軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第129話 子供

「ありがとう」

噓八百の記事を信じているマルティナに礼を言うと、エーリカの膝を叩き、合図を送る。

「それでどうしたの? というか、学校は?」

そういや、まだ昼間だな。

「今日は休みです。実はちょっと相談に乗ってほしくてエーリカ先輩を訪ねたんです」

ほっ……エーリカ案件だ。

「どうしたの?」

「前に勉強を見てくれるっていう話を先生に聞いたんです……」

俺がここに来て、最初に思いついたのが囲い込みである。

まだ資格を持っていない学生や受験勉強中の奴をバイト扱いで雇い、経験を積ましてやるし、勉強も見てやるから受かったらウチで働けという要は学生の青田買いだ。

「成績が良くないの?」

「そういうわけでは…………えーっと、そのー……」

何か言いにくいことがあるようだ。

「気にしないで言ってもいいよ」

エーリカが悪意ゼロの聖なる笑みを浮かべた。

「わ、私の家は代々薬屋を営んでまして……でも、最近、お母さんが入院しちゃって……でも、私には店をどうにかするだけの力もなくて……」

あ、民間案件だ。

ないわー。

こいつは店をどうにかしたいために勉強をしたいのだ。

つまり絶対にウチに就職せん。

「それは大変だね……お父さんとかは?」

「お父さんはいないんです……」

「あ、ごめん」

エーリカが謝ると、マルティナが首を横に振る。

「去年まではお爺ちゃんとお母さんが頑張ってたんです。でも、お爺ちゃんも亡くなって、お母さん一人で頑張ってたんですけど……」

倒れたわけね。

「お母さんの容態は?」

「お医者さんが言うにはただの過労だそうです」

重くはないようだ。

「ならすぐに退院できそうだね」

「はい。でも、店が厳しいんです。薬のことはほぼお爺ちゃんが専門にやってましたから」

それって……

あー……しゃべりたくねー。

レオノーラとアデーレのもとに帰りてー。

「そっか……それでマルティナちゃんが頑張ろうと?」

「はい」

「なるほど……どう思います?」

エーリカが聞いてくる。

「ちょっと待ってな……」

腕を組んで考えてみる。

いや、何これ?

なんでウチに来た?

俺達にどうしろってんだよ……

「えーっと、マルティナ」

「はい」

選べ、言葉を選べ。

「お前は魔法学校の生徒なわけだし、魔法使い志望で良いんだな?」

「はい。錬金術師になりたいと思っています」

まあ、女子はそうだろう。

この子も戦いが好きって感じではなさそうだし。

「そうか……根本的なことを聞くが、錬金術師と薬師はまったく別物だということを理解しているか?」

「え?」

やっぱりしてない……

「錬金術師は読んで文字のごとく錬金術を行うものだ。薬師は薬を扱う専門家のことだ」

「一緒では……?」

あー、どうしよう?

授業すんの?

うーん……まあ、エーリカの後輩なわけだし、支部の評判のこともある。

それに魔法学校の生徒がウチに来てもらうにはここで無下にはできん。

「薬師は薬学という学問に基づき、薬を調合するのが仕事なんだ。一方で錬金術師も薬を作る。しかし、これは一見、同じ薬だが、魔法で作った薬で薬学とはまったく別ものなんだ。製造工程も違うし、効能も違う」

「そ、そうなんですか?」

学校で何を教えてんだ?

「一番の違いは魔力の有無だな。薬師は知識と技術があれば誰でもなれる。一方で錬金術師は魔法使いだから才能がないとできない」

単純に魔力を持っていない人間は魔法を扱えないから魔法使いになれないのだ。

「薬師の方が下なんですか?」

「いいや。そういうステージの話ではない。まったく別ものだから比べるものじゃないんだ。さっき誰でもなれると言ったが、薬学の専門の知識はとんでもなく難しいし、技術も高度なものだ。薬は毒にもなるから下手したら死ぬからな」

どんな薬だって用法用量を守らないといけない。

「えっと……ウチの店に錬金術で作った薬は置けない?」

「それはご自由にとしか……」

人の店の方針なんか知らんがな。

「あの、私はどうすればいいんでしょう?」

マジで知らん。

でも、この子は他に頼るものがないんだろう。

「まず確認したいんだが、マルティナは錬金術師になりたいのか? それとも薬師になりたいのか?」

「錬金術師……でも……」

難しいわな。

「俺とお前は他人だ。だから変なことを教えて、失敗しても責任を取れない。それでも1つ道を示してやるならば、薬専門の錬金術師になるというのが1つある。ひとえに錬金術師と言っても色んな奴がいるからな。得意不得意もあるし、1つに絞り、専門家になるというのも当然あるわけだ」

「そ、それです」

まあ、この子が曖昧に言っている事はそういうことだろう。

それで家の店をどうにかしたいわけだ。

「わかった。それで錬金術を学びたいわけか?」

「はい」

なるほどな。

「すまん、ちょっと待ってくれるか? エーリカ、ちょっと来てくれ」

エーリカの腕を取ると、立たせて、アトリエを出る。

そして、階段を昇っていき、倉庫にやってきた。

「ジークさん、どうしましょうか?」

エーリカが聞いてくる。

「あれ、絶対にウチに就職する気がないぞ」

「ですよね……目的がはっきりしています。あの感じだとマルティナちゃんが店を継ぐんでしょう」

エーリカもわかっているようだ。

「まさかウチでバイトする意味すらわかっていないとはな……」

「すみません。リートにはあまり囲い込みの文化がないんだと思います。私自身もジークさんに聞いて初めて知りましたし」

民間が強いからかねー?

民間でも師弟制度はあると思うんだが……

「まあ、仕方がない。それでどうする?」

「助けてあげたいという気持ちはあります。ですが、ウチにメリットがなさすぎますね。私達も他の人を気に掛ける余裕はないです」

まあ、そうなんだよな。

「断るか?」

「最終的な判断はジークさんにお任せします。ですが、それもどうなんでしょうかね?」

だよなー……

確実にウチの評判は落ちる。

理不尽だが、そんなもんだ。

「この場にはお前しかおらんからひどいことを言ってもいいか?」

「どうぞ」

「マルティナの店な……詰んでるぞ」

「………………」

エーリカが手で目を押さえる。

「わかるか?」

「詳しい事情を聞いていませんが、専門家だったのはお爺さん。そのお爺さんが亡くなり、お母さんが継いだ。でも、過労で倒れた…………お母さんは薬学に詳しくないんでしょうね。お爺さんが主導でお母さんはお手伝い程度だったんでしょう」

確実にそうだ。

それでも何とかしようとし、無理がたたって倒れたんだろう。

「退院してもまた同じことだぞ。そして、マルティナがどれだけ努力しようが1年やそこらで店を運営できるまで学べるほど、薬学も錬金術も甘くない」

「その間に店は傾くでしょうね……」

エーリカは優しいな。

潰れるって言わない。

「だからこそ、教えるというのも選択肢の一つだ」

「大人ですね……マルティナちゃんは結局、継ぐ店を失うからウチに就職するわけですね」

結果的にそうなる。

「そういうこと……どう思う?」

「すごい嫌な気持ちになりました」

だろうな。

「俺もだよ。だからこそ、相談なわけだ。どうする?」

「一度、お母さんに話を聞くべきでしょう。マルティナちゃんに判断できることではありません」

それもそうだな。