軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ナンパ

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

俺――――柊誠一は、泊まっている部屋で……悶えていた。

「恥ずかしぃぃぃぃぃぃいいいいいいいい!」

もうイヤっ! 思い出しただけでも恥ずかしくて死ねる!

何を思い出してるのか? そんなのアルトリアさん……じゃねぇ、アルとのやり取りを思い出してに決まってんだろ!

「なーんであんな恥ずかしいセリフがポンポンと出たかなぁ!?」

後半の敬語を止めたあたりから、俺おかしかったよね!?

ふと、あのとき放ったセリフを思い出した。

『俺も、アルのこと――――好きだよ』

誰だよお前ええええええええええっ!

いや、俺なんだけども! でも違うの! 本当に違うんです! 本当の俺は、あんなセリフ、絶対に言えないんです!

なんか、急に冷静になったんだよな。

そんで、気づけばあのセリフ。意味分かんねぇよ。

俺としては、少女漫画や、乙ゲーの攻略キャラ並のセリフを言ったと思ってる。

でも本当に、あの時はあのセリフを言うのがいいってなんとなく頭が理解してたんだよな。

その理由が分からないからこそ、さっきから俺は混乱してるし、恥ずかしい。

しかも、そのあとに『果てなき愛の首飾り』が分裂して、アルの分まで出現したのだ。

使い方や効果を教えたら驚かれたが、それ以上にそのときのやり取りの方が、俺にとって凄かった。

『……オレの首に、誠一がかけてくれよ』

『え?』

『ダメ……か? オレにとって、初めて好きな人とのお揃いだし……だから、その……最後まで、誠一にして……欲しいんだよ……』

『……』

うがあああああああああああああ!

赤面! 超赤面モノだよ!

サリアといい、アルといい……何でこうも上目遣いの威力が高いわけ!?

俺は枕に顔を埋め、ひたすら恥ずかしさを耐え忍ぶ。

長い時間、俺は枕に顔を埋めたまま、ベッドの上を転がっていたが、一息ついて、心を落ち着かせる。

「はぁ……いつまでも悶えてられないよな……」

何故なら、すでにサリアの姿は部屋になく、食堂へ朝食を食べに行っているからだ。……アルと一緒に。

俺もすぐ向かうように言ってあるから、行かなければいけないのだ。

「アルと会うのはまだ恥ずかしいけど……覚悟決めるか」

そう呟き、俺は部屋を出た。

食堂に着くと、今日は結構な人数が食事をしており、いつにもまして賑やかだった。

サリアたちが席を確保してくれているはずなので、周りを見渡しながら歩いていると、様々な声が聞こえてくる。

「なあ、知ってるか? 最近、この街の近くで狼型の魔物がよく見られてるらしいぜ」

「へぇ。グランドウルフか?」

「いや、種類までは分かってないらしい。だから、討伐の依頼にしても、薬草採取の依頼にしても、この街付近で活動するときは気を付けた方がいいかもな」

「おう、ありがてぇ情報だな」

たった今聞こえてきた声は、ある席を通り過ぎる時に聞こえたものだった。

それにしても、狼型の魔物かぁ……。

狼といえば、俺の中ではアクロウルフのイメージしかねぇな。

そんな感想を抱いていると、他にも声が聞こえてくる。

「そういや、カイゼル帝国の勇者が、魔法学校に行くらしいぜ」

「そうなのか? どこの魔法学校だよ」

「確か……バーバドル魔法学園だったっけか?」

「ああ、あの唯一中立の魔法学校か。しかし、なんでバーバドル魔法学園なんだ? カイゼル帝国にも優秀な学校があっただろう?」

「んなこと俺が知るかよ」

え、マジかよ。翔太たち、学校通うのか……。

俺は死にかけてたり、いつの間にか化け物へと進化してたりするのに、ずいぶんといい生活が送れてんだなぁ……。流石、勇者。召喚した国がいいところなんだろうか? あんまりそんなイメージがないんだけど……。

まあ、翔太や賢治たちが安全なら、俺はそれでいい。さ、寂しくなんてないんだからな!

