軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

92、心配と突然の出来事

「マルティナ、今回はなぜ休暇を取ることになったのか覚えているな?」

静かな低い声音でシルヴァンに問いかけられ、マルティナの緩みまくっていた頬はピシッと固まった。

「……そ、その、私が休んでいなかったからです」

「そうだ。ではこんなにも新しい本が自室にあったら、お前はどうなる?」

「えっと……寝る前に少し、読もうかなーと」

「少しで済むのか?」

あまりにも的確に痛いところを突かれて、マルティナは言葉に詰まる。

(ちゃんと休まなきゃいけないのは分かってても、こんなに未知の本がたくさんあったら……私は読まずにはいられない、よね)

想像上でさえ自分が本を我慢できる様子が思い描けず、マルティナが眉間に皺を寄せていると――シルヴァンが無情にも告げた。

「その本はマルティナの部屋以外に置いておくべきだろう。ナディアとロランはどう思う?」

「わたくしも賛成よ」

ナディアがすぐ賛成したのを聞き、最後の頼みの綱としてロランに視線を向けたが……ロランも苦笑を浮かべつつシルヴァンに賛同した。

「俺もシルヴァンの言う通りにした方がいいと思うぞ。というか最初から、俺の部屋に置いておこうかと考えてたんだ」

「そんな……」

マルティナはあまりのショックに、呆然と本の山を見つめる。

しかし皆の心配も分かるため、なんとか落胆する気持ちを飲み込んで、ゆっくりと頷いた。

「分かりました……よろしくお願いします」

そう言ったマルティナの表情があまりにも暗かったからか、最初に提案したシルヴァンが少し慌てた様子で口を開く。

「その、あれだ、体を壊さないためにする措置なのだから、休日の前日ならば好きなだけ本を持ち込んでも良いのではないか?」

その提案に、地面に埋まっていくのではないかというほどに落ち込んでいたマルティナは、一気に浮上して晴れやかな笑みを浮かべた。

「確かにそうですね! シルヴァンさん、ありがとうございます。あっ、そうだ。忘れる前にお土産を渡しておきますね」

先ほどサシャにも渡した蜜飴を二人に手渡すと、二人とも同じような興味深げな視線を瓶の中に向ける。

「これが蜜飴なのね。あまり食べた記憶はないわ」

「私は見たのも初めてだ」

「それなら良かったです。良かったら食べてください」

そうして二人に土産を渡したマルティナは、まずは夕食にしようと、ロランと共にカウンターへ向かった。夕食を受け取って席に戻り、ナディア、シルヴァンの二人と、ここ数日の近況を話し合う。

楽しくも有意義な時間を過ごし、夕食後にはロランとナディア、そしてシルヴァンの部屋に本を片付けてから、マルティナは疲れから早目に眠りについた。

数日間の休暇明けから、マルティナはまた仕事に精を出した。まず初めにしたのは、不自然な広がりを見せていた聖女教の報告だ。報告は無事に国王まで上がり、密かに調査が進められることになった。

さらに中古本屋で見つけた真偽不明の書物をラフォレたち歴史研究家にも見せ、書物の複製を作ることが決まっている。

そうして休暇中に得たいくつかの情報に関する仕事をこなし、さらに今まで通り帰還の魔法陣研究と瘴気溜まりそのものの研究も進めている――ある日の昼時、大事件がラクサリア王国を襲った。

午前中の仕事を終えたマルティナはサシャと共に食堂へ向かい、ロラン、ナディア、シルヴァンと合流して昼食をとっていた。

「研究の進捗はどう?」

ナディアの問いかけに、マルティナは眉を下げて答える。

「やっぱり難しいね……ハルカには本当に申し訳ないんだけど、すぐには完成しそうにないよ。まだ情報が全然足りなくて」

「そうなのね。……ハルカも理解してくれるわ。だからそんなに焦らないようにね」

「うん、ありがとう。瘴気溜まりが大陸全体で落ち着いてきたら、もっと他国にも情報提供を求めようと思ってる。今はさすがに難しいから」

今は各地で発生する瘴気溜まりの影響で、長距離の移動をするだけでかなり大変なのだ。ラクサリア王国の王宮にいる他国の代表者たちに協力を求めようにも、その事実が足枷となっていた。

