軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダンジョンの罠

ダンジョン内部は、不思議なことに明るかった。

「うーん……松明とか光源があるわけじゃないのに明るいって……」

「そうですね。師匠のおっしゃる通り、松明が壁に掛けてあるダンジョンも確かに存在しますが、このように不思議と明るいダンジョンのほうが一般的です。ただ、今一度なぜ明るいのかと訊かれると確かにそこを考えたことは私もなかったですね」

俺の疑問にルイエスも頷く。

よくよく考えれば、黒龍神のところもこんな感じだった気がする。

まああの時は周囲に気を配るどころじゃなかったけど。

魔物も警戒しないといけないが、それ以上に以前アルと分断された時のような罠を警戒して俺たちは進んでいた。

結局壁ぶち抜くことができるって分かったから大丈夫だと思うけど罠にかからないに越したことはないしな。

それにむやみやたらに壁壊してダンジョンが崩壊しても困るし。

「魔物もだけど罠も気を付けないとな。みんなも足元とか壁とか、なんか不自然なものがあったら教えてくれ」

「あ、主様! ここの壁、色が違いますよ!」

「ん? 本当だな」

「押してみても!?」

「なんでだよ」

なぜかルルネは一か所だけ色が違う場所を見つけると、それを押そうとした。罠警戒してるって言ってるでしょ。

「……食いしん坊、おバカ?」

「な、なんだと!? 押してみたくなるではないか! なんか、こう……上からステーキが大量に降ってくるかもしれないだろう!?」

「それはそれで嫌だなぁ、おい」

普通に物量的に押しつぶされて死にそうだし、助かったとしてもベトベトのギトギトじゃねぇか。

「誠一」

「ん? どうした? ルーティア」

不意にルーティアが声をかけたのでそちらに視線を向ける。

「ここの床、色が違う。えい」

「そうか。…………………………ってなんで踏んだ!?」

あまりにもサラッと踏んだため、俺は普通に流しかけた。

「いやいやいや! 罠警戒してるって言ってるでしょ!? なんで踏んじゃうの!?」

「? 私ダンジョンって初めてだから……床の色が違うと、罠なの?」

「オーケー。その段階なのね!」

どうやらルーティアはダンジョンが初めてらしく、何が危険だとか分からないようだ。

俺の中の勝手な常識として、色違いの床や壁があったら罠を疑うって思いこんでたけど、結局は俺の中での認識なのでルーティアにそれを押し付けるのがいけなかった。

「と、とにかく、どんな罠が――――っうぉっふぉい!?」

突然俺めがけて左右の壁から槍が何本も突き出てきた。

それを俺は器用に体をくねらせて避ける。

恐る恐る槍の先を見ると、見るからに毒ですよと言わんばかりの紫色の液体が塗られており、雫が床に垂れた瞬間煙を上げた。

『おおおお!』

「いや、感心してないで助けて!?」

俺の動きにみんな拍手をくれた。それどころじゃないけどね!

何とか槍から脱出すると、ルイエスが神妙な顔つきで何かに納得していた。

「なるほど……こうしてダンジョンの罠に自ら飛び込むことで、己を鍛えるわけですね……」

「へ?」

「では……えい」

「おいいいいいいいいいい!?」

ルイエスは躊躇うことなく別の色違いの床を踏んだ。

「どんな罠でも私は切り抜けます! さあ……来なさい!」

「罠にかからないのが正解なの! 自分で罠踏むとか馬鹿なの!?」

「いえ、師匠! 分かってますよ。安全な道ではなく、その馬鹿げた道に進んでこそ真の強さが待っているのですね!」

「深読みしてんじゃねぇぇぇぇぇええええええ!」

ルイエスはキッと顔を引き締め、襲い来る罠に備えた。

その結果――――。

「どぅっへい!?」

なぜか俺の首めがけて照射されたレーザー光線らしきモノを、俺はブリッジの体勢で躱した。

その際、少しだけ光線に髪の毛が当たったのだが、その髪の毛は燃えて消えていった。

『おおおお!』

「だから感心してないで助けてくれる!?」

「じゃあこの壁は?」

「おバカさぶうぇい!?」

続いてルーティアが再び色違いの壁の一部を押した。

すると間髪入れずに俺の足元が落とし穴のように開いたため、ブリッジから体をひねってその落とし穴を回避する。

「誠一、すごいな」

「うん! さすが誠一だね!」

「いい加減止めて!?」

アルとサリアが感動したように言うが、今はその感動より安心が欲しいね!