学園に通うのも、おそらく魔王が絡んでるんだろうし、そう考えると、全然楽ではないのかもしれないしな。

静かに耳に入ってくる情報を整理していると、食堂のカウンターで、何やら悩ましげな様子で話しているオッサンたちの姿が見えた。

どうしたんだろう。少し深刻そうに見えるけど……。

「なあ、聞いてくれよ……」

「おい、どうしたよ」

「それがよぉ……昨日、新人の冒険者が何人か来ただろ?」

「ああ、あのチャラチャラしたヤツらか」

「そう、それだ。いや……まったく嘆かわしいと思ってな」

「何が?」

「アイツら、この街に来て、何するって言ったと思う? ナンパだよ、ナンパ」

「あ? 別にいいじゃねぇか。それの何がダメなんだ?」

「いいか、よく聞け。アイツらは、そのナンパをする対象を何で選んでると思う? ……顔だよ」

「「「な、何だと!?」」」

…………え? 何の話してんの?

「あり得ねぇだろ? 俺は普通、うなじを見て、ナンパする女性を選ぶけどな! これが上級者だろ?」

「いやいや、そこは唇だろ」

「ダメダメ、鎖骨一択だろ」

「フッ……甘ぇな、お前ら。最高なのは、ほくろ……だろうが」

「「「お、おお! 神か、お前……!」」」

「そう褒めるな……照れるだろ?」

そんなやり取りを繰り広げた後、オッサンたちはしみじみと締めくくりに入った。

「しっかし、まぁ……」

「……結局のところ、俺たちの好みはバラバラなわけだが……」

「そうだよなぁ……顔で選ぶとか……」

「「「「嘆かわしい……」」」」

ガッカリだよ!

無駄に深刻そうな雰囲気だしてるから、何の話してるかと思えば……互いの性癖暴露してるようなもんじゃねぇか! そんなお前らが一番嘆かわしいわッ!

少しでも心配した俺が馬鹿だった……。

いろいろと疲れた俺は、再び食堂内を見渡すと、やっとサリアたちの姿を見つけることができた。どうやら、ちょうど三人座れる、丸テーブルを見つけれたらしい。何で、サリアたちを見つけるだけでこんなに疲れてるんだろうか?

サリアたちのいる場所まで向かうと、サリアたちの話し声が聞こえてくる。

「そう言えば、なんでアルは私たちと同じ部屋にしないの?」

「はっ……はあ!?」

「だって、誠一が好きなんでしょ? なら、私たちと一緒にお泊りすればいいのになぁ……って思って。ここの店主のフィーナさんに伝えれば、3人部屋も用意してくれると思うよ?」

「そ、それは……そうかもしんねぇけどよ……。で、でも、その……は、恥ずかしいだろ? その……好きなヤツとずっと一緒にいるとよ……」

「えぇ~?」

サリアが不思議そうに首を傾げると、アルは頬を赤く染め、恥ずかしそうに呟いた。

「それによ……オレ、誠一とずっと一緒にいたら……幸せ過ぎて、死んじまうよ……」

「惚気退散ッ!」

バキィッ!

俺は、全力で自分の頬をぶん殴った。

ダメだって。また悶え苦しむところだったじゃねぇか。

まあ、悶える直前で、自分で自分を殴った痛みで、その恥ずかしさは引いたけどさ。

おかげさまで、頬が超痛い。でも流石、化け物級のステータス。攻撃力も化け物だけど、防御力も化け物なので、痛いだけで血も出てなければ、歯も折れていない。凄い音したのにね!

それにしても、今の一言には、本当に惚気てしまいそうだった。

あー……女性に対する免疫が、地球では高校に入ってから思いっきり下がった俺には、サリアとアルの美少女はいろいろキツイ。

中学までは、幼馴染の神無月先輩だの、翔太の妹の美羽だのと、少なからず関わってたしな。高校に入っては、俺から避けてたせいで、今苦労してるわけだけど。

いや、俺って虐められてたしね?