「そうだな……そのためにはハルカの頑張りに頼るしかないか」

「はい。ハルカの旅はどうなっているのでしょうか」

ロランの言葉にマルティナが頷きながらそう告げると、皆が揃えたように食堂にある窓の外を見つめた。

晴れ渡った空には雲一つなく、晴れやかな気持ちになり、また午後も頑張ろうとマルティナが気合を入れ直していると――突然、視界が大きく揺れた。

ぐらっと景色が揺れたことにマルティナは最初、自分がおかしくなったのかと思った。目眩がして倒れるのかもしれない、貧血かもしれない。

しかしその予想は外れ、すぐに自分だけでなく周囲全てを襲う災害に気づく。

地震だ。

ガタガタと机と椅子が揺れて動き、立っているのも難しい。座っている椅子から落ちそうになる。そんな強い揺れがマルティナたちを襲っていた。

「じ、地震か……?」

「凄く大きいわ!」

「マルティナ、テーブルに捕まれ、落ちるぞっ」

ロランに椅子の上へと引き戻されたマルティナは、揺れに耐えるよう必死にテーブルへと手を伸ばす。テーブルの上に置かれていた食器の一部は、揺れで床に落下していた。

「け、結構、揺れますね……」

「マルティナさん、その場から動かないでほしいっす!」

「は、はいっ」

官吏たちはその場で蹲ったり呆然とするだけだったが、日頃から命の危機に慣れている騎士たちは、周囲の安全を確保するために動いた。

危ないナイフやフォークを布などにまとめて怪我を防止し、まだ落下していない食器をテーブルの中央に寄せ、落ちないよう対策をする。

さらに火や熱湯、油などを使っている厨房に数人が入ると、土魔法や水魔法を使って、火事などを未然に防いだ。

そうして騎士たちが活躍する中で、ガタガタと音を立てていた揺れが少しずつおさまっていき、食堂には沈黙が満ちた。

「止まっ、たか?」

誰かが呟いたその言葉に、一気に皆が口を開く。

「凄い地震だったな」

「こんなの何十年ぶりじゃないか?」

「ほぼ記録にないレベルだろ」

「この食堂だけでも被害額を計算したくないわ」

「街はどうなっているのかしら」

「それよりも陛下の無事を確認するのが先だ」

皆がそれぞれ思ったことを口にするが、恐怖や自分の身の安全ではなく、この国を思っての言葉が多数だった。

そんな官吏や騎士たちの中で、マルティナたちもその場に立ち上がり、さっそく話し合いを始める。

「今の地震、瘴気溜まりと関係あると思うか?」

ロランの問いかけに、皆が厳しい表情を浮かべた。

「さすがにないと思いたいですが……今の地震によって瘴気溜まりに変化が生じたり、魔物の行動が変わる可能性は高いと思います」

推測の域を出ないだろう原因ではなく、今後起こり得る可能性を口にしたマルティナに、皆の思考が切り替わる。

「確かにその可能性は高そうだ。地震による被害状況の確認も必要だが、まずは消滅できていない瘴気溜まりの調査を優先させるべきか?」

「上に進言しましょうか。まだハルカは全ての瘴気溜まりを回れてないでしょうから」

シルヴァンとナディアの言葉に、マルティナとロランが頷いた。そして話を聞いていたサシャが口を開く。

「それなら団長に伝えるのが一番早いっすよ。団長からならそのまま軍務大臣、陛下と報告がいきますから」

「確かにそうですね。確かランバート様は王宮にいらっしゃいます。二人一組で動いて伝えに行きましょう」

マルティナのその提案に、ナディアとシルヴァンが手を挙げた。

「では私たちが行こう。マルティナはこんなときだからこそ、護衛の二人と一緒にいた方が良い。マルティナは王宮図書館の方を確認したいのだろう?」

「……はい、ありがとうございます。ではランバート様への進言を、よろしくお願いします。ナディアもよろしくね」

「ええ、任せておいて。あとで政務部で落ち合いましょう。多分政務部が一番忙しくなるわ」

「そうだね。王宮図書館の様子を確認してから、政務部に行くよ」

マルティナたちは皆で頷き合ってから、二手に分かれた。