軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

超強化と女の戦い

蛇神の言っていた通り、下の階層は強力な魔物が襲ってきた。

レベルはどれも700以上。

だからこそ、俺も戦うと言ったのだが、ルイエスにやんわりと断られてしまい、俺以外のメンバーで魔物と戦っている。

そう、ルーティアも今はサリアたちと戦っているのだ。

「……これ、俺必要か?」

思わずそう口にしてしまったが、はたから見れば俺は何のためにいるのかサッパリ分からないだろう。俺も分からなくなってきたよ。

幸いというか、あの草原の階層の下は再び洞窟の造りになっており、通路も狭いので大量の魔物に一斉に襲われる心配は少ない。

「――――サリア、そっちに行ったぞ!」

「ウン、任セテ!」

アルが巨大なカマキリの魔物……『クレイジー・マンティスLv:711』を惑わせるように動き回り、隙ができたところでサリアが強力な一撃を叩き込んで倒す。

「はああっ!」

「……食いしん坊、少しは連携も考えて……」

「それは食えるのか!?」

「……もういい」

ルルネとオリガちゃんは『タイラント・ホースLv:802』という顔じゅうに血管が浮かんだ気持ち悪い馬の魔物と戦っている。うん、ロバVS馬だな。

ただルルネは相手が馬だろうが何だろうが関係なくその巨大な図体に蹴りを叩き込み、オリガちゃんがその動きに合わせて的確に急所を攻めている。

「ルーティアさん」

「うん……『魔王の手』」

「『ウォーターレーザー』」

ルイエスとルーティアは、『イヴィル・スネークLv:900』というこれまた蛇系統の魔物を相手にしていた。

いや、相手にしているというよりは一方的に殲滅している。

少なくともレベル差が400近くあるはずなのに、ルーティアの『魔王の手』により胴体を焼かれ、暴れるイヴィル・スネークの首を『ウォーターレーザー』を纏わせた剣でルイエスが斬り飛ばすのだ。

……。

「やっぱり俺いらなくね?」

俺ここに来るまでの間に一戦もしてないんだけど!? 調査を頼まれたの俺なのにさ!

俺の存在意義を本気で考えなおしていると、魔物を倒し終わったルイエスが近づいてきた。

「いえ、師匠。師匠がいるからこそ、私たちは格上の魔物に安心して挑めるのです」

「本当か? とはいえ、俺もいい加減戦ったほうがいい気もするんだが……」

だが現状対処できてしまってるから、鍛えたいというみんなの意思を尊重するのがいいのだろう。

仕方なく溜息を吐くと、ルイエスが思い出したように告げた。

「あ、師匠。そういえば私のレベルが730になりました」

「ふぁっ!?」

「あ、私は900になったよー!」

「ウソだろ!?」

なんと、ルイエスのレベルが500を少し超えただけでなく、730というとんでもない数値になっているらしい。

しかもサリアもレベルが900になったって……。

「サリアは魔物だからまだ分かるけど、ルイエスは何なの!? 人類の最高レベルが500で、それを一つ越えるだけでも大変なんじゃなかったっけ!?」

「ですが、730になりました」

「答えになってねぇよ!」

レベル500を超えた者たちを【超越者】っていうらしいけど、ルイエスはさすがに超越しすぎだよね!? 何が起こった!?

ひたすらツッコむ俺に、アルが言いにくそうに口を開いた。

「あー……その……誠一」

「へ?」

「…………オレ……レベル687だわ……」

「……マジ?」

「う、うん」

アルまでいつの間にか【超越者】の仲間入りをしてしまったらしい。ウソでしょ?

「お、オリガちゃんとルルネは!?」

「……えっと、誠一お兄ちゃん……私、710」

「主様、私はよく分かりません!」

「俺はルルネが一番分からねぇよ!」

ここまでくればオリガちゃんも【超越者】になったって驚かないが、ルルネだけはそうはいかない。

だって湖の水を飲み干すようなロバなんだぞ!? しかもそれで腹が満たされてないってどんな腹してんだよ!