どんなに頑張って、家で体を綺麗にしても、学校に行けば、体汚されるんだぜ? ゴミかけられたり、口にするのも嫌になるような方法でな。そのくせ、俺のせいでもないのに汚物扱いとか……理不尽極まりねぇよな。

だから、学校では家でどれだけ風呂に入ろうが、お構いなしに汚くされ続けたわけで、必然的に女子からも酷い扱いを受けたのだ。

女子の免疫が付くわけがない。軽く女性恐怖症にもなったくらいだ。

でも、『果てなき悲愛の森』でサリアと過ごすうちに、そんな気持ちもなくなってたんだよな。たぶん、いきなり美少女の姿じゃなくて、ゴリラの姿で一緒に過ごしてたからこそ、俺も少しずつ克服できたんだと思う。

過去のことや、自分のトラウマを克服するキッカケになったサリアを思いつつ、俺は席へとたどり着いた。

「悪い、待たせたな」

「ううん! 大丈夫だよ~!」

サリアは、満面の笑みでそう言ってくれる。

そんなサリアを見て、優しい気持ちになりながら、席に座った。

「それじゃあ、飯を頼むか」

そう言い、俺はフィーナさんの旦那さんである、料理を作っているライルさんを呼んだ。

「お待たせ。はは、誠一君は、両手に花だね」

「俺もそう思いますよ」

本当に、俺が場違いな気がしてならない。

ちょっと自嘲気味なことを思ったが、それは口に出さず、俺たちはそれぞれ料理を注文した。

しばらくすると、料理が運ばれてくる。

「今日は、『ルルノベリーのジャム』とパン、そしてサラダに『ベベフィッシュのスープ』だよ。スープは、少し熱いかもしれないから、気を付けてね」

ライルさんはそう告げると、また厨房へと戻って行った。

それにしても……ルルノベリーって何? ベベフィッシュ? ヤベェ、どれも知らん。

ただ、度々俺の知らない名前の食材を使った料理が、この宿屋で出てきたが、どれも美味しかったので、俺はまったく心配していなかった。

ちなみに、俺が森の中で生活していた間に、ずいぶんと勇者である翔太たちが、ガッスルの言ってた通り、料理改革を起こしてくれていたらしく、地球と大差ない美味しい食事をとることができていた。

ふと、そんなことを思い出しながら、サリアたちに訊く。

「そう言えば、今日はみんなどうするんだ?」

すると、最初にアルが少し悩む仕草をして、答える。

「そうだなぁ……オレは、少し体を動かしてぇから、討伐系の依頼を受けようと思ってる」

「そっか。そういえば、迷宮から帰った直後は、いろいろと疲れてたりしたもんな」

「そう言うことだ。それに、その……あの時は、助けてくれて……ありがとよ」

恥ずかしそうにアルはそう言うので、俺は首を振った。

「気にしなくていいよ。助けたいから、助けただけだし」

「そっか」

アルは、俺の言葉を受けて、嬉しそうに笑うと、そのまま食事を再開させた。

「私はね、今日も孤児院に行くの!」

「へぇ。昨日、何かあったのか?」

アルの予定を聞いた後、サリアはそういう。

「うーん……特に何かあったわけじゃないけど、子供たちに、お菓子作ってあげる約束したの!」

「なるほどね」

今でも不思議に思うのが、あの森の中でどうしてサリアは美味しい料理を作ることができたんだろうか。まあ別に、それによって何か困ってるわけでもないからいいんだけど。

でも、サリアは料理が上手いから、子供たちも喜ぶだろうな。

「俺は今日、馬を買いに行こうかと思ってる」

「お馬さん?」

俺の言葉に、サリアは首を傾げ、アルは興味深そうに訊いてきた。

「へぇ。誠一も馬を買うのか。でも、どうして?」

「なんか、ガッスルに勧められたからだな。冒険者として生活するんなら、必需品みたいなものなんだろう?」

「まあな。アイテムボックスだって、何でも仕舞えるわけじゃねぇ。だから、そのアイテムボックスに入らない道具なんかを運んだり、護衛のときなんかに多く活躍するから、馬は冒険者の中では大事なんだよ」

