軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初戦闘

「ウキィィィィ!」

「ごめんなさいッ!」

俺は全力で土下座をかましてやった。結構クレバーモンキーと距離があるとはいえ、先制攻撃だっ!

それにしても……この俺が気配を感じられないとは!?……当たり前ですね。俺、達人じゃねぇし。

つか、マジでこの状況はあれだね。怖い。

あんだけ騒いでりゃ、そりゃ猿の一匹や二匹くらいね。むしろ、今俺の目の前に現れた奴だけってのが不幸中の幸いか?でもどちらにせよ、一難去ってまた一難、だな。

俺は猿相手に土下座の状態でじっと待つ。

……。

あ、あれ?

なんか攻撃位はしてくると思ったが、この状態の俺に何もしてこない所を見えると、意外と平和的なのか!?

何時まで経っても俺の恐れているような衝撃が体を襲わないので、俺は恐る恐る顔を上げる。

「ウ~……」

「へ?」

顔を上げると、猿が離れた位置で足を思いっきり引いている姿が目に飛び込んだ。

その姿はまるで、サッカーのシュートをする前段階のような格好にも見える。

「何をやって――――」

俺の言葉は、次の猿の行動でかき消された。

「キィィィィイイイイ!」

「うぇい!?」

猿は、引いていた足を思いっきり振り抜いた。つまり、もろシュートの恰好。

すると、その振り抜いた足から放たれたのは、一つの斬撃だった。

「チョイチョイチョイチョイ!マジで!?」

斬撃は凄まじいスピードで俺に迫り――――

「グハッ!」

ズシャァァアア!

俺はその斬撃で切り裂かれた!

「痛ぇぇぇぇええええ!」

俺は地面をのた打ち回る。

「斬られた!ヤベェ!血が……血がああああっ!」

何で俺斬られたのにこんなに元気なんだ!?でも真っ二つになる前に少し体を捻ったおかげで腹がズッパリと斬られただけで済んだぞ!……あれ?結構重傷じゃね?よく見れば、腹がモザイク必至の状態なんですけど!?

「ウキャキャキャ!」

猿は、俺が痛がり、転げ回る様子を見て、手を叩きながら笑っている。

コイツ性格悪っ!ドSじゃねぇか!

「イテェ……イテェよ……!」

俺はアイテムボックスにある『最上級回復薬』を取り出し、すぐさま飲み干す。

「ん……ん……プハァ!」

飲み干す間、猿は攻撃してくることも無くひたすら爆笑している。ウゼェ……。

てか今初めて飲んだけど、この毒々しい色をした回復薬、何気に美味いんだけど。何て言うか……爽やかなソーダ味だし。それに微炭酸。スゲェ。

そんな感想を抱いていると、俺の腹の傷が何時の間にか塞がっていた。恐るべし、最上級回復薬!

早速回復したので、目の前の猿に一言物申してやるっ!

「コンニャロー!テメエ、俺の土下座を無視するとはいい度胸じゃねぇか!今すぐボコボコにしてやるから、かかって――――」

「ウキィィイイ!」

「ぐふぉあ!?」

俺の言葉が言い終わる前に、猿は俺の懐に飛び込んで一撃拳を入れてきた!

メキバキボキ!

嫌な音が体の骨から発せられる。

グチャ。

何かが潰れた音も聞こえる。

「ゴファッ!」

俺はそのまま吹っ飛ばされ、近くの木にぶつかったが、それをも薙ぎ倒し、更に後ろの木にぶつかったことでようやく勢いが殺された。

「く……そ……」

俺はそのまま木を背に、 凭(もた) れかかる様にして座り込む。

「ウキャキャキャキャキャ!」

そんな俺の様子を見て、更に嬉しそうに笑うクレバーモンキー。

確実に今の攻撃で俺の骨が何本も折れ、内臓も潰れただろう。

現実世界じゃまず体験できない痛みが体中を襲う。

てか……猿の動きが見えなかった。何時の間に俺懐に入り込まれたんだ?