そろそろツッコミ疲れてきた俺とは逆に、ルーティアは感動してテンションが上がっていた。

「誠一。私はレベル651。これで私も【超越者】の仲間になった」

「それは……まあ……狙われた時もある程度安心できるし、いいのか」

「うん。これでゼロスたちの負担が減らせる……それに、お父さんが帰ってきたとき、少しでも褒めてもらえるようにしたい」

「そうか……」

そういえばルーティアって『魔王の娘』であって、『魔王』じゃないんだよな。つまるところ、ルーティアのお父さんは生きてるんだろう。どこにいるのか知らないけど。

そこら辺の詳しい話をちゃんと聞いてないし……このダンジョンの件が終わった後でも、聞けるようなら聞いてみるか。

結局、レベルだけでいえば俺を除く全員が【超越者】の仲間入りを果たしたようだ。……ルルネ? どうせアイツも【超越者】になってるだろ。そうじゃなきゃロバがこんな意味の分からない存在なはずがない!

俺はローブの効果でレベルが上がりにくくなってるんだよな。まあ脱いでもいいんだけど、もうずっと着てるしこれ以上俺の知る『人間』から遠ざかられても困るし。

まさか【超越者】の集団になるとは思っていなかったわけだが、身を守れるくらい強くなるのはいいことだと思いなおして先に進む。

するとオリガちゃんが不意に立ち止まった。

「……誠一お兄ちゃん」

「ん? どうした?」

「……この壁、多分壊せる」

「え?」

オリガちゃんの指す壁は、見た目だけなら俺には他の壁と違いが分からない。ていうより、俺は黒龍神のところで壊せない壁さえ壊してたんだった。うん、忘れよう。

黒龍神のダンジョンでの出来事を封印しようと決意していると、オリガちゃんがその壁をクナイで攻撃した。

「おお……」

その結果、オリガちゃんの言う通り壁は簡単に壊れ、小さな小部屋が出現した。

部屋の中央には豪華な装飾が施された宝箱が置いてある。……この宝箱も魔物じゃないよな?

今は父さんたちのところにいる宝箱を思い浮かべていると、オリガちゃんが少し警戒しながら小部屋に入った。

「……ん。この部屋にも、宝箱にも罠はない」

「へぇ? オリガは罠感知系のスキルを持ってるのか?」

「……うん。私がカイゼル帝国にいたころ、暗殺技能と一緒に覚えさせられた」

「……そうか。悪いことを聞いたな。ただ、その能力はダンジョンを潜る冒険者たちからすればとても有難い能力だってことは分かってくれ」

「……うん。大丈夫、アルトリアお姉ちゃん。今はもう気にしてない。それより、誠一お兄ちゃんたちの役に立てて嬉しい」

アルが申し訳なさそうな表情を浮かべると、オリガちゃんは首を振って少し胸を張った。

その可愛さに俺は思わず頭を撫で、改めて小部屋に入る。

「さて……オリガちゃんがこの宝箱は特に罠とか仕掛けられてないらしいし、開けちゃおう」

そして躊躇いもなくその宝箱を開けるとオリガちゃんの使っているクナイと少しだけ形の違うクナイが出てきた。

「……これ、クナイだ」

「そうだな……さて、何か能力はあるのか?」

『 呪蛇(じゅじゃ) の苦無』……呪われし蛇の効力が宿った苦無。伝説級武器。自身の魔力を苦無に流し込むことで、麻痺・毒・石化の三つの状態異常を付与することができる。持ち主の意思に応じて数が増え、投げた場合、持ち主の任意でその苦無を消すことができる。