「ほうほう」

まあ、それでも俺は、馬なんて必要ないだろうけどな。

だって、走れば俺の方が圧倒的に速いし、力も俺の方が圧倒的に強いもん。

でも、聞いた限りだと、冒険者として生活するなら、馬を持ってた方がいいっぽいんだよな。

別に、討伐系や、護衛系の依頼を受けるつもりはないけど、それでも、カモフラージュ程度にはなるだろう。

……採取系の依頼だけで、生計を立てるつもりでいても、すでにアルにはなんとなく力がバレてそうだし、ガッスルもいろいろ気づいてそうだしな。

あれこれ考えているうちに食事を終えた俺たちは、それぞれの場所へと移動を開始する。

アルは、一旦部屋で装備を整えるらしく、サリアはそのまま孤児院に向かうらしいので、俺とサリアの二人で途中まで一緒に行くことになるのだった。

◆◇◆

「今日もみんな元気だね!」

笑顔でサリアが街の人々を見ながらそういう。

そんなサリアを、逆に街の人々は微笑ましそうに見ていた。

「そうだなぁ。今日も大きな出来事もなく、平和に過ごせるといいな」

俺もサリアの笑顔につられ、笑いながらそう言った。

でも、まさか俺のセリフがフラグになるだなんて、このときは微塵も思っていなかったんだ。

そう――――。

「おい、兄ちゃん。ずいぶんと可愛いカノジョ連れてんじゃん」

「君ぃ、そんな怪しいヤツほっといて、俺らと楽しいことしない?」

「お茶、奢るぜぇ~?」

――――こんなドテンプレな展開に巻き込まれるなんてな!