地球にいた頃、俺をサンドバックのように扱ってきた連中の攻撃が嘘のような威力だぞ……。中には、ボクシング部の連中もいたのに、それがショボく思える。

体が弾け飛びそうな感覚に襲われる。

「ごほっ!がはっ!」

口から流れ出るのは赤黒い塊。ただでさえ汚かった俺の服や体を汚していく。

つか、何で俺って襲われてるんだろうか?俺、何かしたか?

まさか、俺を食料と考えて殺しに来てるとか?……だったら何であんなに嬉しそうに俺をいたぶって遊んでんだよ!殺すなら一撃で。心の底から思うんだ。辛いしね。

でも、こんなにボコボコにして、俺を本当に食糧だと考えてるんだろうか?もし、暇つぶし程度で殺されかけてるんなら……うわぁ、嫌だぁ……。食われるのも嫌だけど。ただ、食料としては見てもらえていないだろう。猿が人間食ってる姿が想像できないし。

「かい……ふく……」

俺は何故か震えだし、段々言う事を聞かなくなりつつある体に無理矢理命令して、アイテムボックスから最上級回復薬をもう一本取り出した。

俺が再びそれを飲もうとするのだが――――

「ウッキャー!」

「!?」

猿はそれを許さなかった。

また、俺の認識出来る範囲を超えるスピードで近づいてくると、凄まじい握力を誇る腕で俺の頭を掴み、持ち上げる。

「あが……!?」

「ウキキィィ!」

ニタァ。

そんな擬音語が付きそうな程、厭味ったらしい笑みを浮かべるクレバーモンキー。うわ、殴りてぇ……!

と言うより、今初めて近くで姿を見たが、俺の身長を軽々と越えて、2m程はある様に見える。

俺は170cm程しか身長が無いが、体重は100kgあるんだぞ?

それに対してクレバーモンキーは確かに身長は高く、赤茶色の毛が生えている。体つきはヒョロっとしており、全体的に見ても貧相に見える。

そんなクレバーモンキーの枝のように細い腕で俺を軽々と持ち上げたのだ。もうマジでびっくり。

「ウッキャー!」

「ッ!」

クレバーモンキーは、そんな俺を頭を掴んだ状態で振り回し、最後に地面に叩きつけた。

「ぐふっ!?」

「ウキャキャキャキャ!」

頭が、割れるように痛い。

よく俺の頭潰れ無かったな。絶対トマトみたいにぺっちゃんこになるかと思った。

それに、振り回された時とか首の骨が外れるかと思った。俺の体、頑張ってるぅ!後で褒めてあげる。

最早体中から血を流し、意識も朦朧としていると、クレバーモンキーはそんな俺の様子に気づき、一つ頷いた。

「ウキィ」

…………。

今何に対して頷いたんだ!?

俺の体の怪我の具合を見て、『うん、いい感じに仕上がった』とか思ってんならハッ倒すぞ!?……無理だろうけど。

そんな風に思っていると、クレバーモンキーは大きく口を開いた。

え、ちょっと待って。マジで?え、俺食われるの?

「ウッキキッキキィ~!」

何その『いっただっきま~す!』みたいなノリは!?マジで食うの!?

意識が朦朧としていたのに、猿の予想外の行動に思わず意識も覚醒する。いや、俺をマジで食料として見られてるとは思わなかった!

しかし、いくら意識が覚醒した所で、頭を思いっきり掴まれてる上に、体を満足に動かす事も出来ないこの状況下なら意味が無い。

クレバーモンキーは、初めは俺を頭から食おうと口を近づけていたが、なにやら顔を顰める。

「キキッ!?キ、キィ……」

『うわっ!?く、くせぇ……』と言われてる気がした。ほっとけ!

そして、頭から食うのが嫌になったのか、今度は俺を横に倒して腹に齧りつこうとする。

うん、確かに俺の体の中では一番胴体がお勧めですね。脂が乗ってて美味しいよ?