「……なかなか凶悪な武器じゃねぇか? これ……」

「そうですね……伝説級に相応しい性能でしょう。それにしても、伝説級ということはこのダンジョンの難易度はかなり高いことが分かりましたね……」

ダンジョンをよく知るアルとルイエスがそう評価した。

確かに俺もこの苦無はとても強力だと思う。

魔力を流せば麻痺と毒と石化の三つも状態異常を付与できるのも強力だが、それよりも持ち主の意思に応じて数が増えるってのがヤバい。

つまり、無限に増え続けるのだろう。

しかも無限に投げられる苦無で、投げ終わった苦無を回収せずとも消せるって……。

思わぬ武器に驚いていると、オリガちゃんが苦無を目を輝かせてみていた。

「はい、オリガちゃん」

「……? なんで私に渡すの?」

「なんでって……オリガちゃんが見つけたんだし、オリガちゃんが使うべきでしょ?」

「で、でも……」

「せっかくオリガちゃんもクナイを使ってるんだし、オリガちゃんが使わないと!」

オリガちゃんが何故か遠慮しようとするが、俺だけでなくサリアもそういった。

どうしたらいいのか分からないのか、オリガちゃんがアルたちの顔も見ると、アルたちも微笑んで頷いた。

「……いいの?」

「さっきも言ったけど、この部屋を見つけたのはオリガちゃんだし、せっかくオリガちゃんが使ってる種類の武器が出たんだからさ」

「……ん。分かった。……ありがとう」

オリガちゃんはクナイを受け取ると、嬉しそうに笑った。

それを見て、ルーティアが少し羨ましそうに言う。

「いいな……私は基本的に魔法を使って戦うから、そういう強い武器とか中々手に入らないし……」

「そうですか? 私の兄も魔法使いですが、魔法の威力を上げたりする杖や魔力の制御がしやすくなるアイテムなどをいくつか所持していましたよ? このダンジョンでそれが手に入るかは分かりませんが、魔法使いであっても強力なアイテムはあるはずです」

「そう? それなら……宝箱とか探してみるのもいいかな」

ルイエスからアドバイスを受けたルーティアは、別の目標を持ったようだ。

確かにレベル上げも強くなる方法として重要だけど、それと同時に強力な武器やアイテムを持っているに越したことはないよな。

「それなら私も探してみようかなー。手に付ける武器とか手に入るといいんだけど……」

「そうですね……私も足に着ける武器が欲しいな……」

ルーティアに触発されたのか、サリアとルルネも武器やアイテムが欲しいそうだ。

もしそれぞれの武器が手に入ったらサリアも強くなるだろうが、それ以上にルルネはどうなるか逆に怖かった。アイツ、どこ向かってるんだろうな。もともと乗るために買ったはずなのに。

ルーティアだけでなく、サリアとルルネも武器かアイテムが欲しいのか……。

俺が戦えばそれだけドロップアイテムが手に入るんだが……何とかして三人にアイテムか武器を用意したいなぁ。

それにしても、このオリガちゃんに渡した武器にまで『蛇』が入ってるのか。

もうこのダンジョンに『蛇』に関連することが大きく関わっているのは確実だろう。

ただ、それが何かは分からないが……。

これ以上小部屋に用がない俺たちは再び通路に戻り、先に進む。

すると道中また魔物に襲われるのだが、新しい武器を手にしたオリガちゃんが大活躍だった。

「……奥義『 苦獄(くごく) 』」

手に入れたばかりの『呪蛇の苦無』を無数に出現させると、それを襲い来る灰色の鱗と赤い瞳を持つ『 賢蛇(けんじゃ) Lv:855』に一斉に投げつけた。

最初の方は次々と飛んでくるクナイを賢蛇は口から水や炎、はたまた雷を放出して防いでいたが、やがて減るどころか増え続けるクナイに対処できなくなり、ついにその身にクナイが突き刺さった。