何とか発動した罠から脱出すると、俺はふとサリーさんたちに会ったことを思い出した。

「あ、サリア。そういえばサリアの両親に会ったぞ」

「え!? 本当!?」

「おう。ルーティアたちのところに行ったとき、なんか見慣れたゴリラがいるなぁって思ってたら案の定サリアご両親だったな」

俺の言葉を聞いて、サリアは嬉しそうに笑った。

「そっか……二人とも元気だった?」

「すごく元気だったぞ。それになんか聞いた感じ、俺の父さんたちと一緒に住むらしいから、また会おうと思えば会えるよ」

ルイエスがランゼさんを説得してるときに聞いたのだが、どうやらサリーさんたちは父さんやゼアノスたちと一緒に暮らすらしい。

仕事もゼアノスたちと一緒に冒険者になるって言ってたし、大丈夫だろう。

俺らの話を聞いていたアルがそう言えばといった様子で頷いた。

「ああ……すっかり忘れちまってたが、サリアって魔物だったなぁ。いい子だし、今は全然魔物に見えないけどよ」

「そう? 確かに戦うときは魔物の姿にならなきゃいけないけど、今は顔だけ変えれば全力で戦えるよ?」

「それはやめたほうがいい。誠一も微妙そうな顔してるが、オレも微妙だと思うぞ」

「ええー?」

アルも俺と同じ感性らしく、サリアの顔だけゴリラ化は微反対のようだ。完全に反対できないのは全力を出す手段の一つだからね。

今度はしっかり言い聞かせたため、ルイエスも大人しく罠を押したりしなくなった。いや、最初からそうして欲しかったよね。アンタ、俺よりダンジョン経験豊富でしょ?

「……ん、誠一お兄ちゃん。前から何か来る」

「お? 本当だね」

オリガちゃんが俺に伝えると同時に、俺も前から近づいてくる存在に気づいた。

今の俺はスキル【世界眼】で常に索敵してるだけじゃなく、冥界で身に着けた生命力を探る技術を使っている。

「師匠。ここは私にお任せください」

ルイエスはもともと強くなりたくてついてきているので、こういう戦闘に関しては任せてほしいらしい。

そんなやり取りをしていると、ついに姿が見える位置にまでやって来た。

俺たちの前に現れたのは、焦げ茶色で体長3mほど熊だった。

だが、その熊はつぶらな瞳をしており、どことなくベアードの被り物が頭に浮かぶ。

熊の頭には何故か壺が帽子のように被さっており、両腕の爪はとても鋭い。

熊は俺たちの存在に気づくと、何故か目を輝かせた。

『あ! 人間さんだ!』

「へ?」

思ってた反応と違うものが熊から返ってきたため、俺は思わず呆けた声を出す。

なんか凶暴な熊っていうよりは森の熊さんだな。ここダンジョンだけど。

とりあえず【上級鑑定】を発動させ、相手の名前を確認した。

『ダンジョンベアーLv:488』

そのまんまなのね! てかダンジョンの熊さんレベル高いな!?

名前はともかくとして、このレベルがいるってことは、少なくとも【果て無き悲愛の森】や黒龍神のダンジョンと同等なのだろう。うん、なんでこうも高レベルのダンジョンばかり引き当てるかね?

そういえばナチュラルに熊さんの言葉が分かるのを流しかけてたけど、俺【全言語理解】があるから魔物の言葉も分かるんだった。

しかし、魔物の言葉が分かるのは俺とサリア……あとはルルネが分かるかな? といった感じで、恐らくルーティアも魔物と意思疎通はできても言葉までは分からないかもしれない。

目の前の熊さんを前にそんなことを考えていると、熊さんはこっちに全力で近づいてきた。

『人間さーん! 遊んでー!』

無邪気! メッチャ無邪気に近づいてくるじゃん! コイツ本当に魔物か!?

でも熊さんがいつもの調子で人間にじゃれつくと死んじゃうよね!

相手に敵意がないため、どうしたもんかと悩んでいると、ルイエスは動いた。

「フッ!」

『ぐぼあああああああああああ!?』

「熊さああああああああああああああああああん!?」

一瞬にしてルイエスは熊さんに近づくと、その首を斬り飛ばした。

熊さんの首が地面に落ちると同時に、ルイエスは期待に満ちた目で俺を見てくる。

「師匠、師匠。どうですか? 強くなれそうですか?」

『ど……どうじでぇえええぇえ!? ぼっ……ぼぐばあぞんでほじがっだだげだのにぃぃぃいいいい!?』

「…………」

ごめんなさいぃぃぃぃいいいいい! そして怖いよぉぉぉぉおおおおお!

熊は血の涙を流しながらこっちをじっと見つめ、そして光の粒子となって消えていった。

怖い怖い怖い怖いって! 魔物の声が聴けるのってこういう弊害があるから嫌になるね!

「? あの……何か失敗しましたか……?」

俺が何の反応もしなかった……というよりそれどころではなかったのだが、それでルイエスは不安そうに俺の顔を見上げた。

それを見て、俺はやっと正気に返る。

「ハッ!? す、すまん。う、うん……いいんじゃないでしょうか? うん」

「本当ですか? それなら……はい」

「…………はい?」

何故かルイエスは俺に頭を差し出した。

「? よくできた子には頭を撫でてくれるのでは?」

「どこ情報!? それ!」

そのご褒美って小さい子にやるヤツだよね!? 主にオリガちゃんとかさ!

「ダメでしょうか……」

「うっ……」

表情こそ大きな変化はないが、どこかシュンとした様子を見せるルイエスに俺は観念した。

「はぁ……よくできました」

「……はい」

何故か、ルイエスはとても嬉しそうだった。