もうこの時の俺は、クレバーモンキーに食われる事に対して抵抗する事を諦めていた。

どれだけ体を必死に動かしても、今の状態じゃどうにもならない。全てが無駄だと思ったからだ。

そして、とうとうクレバーモンキーの顔が徐々に俺の体に近づいていき――――

「キッ!?キ、キィ…………」

ドサッ。

「ブヘッ!」

俺は地面に落ちた。

な、なんだ!?

俺は今自分の身に起こった出来事が理解できていなかった。

何故、さっきまで抱えられるような形で食われそうになっていたのに、いきなり地面に落とされたか。意味が分からん。

うつ伏せ状態で地面に落ちた俺は、瞼を必死に開き、視線だけで周りの状況を把握しようとした。

すると、俺の視界の端に、クレバーモンキーの姿が映った。だが……

「え?」

視界に映ったのは、クレバーモンキーの足。それも、立っている時の足では無く、俺と同じ様に倒れている状態の足だった。

「い、一体何が……」

頭が今の状況について行けていないでいると、俺の手の届く範囲で、すぐ近くにクレバーモンキーに振り回されたことで落とした最上級回復薬が転がっていた。

「……」

なんか……今ならこの最上級回復薬飲んでも大丈夫そうだな……。

そう判断した俺は、必死に体を動かし、転がっている最上級回復薬を手に取ると、それを一気に飲み干した。

「ん……ん……ん……プハッ!」

爽やかなソーダ味と爽快な炭酸が体に染み渡るぅ!

「げぷ」

思わずげっぷが出た。まあ炭酸を一気飲みしたからね。この回復薬は微炭酸だけど。

でも本当にこの回復薬凄いな。さっきまでの傷が嘘のように癒えた。ただ、流た血と体力までは回復出来ないのか、少しフラフラする。

「いててて……んあ?」

俺は体が一応回復したので起き上がり、クレバーモンキーを見た。

「……何で泡吹いてんだ?」

クレバーモンキーは、白目をむき、泡を吹いて倒れていた。

「……」

俺はクレバーモンキーが倒れている理由を考えて、ある仮説が頭に浮上した。

「え、いや……でもそれが本当だったら……」

しかし、もし俺の考えてる事が本当だとすれば、俺自身がとんでもない状態だという事になる。

結局何が言いたいのかと言うと――――

「……俺の、体臭のせい?」

と言う訳である。

マジで!?今の俺どんだけ臭いの!?自分の匂いは分からないもんだとは思うけど、まさかのぶっ倒れるレベルの臭さ!?

「おおう……凄く複雑な気分……」

確かにクレバーモンキーは俺の頭に顔を近づけて顔をしかめた。それは、俺の頭が臭かったからだろう。

だが、俺の体の中で一番臭いのは、頭や足では無く、胴体。主に、首筋から発せられる匂いや 腋臭(わきが) はとにかく酷い……らしい。言わなくても分かると思うが、下半身の臭いは最悪だろう。

多分、俺自身の血の匂いのせいで、今までは気にならなかったんだろうけど、顔を近づけた瞬間腋から漂う殺人クラスの臭いでやられた、と。

「マジでか……」

俺は項垂れた。

「んー……」

でも本当に俺の臭いにやられて気絶してるんだろうか?

「……」

俺は無言で白目剥いて気絶しているクレバーモンキーに近づいた。

「……(ブクブク)」

「……えい」

俺はしゃがんで、クレバーモンキーの鼻の部分に腋を近づけた。

「――――」

ビクンッ!バタ。

「……」

クレバーモンキーは絶命した。

俺はそっと腰を浮かせると、少し端っこの方に移動して、体育座りになった。

…………。

…………泣いていい?

◆◇◆

あれから少し時間が経ち、俺は屍となったクレバーモンキーに近づいた。

「……」

哀れ過ぎるっ……!俺の体臭で死ぬとか……殺した俺が言うのもなんだけど、居た堪れないよ!罪悪感が半端ねぇ!