「キシャアアアアアアアア、アアア、ア……」

賢蛇は大きな叫び声をあげた後、その口から紫色の泡を吹きだし、しっぽの方から徐々に灰色の意思に変化して――――最終的に完全な石像へと変わった。

もはや死んでるのだろうが、光の粒子にならないのでアルが斧で叩き割る。

「おらよっと」

あっけなくその身は砕け散り、程なくして光の粒子となった。

するとそこに何枚かの鱗と、宝箱が落ちていた。

「……アイテムがドロップした」

「マジだ。しかも素材だけじゃねぇし……オリガの武器に続いて幸先いいなぁ」

アルが感心した様子で鱗と宝箱を拾い上げる。

ちなみに鱗は『上級鑑定』でこう表示された。

『賢蛇の鱗』……賢蛇の鱗。高い魔法耐性があり、非常に軽いため防具として優れている。

俺はローブがあるから防具とか考えてなかったけど、この説明を見るとなかなか有用な素材っぽいな。

そして一番気になる宝箱を開けると……。

「首飾り……だな」

それは赤い宝石のついた上品な首飾りだった。同じように鑑定してみる。

『賢者の首飾り』……伝説級装飾品。魔法耐性・魔法威力を大きく上昇させる。魔力操作がしやすくなり、魔法を使う際の魔力消費量を減少させる。

なんて都合のいいアイテムなんだ。

まさかのさっそくルーティアが求めているようなアイテムが出てくるとは思わなかった。

俺だけじゃなく、サリアたちもその効果に驚く。

「……幸先いいってレベルじゃねぇな。なんでこんな簡単に欲しいものが手に入るんだよ……」

「……超らっきー?」

アルは呆れながらそう言い、オリガちゃんは不思議そうに首をひねった。

「あー……ルーティアさん。貴女の欲しがってたモノが出ましたよ」

「え? でも……いいの? 二人が倒した魔物なのに……」

「ええ。オレは魔法よりは近接戦がメインですし……」

「……私はもう貰ったから」

「そう……それなら……」

もともとルーティアが求めていた性能のモノなので、特に争うことなくルーティアのモノになった。

ルーティアは黒色のドレス姿なので、赤色の宝石が輝く首飾りがよく映えている。

こうしてオリガちゃんだけでなくルーティアも新アイテムを手に入れ、より積極的に戦いに参加するようになった。

そのルーティアが首飾りがある状態で『魔王の手』を使ったとき、先ほどとは比べ物にならない威力になっており、それにはルーティアも含めて全員驚いた。やっぱり装備って大事だな。

ただ、さすがに連続してドロップアイテムが手に入るようなことはなく、やがて大きな部屋に辿り着いた。

「さて、ここは……」

「誠一、あそこに大きな扉があるし、またボス戦なんじゃない?」

サリアの言うように、部屋の奥には分厚い扉が存在している。

「ボスか……たぶん蛇系統の魔物がボスなんだろうなぁ」

『――――その通りだよ』

「へ?」

突然部屋に響いた声に、俺たちは驚いた。

すると部屋の中央部分に何やらよく分からない黒い渦が出現し、中から一体の魔物が現れた。

超巨大な蛇の 下半身(・・・) はメタリックブルーと所々黒色の鱗があり、斑模様。

そして――――。

『アンタたちの予想通り――――アタシは蛇の魔物さ!』

―――― 上半身(・・・) は筋骨隆々のゴリラだった。

「いやゴリラの魔物の間違いだろ!?」

その姿に俺は思わずツッコむ。

確かに下半身は蛇だけども! 明らかに上半身のインパクトにすべて持ってかれてるよね!

そのゴリラはサリアの種族である『カイザーコング』とは違い、青色の体毛でどこか涼しげだ。

だが、その肉体はゴリラ状態のサリア……ゴリアとも遜色がない。

両腕には、下半身と同じようなメタリックブルーの洗練されたデザインの籠手がはめられている。

驚く俺たちをよそに目の前のゴリラは指を鳴らすと、周囲に再び黒色の渦が現れ、中から大量の蛇系統の魔物が出現した。

魔物の出現と同時に、俺たちの背後にも分厚い扉が出現する。

『さあ、これで逃げ道はなくなったよ。それにアタシはこの部屋のボスでね。アンタらを先に行かせるわけにはいかないのさ。……アンタたち、やっちまいな!』

『ヘイ、姐さん!』

目の前のゴリラの命令を受け、蛇たちはいっせいに襲い掛かってきた。

するとアルたちはすでに臨戦態勢に入っており、魔物の接近を許さない。

途中で武器とアイテムで強化されたオリガちゃんとルーティアの攻撃は特に強力で、なおかつ広範囲の殲滅に最適なのでかなり活躍している。

ゴリラの魔物というだけで呆気にとられてしまったが、俺は正気に返って『上級鑑定』を発動させた。

『ジャイアント・アナコングLv:1800』

強ぇぇぇぇぇぇええええええ!

なんなの!? この世界のゴリラってみんな強いの!? てか何気にサリアよりレベルが高ぇし! それどころかゼアノスより高ぇ!

しかも名前もうまい具合に混ざってるから蛇なのかゴリラなのか分かんねぇな!

