軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

91、王宮に戻る

中古本屋を出て数冊の本を腕に抱えたマルティナは、満面の笑みだ。

「やっぱり本がたくさんある環境はいいですね。さっそく、次の中古本屋にも行きましょう!」

まだまだ中古本屋を巡る気満々なマルティナに、ロランが苦笑を浮かべつつ付いていく。

「中古本屋に行くのはいいけどな、買った本は袋に入れろよ。せっかく準備したんだから」

「それは……もちろん、です。ただ本を抱えてるのって、幸せな時間で」

そう言って口元をこれでもかと緩めたマルティナに、ロランは苦笑を呆れ顔に変えて、マルティナが肩から下げている鞄の外ポケットに手を入れた。

そこには本を入れる用の袋をいくつも小さく畳んで詰めてあるのだ。

「ほら、広げたぞ」

「……分かりました」

ロランが広げた袋を掲げると、マルティナは名残惜しい気持ちでそっと本を入れた。そして袋を受け取ろうと手を伸ばすが、マルティナが持つ前にロランが抱えて持ってしまう。

「あの、私が持ちますよ? 本は重いですし……」

「だから尚更だろ? マルティナは体力ないんだから、そんなに無理するな。途中でバテるぞ」

それを言われてしまうとマルティナに反論の余地はなく、ありがたく本を抱えてもらうことにした。

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「ああ、任せとけ。じゃあ次の中古本屋だったな。馬車に乗るのか?」

「はい! 歩いて行くには少し遠いんです。向こうにある広場から乗れると思うので行きましょう」

「分かった」

それから二人は全部で五軒の中古本屋を巡り、最終的にはマルティナとロラン、二人でなんとか抱えられる量の本を手に入れて、王宮への帰路に就いた。

一番王宮の近くに止まる乗合馬車から降りた二人は、あまりの本の重さに口数少なく、王宮までの道のりを歩く。しばらく必死に足を進めるとついに王宮内に入る通用口が見えてきて、二人は安堵に頬を緩めた。

「やっと着きましたね……本を買いすぎちゃって、すみません」

「いや、マルティナのことだからこうなるだろうなと、分かってた。ただ予定より大幅に、帰宅が遅くなったな」

王宮には昼過ぎぐらいに帰って、午後はマルティナが王宮図書館で読書を楽しめるぐらいの余裕があるはずだったのだ。

しかし中古本屋を巡るというマルティナにとって何よりも楽しいイベントが長引かないはずもなく、もう夕食の時間となっていた。

「お腹が空きましたよね……」

「昼飯、マルティナは食べてないからな」

「本に夢中になっちゃって」

マルティナが中古本屋で新しい本を物色している間に、ロランは近くの屋台で購入したサンドパンを食べたのだ。マルティナはその時間も本に費やした。

「今日の夕食はなんでしょうか。楽しみです」

「俺はガッツリ肉が食いたいな」

「あっ、ステーキとかいいですね。塩と胡椒が強めのやつで」

「絶対に美味いなぁ」

そんな話をしているうちに通用口に到着し、二人は簡易的な荷物置き場に本をどさっと載せた。そして身分証を取り出して手続きをすると、また本を持ち上げ――ようとしたところで、二人に声が掛けられた。

「マルティナさん、ロランさん!」

それは王宮の外からで、声の持ち主はサシャだ。私服であるサシャはちょうど実家から帰ってきたところだったようで、元気よく手を振って駆けてくる。

「お二人も今帰りだったんすね〜!」

「サシャさん、偶然ですね」

「元気だなぁ〜」

マルティナは控えめな笑みで、ロランはサシャを眩しそうに見つめた。そんな二人にサシャは首を傾げると、荷物置き場にある袋からはみ出た大量の本を見て、納得したように頷く。

「それをずっと持ってきたんすね。俺が寮まで運びましょうか?」

爽やかな笑みを浮かべたサシャの提案に、マルティナとロランは救世主に対して向けるような表情でサシャの手をガシッと掴む。

「本当か!?」

「ぜひお願いします……!」

もう二人の腕は限界だったのだ。特にマルティナはいくら好きな本とはいえ、一度置いたらもう持ち上げられないかもと思っていた。

「おお、そんなに限界だったんすね? じゃあ持ちますよ〜。あっ、その前に手続きしないと」

門番の男性と楽しそうに会話をしながら手続きを済ませたサシャは、マルティナとロラン、二人がかりで運んでいた本をヒョイっと積み上げると、全てを一人で持ってしまった。

「おおっ、凄いですね」

「さすが騎士だな」

「俺は意外と力あるんすよ〜。じゃあ行きましょ」

「本当にありがとうございます。お土産で蜜飴をたくさん買ってきたので、サシャさんには多めに渡しますね」

その言葉に、サシャは嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「本当っすか。俺、蜜飴好きなんすよね」

「そうなんですか? それなら良かったです」

たくさんの本を持ち上げているにも拘らず、サシャの足取りはしっかりしていて、速度も普段通りだ。先ほどまではかなり歩みが遅くなっていた二人も、身軽になったことで素早く動けるようになり、すぐ官吏の独身寮に辿り着く。

扉を開けると……寮に入ってすぐの場所にある食堂には、多くの官吏がいた。ほとんどの者たちはマルティナたちにチラッと視線を向けてすぐ逸らすが、ナディアとシルヴァンは呆れた表情を逸らさない。

「これ、どこに置くっすか?」

「あっ、じゃあ……あそこの空いてるテーブルで」

ちょうどナディアとシルヴァンが向かい合って食事をしている左隣が空いていたので、マルティナはそこを示した。

サシャがそっと本をテーブルに積み上げ、運搬完了だ。

「サシャさん、本当にありがとうございました。これお土産です。良かったら食べてください」

「はい。ありがとうございます! じゃあマルティナさん、他の皆さんも、また明日からよろしくお願いします」

ニカっと爽やかな笑みでそう言ったサシャは、蜜飴が入った瓶を片手に食堂を出ていった。

サシャを見送ったところで、ナディアとシルヴァンが袋からはみ出た本の山に視線を向け、ナディアが呆れた表情で口を開く。

「それで、この本を全て買ってきたの?」

「うん! どれも私が読んだことがない本で、お気に入りの著者が書いた日記のようなものもあって……!」

本の山を見れば分かる通り、今回の中古本屋巡りはとても豊作だった。マルティナの心は浮き立ち、いつもより何倍も饒舌で前のめりだ。

「そうなの。それは良かったわね……ただ少し、買いすぎではないかしら。全て自室に持ち込むのでしょう?」

「もちろんだよ。こんなにも新しい本に囲まれて生活できるなんて、幸せだよね……!」

本の山を見てうっとり頬を緩めたマルティナに、シルヴァンが低い声音で釘を刺した。