軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五条蛇

謎のご褒美としてルイエスの頭を撫でたのだが、それがサリアやアルのやる気に火をつけたらしく、あれから魔物を見つけては見敵必殺の勢いで魔物を殲滅している。

心の底からありがたいのは、あれから熊さんのような人間に好意的な魔物が出てきていないことだろう。

うん……罪悪感で俺の心が死にそうなんですよ……。

もうあの悲劇は繰り返さないようにしよう……いや、本当に。

「誠一! ほら、ちゃんと倒せたよー! だから頭撫でてー!」

無邪気な笑顔で俺に頭を見せるサリア。

「誠一! ほら、倒したぞ! だから、その……ほら、早く撫でろよ……」

徐々に言葉が尻すぼみになり、顔を赤くしながらも頭を差し出すアル。

「師匠。今回も素早く処理できました。……お願い致します」

表情は変わることはないが、頬を少し赤く染めて頭を下げるルイエス。

…………これはどういう状況ですか?

俺たち、ダンジョンに来てるんだよね? なんでこんな緊張感ないの?

本気で何しに来たのか考えなおしていると、オリガちゃんがルルネに声をかけていた。

「……食いしん坊はいいの?」

「む? いや……さすがにサリア様たちの活躍の場を奪うわけには……」

「……ふーん。じゃ、私は行くね」

「な、なんだとぅ!?」

…………うん、また頭を撫でる相手が増えそうだ。

思わず頬を引きつらせていると、ルーティアが訊いてくる。

「ダンジョンって、普通こんな感じなの?」

「絶対違う!」

そう、断じて違う! はず! たぶん! ……自信なくなってきたよ!