つか、誘い方……。そんなナンパの誘い方、地球でもいねぇぞ……。

そんなことを思いながら、俺は目の前のチャラチャラした三人組に視線を向ける。

この世界に髪を染める技術があるのか知らないが、見た感じ髪の毛はかなり傷んでそうで、耳にはピアス。もう、いかにもといった風貌過ぎて、逆に呆れるくらいだ。

おそらくだが、こいつらが食堂で変態トークに花を咲かせてた、オッサンたちの言う、他の町から来た冒険者なのだろう。

何というか、雰囲気が、この街の人たちと違うんだ。

「……誰?」

すると、ナンパされている当の本人であるサリアが、しばらく考える仕草をしたのち、そう訊いた。

純粋に、目の前の三人が誰か疑問に思ったんだろう。

「ねぇ、誠一。この人たちの知り合い?」

「いや、全然知らねぇ」

「ふーん。それで、私に何か用?」

首を傾げながらサリアが尋ねると、三人組のリーダーのような男が、厭らしい笑みを浮かべる。

「そうそう。ちょ~っとお兄さんたちについて来てほしいんだよねぇ」

「悪いようにはしないからさぁ」

「あ、でもアンタは来るんじゃねぇぞ」

ご丁寧に、俺にガンを飛ばしてくる。

地球のころの俺なら、怖いと思って、膝を震わせてただろう。

でも、何だろう……全然怖くない。

やっぱり、クレバーモンキーやゼアノス、黒龍神なんかの化物クラスと戦い続けたせいかな? 俺のステータスそのものが化物ってのも、怖くない理由だと思うけど。

とにかく、俺から見たこの三人組は、微塵も怖いと感じる要素がなかった。

そんなことを思っていると、サリアが何やら納得した表情になる。

「ああ! なるほど!」

ナンパということを知ったのかは知らないが、一応サリアもそういう知識はあるみたいだった。だって、何やら納得してるし……ナンパされてる自覚はあるんだと思う。

すると、サリアは俺の方に振り向く。

「誠一、大丈夫。ここは私に任せて!」

「は? サリア、それはどういう――――」

サリアに声をかけようとするが、サリアはそれより先に、三人組に話しかけた。

「いいよー。ついて行ってあげる! どこ行くの?」

無邪気にそう訊くサリアに、三人は厭らしい笑みを深めた。

「へへ、話が早くて助かるねぇ」

「すぐそこの路地裏にさ、いい店があるんだよ」

「そうそう。んじゃ、そこまで行こうか?」

サリアは、何故か三人について行こうとするので、俺は急いで止める。

「お、おい! サリア、お前……」

「安心して! 私は大丈夫だから!」

そりゃあ大丈夫でしょうよ。

サリアさん、だってアナタのレベル、700以上でしょ!

この三人がいくら束になったところで、瞬殺確実じゃん!

そんなことを思っているうちに、サリアと三人は、路地裏へと消えていった。

心配になった俺は、後をすぐに追う。

誰が心配なのかって?

そんなの決まってる。もちろん――――。

「「「ぎゃああああああああああ!」」」

――――あの三人だよ!

俺は急いで路地裏に向かった。

だが、路地裏に近づいた瞬間、俺が心配した三人が、顔を真っ青にして飛び出し、そのまま一目散に走り去って行った。

一体、何をしたんだ!?

たどり着くと、そっと路地裏を覗く。

するとそこには……。

「ア、誠一。終ワッタヨ」

「ぎゃああああああああ! ゴリラあああああああああ!」

……ゴリラ姿のサリア――略してゴリアが立っていた。――――ワンピース姿で。

何の構えもしてなかったのと、久々にゴリアの姿を見た俺は、思わず叫んでしまう。

だから、ワンピース姿で変身するのはヤメテ! はち切れんばかりの胸筋で、ワンピースが伸びてるよ!

これ、羊から貰った服じゃなかったら、確実に服が弾け飛んでるよね!

思わず叫び声をあげた俺に、ゴリアは不満そうに言う。

「ムゥ……。叫ブノ、酷イ」

「あ……わ、悪い」

「ドウセナラ、私ニメロメロニナッテ?」

「無茶言うなっ!」

どう頑張っても、ワンピース姿のゴリラにメロメロにはならん!

そんなやり取りのあと、ふと思ったことを訊いた。

「そう言えば、なんであの三人について行こうと思ったんだ?」

「エ? ダッテ、私ノ変身ガ見タイカラ、私ニ声、カケタンデショ?」

「違うと思うよ!?」

そもそも、サリアが変身できるって、俺以外知らないだろう。

つまり、サリアはあの三人にナンパされてたことにさえ、気づかなかったのだ。……哀れすぎる。

「それよりサリア。そろそろ人間に戻りなさい」

「何デ?」

「いや、こんなところ誰かに見られたら――――」

「おや? 誠一君じゃないか! 筋トレ、してるかい?」

そら見たことか……ッ!

冷や汗を流しながら後ろを振り向くと、マッスルポーズを決めているガッスルがそこに立っていた。

「が、ガッスル……」

「奇遇だな! 私は今、日課である、ランニングを終えたところなのだよ! 筋肉だけでなく、体力作りも大切なのだ! 君もしてみるといい!」

いや、健康としては確かにそうなんだろうけども……!

