軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第144話 悪い大人たち

サイドホテルに到着すると、ホテルマンの案内のもと、レオノーラをエスコートしながら最上階に行き、席についた。

「おー、すごいね。眺めが良いし、夕日も綺麗だ」

レオノーラが外を眺める。

「お前も初めてだったな」

「うん。アデーレと泊まったんだけどね。あの時は部屋から見た」

「俺も初日に見た。すごい部屋だったし、あそこからでも十分に眺めが良かったな」

「そうだね。すごいもので同じような景色なのに一緒に見る人が違うと違う景色に見えるんだよ」

まあ、そうかもな。

俺達はワインを頼み、乾杯すると、コースの料理を食べだした。

「また高そうなコースを頼んだね……」

レオノーラが笑う。

「わかるのか?」

「そりゃね。前菜でだいたいわかるよ」

さすがは貴族だ。

「今日はお前の祝いだ。支部長からカンパもしてもらったんだよ」

「なるほど……あの人、すごいね」

まったくだわ。

「俺が祝った方が良いんだと」

「週明けにお礼を言っておくよ」

「そうしろ。ついでにエーリカに言っておいてくれ」

「わかった」

ホント、できた上司だわ。

「鑑定師の合格祝いも出してくれるかねー?」

「さあ? さすがに要求はできないよ」

「やはり偽出張だな」

「それ、好きだねー……ねえ、さっきの話だけど、エーリカとアデーレには本当に鑑定士を勧めないの? 微妙に私だけ王都に行かせてもらうのは気が引けるんだけど」

そうかもな。

「お前はすぐに受かると思えるだけの能力があると思ったから勧めたんだ。あの2人はそうでもないから時間がかかる。今はそっちより、少しでも国家錬金術師資格の階級を上げてもらいたい」

優先順位をつけるのならそっちが優先だ。

鑑定士は6級を取ってからでも遅くない。

「でも、ジーク君的にいずれは取らせるわけでしょ?」

「さあな……なあ、お前はどこまでいきたい?」

この際だし、聞いておくか。

「資格のこと?」

「それもだが、もっと漠然とした今後の目標だ」

「目標……私は特にないよ。この町で君達と楽しく生きればそれでいい。ただ、私は子供の頃から錬金術師になりたかったし、なった今も楽しいと思っている。だから少しでも得意になりたいし、なれるものなら8級とは言わずに1級にでもなりたいよ」

向上心がないように聞こえないでもないが、目標の上限値がないな。

これは死ぬまでやる気だ。

「生き方と職業が別なわけだ」

「エーリカもアデーレもそうだよ。エーリカは地元であるこの町を良くしたいし、アデーレは君に認められたいという思いだね」

エーリカはともかく、アデーレ……

「認めてるんだが?」

「君の認めるとアデーレの認めるは違うんだよ。まあ、これは君が気にしなくてもいいことだよ」

ふーん……レオノーラがそう言うならそうなんだろうな。

「お前らがどこで止まるかがわからないんだよ」

「そんなもの、私達にだってわからないよ」

まあ、そうかもな。

俺自身、この数ヶ月で大きく変わった。

「まあ、わかった。俺はな、教えを乞う者に教えることはできるし、専門的なこと以外なら大抵のことは答えられる」

「良い師匠だね。さすがはジーク君」

「どうも。でもな、俺はモチベーションを作ることはできないんだ。はっきり言えば、やる気のない者をやる気にさせることができないし、しようとも思わない」

それはものすごく苦行であり、意味があるとも思えない。

「見捨てる?」

「いや、そこまでのことじゃない。本人がそこで良いと思ったのならそれでいいし、その能力なりの仕事をさせればいいんだ。仕事だけが幸せじゃないのはここ数ヶ月でよくわかったからな」

