軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第158話 決意

アデーレの合格祝いを終えた翌日の休みの日は本屋に行ったくらいであとはいつも通りの休日を過ごしていたのだが、昼にテレーゼが訪ねてきて、王都に帰るということだったので一緒に昼食を食べ、空港まで見送った。

その翌日はいつも通りの仕事をしながら過ごしているが、どこか緊張感がある。

理由は簡単でハイデマリーが出した期日が今日なのだ。

そして、そのハイデマリーは朝から支部に来ており、ソファーに寝っ転がってナンパ本を読んでいた。

「ハイデマリー、俺達は5時には帰るぞ」

時刻はすでに4時を回っていた。

学校があるのでさすがに4時までに来ることはないと思っていたが、さすがにタイムリミットは作らないといけない。

「それでいいですわよ。その時間にわたくしも帰りますから」

「王都に帰るのか?」

「さすがに今日は泊まりますけどね。明日の昼に帰ります」

それでもそこまで待つ気はないんだな。

「そうか……」

「別にお前が気にすることではないです」

まあ、そうなんだけどな……

「ジークさん」

エーリカが声をかけてきたので横を見た。

しかし、エーリカの目が俺を見ていなかったので受付の方を見る。

すると、そこにはマルティナが立っていた。

「ハイデマリー、起きろ」

「はいはい。とりあえずは来たわけね」

大事なのはどういう答えを持ってきたかだ。

ハイデマリーが起き上がったので立ち上がり、受付に向かう。

「こ、こんにちは」

マルティナはどもった声で挨拶をしてきたが、俺が怖いからではないのはさすがにわかる。

「ああ。学校終わりに悪いな」

「いえ、学校は休みました」

休んだのか……

「入ってくれ。ハイデマリーが待ってる」

「はい」

マルティナを連れて、アトリエに入る。

そして、マルティナをハイデマリーの対面に座らせると、俺はハイデマリーの隣に座った。

「こんにちは」

「どうも。つまらない顔をしてるわよ。ガキとはいえ、女ならその目をどうにかしなさい」

そう言われて気付いたが、マルティナの目の下には隈ができていた。

「それどころではありませんから」

「余裕もなし、と。1週間ずっと考えていたわけね……で? あなたはどう思って、どうしたいの?」

「その前に聞きたいんですが、ハイデマリーさんはなんで錬金術師になろうと思ったんですか?」

俺も知らんな。

本部長に憧れてたからかな?

「家のため」

「え?」

ハイデマリーが即答すると、マルティナが呆ける。

「わたくしの家は商家。わたくしが物を作って、それを売れば元手がタダだと思ったんです。商売の難しさも知らないバカな子供が思ったことですわ。でも、きっかけはそれですね」

「今も思ってますか?」

いや、さすがにないだろ。

「ウチの商家の主は父であり、その後継には兄がなります。どちらもそんなことは望んでいませんし、舐めるなって言われますわね。それにそんなことをしたいなら自分でアトリエを開き、店を構えた方が良いに決まってます。まあ、それも嫌ですけどね」

「そう、ですか……」

マルティナが俯く。

「ハァ……ジーク、あなたはなんで錬金術師になったんです?」

今度はハイデマリーが俺に聞いてきた。

「色々あるが、一番は本部長に勧められたからだな」

「それはいつ?」

「子供の頃じゃないか?」

「なれましたか?」

は?

「見ればわかるだろ。来年には2級だぞ。」

「そうですか……マルティナ、人は大人になれば変わります。見た目は当然ながら、思いも夢も信条も何もかも……でも、何事も例外はあり、変わらない者もいます。そんなものは人それぞれですからね」

俺も変わったんだけどな。

そういうことじゃないのはわかっているから言わないけど。

「はい……」

「マルティナ……見た目も精神も子供のあなたを急かすのは心苦しいですが、今はどんな答えでも出さないといけない時です」

「わかってます……」

マルティナは持っていたカバンから石ころを取り出して、テーブルに置く。

すると、ハイデマリーがそれを手に取り、じーっと見始めた。

「ふーん……はい」

ハイデマリーが石ころを渡してきたので見てみる。

その石ころは先週、ハイデマリーが渡した銅鉱石であり、錬成した跡が窺える。

とはいえ、銅鉱石だ。

銅にはなっていない。

しかし、良いところまではきていた。

「学校を休んで、これをしていたのか?」

「はい……」

1週間かけてこの程度だ。

だが……

「誰も教えてないのにね……」

そう……マルティナは独学でここまでやったんだ。

「ふっ……魔力の流し方が雑だな」

「そもそも魔力を出すのが得意ではないんでしょうね」

多分、そうだろう。

「すみません……でも、錬金術師になりたいんです!」

俯いていたマルティナが顔を上げた。

「なってどうするの?」

「店を何とかします!」

「あなたが学校を卒業するまでに潰れるか、どこぞに奪われると思うけど……」

「学校は辞めます!」

あらら。

「ふーん……」

「お願いします! 私に錬金術を教えてください! 店を救うにはそれしかないんです!」

マルティナが頭を下げる。

「ジーク、どう思う?」

「俺に聞く?」

「ええ。はっきりと言って」

損な役回りだな。

「マリーが教えたところで1年やそこらで店をどうにかできる錬金術師にはなれんな。そもそもあの成績では10級も受からん」

「そうね。わたくしもそう思う」

マルティナががくっと落ち込んだ。

「事実だから仕方がないだろ」

「ええ、そうね…………マルティナ、顔を上げなさい」

マリーがそう言ってもマルティナは顔を上げない。

「泣いてるぞ」

「関係ない。顔を上げなさい」

マリーが2度目の命令をすると、マルティナが顔を上げる。

もちろん、泣いていた。

俺が泣かした。

「じゃ、じゃあ、どうすればいいんですか……?」

「あなたは何もしなくていい。あなたは最良の答えを出した」

マリーがマルティナに求めていたのはやる気だ。

死ぬ気で学び、錬金術師になりたいという情熱。

それくらいの気概がないと錬金術師にはなれないし、弟子にする気もなかったんだろう。

「え……?」

マルティナが呆ける。

「ガキが。そもそもお前が店を考える必要なんかないのよ」

ホント、ホント。

「え? え?」

「お前の家の店はお前のものじゃないし、お前が責任を持つものじゃない。そして何より、お前には何もできない。ジーク、行くわよ」

マリーが立ち上がった。

「5時前なんだけど……」

「女共、残業しなさい」

マリーが3人娘の方を見る。

「はい」

「まあ、残ってるよ」

「わかりました」

残業か……

「悪いな。ついでにマルティナを見ててくれ。行くか」

俺も立ち上がった。

「マルティナ、ちょっとここで待ってなさい」

「は、はい」

俺とマリーは支部を出ると、マルティナの家の薬屋に向けて歩き出した。