軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

83、マルティナの実家へ

マルティナとロランは王宮を出てからしばらく徒歩で街中を進み、途中で乗合馬車に乗った。隣り合って座った二人は、いつもよりもリラックスした表情だ。

「サシャさんも楽しめてますかね」

マルティナがポツリと呟く。今回のサシャは護衛対象であるマルティナが休日の間、ちょうど良いからと同じように休日となったのだ。

「実家に帰るって言ってたな」

「いろんな香辛料や調味料がある商家なんて、楽しそうですよね」

「ちょっと行ってみたいよな。サシャならいつでも案内してくれるんじゃないか?」

「確かにしてくれそうです。今度頼んでみましょうか。そういえば、ロランさんは里帰りって、あまりしないのですか?」

闇属性だったことによってロランの生い立ちが普通とは少し違ったことを知っていたマルティナは、恐る恐る問いかけた。

しかしロランは気にしてなさそうに笑って、軽い口調で答える。

「別に帰ってもいいんだけどな、実家に帰ってもやることないだろ?」

「そう……なんですかね?」

「そっか、マルティナは里帰りが初めてだもんな」

「はい。なので仕事のことを一度忘れることにすると、帰るのは楽しみです」

マルティナは父親・母親と手紙でのやり取りをしていたが、それも数回程度だ。話したいことがたくさんあるし、直接顔を見られるのは素直に嬉しいことだった。

「それなら良かったな。そういえばマルティナは兄弟っているのか?」

「はい。お兄ちゃんがいます。ただ私より何歳も歳上で、もう家を出てるんです。商家で楽しく働いてるので、あまり実家には帰ってきませんでした」

「兄ちゃんか、確かに家を出てたら会うことも減るよな」

そんな話をしていたマルティナの目に、馬車の窓から懐かしい光景が見えた。

「あっ、あの辺の中古本屋、よく行ってました!」

そう言って輝く瞳を外に向けたマルティナに、ロランは苦笑を浮かべる。

「この辺って、まだ実家から遠くないか?」

「そうなんです。なのであの中古本屋に行くのは少し大変で……」

「それでも行こうと思うのがさすがだな。両親からの反対とかなかったのか?」

「うーん、あまり記憶にないですね。二人とも好きなようにしていいと言ってくれて……そうだ、官吏のことを教えてくれたのはお父さんなんですよ」

笑顔で両親のことを語るマルティナに、ロランは安心したような笑顔になった。

「優しい人たちなんだな。それなら俺が急に行っても大丈夫そうだ」

「それは全然問題ないと思います! あっ、でもお父さんは男友達に少しうるさいというか、男性と知り合うと詳細を知りたがる癖があるんですよね」

マルティナが何気なく告げた言葉に、ロランの表情は笑顔のままピシッと固まった。

「そ、それはその……マルティナのお父さんは、マルティナのことが結構好きなタイプというか、そんな感じなのか?」

言葉を選びすぎて何を言っているのか分かりにくいロランの説明だったが、マルティナはあまり疑問に思わず頷く。

「そうですね。お父さんは私を甘やかしてくれました。今思い出すと……私に甘すぎますね。好きなものをなんでも買ってくれたり、私の好きな料理をお父さん自身が練習したり」

マルティナが父親の話を深めるほど、ロランの表情は強張っていった。

「……俺、行って大丈夫か?」

小さく呟いた言葉は、馬車が進む音に掻き消されてマルティナには届かなかった。

それからしばらく馬車に揺られ、二人はマルティナの実家近くに到着した。

「うわぁ、なんだか凄く久しぶりな気がします!」

「落ち着いたいいところだな」

「そうなんです。あっ、図書館は向こうにあるんですよ。先に行きますか?」

瞳を輝かせたマルティナの提案に、ロランは苦笑しつつ首を横に振る。

「まずは実家が先だろ」

「……名残惜しいですが、そうですよね」

図書館に思いっきり後ろ髪引かれながら、マルティナはロランと共に実家に向けて歩き出した。

いくつものお店や工房が立ち並ぶ通りに、こぢんまりとした古着屋が見えてくる。そこがマルティナの実家だ。

「あのお店です」

「おおっ、おしゃれだな」

「そうなんです。お父さんがコツコツと新しくしていて」

そんな話をしながら店の前に到着し、マルティナが入り口に手をかけた。勢いよく開いて扉を開けると、笑顔で中に入る。

中にはちょうどお客はいないようで、マルティナは声を張った。

「お父さんお母さん、ただいま!」

その言葉にカウンターの中にいた母親が「あらあら」と立ち上がり、マルティナを出迎えた。

「おかえりなさい。突然どうしたの?」

「連絡しなくてごめんね。急に数日の休みをもらったから帰ってきたの」

「そうなの。元気そうで良かったわ」

「お母さんも元気そうで良かった。あっ、そうだ。紹介するね。私の直属の上司でロランさん。ちょっと色々あって一緒に来てくれたんだ」

マルティナの紹介にロランが店の中に入り、笑顔で挨拶をしようとしたその瞬間。店の奥からドタバタと激しい足音が聞こえて、扉がバタンっと壊れる勢いで開く。

「マルティナが帰ってきたのか!?」

顔を出した父親はマルティナに気づくと満面の笑みを浮かべ、両手を広げて駆け寄ろうとし――

ロランに気づくと完全に固まった。

「き、き、君は、誰だね?」

動揺しつつ問いかけた父親に、マルティナが笑顔でロランに視線を向けた。