鑑定結果に驚いていると、俺の存在に気づいたゴリラの魔物――――アナコングが目を見開いた。

『ん!? あ、アンタ……』

「へ? お、俺?」

何がそんなに驚くようなことなのか分からずに首をひねると、アナコングは何故か頬を赤らめた。

『……いい雄じゃないか。いいね、気に入ったよ! アンタ、アタシの旦那になりな!』

「………………へ?」

「「何言ってんだこのゴリラあああああああああ!」」

驚き固まる俺をよそに、アルとルルネがすごい形相でアナコングに襲い掛かった。

だが、アナコングはアルの斧とルルネの蹴りを軽々と片手で受け止める。

「なっ!?」

「私の蹴りが!?」

『――――アタシの邪魔するんじゃないよ!』

そして受け止めた両腕を振ると二人は大きく吹き飛ばされた。

だが、二人とも空中で受け身をとったので大きなケガはしていない。

他にも激しい戦闘が繰り広げられている中、俺はいまだに固まっていた。

――――なんで、俺はゴリラに求婚されるんだ?

『さあ、こんな連中さっさと片づけて式を挙げるよ!』

「ちょっと待てやあああああああああ!」

俺はようやくツッコんだ。

「なんで! 敵の! しかもゴリラが! 求婚!?」

『おかしなこと言うね。強い雄を求めるのは当たり前だろ?』

「出たよ超野生理論! 何!? 俺の体からはゴリラを引き寄せるフェロモンでも出てるんですかねぇ!?」

『そうだよ』

「ウソだと言ってくれぇぇぇぇぇぇええええええ!」

なんて限定的なフェロモンなんだよ! 誰得なんだ!? もっと違うフェロモンにチェンジで!

全力で頭を抱える俺に、アナコングは徐々に近づいてくる。

おかしくね? サリアだけじゃないの!? どうなってるの俺の体さんよぉ!

ルイエスたちが必死にアナコングを止めようとするが、他の蛇の魔物たちが邪魔をする。

いや、これもう俺も戦っていいよね!? だって完全に俺に狙いを定めてんじゃん! ゴリラの嫁はサリアだけでいいの! てかサリアがいいの! 他は受け付けてません!

