戦闘援護や救援は忌避される行為ではない。そこに多大な謝礼や恩着せがましい物言いは必要ない。

しかし、人の心と言うものは無償の手助けを疑い、避けるきらいがある。だが、そこにほんの少しであっても対価が存在するだけで安心感を得る。

俺としては無属性魔石を得られるのが一番うれしいが。

男性探索者が小さな小袋一杯に無属性魔石を詰めて戻ってきた。中身を軽く確認し、これで商談成立である。

「それでは私は先に進みます。気をつけて帰還してください」

「あぁ、本当に助かった。外で再び会えたら、改めて一杯おごらせてくれ」

「えぇ、いいですね。楽しみにしておきます、では」

ここは地下迷宮だ。一時的な安全を確保したとは言え、悠長に自己紹介をしたり、見聞きした戦闘内容をその場で振り返るようなことは誰もしない。

まぁ、迷宮を出た後で振り返ることはあるかも知れないが……。

探索者パーティーを残し、大部屋を離れていく――。俺の姿が大部屋から消えたところで彼らの緊張の糸が切れたのだろう、女声の泣き声が聞こえ始めた。

相当に仲のいいパーティーだったようだ。信頼していたが故に、迷宮地図の所持・管理を一任していたのだろう。

そして、パーティーが危機的状況に陥っても、遺体を大部屋に残し撤退することは出来なかった――。

仲間か……。

単独で迷宮攻略を続ける自分を思うと少し寂しい気もしてくるが、こればかりはしょうがない。

『魔抜け』であり、『枉抜け』である俺をすべて理解した上で、共に歩んでくれる者など、そう簡単に見つかるものでもない。

自然と歩く速度が速くなり、彼らの声が聞こえなくなる距離まで離れた頃には、俺の意識は地下五階の踏破と、地下六階へと向いていた。

探索開始から三日後、最終的に蛇頭の迷宮地下十階まで到達していた。

今、俺の目の前には地下十階にある迷宮の門が建っている。蛇頭の迷宮の門もまた、これまで見た迷宮の門同様の彫刻がびっしりと彫られていた。

普人種や獣人種と争う魔獣・亜人種の彫刻。そして、それを上から観戦するかの如く掘られた玉座に座るのは、多頭の蛇――ヒュドラだろうか?

ほんの僅かな時間、 迷宮の主(ダンジョンマスター) を模した多頭の蛇と視線を合わせ、俺は門番の間へと進んだ。

今回の探索はここまでだな、地下六階からは六角水晶の採集も行ってきた。スレッジハンマーで一メートルを超える水晶の根元を叩き折り、ギフトBOXへと回収した。

六角水晶は一階層に数本と言ったところだろうか、それほど多く取れるわけではないが、他の探索者がある程度の大きさまで砕かなければ持ち帰れない水晶を、ギフトBOXに収めることによって大きな六角水晶状態で持ち帰れるのは大きい。

この水晶の塊が大きいほど、取引価格も高くなる。ここまで進んで来る間に、計十八本の六角水晶を採集してきた。最終的にどの程度の金額で売れるかはマルタさん次第だが、彼に任せておけば何も心配はいらないだろう。

門番の間は静寂に包まれていた。もう何年も前にこの階層の門番は討伐されている。周囲を軽く見渡すと、部屋の中央付近に転送魔法陣が刻まれているのが見えた。

今日の最終目標がこれだ。

本来ならば、『魔抜け』である俺には起動に魔力が必要となる転送魔法陣は使用できない。しかし、牙狼の迷宮を討伐した直後に、この世の者ならざる何者かによって贈られたアイテム、魔力の認識票によって転送魔法陣を起動させることが出来た。

転送魔法陣の中央に立ち、コンバットナイフを抜いて指先を少しだけ傷つける。

魔法陣に血を垂らし生体情報を登録する。これで準備は完了だ、後は……。

「転移」

転送魔法陣を起動させるキーワードを唱えると、魔法陣に光が灯り、文様に沿って走り出す。それが光のカーテンとなって俺の視界を走り抜けると、俺の周囲は迷宮の中から荒野へと変わっていた。