事実、俺は本部での出世を完全に捨てた。

一門や本部の連中の中にはこれをもったいないと思う人もいるかもしれない。

でも、俺の幸せはそこではないのだ。

それがよくわかったからこそ、才能があるからといって押し付けるようなことをしたくない。

「なるほどねー……私達は止まらないから安心していいよ。さっき言った目標とは違うモチベーションがあるからね」

「何だ、それ?」

「それは君が知らなくていいこと。君は師匠らしく私達を見てくれればいい」

ふーん……

「お前は最低でも5級にはなってくれ」

「ふふっ、それが君の思う私の上限だね」

そう思っている。

4級は厳しいだろう。

「5級はすごいんだぞ」

「知ってる。でも、今この瞬間をもって、私の目標が4級になったよ」

「そうか……頑張ってくれ」

「君が教えるんだよ?」

そうだな……そうだったな。

「お前達にやる気があって良かった。ただでさえ、人付き合いが得意じゃないのにやる気もなかったらしんどいわ」

「だろうね…………マルティナちゃんかい? やる気のない者をやる気にさせることができないし、しようとも思わない?」

レオノーラが先程、言ったセリフで聞いてくる。

「わかるか?」

「最初にポーションとインゴットを教えたのにマルティナちゃんの反応を見て、ポーションしか作らせなくなったからね。デスクの方から見てて、『あ、見捨てた』って思ったよ」

見捨てたわけではない。

ただ俺には無理だと思っただけだ。

「アデーレも思ったかな?」

「ジーク君がエーリカにそう指示した時に目が合ったから思ったと思うよ」

「いや、見捨てたわけではないし、別にお前らも見捨てんぞ」

勘違いしてほしくない。

「それはわかっているから大丈夫。正直ね、エーリカのインゴット講義を聞くマルティナちゃんの態度が良くないなって思ったよ。物理の点数が低いのも納得」

全然、聞いてなかったもんな。

多分、もう覚えてないと思う。

「ちょっとないなと思ったのは事実だな。まるで先が見えてない」

試験に受かる気あるのかって思った。

「学生さんだし、仕方がないと思うよ。それにジーク君もわかっているだろうけど、この町の人って皆、明るいし、楽観的なところがあるんだよ」

わかっている。

でも、商売をする者がそれではいけないのだ。

あ、いや……そうか。

ギーゼラさんはその道に進む気がなかったんだ。

しかし、爺さんが死んで…………ああ、それであんなにアホなのか。

「薬屋の死んだ爺さん、店を自分の代で畳むつもりだったのかもしれんな」

「かもね。跡取りになるはずだったマルティナちゃんのお父さんが亡くなっているし」

だからギーゼラさんにもマルティナにも薬屋の知識がないんだろう。

もし、どちらかを跡取りと考えているのならば英才教育ぐらいはする。

しかし、ギーゼラさんは手伝い止まりでマルティナは魔法学校だ。

「爺さんはそれを伝える前に死んで、さらにはあの親子はそう考えなかったからこの惨状ってところか」

「何とも言えないね」

すべては推測だしな。

でも、似たような感じだろう。

「面倒なことだな。まあ、俺には無理だ」

人間性35点の俺にはちょっとね。

「それで王都の悪女ハイデマリーかい?」

「適役。それにもし、マルティナの心が折れても俺達のせいではない」

悪いのは本部の錬金術師だ。

ウチの評判は下がらない。

「悪い大人だねー」

「そういうもんだ」

俺達はその後も飲み食いし、食事を終えたのでホテルをあとにした。

そして、車で支部まで戻ると、アパートの前まで帰ってくる。

「デートは終わりかな? 君が終わりと言うまでがデートだよ」

お祝いなんだけどな。

「終わりでいいだろ。それとも飲み直すか?」

宣言通り、レオノーラは1杯しか飲んでいない。

「うーん……そこまで欲張るのはやめておこうか。多分、アデーレはエーリカの部屋で飲んでいると思うから突撃しよう」

「そうするか」

「じゃあ、先に行ってて。私は着替えてくるよ」

レオノーラがそう言って、階段を昇っていったのでエーリカの部屋の呼び鈴を鳴らした。

『どうぞー』

中からアデーレの声が聞こえてきたので扉を開ける。

すると、テーブルにつきながらリバーシをしている2人がいた。

「ここ、エーリカの家だろ」

「エーリカさんは熟考中」

確かにエーリカはリバーシをガン見しながら固まっている。

「カードゲームしようぜ」

「弱いくせに……レオノーラは?」

「着替えてくるってさ」

「あー、なるほどね。楽しかった?」

そりゃな。

「アデーレ、得意のロックを作ってくれ」

「私もハイボール飲むから鍵貸して」

「頼むわ」

アデーレに鍵を渡すと、部屋から出ていった。

「ジークさーん……」

アデーレがいなくなると、エーリカが助け舟を求めてくる。

「ここだ、ここ。ここに置けばいいぞ」

マスを指差し、教えてやる。

「なるほどー」

俺は運要素が強いカードゲームは弱いが、ボードゲームはめちゃくちゃ強いのだ。