「ごめんなさい!マジで許して!」

「……」

「無言は止めてぇぇぇぇええええ!」

まあ死んでるから無言なのは当たり前なんですけど。

ただ、これだけはしっかりと理解しておかなければいけない。俺は、この世界に来て初めて生き物を殺した。

地球にいた頃はあんまり気にした事も無かったけど、昔は簡単に虫とかを無残にも殺して遊んだこともある。

でも、目の前のクレバーモンキーは動物だ。俺は動物を殺した経験は無い。

もうちょっと何か感じると思ったんだけど、殺し方がアレだっただけに……。

「全然しんみりとした雰囲気になれねぇ……!」

もっとさ!普通は罪悪感で押しつぶされそうになるとかありそうなのにさ!平気なのは何故!?

やっぱり俺の殺し方がいけなかった!?それはマジで全力で謝りたいっ!臭くてごめんね!?

「あー……まさか異世界に来て、初めて命を奪った結果がこれかよ……」

俺って駄目駄目だなぁ……。

ただ、無駄に感傷に浸るなんて事が無くて良かった。もし、異世界初の生物を殺したという経験がトラウマになって、生き物を狩って食べれなくなったら俺は完全に餓死決定だしな。動物性たんぱく質も大事なんだぞ?

「……取りあえず、コイツどうしようか……」

俺は死体となったクレバーモンキーに触れた。

すると、途端にクレバーモンキーは光の粒子になって消えていく!

「うお!?な、なんだ!?」

いきなりの現象に驚いていると、やがて光の粒子は完全に消えた。

そして、さっきまでクレバーモンキーの死体があった場所には、なにやら色々なモノが落ちていた。

「これって……」

まさかのドロップアイテム!?本当にゲームの世界だな!?

俺は落ちているドロップアイテムであろうモノを拾い、『中級鑑定』を発動させる。

まず鑑定したのは、1m程の骨のようなモノだった。

『 賢猿(けんえん) の大骨』……クレバーモンキーの体を支えていた大きな骨。かなり頑丈。

おお。ゲームっぽい。

……鑑定した結果を見て、感じる事がそんなレベルの俺って……。

でも、同じ様な骨は全部で3本だけであり、全部同じ名前のモノだった。

てか、クレバーモンキーって和名っぽくすると『賢猿』なんだな。

「うーん。これって武器かなんかに出来そうだな」

そう言いながら、アイテムボックスに仕舞う。

「お次は……毛皮?」

赤茶色の毛皮らしきものを手に取り、再び鑑定。

『賢猿の毛皮』……クレバーモンキーの体を覆っていた毛皮。通気性は良いが、火には弱い。

成程。……これ以外に俺はなんて感想持てばいいんだよ。

ただ、肌触りは思っていたより良いので、体を洗ったり拭いたりする時とかに使えそうだ。

「どんどん鑑定して行こう。……で、これは何だ?」

次に手に取ったのは、なんかご丁寧に紐で結ばれ、葉っぱに包まれた状態の物体だった。

「……まあ、鑑定すれば分かるか」

そう言い、早速鑑定する。

『賢猿の肉』……クレバーモンキーの肉。かたくて筋が多いが、栄養価は高い。

おお。進化の実以外で初めて食料を確保出来たぞ。しかも肉!

「ラッキー!今まで実ばっかで辛かったんだよな……」

まあ久しぶりの肉だし、食べた後に腸がビックリして腹痛めるかもな。

「だが俺は食う!」

何故か?そこに肉があるからだ!……何でも無いです。

「……って何だこれ?」

次に拾ったモノは、なにやらカードの様なモノだった。

「……まあ鑑定してみよ」

そして、鑑定した結果、俺は目を見開く程驚く事になるのだった。

それは、進化の実を食べてから踏み出す、俺の新たな人生への第一歩とも呼べる事だった。