ただ、この状況下では会いたくなかった……。

しかし、そんなことなどガッスルは知るはずもなく、俺の背後にいるサリアに視線を向けた。

「おや? 誠一君の後ろにいるのは――――」

サリアの姿を見て、ガッスルの表情が驚愕に変わっていくのが分かる。

ああ、これ……なんて説明しよう……。

だが、俺は誤解していた。

そもそも、ガッスルがこんなことで、俺に追及してくるような人間じゃないのだ。

つまり、何が言いたいのかというと――――。

「ま、負けたあああああああああっ!」

「……………………へ?」

ガッスルは突然、その場に項垂れ、嘆き始めた。

「はち切れんばかりの胸筋……盛り上がった背筋……山を思わせる上腕二頭筋……どれも、私の筋肉を遥かに超える……!」

「…………」

「この街……いや、この大陸で一番の筋肉と自負していた私が、こうもあっさりと……」

「……」

「くっ! こうしてはおれん……。誠一君! すまないが、私はさらに今から鍛えなければいけなくなった! なので、もう行かせてもらう!」

そう叫ぶと、ガッスルは最後にゴリアを見る。

「フッ……どこの誰かは知らないが、私を井の中の蛙だと知らしめてくれたこと、感謝しよう。……さらばだっ!」

そういうと、ガッスルはうさぎ跳びをしながら、俺たちの前から去って行った。

………………。

「……サリア。人間に戻りなさい」

「ウン」

この街では、ナンパも満足にできなければ、ゴリラがいても不審に思われないようです。

◆◇◆

「どうなってやがる……!」

「んなこと知るかよ!」

「そうだぜ! 誰が、あの女がゴリラに変身するだなんて思う!? しかも……ワンピース着てんだぞ!?」

「「「誰が喜ぶんだッ!」」」

サリアにナンパをした三人は、街の広場で息を整えながら、そう口にする。

「あー……クソッ! 昨日から、一回もナンパが成功してねぇじゃねぇか……」

「本当にこの街はどうなってんだ?」

不満を口にしている時だった。

「お前ら、見ねぇ顔だな?」

三人に、声がかけられた。

三人は揃って声の方向に顔を向けると、三人と似たようなガラの悪い男たちが立っている。

「……アンタら誰だ?」

三人の一人が、警戒しながらそう尋ねた。

すると、ガラの悪い男の一人が、口を開く。

「いや、何てことはねぇんだけどよ……ただ、見たことねぇ顔だから、新入りかと思ってな」

「あ? ……まあ、この街には昨日来たばかりだな」

三人とも、ガラの悪い男の真意が分からず、首を傾げる。

だが、逆にガラの悪い男たちは、まるで獲物を見つけたような表情となった。

「そうかそうか……アンタら、気持ちいいこと、したくねぇか?」

――――このとき、すでに三人の運命は決まっていたのだろう。

ガラの悪い男の言葉に、目を輝かせた三人は、何の躊躇いもなく頷いてしまった。

その結果――――。

「「「アッ――――――――!」」」

――――三人の男の悲鳴が、街に響き渡るのだった。

◆◇◆

カイゼル帝国の王の部屋。

そこで、現カイゼル帝国の帝王である、シェルド・ウォル・カイゼルは、ローブを纏った老人……ヘリオ・ローバンは、勇者たちのことについて話していた。

「陛下。勇者たちで一つ、ご報告したいことが……」

「ん? 何かあったのか?」

「実は、勇者たちの中で、実戦経験を積みたいとの声が多く上がっておるのでございます」

「何故? ザキアの下で、すでに実戦経験は積んでいるのではないのか?」

「おそらく、ザキアのヤツは、勇者を魔物とさえ、戦わせていないと思われます」

「……なに?」

ヘリオの言葉に、シェルドは顔をしかめる。

「私の部下が探ったところ、今のところ、ザキアの訓練は、武器に慣れることを中心としており、戦闘訓練の類は、一切行っていないそうです」

「何をやっておるのだ……!」

ヘリオの報告に、シェルドは激怒する。

「よいか? あの忌々しい魔族どもを滅ぼし、魔界の資源を我が物とするには、魔王の存在が邪魔なのだっ! 第一、魔族は、昔から人間の家畜と同じ……それが、我々人間と同じように、国を造るなど、許されるわけがないのだ!」