ただ、熊さんのレベルが高かったように、やはりこのダンジョンは中々高難易度らしく、今もルイエスが何とか攻撃をさばいていた。

「ハアッ!」

「ガルルルルルル……ウォォォォォオオン!」

その魔物は『ブラッド・ドッグLv:621』であり、体長は約2mほどで赤黒い毛と血走った目が特徴的だ。

ちなみに、今回はあの熊さんのような心配をしなくてもいい。

何故なら……。

『ひゃっふぅぅぅうううう! 肉だ、肉だぜぇ! テメェら全員食い殺してやるぜぇぇぇえええ!』

……とこのように非常に好戦的だからな。いっそ熊さんもここまで敵意・殺意むき出しだったらよかったのに……。

ブラッド・ドッグは動きが素早いらしく、決して広いとは言えないダンジョンの通路や壁を利用して様々な角度から襲い掛かっていた。

今も鋭い爪の攻撃をルイエスは細剣で防いでいる。

「くっ!」

「おら、オレもいるぜ!」

ルイエスが受け止めたところでアルがブラッド・ドッグに攻撃を仕掛けるが、すぐに避けられる。

だが、その避けた先には顔だけゴリラになっているサリアの姿が。

「一撃、粉砕!」

「キャン!?」

サリアはすさまじい速度で殴りつけると、ブラッド・ドッグは大きく吹っ飛ばされた。

そしてその隙を逃さんとルイエスが追撃し、ブラッド・ドッグが慌てて防御態勢に入ろうとするも間に合わず、胴体を剣で貫かれた。

その一撃で絶命したブラッド・ドッグは、光の粒子となって消えていった。

これ、俺じゃなくてルイエスたちが倒してるからドロップアイテムがないんだけど、もし俺が熊さんも含めて倒してたら今頃俺の体はもっと進化していただろう。

「ふぅ……かなり敵が強くなってきましたね。私一人では厳しかったでしょう。サリアさん、アルトリアさん。ありがとうございます」

そう言ってルイエスは頭を下げた。

うん、ルイエスはいい子なんだ。

ただ、魔物の言葉が分からないばかりに起こった、悲しい出来事だったんだよ……。

そんな感じでルイエスは当初の目的通り、自身の鍛錬も兼ねながら様々な魔物を切り伏せていく。

一人じゃ少し手ごわい相手だと、アルやサリアと協力して倒しているのでまだまだ大丈夫そうだ。

だが、魔物も常に一体で襲い掛かってくるわけではなく、中にはルイエス一人じゃ手に余る魔物が群れで攻めてきたりもした。

だが、途中からルルネとオリガちゃんも参戦したので、結局無傷でやり過ごせている。

「……うん、誠一がとんでもないのはオーラで分かってたけど、こうしてみるとサリアさんたちも十分おかしい。これも誠一の効果?」

「さ、さあ?」

ルーティアの言葉に俺は首を傾げるしかなかった。

いや、俺のせいじゃないと思うけど、完全に否定できないのが今の俺なんですよね。

緊張感の薄いまま進んでいくと、俺たちは広い部屋に出た。

「ここは? ダンジョンって、狭い通路だけじゃないんだ」

「そうだな……普通に考えりゃ、罠かボスがいるってとこだが……」

ルーティアは興味深そうに周囲を見渡し、アルは少し警戒しながらもそう答えた。

「そうですね。こういう広い部屋はダンジョンでは珍しくありません。運が良ければ宝箱などが置いてありますが……」

「中身は食べ物か!?」

「……残念ながら食べ物ではないかと。それに、この部屋には宝箱はないようです」

ルイエスの補足にルルネはすさまじく食いつくが、すぐに宝箱がないと知るとがっかりする。

「……食いしん坊。宝箱の中の食べ物も食べるの?」

「当たり前だろう? 何を愚かなことを聞いている」

「……ん。絶対お腹壊す」

オリガちゃんはルルネの言葉に顔をしかめ、自分のお腹を触った。

「まあルルネの食欲は今に始まったことじゃないしな。それよりも宝箱がないってことはやっぱりこの部屋のボスか、罠なんだが……」

『その通りだ、侵入者よ』

「え!?」

突然、部屋の中を低い声が響いた。

すると、俺たちの背後の通路に繋がる入口が、急に現れた分厚い扉によって閉ざされる。

「チッ……どうやら罠とボスの両方みてぇだな」

「……あ、誠一! あそこ見て!」

サリアの指さすほうにみんなが視線を向けると、そこには背後と同じ分厚い扉と、その扉を挟むような形でダンジョンの壁に人間の巨大な【目】があった。

『よく来た、侵入者よ。我はこのダンジョンそのもの……貴様らを歓迎しよう』

どこから声が出ているのかは知らないが、巨大な目は低い声でそういう。

「か、歓迎?」

『そう、歓迎だ――――さあ、受け取れ』

巨大な目が鋭くなった瞬間、突然周囲に大量の魔物が出現した。

犬型やドラゴン型、中にはゾンビらしきものなど、統一性のない魔物が一斉に襲い掛かってくる。

「チクショウ、【モンスターハウス】か!」

「【モンスターハウス】?」

アルの口から出た聞きなれない単語に首をひねると、代わりにルイエスが教えてくれた。

「【モンスターハウス】とは、その名の通り大量の魔物が出現する罠の一種です。ですが、本来はあのような巨大な目や声はなく、一定数の湧き出る魔物を討伐すれば先に進めるのですが……この状況ではそれも不確かです」

どうやら声や巨大な目は一般的ではないらしい。

でもどのみちこの状況を切り抜けるには、魔物を駆除するしかなかった。

「これもまた、一つの鍛錬でしょう。【ウォーターレーザー】」

ルイエスは細剣を抜き放つと、水属性魔法の【ウォーターレーザー】を唱える。

だが、それは普通の【ウォーターレーザー】とは違い、細剣に水のレーザーが纏わりついた長剣へと姿を変えた。

「――――ハアッ!」

そしてルイエスがその細剣をふるうと、襲い掛かってきた前線の魔物たちが簡単に切り刻まれる。

「では、行って参ります」

「ど、どうぞ」

ルイエスはそういうと、すさまじい速度で魔物の群れに突っ込んだ。

うーん……こうしてみるとルイエスも弱いわけじゃないんだけどなぁ。

あの【魔神教団】って連中が不気味な力を持ってるってだけで……。

でもそんな連中と戦わなきゃいけないんだから、強くなる必要があるのは俺にもよくわかった。

突撃したルイエスを見て、サリアたちも戦闘態勢になる。

「アル、行クヨ」

「お、おう! ……いや、やっぱり急に顔だけゴリラになるのは慣れねぇって!」

「【瞬腕】」

「ってもう戦ってる!?」

サリアはスキル【瞬腕】を発動させると、一瞬で一番近くの犬型の魔物に人間状態の拳を叩き込んだ。

その拳は犬型の魔物の腹を鋭く抉り、さらにサリアの拳の衝撃波で周囲の魔物もまとめて吹っ飛んだ。

久々に【瞬腕】見たけど、あんなに威力高かったっけ?

中には衝撃波だけで体中をズタズタにされてる魔物までいるし……あの威力を進化する前に受けてたら、今こうして生きてられねぇな。

アルもサリアの急な戦闘に驚いていたが、すぐに意識を切り替えて大きな斧を振り回す。

「オレだって……弱いままじゃねぇぞ!」

アルの斧が、狸型の魔物の腹にぶつかると……。

「吹っ飛べ! 【アイスショック】!」

その瞬間、斧から鋭い冷気が噴出し、狸型の魔物の腹を貫いた。

そしてその冷気は他の魔物にも影響を及ぼし、足元が凍ったりして動きが鈍くなった。

「アルさん、いい攻撃です」

その隙をルイエスが逃すはずもなく、身動きの取れない魔物から順に倒していった。

ルイエスたちによって確実に魔物の数は減らしていき、俺たちはただ突っ立ってるだけなのに何の被害もない。

本当に俺、何しに来たんだ?