もはやルイエスたちの修行とか言ってられる状況でもないので、今すぐ俺も戦おうとしたその時だった。

「――――誠一ハ渡サナイ」

『ぬっ!?』

すさまじい速度でサリアがアナコングに殴りかかった。

だが、アナコングにその拳を受け止められると、そのまま逆の手で殴りかかる。

それすらも止められたサリアは、そのままアナコングといわゆる手四つと呼ばれる状態になった。

「クッ……」

『グッ! な、なんなんだい、アンタ!?』

レベル差が大きいはずなのだが、サリアはアナコングに力負けするどころか圧倒していく。

「……私ハ……誠一ノ……オ嫁サン……!」

『よ、嫁だとおおおおおおおおお!?』

アナコングは地面に押し倒されそうになりながらそう叫ぶと、すぐに表情を引き締めた。

『くっ……なら……アンタから奪うまでだよ……!』

「ウッ!?」

やはりレベルが1000超えているだけあり、不利な体勢からアナコングはまた拮抗した状態にまで戻した。

しかし、サリアも負けず、なんとアナコングに向かって頭突きをかました。

「渡サナイッ!」

『があっ!?』

たまらず手を離したアナコングは数歩後ろによろめくと、頭を振って顔を殴る。

『調子に乗るんじゃないよ!』

「くっ!」

「サリア!」

「来ナイデ!」

急いで助けに向かおうとするのを、サリアは手で制した。

「コレハ……女ノ戦イダカラ……!」

「女の戦い!?」

「ソウ……私ガ勝タナイト、イケナイノ……!」

『くぅ……!』

そういうとサリアはお返しといわんばかりにアナコングの顔面を殴った。

――――そこからの戦いはすさまじかった。

両者引くこともせず、その場で激しく殴り合うのだ。

「ドウシテ誠一ヲ狙ウノ! 他ノ雄ニスレバイイデショ!」

『外からきたアンタに分かるかい!? ダンジョンに縛られたアタシに出会いなんてないんだよ! アンタには三十過ぎた行き遅れの気持ちなんて分からないのさ……!』

なんだ、そのダンジョン事情。てか三十歳なのかよ。

「確カニ私ニハ貴女ノ気持チハ分カラナイ……デモ誠一ハ絶対ニ渡サナイ!」

『小娘の分際で……! あの雄はアタシのモノにするんだよ!』

もはや何が何だかさっぱり分からない俺は、ただただ呆然と二人の戦いを見ているしかできない。

するといつの間にかさっきまで殺しあっていたはずのアルたちと蛇の魔物までもが二人の戦いを見ていた。

「サリア! 絶対に負けるんじゃねぇぞ!」

「頑張ってください、サリア様!」

「そこです、そこでブローを叩き込むんです」

「……サリアお姉ちゃん、頑張れ」

「すごい……魔物同士の戦いってこんなに迫力が……」

『負けるな、姐さあああああああああああん!』

『あの嬢ちゃん強いじゃねぇか!』

『おい何相手を褒めてるんだよ! 確かに相手も強いが……それ以上に姐さんは必死なんだよ! この歳で今まで一人も男がいないなんて……うぅ……』

『もう結婚適齢期すぎてるもんなぁ……姐さん! 絶対に勝って、男をゲットするんですよ!』

『…………アンタたち、あとで覚えときな!』

『『『ひぃぃぃぃぃいいいいいい!? す、すみませえええええええん!』』』

俺はコントを見てるのか?

え、何? 俺がおかしいの? この状況を理解できてない俺が変なの?

完全に俺一人だけ浮いてるので、そう感じても仕方ないだろう。

だからこそ、もう一度サリアたちの戦いに視線を向けてみる。

「ハアアアアアアアアアアアアアア!」

『うおおおおおおおおおおおおおお!』

激しい殴打の応酬が繰り広げられる。

その衝撃はすさまじく、拳の風圧だけで周囲の壁にひびが入り、地面はもうボロボロだ。

ただしダンジョンの壁なのですぐに修正されていく。

その光景を唖然と眺めていると、蛇の魔物の一体が俺に近づき肩に尻尾を乗せた。

『兄ちゃん、モテモテだな! …………ゴリラだけど』

「嬉しくねぇぇぇぇええええ!」

やっぱり変だろ!? どう考えても! いや考えるまでもなく変なんだけど!

そもそもお前ら敵だったよなぁ!? どうしてそんなにフレンドリーなわけ!?

『いやいや、喜べよ! 姐さんだっていい女だ! ……ゴリラだだけど』

『そうそう、ああ見えて尽くすタイプだよ! ……ゴリラだけど』

『俺たちを仕切る統率力とか、スゲェ頼れるんだぜ! ……ゴリラだけど』

『料理だって上手だし、手先も意外と器用でさ――――』

「けどゴリラなんだろおおおおおおおおおおおおお!?」

どんな説明にも必ずゴリラって付くんじゃねぇか!

いや、ゴリラが悪いんじゃねぇ。でもそういう問題でもねぇ……!

『あの男を寄越せえええええええええええ!』

「絶対ニダメエエエエエエエエエエエエエ!」

普通なら、女性が自分を奪い合うなら人によっては嬉しいかもしれない。それだけ求められてるってことだからさ。

でも……どうしてゴリラかなああああああああああ!?

せめて人間で! 人間でお願いします! だって異種族恋愛どころじゃねぇだろ!? そもそも俺にはサリアがいるし!

俺が嘆いている間に気づけば二人は満身創痍になっていた。

「ハァ……ハァ……」

『ふー……ふー……』

お互いが油断なく睨み続ける。

しかし、この場にいる誰もがこう思った。

――――次で決まると。

体力もお互いに限界で、もはや一撃を放つので精一杯なのだ。

するとアナコングがおかしそうに笑う。

『くくく……あははははは!』

「? 何ガ面白イノ?」

『いや、悪いね……こんなにもこの戦いが面白くなるなんて思ってもみなかったからさ……。アンタを小娘だなんて侮って悪かったよ。アンタは、好きな雄のために格上であるアタシとここまでやりあえたんだ。素直に称賛するさ。ただね――――』

「!」

『――――最後はやっぱりアタシが勝つよ!』

アナコングは今までで一番のスピードでサリアに迫ると、渾身の一撃を腹に放った。

「ぐうっ!?」

「サリアッ!?」

『さあ、アタシの勝ちだよ!』

俺は叫び、アナコングが勝利を確信した。

――――だが、サリアは負けていなかった。

「――――捕マエタ」

『なあっ!? しまっ――――』

「誠一ハ……私ノモノダアアアアアアアアアア!」

『がああああああああああああああああああ!』

『『『あ、姐さあああああああああああん!』』』

サリアの鋭いアッパーが、アナコングの顎にさく裂した。

腕を天に突き上げ、固まるサリア。

そしてアナコングは――――地に倒れ伏すのだった。