軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第203話 師匠の苦悩 ★

ゾフィーと別れ、支部に戻った俺達は仕事をこなしていく。

そして、午後になると、ユリアーナがやってきたので一緒にドックに向かった。

「昨日、チェックしましたが、特に問題がありそうなところはありませんでした。なんか船室にレオノーラさんの名前が書いてありましたけどね」

あれね。

「サイン」

レオノーラがドヤ顔を浮かべる。

「まあ、いいですけど……じゃあ、海に浮かべますね。あそこにあるレバーを引くと、このレールを通って、海に行くんですよ」

作成した船の下にはレールがあり、坂道となって、海に向かっている。

「頼むわ。俺達は外で見てる」

「いいですけど、結構な水しぶきが飛んできますよ?」

「防御魔法があるから大丈夫」

「さすがは5級の国家魔術師ですね。では、行きますよー」

ユリアーナがドック内に入ると、レバーを握ったので防御魔法をかける。

「いつでもいいぞ」

「い、き、ます……」

ユリアーナが一生懸命レバーを引いた。

すると、船が少しずつ動き出し、坂道を進んでいく。

そして、そのスピードは重力に抗うことなく、一気に速くなり、滑るように海に着水し、大きな水しぶきをあげた。

船はかなり揺れていたが、それも次第に収まっていき、ぷかぷかと海に浮いている。

「おー! 私が作った船が浮いてます!」

マルティナが嬉しそうな声をあげる。

「良かったな」

ほら、言葉を選べてる。

お前はたいしたことをしてないだろって思った。

「ちゃんと船ができるもんですね」

「感動だね。あとこんな水を防ぐ魔法があるのか……」

「王都にいたら経験できなかったことだし、嬉しいわよね。水曜石作成の時に使ってほしかったわよね」

そうだな。

「ユリアーナ、依頼は達成でいいか?」

「はい。問題ありませんし、無事、着水できました。後日、依頼料を振り込みますので請求書と納品書をお願いします」

「わかった。あとで持っていく」

納品書にマルティナ号って書いてやろう。

「よろしくお願いします。では、私は船を軍港の方に動かしますので」

「じゃあ、これが鍵な」

ユリアーナにドックの鍵を渡す。

「この度はありがとうございました。こちらもかなり助かりました」

「こっちも良い儲けになったし、良い経験になったわ。また頼む」

「はい。よろしくお願いします」

俺達はユリアーナと別れると、支部に戻り、別の依頼を進めることにした。

◆◇◆

私は長い空旅を終え、王都に戻ってくると、まっすぐ本部に向かう。

そして、階段を昇り、本部長の部屋の前までやってくると、扉をノックした。

「本部長、ゾフィーです」

『おー! 入ってくれ!』

本部長の機嫌の良い声が聞こえてきたので扉を開け、中に入る。

すると、珍しく笑顔の本部長がデスクについていた。

「ただいま戻りました」

「ご苦労さん。リートはどうだった?」

「良い町でしたね。本部長も一度は行った方が良いと思います」

ジークは嫌がりそうだけど。

「そんなにか?」

「リゾート地って感じでしたよ。海は近いし、自然がいっぱいです。食べ物も美味しかったですし、何よりも人が良いです。ジークをあそこに送ったのは正解だったと思います」

あれだけの才能をあそこに送るのはどうかと思うが、結果的には成功だろう。

今のジークを見ればどうしてもそう思ってしまう。

「おかげで帰ってこなくなったな」

「あれは帰らないでしょう。あそこの地を気に入っているようでしたし、何よりも弟子を気にしていました。あれは真面目な男ですから仕事をさせれば完璧にこなそうとします。それがたとえ向いていない指導だとしてもです」

天才であるジークは人にものを教えるのは向いていないと思う。

でも、結果は出すだろう。

そういう人間だ。

「あいつも弟子の教育の方に力を入れだしたか……」

「あいつもというと?」

「ハイデマリーだ。あいつも自分が絶対な自己中心的な錬金術師だった。でも、弟子を取ってからは変わった。弟子の教育に熱心になり、自分のことを後回しにした。もっと腕のある錬金術師になれたものを……ハァ」

本部長がため息をつき、タバコを咥えた。

「それは悪いことなのですか?」

「いいや、良いことだ。私だってお前達を弟子に取ったし、お前達が何よりも可愛い。それはハイデマリーもだし、ジークもだろう。でもな、弟子を取るということはある意味で成長が止まるんだ。そして、次第に腕が落ちてくる。私のようにな」

「それは……」

確かに本部長の錬金術師としての腕は落ちている。

「事実だ。私はそうやって腕が落ちた。そして、弟子の成長を願う者としてはあの2人が残念にも思う」

「あの2人だけですか?」

他にも弟子を取っている一門はいる。

「お前達の中でもあの2人が特に野心が強かった。子供の頃から私にとって代わろうとしていたのはあいつらだけだ」

「ジークはともかく、マリーは本部長のことを尊敬してますよ」

マリーはあんなんだが、本部長だけは尊敬している。

「それでもだ。あいつらは本当にすごかった。少しでも私から吸収しようとしていたし、追い抜こうとしていた。あの貪欲さこそが錬金術師だ」

「今は違いますか?」

「ジークを見てきて、どう思った?」

「仕事の進め方は弟子の3人を中心に決めていましたね」

今までのジークなら自分で全部やっただろう。

でも、極力、弟子に仕事を任せていた。

それは弟子を成長させるためだ。

「だろう? それはハイデマリーもだ」

「そうですか……本部長はあの2人に弟子を取ってほしくなかったんですか?」

「さっきも言ったが、ある意味ではな。だが、弟子を取ったことは間違いではなかったとも思う。ただただ仕事をするだけが錬金術師ではないし、人生は仕事だけじゃない。そういう意味では非常に良かったと思う」

それは私もそう思う。

「ジークは変わりましたよ」

「そうだな。さて、ゾフィー、お前はリートに行って、何か変われたか?」

「私は自分の足元を疎かにしていたようです。一からやり直します」

「そうか……ゾフィー、実は精密機械製作チームにお前の席はない」

え?

「左遷? ジークられるんですか?」

リートにとんぼ返り?

「ジークらない。お前は飛空艇制作チームに行け。ジーク、アウグストと連続して抜けたし、人手が足りてないんだ」

飛空艇制作チーム……

錬金術師協会の中枢である本部における花形だ。

「私が……ですか?」

「ああ。お前だ。リートで船を作ってきたんだろ? 似たようなものだ」

全然、違う。

でも、本部長は期待してくれているんだ。

「わかりました。頑張ります」

「頑張ってくれ」

「それと本部長、空いている時でいいのでちょっと私の錬金術を見てもらえませんかね?」

そう聞くと、本部長が驚いた顔になった。

「え? どうしました?」

マズかった?

「いや……それを言われたのが何年振りかなと思ってな……お前らが独り立ちしたことは非常に嬉しいことだが、お前ら、全然、頼ってこないし、私が声をかけても遠慮してくる。ジークに至っては『なんで?』って聞いてきやがるし……」

ごめんなさい。

ちょっと皆に本部長が寂しがってるって言っておこう。