「その通りでございます」

「それだというのに……まだ戦闘訓練を行っていないだと? 魔王が完全復活してしまえば、どれだけ被害が出ると思っておるのだ!」

シェルドは、机を思いっきり叩くと、そう叫んだ。

そんなシェルドを宥めることもせず、淡々とヘリオはあることを告げる。

「陛下。このままでは、勇者たちは、魔族の脅威どころか、他国への牽制材料にすらなりえません」

「それでは、召喚した意味がないではないか!」

「大丈夫ですよ、陛下」

「……なに?」

そこで、初めてヘリオは笑みを浮かべた。

「最初に申しあげましたが、勇者は実戦経験を積みたいと、私におっしゃりました」

「うむ」

「そこで……彼らを、バーバドル魔法学園に、入学させたいと思います」

「何だと!?」

ヘリオの言葉に、シェルドは目を見開いた。

「何故そんな場所に入学させるのだ! あそこは、他国の連中も集まる魔法学園であるぞ!? 仮に勇者を学園に通わせるにしても、そんな低級の学園よりも、我が国の学園に通わせた方がよっぽど有意義ではないか!」

「それは痛いほど理解しております。ですが、今回は、その他国の連中が集まる……といった点がよいのであります」

「……どういうことだ?」

シェルドは、ヘリオの言葉に興味を持ち、続きを促す。

「勇者は、接近戦における、戦闘訓練は一切行っておりませんが、魔法の訓練は私がしっかりと済ませてあります。ですので、もともとの勇者の性質もあり、現在は全員3属性程度まで、中級魔法を扱えるレベルとなっております」

「ほう?」

「バーバドル魔法学園は、その名の通り、魔法を主体とした学園であります。そして、勇者は先ほど言った通り、中級レベルであれば、一応扱えます。これは、他国の貴族や才能ある者たちでも、まずいません」

「ふむ」

「ですから、その学園に勇者たちが入学すれば、必然的に、その学園のトップを勇者たちが独占する形となるのです。つまり、他国の人間が多く集まるバーバドル魔法学園で、勇者の力を、他国に大きく知らしめることにつながるのです」

「なるほどな」

ヘリオは、勇者たちの力を他国に見せつけるため、あえてバーバドル魔法学園に入学させようと言っているのだ。

多国籍の生徒が集まるということは、それだけ多くの国に、勇者の情報が伝わるのである。

「さらにもう一つ、利点がございます」

「それは何だ?」

「バーバドル魔法学園では、実戦経験を積む授業もあるので、勇者たちの要望を応えることにもつながります。勇者の要望を、我々が叶えれば、それは一つの恩となり、勇者をさらに操りやすくなります」

「そう上手くゆくか?」

「大丈夫でしょう。大人の勇者は全員、未だに牢屋の中……。訓練を受けている勇者は、たとえ勇者と言えど、所詮はガキです。このことにつけ入り、一つ、条件を出しましょう」

「その条件とは?」

「『隷属の腕輪』を付けさせるのです」

「おお!」

『隷属の腕輪』とは、本来使用が禁止されている魔道具なのだが、異世界から来た勇者にそのことが分かるわけがないと、ヘリオもシェルドも考えていた。

「ただ、隷属の腕輪は、命令が2つしか書き込むことができません。そこで、魔王の復活次第、速やかに討伐に向かうという命令と、魔族が我が国に攻め込み次第、すぐに対処するという命令を刻み込みましょう。そうすれば、魔法学園にいようとも、決して逃げることはできません。外すにしても、我々の力がいるのですから」

「しかし、大人しく装着するかが問題だな……」

「そこも、ウソの効果を教えればいいのです。どうせ、相手には分からないんですから」

「そうか……それもそうだな!」

シェルドは最初とは打って変わり、上機嫌になる。

「なら、早速行動に移すとしよう。ヘリオ、任せたぞ?」

「かしこまりました」

王の部屋で、陰謀が動いていることを勇者は知らない――――。