思わず自分のいる意味を考えてしまうと、ルーティアが服の裾を引っ張る。

「ん?」

「私、確かに誠一といるのが一番安心だと思った。でも、彼女たちを見てたら……うん、もっと安心した」

「そ、そうか」

まあ魔族の人たちにとって、とても大切な方をお預かりしてるわけだからな。

安心してもらえるのが一番だ。

するとあまりにも緊張感のない俺たちとは違い、今まで余裕といった様子で展開を見守っていた巨大な目が焦ったように叫ぶ。

『な、なんなんだ、貴様らは! 普通ではないぞ!?』

普通じゃないってひどい言われようだ。普通じゃないけど。

『ええい、ならばコイツはどうだ!?』

もう魔物の数も残り数体といったところで、ふいに巨大な目の間にある分厚い扉が開いた。

すると、そこから首が5本もある巨大な蛇が出現した。

そいつは今までの魔物と明らかに格が違うといった雰囲気を醸し出している。

思わず鑑定すると、こう表示された。

『五条蛇Lv:893』

いや、本当に強いな。

道中の魔物の二倍近いぞ。

コイツがこのダンジョンのボスなんだろうか?

ふとそんなことを考えていると、他の魔物を倒し終えたルイエスがすぐさま蛇の頭を一つ斬り落とした。

「うええええええ!? 早っ! もう斬ったの!?」

あまりにも一瞬で蛇の頭を斬り落としたもんだから、俺は思わず声を上げる。

だが……。

『フハハハハハハハハハ! 馬鹿め! ソイツは全く同時に五つの頭を殺さなきゃ死なないのだ! さあ、そんな完璧で緻密な連携が貴様らにできるか!?』

巨大な目の言う通り、斬り落とされた頭はすぐに消え、逆に首からは新しい頭が生えてきた。

その光景を見て、さすがに厳しいと感じたのか、ルルネとオリガちゃんが参戦する。

「……食いしん坊、いける?」

「あの蛇……つまりずっと食べ続けられるってことか!?」

「……大丈夫そう」

ルルネの頭の悪い回答は無視し、ルイエス、サリア、アルとルルネにオリガちゃんの五人がそろった。

計算上、これで一人ずつが全く同じタイミングで頭を攻撃すれば倒せるはず。

しかし、言葉でいうのは簡単だが、実際に息を合わせてそんなことをするのはとても難しいだろう。

「……誠一、彼女たちは大丈夫? 手伝わなくてもいいの?」

ルーティアが心配そうに訊いてくる……なぜだか、俺は大丈夫だと思っていた。

もちろん、怪我とかの心配はする。

でもそれ以上にみんなへの信頼が勝っていたのだ。

それにルイエス自身はこの状況はむしろ好ましいのだろう。鍛錬するためについてきたんだし、何より本当に危なくなったら絶対助けに行く。

だが、五条蛇も決して弱いわけではない。

今もなんとかタイミングを合わせて攻撃をしようとしているサリアたちに、紫色のヘドロを吐き出したりしている。

そのヘドロは床に触れた瞬間すごい音を立てて溶けていることからも触れるのは完全にアウトだろう。

しかしそんな攻撃よりも厄介なのが、蛇の目が光った瞬間だ。

何かがあると全員その光を避けるのだが、その蛇の目の光が当たった部分がどんどん石化していくことからもあれを食らったら身動きが取れなくなるし、死んでしまうだろう。

俺は【完全耐性】のスキルがあるから大丈夫だけど、皆はそうはいかないしな。

何度か攻防が繰り広げられ、お互いにダメージを与えられないでいると、サリアたち全員が急に何かに気づいた。

『そうか!』

「へ?」

晴れ晴れとした表情で全員がそう言ったため、何をするのかと思っていると、何故か全員五条蛇から距離をとる。

五条蛇もどこか警戒してそれぞれの頭が一人ずつ捕捉してしたのだが――――。

「【瞬腕・拡散】!」

「【斬裂波】……!」

「【フォールディザスター】」

「……【分身術・殺】」

「ごっはあああああああああああああん!」

一名、変な掛け声をあげていたが、全員のしたことは超広域にわたる無差別攻撃だった。

まず、サリアはあの【瞬腕】を両腕で放つことにより、広い範囲に衝撃波が広がる。

アルは大きく斧を振りかぶり、地面を踏み砕きながら踏み込むと巨大な斬撃を繰り出す。

ルイエスは俺も使っていた【フォールディザスター】をまさかの細剣に纏わせ、【ウォーターレーザー】以上の極太で激しい水流の剣を水平にして一気に駆け抜けた。

オリガはまさかの五人に分身し、手にしたクナイのようなモノを同時に五条蛇の頭部に突き立てる。

ルルネは……よく分からんが、なんかすごい蹴りを放っていた。

つまり、何が言いたいのかっていうと……。

『一人で同時に攻撃したら同じだよね!』

まさかの以心伝心。

五条蛇の頭すべてを全く同時に、五人は超強力な広範囲技で攻撃した。

その攻撃にさらされた五条蛇は、呆然とした表情を浮かべ――――完全に消失した。

『う、ウソだ――――ぎゃあああああああああああああ!?』

しかも、その余波は留まらず、壁の巨大な目もまとめて吹き飛ばした。

攻撃の影響で部屋中を砂ぼこりが舞い散る。

視界が晴れると、目の前は綺麗になった部屋と、その先に続く通路だけが見えていた。

「……誠一。貴方の仲間も大概」

「……俺もそう思う」

俺はルーティアの言葉に素直に頷くのだった。